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ビッグインタビュー:国士舘大学大学院法学研究科 教授 森田悦史 氏

2016/12/01

全ての国民は、憲法で守られており、同様に職業も各々法律で守られ、規制されてもいる。その中で、柔道整復師法は如何だろうか?時代に合った法律に改正していただきたいとして、長年に亘って懸命な努力をされている方々が大勢おられる。 国士舘大学大学院法学研究科教授の森田悦史氏は、大学院で法律の講義をされ、しかも財団法人日本柔道整復研修試験財団で国家試験を担当されていた方である。

その森田教授に医師法と柔道整復師法の違いとは何か?また、今求められている国家の在り方についても教えていただいた。

 

法律改正は時間を要するため、先ずは業界団体や学会がガイドラインを作成し、国民の合意を得るべきです!
森田氏

国士舘大学大学院
法学研究科 教授
森田   悦史   氏

 

―はじめに医師法との関連のなかで、柔道整復師法とはどのような法律なのか、医師法や他の医療関係法規と比べて、特殊な部分、あるいは共通する部分がありましたなら、お聞かせください。

医師法は第1条に、公衆衛生の向上及び増進に寄与するということで国民の健康生活の確保・確立を目指すことがその目的になっています。その他、第17条では、医師でなければ医業が出来ない。第18条では、医師でないと紛らわしい名称を使ってはならない。第19条では診療に応ずる義務といいますか、正当な事由がなければ拒んではならない等があります。医師法は明治7年に医政で出発しましたが、昭和23年に国民医療法を分割して今の医師法に移行したという経緯があります。一方、柔整師法は条文にもありますように、第2条で厚生労働大臣の免許を受け柔道整復を業とする者となっており、骨折・脱臼・打撲・捻挫等を行うが、応急手当をする場合はこの限りでないと定めており、基本的なスタンスとしては整復をすることが業務と思われます。

所謂条文は、多々ありますが、その中で質問にある医師法で特殊な部分というのは、医師法では「治療・診療」という用語が使われているのに対して、柔整師法では「施術」という用語になっていることです。要は医療を中心としたものですが、「施術」となりますと骨折・脱臼などその他、整復を主とするということでその違いを示しているのではないかと思います。また、医師は、第17条にあるように、医療行為が医師という資格でできるのに対して、柔整師法においては、骨折・脱臼・打撲・捻挫等に対し回復を図る施術の業として制限され、医師から同意を得た上で業務が許される部分があります。

自分で開業できるという点では、医師と共通しています。あとは業務独占ということでやはり柔道整復師しか出来ない。医師法は業務と名称独占の2つがあります。柔整師は代替医療であると思いますが、医療に関わるという点では共通しているところです。その他理学療法士・看護師等、医師の指示の下で行為を行いますが、柔整の場合は独立して自分が主体になれるところに違いがあります。その他色々あろうかと思いますが、条文の側面から見ていくとその辺に違いがあるという気がしています。

 

―医業類似行為と医療事故の問題としまして、今年2月、NHKのクローズアップ現代で、柔道整復師や無免許者の医療事故が取り上げられ話題となりました。医業類似行為は人の健康に害を与える虞のある行為は禁止処罰の対象であると、昭和35年の最高裁判決で出されていますが、番組では無免許者の業者なり業界でガイドラインを作るべきとしています。一方、柔道整復師などの資格者の行為に関してもガイドラインが必要と報道されましたが、無資格者と有資格者に対する対応について先生のお考えをお聞かせください。

クローズアップ現代を見ていなかったので明確にお応えすることはできないですけれども、国民医療センターに事故の報告があって、頸椎捻挫等いろいろ事故が増えていると。それについては整体・カイロプラクティックの業種や按摩・マッサージを含んでの問題だと思います。所謂按摩・マッサージ指圧師法にもあるように、基本的には免許の下で行われるのが良いとは思います。カイロプラクティックはアメリカでは認められていると聞いていますが、日本では混在していますね。医療(代替)として大丈夫なのかということもあって、多分厚労省も手を入れたいけど踏み込めずに無法地帯になっています。つまり、職業選択の自由という憲法との兼ね合いがあって〝させない〟という制限がしにくい部分があるのではないかと思いますし、制限するには明確な理由が必要になります。やはりこういう分野は、医療の中でも慰安的な意味あいがあり、分かりやすく言えば、〝肩をもむな〟と言えるのか。そういう仕事をしたいと言った時に如何だろうかという問題が含まれているため、歯止めがかからないまま混在して、日本の社会においてそういった業界が拡大しています。外部から見るとどっちが有資格で無資格かも分らないまま〝肩をほぐしに行こう〟という程度にしか一般の人は思っていないと思われます。

