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運動器超音波塾【第5回:肩関節の観察法 3】

2015/08/01

株式会社エス・エス・ビー
超音波営業部マネージャー
柳澤 昭一

近年、デジタル技術により画像の分解能が飛躍的に向上した超音波は、表在用の高周波プローブの登場により、運動器領域で十分使える機器となりました。この超音波を使って、柔道整復師分野でどのように活用できるのかを、超音波の基礎からわかりやすくお話してまいります。

 

第五回「カメの肩はどこにあるの? 烏口上腕靭帯を考える」の巻
―上肢編 肩関節の観察法について 3 ―

最近、携帯やのど飴のCM等で、カメの姿を観ることが多々あり、日本人はつくづくカメが好きなのだなあと思いました。日本人にとって亀は昔から身近な存在で、浦島太郎伝説に代表されるように不老長寿の象徴であったり、神の使いだったりします。個人的には、ドラゴンボールの亀仙人なども好きではありますが。
カメと言えば甲羅に覆われた姿で、そう言えば肩関節の構成体である肩甲骨はどうなっていたかと思い、調べてみました。独立行政法人 理化学研究所 神戸研究所 発生・再生科学総合研究センターが「カメの甲羅にまつわる100年来の謎を明らかに」と題して、ホームページに掲載していました。以下、抜粋させて頂きます。

『カメの甲羅は肋骨が変化したものである。通常の羊膜類(哺乳類、鳥類、は虫類を含む、胚が羊膜に包まれている動物)の肋骨は、背骨から腹側へと互いに平行に伸びるが、カメの肋骨は腹側には伸びずに、背骨から横に広がり、さらに背側で扇状に広がる(図1、※1 科学ニュース 2007.6.11)。この肋骨の幅が広がって、隣同士の肋骨がつながり骨性の板を作ったものが甲羅であり、種によってはその上に角質の鱗(いわゆる亀甲模様)を作る。実はカメの甲羅は、解剖学、形態学、古生物学分野では100年以上にわたる謎であった。』

図1 ヒトとカメの骨格・筋の形態比較

図1 ヒトとカメの骨格・筋の形態比較

独立行政法人 理化学研究所 神戸研究所 発生・再生科学総合研究センターが
「カメの甲羅にまつわる100年来の謎を明らかに」より

カメの肩甲骨は肋骨の内側にあり、また肩甲骨の移動にともなって、肩にある筋肉も甲羅の内側に移動し、この肩甲骨と付随する筋の位置の逆転というカメの進化過程は、それが如何にして起こったのか全く予想がつかないとされてきました。この事について、形態進化研究グループ(倉谷滋グループディレクター)の長島寛研究員らが、そのメカニズムを明らかにしたという報告です。

『発生後期に、カメの背側にとどまった肋骨が扇状に広がって肩甲骨に覆い被さることで、肩甲骨が肋骨の内側にあるように見えるようになる。また、肩甲骨、二の腕と胴体を繋ぐ筋群についても、やはり発生中期までは他の羊膜類と同様の形態形成が確認された。肩甲骨と胴体を結ぶ筋は発生後期に肋骨が扇状に広がるのに従い、それまでの骨格-筋の位置関係を保ったまま、折れ曲がるようにして内側に入り込むことがわかった。発生初期に骨格とのつながりが形成される筋は折れ曲がることによって周囲の骨格との位置関係を変えずに発生し、発生後期に骨格との付着位置を変えて発生していることが分かった。(図2)』

掲載された論文
http://www.sciencemag.org/cgi/content/abstract/325/5937/193

図2

一般的羊膜類(左)とカメ(右)の骨格・筋の比較 カメは肩甲骨や肩にある筋肉が肋骨の内側にあるが、これは体を内側に折れ込ませることで作られていた。

図2

独立行政法人 理化学研究所 神戸研究所 発生・再生科学総合研究センターが
「カメの甲羅にまつわる100年来の謎を明らかに」より

 

驚きです。『カメは肩甲骨や肩にある筋肉が肋骨の内側にあり、これは体を内側に折れ込ませることで作られていた』という事です。

以前お話しした希少動物の繁殖研究をされている獣医学教授からの友達の輪で、ニホンイシガメの繁殖研究のために、お腹の中の卵の成長状態を超音波で観察するお手伝いをすることがありました。お祭りの夜店やペットショップ、ホームセンターで簡単に買える幼体の小さな緑色のカメ、見たことありませんか? 北米原産のこのカメは商品名をミドリガメと言い、やがて大きく成長して飼育しきれず、或いは飽きてしまって近くの河川や沼に放してしまう。正式名は、ミシシッピアカミミガメです。この、大人になったミドリガメが、日本古来の在来種で日本にしか生息していないニホンイシガメを、絶滅の危機に追い込んでいる。ニホンイシガメは、2012年に発表されたレッドリスト(環境省が公開している、絶滅危機の程度を定めた一覧)で、準絶滅危惧種に指定されています。

図 ミシシッピアカミミガメの解剖写真

肩甲骨と肩周囲の筋組織に注目。

図 ミシシッピアカミミガメの解剖写真

 

岐阜大学動物繁殖学研究室のホームページには、以下のような記述があります。まさに同感です。

『ミシシッピアカミミガメは,外来種の中でも特に生態系等への影響が大きい生物とされ,IUCNという世界最大の自然保護機関が2000年に「世界の侵略的外来種ワースト100」に,また日本生態学会が2002年に「日本の侵略的外来種ワースト100」に選んでいる。2005年には,環境省が「生態系に悪影響を及ぼしうることから,適切な取扱いについて理解と協力をお願いするもの」として,要注意外来生物に指定した。しかし,これらは注意喚起であって,今のところ日本ではこのカメを飼育したり販売したりすることにほとんど規制がない。当たり前だが,飼ったら(買ったら)最後まで飼育する。絶対に逃したり,捨てたりしてはいけない。今,日本中,いや世界中で外来種が問題となっている。忘れてはならないことがある。アカミミガメが悪いのではない。私たち人間が引き起こした問題なのである。』

 

 
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