柔整ホットニュース

特集

第14回日本スポーツ整復療法学会が開催される

2012/11/16

日本スポーツ整復療法学会は平成24年11月3日(土)・4日(日)、専修大学神田校舎にて「第14回日本スポーツ整復療法学会」を開催した。柔道整復師・スポーツ科学者・アスレティックトレーナーや弁護士などから、2日間で特別講演3題、シンポジウム1題、一般発表26題が多様な視点から発表された。

学会初日には、特別講演Ⅰとして「スピードスケート世界一を目指して ―勝つための新しい試み―」と題し、専修大学名誉教授・元専修大学スピードスケート部監督である前嶋 孝氏より講演が行われた。

前嶋氏は〝世界の人と同じことをやっていたのでは試合にはとても勝てないと痛感し、色々な新しい挑戦をしました。やってみなければわからないということで夢中になっているうちに、予想もしなかったことが起きて苦労したこともありました。今日はそういった話も含めて報告させていただきます〟と話し、講演を開始した。

私がスケートに関する研究を始めた当初は、まだスポーツ科学の研究が現場に活かされる状況ではなく研究データも全くなかった。まず滑走中の重心を調べるため「スタート」「ストレート滑走」「カーブ滑走」に分類し足圧を測定した結果、その分布にはばらつきがみられた。靴の中で足が動いてしまい氷に十分に力が伝わっていないためではないかと考え、靴を改良して足を固定した。するとスムーズに重心移動ができず、却って滑りにくくなってしまった。結局、選手個々の足型に合わせた適度な固定が必要であった。

次にスキル獲得に関する調査として、バーベルを持たずにスナッチ動作を練習させた場合の筋力の変化を測定したところ、身体が動作を記憶し、実際にバーベルを持ち上げる際の筋力も上がることが示された。この研究をスケートに応用し、スケート同様の模擬動作を行うことでスケートのスキルも向上すると考え、リンクのない夏場にはトレーニングにローラースケートを導入し、成果を挙げた。

当時、最大酸素摂取量が大きければ大きいほど持久力も上がりオールアウトタイムも伸びると言われていた。しかし調査してみると、タイムが早いときも最大酸素摂取量に変化は見られなかった。限界を知るために練習量を大幅に増やしてパワーを測定する一方で、厳しい練習をしてばかりでは体力も落ちてしまうので、どの程度の練習をしたら体力が保てるのかも検証していった。自転車エルゴメーターやトレッドミルを用いて測定を続け、限界までトレーニングを重ねて挑んだつもりだったが、いざ世界に挑戦してみると技術的には遜色ないはずなのに全く歯が立たない。原因は外国人選手に比べ体力が劣っていることであり、その差は永久に縮まらないように感じられた。どうにか体格の小さい日本人でも太刀打ちできないかと考え、外側に蹴り出しながら前に進む滑走法に変わり、内側に曲がりながら蹴るという新しいスタイルを考案した。体力の向上にはつながらなかったが、結果として全日本選手権や世界スプリント選手権で優勝する選手を輩出するまでになった。

しかし、研究結果から得た知識を基に万全を期して挑んだサラエボ五輪は惨敗であった。期待をかけられたことによる重圧が原因と思われ、勝つためには自分で感情をコントロールできるようになる必要があると考えた。そこでイメージトレーニングを開始し、選手たちは徐々に試合に勝つイメージを自然と思い浮かべることが出来るようになっていった。また、世界で活躍できる選手はみな短距離選手だったため、長距離選手の能力向上を目的とする常圧低酸素トレーニング装置を考案した。繰り返し行なった低酸素トレーニングにより心肺機能の向上が認められ、世界選手権で総合2位という成績を残した。しかし続く長野五輪は7位、ソルトレイクシティ五輪は4位に終わり、良いトレーニングをしたとしても環境に応じたペース配分が出来なければ何の価値もなくなってしまうということが示された。

試行錯誤した数々の研究データや当時の資料映像を用いながら、軽妙な語り口でユーモアを交えて解説を行ない、〝試合で勝つにはクリアすべき様々な要素がある〟と締めくくった。

 

前のページ 次のページ