menu

スペシャルインタビュー:稲城市長・高橋 勝浩 氏

2016/03/09

稲城市の人口は、約9万人。うち、高齢者人口は約1万7千人で、高齢化率は約20.1%である(平成27年10月1日現在)。

稲城市は、東京都の近郊に位置しながら緑豊かな自然が残っている都市として若者にも年配の人々にも愛され、憧れの町である。その土地柄を上手く活用し、将来にわたって住み続けられるように叡智あふれるまちづくりが行われている。 高橋市長は、突出した能力をフルに活かし、新しい施策をぐいぐい打ち出し、それを市の職員と市民が一体となって後押ししている形である。 そんな頼もしい高橋市長に今後の政策や考えを広くお聞きした。

 

『地域包括ケアシステム・稲城バージョン』をきめ細かく早急に構築し、市民みんなが支え合うまちづくりを推進していきます!!
高橋氏

稲城市長
高橋 勝浩 氏

 

―日本の社会保障制度について高橋市長のお考えをお聞かせください。

世界各国にいろいろな制度があり、公的な社会保障が薄い国もあれば、北欧のように高福祉の社会保障制度を持っている国もあります。もっと良い制度があればそれを望むというのは、人情として分かるんですが、今、我が国では『税と社会保障の一体改革』を行っている最中であり、あまり負担せずにサービスだけ受けようというのは、もう立ち行かなくなっています。

日本の福祉は、第二次大戦後の所謂戦傷病者対策から本格化したと言えると思います。勿論戦前に福祉的な配慮が全くなかった訳ではありませんが、公的にサービスが確立されてきたのは戦後で、戦争で傷ついた方や戦災孤児への復興支援を行っている内に障害者等の支援という形で確立してきたんですね。児童福祉や高齢者福祉、障害者福祉について契約制度として整備され確立されてきましたが、これまで一貫して財源問題は言われてこなかったように思います。まあ、日本は高度成長期で、高齢化は全く問題にならないくらい人口構成がピラミッド型で、支える人は山ほど居て、寿命はそれ程長くもなく、一定程度で皆さん亡くなっているという意味では非常にバランスがとれていました。税収も収入所得も右肩上がりで今では考えられませんが、高度成長期は翌年の予算を立てる時に使いきれないからもっと歳出を考えてくれといった時代でした。その過程で、作らなくてもいいようなものを乱立してきたという反省もありますが、当然それは持続可能性はなく、高度成長が何時までも続く筈がありません。

昭和50年代後半から60年代に入って、安定成長になった時に、初めて財源問題が出てきて、なおかつその頃から実は高齢化・少子化の根があったのです。本当はもっともっと早期に気が付いて取り組むべきところだったのです。所謂バブルで日本が世界で一番だと、みんなお立ち台の上で踊っていた時代があった訳です。その後一気にいろんなことに気づいて、成熟社会とはどういうことなのかという様々な反省が其処であったと思います。気が付いてみたら、もうとっくに少子化・高齢化であったということで、急いでそれに対応しなければならないと。しかし、まだまだそのことに気づいていない人が大半だと思います。つまり〝なんとしてでも役所が努力して負担は少なくサービスは多く、それをやるのが役所だろう〟というような間違った期待感があるように思いますが、それはもう全然持続不可能です。

北欧のように〝高福祉を得るために高負担を容認します〟という国民的コンセンサスは得られないと思いますし、残念ながらそういう国民性ではないと私は思っています。一方で、少負担少福祉という、全く自己負担で、自己責任だというのも今の時代にはあまりそぐわないのかなと思います。日本の国民性と最低のコンセンサスを得るという形からすれば、私は「中負担中福祉」を目指すべきと思います。現状は少負担中福祉でありバランスがとれていません。其処で「税と社会保障の一体改革」では、負担もある程度上げましょうと。しかし消費税が10%になっただけで大騒ぎになっていることからすると、北欧みたいな高福祉を求めるのはおかしいと思うのです。

