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ビッグインタビュー:早稲田大学スポーツ外科学学術院教授・福林徹氏

2016/02/16

福林徹氏は、平成19年にスポーツ外科分野において世界的権威のある国際関節鏡・膝・スポーツ整形外科学会(ISAKOS)の「John Joyce award」賞、そして平成27年に「第17回秩父宮記念スポーツ医・科学賞」を受賞されるなど世界的な評価を受けている方であり、数々の輝かしい功績を残されている。これまで福林教授が歩まれてきた道を振り返るだけで、スポーツ医学の経緯とスポーツ界の発展の経緯について分かる。つまり、スポーツ界並びにスポーツ医学の発展は、福林教授なくして築くことが出来なかったといっても過言ではない。来たる2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて柔整の方々の活用はどうあるべきかについて、夢ふくらむお話を伺うことが出来た。

 

スポーツ現場でのアスレチックトレーナーの役割は今後高く評価されると思います。2020年の東京オリンピック・パラリンピックに積極的な参加を期待します!
福林氏

早稲田大学
スポーツ外科学学術院
教授 福林徹 氏

 

―福林教授はわが国スポーツ界においては、「膝の福林」と称されるほど、研究者ならびに競技者から絶大な信頼を得ていらっしゃる方ですが、これまでの研究で何が最も世の中に影響を及ぼしたとお感じになられていますか?

近年私が行ってきたことは、いろいろな施設を作ったりシステムを構築するなどを手掛けてきました。学問的な業績としては過去のものでずっと昔になりますが、一番よく知られているものでは、「An in Vitro Biomechanical Evaluation of Anterior-Posterior Motion of the Knee」JBJS 1982、整形外科分野では非常に有名な学術雑誌Journal Bone and Joint Surgery に発表したものです。私のニューヨーク時代、コーネル大学の整形外科に留学していました。そこで行った「膝の前後方向の動揺性について」の実験的研究で、当時の最先端のマシーンを使って膝の動揺性についてどういう力が加わるとどのような動揺性が生じるかということを実験的にバイオメカニカルに示したものです。

ただこれは、アメリカのスタッフと一緒に行った実験ですので、その前に私が独自で行った実験では、Acta Orthop.Scand.の学術雑誌に論文発表した実験的研究で「THE CONTACT AREA AND PRESSURE DISTRIBUTION PATTERN OF THE KNEE」と言う論文があります。この論文は、半月板の役割についてバイオメカニカルに観た実験的研究であり、当時としては、最先端をいっていたもので東大時代に本研究を発表しました。この2つが世界的に一番よく引用されている論文です。最近は、こういった学術雑誌ではなく、日本体育協会が行っている研究報告書の総元締みたいなことをやっておりまして、「日本におけるスポーツ外傷 サーベランスシステムの構築」日本体育協会スポーツ医・科学研究報告の総括などを行っています。

また学内においてはいろんな実験を学生がやっておりますから、スーパーバイザーとして、その学生たちの指導にあたっております。しかしながら一番引用が多いのは、先に述べた2つの論文で、これはあちこちで引用されております。なお国際的学会でありますISAKOSのJohn Joyce awardとして2007年表彰された研究については、〝断裂した前十字靭帯を再生するために採取した半腱様筋腱がまた再生してきて元の腱になってしまう〟という事実を発見して、それを詳しく調べたものでした。

 

―また福林教授は、日本体育協会スポーツ医・科学専門委員会委員長として日本体育協会の各種研究事業を牽引され、研究プロジェクト班の班長として各種研究事業に参画されておられます。先述の『日本におけるスポーツ外傷サーベイランスシステムの構築』では、スポーツ外傷・障害を分析し、予防プログラムを作るなどアスリートの育成にも多大な貢献をされていらっしゃいますが。