もし、医師が事故を起こした場合には、医療事故として扱われ法的処理になります。無資格者の場合にはどういう風な扱いになるのかといった時に、患者は法的には弱い立場で、仮に賠償請求をしても請求額が低くなる等、難しい部分があるという気がします。まあ、それ程違わないといったらそれまでですが、やはり有資格と無資格の場合には責任の所在について、相手に対して何所まで請求できるのか。柔整の場合は、個人で自院を開いているので本人の責任で追及の所在がハッキリしますが、業界としてはどういう風に対応するのか。個人に任せるのか。それについて、しっかりとしたガイドラインを作らなければいけない部分もあると思います。今柔整は6万人位でしょうか。国民が安心して施術を受けることが出来るという意味で、業界団体として説明義務と情報開示等を含めてオープンにしていったほうが良いし、必要性があると思われます。

もし本当に無資格がダメだというのであれば、国家は認めないとすべきであったのに、それを敢えて今までしないのはやはり医療だけではない慰安的作用・効用として、厳しくあたっていない気がします。問題を解決するには、裁判が行われれば法的判断がハッキリする訳ですが、あまり無いために明確な基準を打ちたてられず、社会通念といいますか、そういった流れの中に止まっている感じがします。柔整師は広告に制限がかかって歯止めがあるけれど、一方無資格者は何も歯止めがないので一人歩きをして、知らない人は同じと思って行ってしまう。たとえ有資格と無資格に分かれていたとしても一定の内容を示したガイドラインを示したほうが施術を受けたいという人に対して良いですし、そのほうが開かれる感じがします。

 

―柔道整復師法には、骨折、脱臼については医師の同意が制限事項として存在します。医師の同意に関しては、危険防止という視点なのかもしれませんが、基本的には骨折、脱臼に限らず各柔道整復師は、自身の能力の範囲を越えた疾患は法律の有無に関係なく医療機関に受診を進めたり、転医させたりすることは、現実として行われています。更に鍼師・灸師・按摩マッサージ指圧師には疾患を特定して医師の同意が必要とする事項はありません。以上のような視点で考えると法律としての目的に疑問に感じますが、お考えをお聞かせください。

1点目は、制限事項が柔道整復師にかかっているということですけども、基本的には柔整師の行為ではないということと思います。第17条には「医師の同意を得た場合の外は脱臼または骨折の患部に施術してはならない。但し応急手当の場合はこの限りではない」と規定しています。はり灸あん摩マッサージ指圧師法においては、緊急性を要する感じが無いのに対し、柔道整復師は、脱臼・骨折になりますと緊急性を要する場合がある。しかもそれを医師と同じに行うとなれば、医師法に反するとして、「応急手当」はこの限りではないと。つまり、柔整師法は骨折・脱臼という医者でなければやっていけないところと接触する部分があり、応急手当ということで歯止め、危険防止という意味あいが強く出ているという印象を受けます。

あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律の第5条には、〝医師の同意を得た場合の外、骨折患部に施術をしてはならない〟という規定があり明確に業務を区別しています。

脱臼・骨折は、柔整師には応急手当として出来るけれども、あん摩マッサージ指圧師法は、医師の同意を得ないと出来ないということで、違いを示している訳です。何故違いを示すかといいますと、やはり夫々の目的において領域を明確にするという部分を持たせているのではないかと思います。

 

―前の質問に関連しますが医療に関しては、法律で規制すべき部分と、医学で規制すべき部分とがあると思いますが、森田教授のお考えをお聞かせください。

広いご質問ですが、法的な視点で話しますと、規制は法律において「してはならない」とか「こうすべき」というようなことになりますので、規制すべき明確なものがなければ難しい。医療法規だけではなく、医学全般を指しているご質問であれば、学問的な規制は当然あると思います。

例えば遺伝子の問題で、代理母或いは人工生殖の問題、法律にはないけれども産婦人科学会でガイドラインを作ってそれに従うこととなっているので、未だ法律にはないけれども、その分野の中で規制をかけています。いずれにしても、法律というのは最後の頂点なんですね。つまり国会を通る訳ですので、法のレベルでいうと学会や自分の所属している部署についてはその前のレベルです。つまり、自分たちの中で規制をかけるガイドラインを作ることは可能ですので、先ずは其処からスタートして法律にもっていくという順序は、当然あって良いと思いますし、やはりいきなり法律改正は難しいという気がします。まずは社会で起きている現象を取り上げ、国民は如何に考えているのかということ、その辺の盛り上がりがないと一方的な法律になってしまうと法の意味をなさない。法の安定性のためにも多くの人がそれを望んでいると考えた場合には、公平の視点では法の規制があっても良いという気がします。

「離婚後6か月間女性は再婚できないが男性は出来る」という、昨年の最高裁判決で違憲判決が出ましたが、それについても学会では20年前にそういう案を出しています。ようやく今年6月1日改正案が成立しました。法律にするまでには梃子でも動かないという部分がありますね。法律を改正するためには、政権との絡みもあって難しいところがありますが、男女平等・価値感の多用化でヨーロッパの波が押し寄せおり今までどおりに進めば、世界からみれば法治国家といいながら非常に遅れた国家と見えてしまいます。やはり其処はレベルアップして開かれた社会になる必要があります。同様に医療においてもっとオープンにし、国民の求めるところに近づかなければと思います。

 

 

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