これは私が勝手に考えたものではないのです。最近、学会がそういう方向性になっているのですね。医学というのは悪い疾患を治療する、怪我した人を治したいというのが昔ながらの考え方だった訳です。しかし2000年以来、世界的に考え方が変わってきました。悪くなったものを治療するのではなく、悪くならないように予防するのが本当のスポーツ医学の在り方であるとした方向性が出て参りました。それはIOCのトップで世界的に有名なJacques Rogge先生がそういうことを言いだしました。それ以降、みんなそういう考え方になりまして、私自身も非常に感銘を覚えましたので「Idea for prevention」を学会に数多く出しました。当然日本でもやらなければいけないと考えて、スタートさせた訳です。「prevention」を行うためには、4つのやり方がありまして、ただやみくもにやるだけではダメなんです。その4段階は、先ず障害・外傷の頻度や重症度を「Magnitude」計測する、これが1番目です。2番目は、その原因を究明「Cause」する。3番目に予防プログラムを作成して、4番目に「Test it!」 実際に介入し、その効果があったかどうかを調べます。この4段階を何度も繰り返すことが非常に重要です。

IOC の委員長のJacques Rogge先生が、「Idea for prevention」を提唱し、それに競合してサッカー協会FIFAのJiri Dvorak 先生がモデルを作って〝今後こういうことをやっていく必要がある〟ということで、FIFAをはじめ他の競技団体も力を入れ始めて「Idea for injury prevention」があちこちで出来たのです。私も興味がありましたので他の整形外科の先生と一緒に〝日本も遅れてはいけない〟ということで、日本体育協会でプロジェクトを作りました。それが『日本におけるスポーツ外傷サーベイランスシステムの構築』というプログラムです。

私の発案で、日本の競技団体でやろうということで私の管轄のJリーグ、ラグビーフットボール、女子バスケットボール、アメリカンフットボール、柔道にも単に障害発生の委員会ではなく原因究明をしていこうというプロジェクトを立ち上げました。まず2010年から日本における「スポーツ外傷サーベイランスシステムの構築」を、3年間実施しました。また、それに続くものとして「ジュニア期におけるスポーツ外傷・障害予防への取り組み」ということで、今年最終になりますが現在も継続して行っております。中でもラグビーと柔道は、特に脳振盪が多く、他の怪我も勿論問題ですが、脳振盪の予防についてどういったことが良いかということを専門的に解明しました。全柔連も脳振盪の多さを受けて柔道用の予防のプログラムを作りました。一方サッカー、バスケットでは捻挫や前十字靭帯が多く、特に女子に多くみられました。

膝の靭帯損傷は女子の方が圧倒的に多い。〝何故女子に多いのか?〟どうしてそれが起こるのかというのは、原因はいろいろある訳です。受傷時をビデオ撮影の結果から見ますと、膝が内側に入っています。詳しくいうと、脛骨が内旋して膝が更に内側に入って怪我をするのです。では、〝どう治せばいいか?〟元々女子はその素因を持っていて、ジャンプをすると、膝が内側に入る(外反する)選手が男子に比べると圧倒的に多い。そういう怪我の発生メカニズムを解明しました。つまり元々男女差があるのです。また、そういう素因は何時頃から出てくるのかというと、二次成長が始まる時期、女子が女子らしくなってくるとそういった怪我の傾向が増えてくるようです。一番怪我が多い若年の年代というのは、中学・高校で、その徴候が出てくるのは小学校5・6年くらいからです。女子が女性ホルモンの働きで女性らしい体になると、X脚になりやすくなる一方で筋力が弱ってしまうのです。

その予防策を解明したところ、単に筋力を強化すれば良いという簡単な問題ではありませんでした。ウエイトトレーニングを行って筋肉をモリモリにすればとみんな思っていましたが、それは誤まりでそうではないのです。筋肉を強くしても効果はなく、何時筋肉を使うのかとか全体のバランスの問題です。女子と男子ではタイミングが違うのです。従って、膝が内側に入らなければ良いので、必ずしも強い筋肉ではなく、その時にポンと力が入るようにするタイミングが重要であることが分ったのです。肉離れは違いますが、捻挫や靭帯損傷は使い方のタイミングが問題だということが分ってきました。結局、タイミングについて指導しないとダメなんです。人間の発育によって、基本動作とか内容等も変わる、そういうことをアカデミックな理論に基づいてもう少し細かくやっていく必要があると思っております。

昔流ではない、今流のことをしっかりスポーツ現場でやらせましょうと日体協で研究を積み重ねて参りました。

 

 
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