いま日本の皆保険制度は機能していますし、年金制度についても安い安いと仰るけれども、自分でかけた以上には皆さん貰っており、自分がかけた額以下に貰う人は居ないのですから、そこに文句を言っても仕方がありません。そういった意味で皆保険制度も年金制度も一定の機能を果していますから、一般論でいえば公的な社会保障制度を更に補填する生活保護等のセーフティネットが機能していて、それが保障されている社会といえると思いますし、この考え方に基づいて、負担を適正化すれば十分なシステムを全体としては整えていけるのではないかと思っております。また「中負担中福祉」を目指し国民の理解を得ていくことも大事です。

 

―近年、社会保障費の財源が苦しくなっていることに加えて、高齢社会で医療費も介護費も大変な増加が見込まれ、それに伴い在宅ケアを含め包括型の医療ケアシステムの構築が求められております。稲城市で現在取り組まれている地域包括ケアシステムの構築状況についてお聞かせください。

まず私、昨年の4月の統一地方選挙で再選をいたしまして、その二期目の選挙公約の1つの柱として取り組んでいるのが、『地域包括ケアシステム』です。稲城市は介護保険制度の導入当初から比較的いろんな取組みを進めてきまして、介護保険の分野では「介護支援ボランティア制度」等、全国的に有名な施策を行って、全国からかなり沢山の団体がこれまで見学に来られました。介護保険の制度自体については全国に冠たるという自負を持っている訳ですが、それは介護の分野であり、将来ずっと在宅で住み続けて「終の棲みか」とするようなシステムは介護だけでは成り立たない訳です。医療・介護・介護予防等も必要で、また生活支援や相談ということが全部セットで提供されなければ出来ません。それらをワンストップで提供できる体制を作っていくというのは、業者を含めて様々なステークホルダー、多くの関係団体がお互いに連携しながら一人の対象者に相談にのってあげられる体制を構築していく必要があります。医療との連携等を含めてこれから一番主要な施策として取り組んでいこうと。

やはりこの『地域包括ケアシステム』についても出来れば目指すのは「稲城モデル」で、全国に冠たるシステムを作っていきたいと思っています。お蔭さまで若い世代から「住みやすい町」ということで全国第2位という評価をいただいた時もありますが、老いも若きも住みやすい町、生涯定住、そして世代交代の出来る町を一番の目標にしておりますので、そういう意味では柔軟でキメ細やかなシステムを作っていかなければいけないだろうと思っており、これは着手したところで、取り組みを始めたところであります。

 

―具体的に取り組まれている施策についても教えてください。

様々な事業に取り組んでおりますが、その中でも平成25年度から「摂食嚥下機能支援推進事業」を始めました。摂食嚥下というのは、どの病院、高齢者施設、或いは在宅でも共通の課題で、嚥下がしっかりできないとお年寄りが肺炎になりやすい。これは一番最初に取り組むべきだろうということで取組み始めました。

また平成26年度から「在宅医療介護連携推進事業」を開始し、更に昨年の5月から稲城市の医師会に相談室が開設されています。稲城市の先進例としては、一つは多職種連携のプログラムを開始しており、いま全国的に柏市さんの多職種連携プログラムが非常に脚光を浴びておりますが、実は稲城市でも富士通総研さん及び柏市さんに関与されている東大在宅医療学拠点のサポートによって柏市のプログラムをベースに、さらに稲城市の実情に応じた形での取組みを開始しています。

もう1つ稲城市の先進事業として、「介護予防日常生活支援総合事業」があり、以前は介護保険の中で給付されていましたがその一部を市町村事業に移行するもので、当市は平成27年4月から積極的に取り組みまして、4月から東京多摩地区でこの事業を行っているのは国立市と稲城市のみです。いろんなご質問を受け〝切り捨てて利用が減っていくのではないか〟とのご意見もありますが、同等の利用件数を維持しております。本来の目的はより身近な市町村で多様なサービスを開発しながら、個別のニーズにきめ細かに対応していこうというもので、副次的に保険給付が野放図に増えることを抑え、経費効果もあれば良いとして、単に保険給付を切り捨てようというものではないと思います。

『地域包括ケアシステム構築』への準備として、一つの柱は「認知症対策」です。現時点で市内の地域包括支援センターの2か所に「認知症支援コーディネーター」を置いています。また「認知症サポーター」の養成を平成20年から取り組んでおり、これまで講座を100回開き、養成したサポーターの数は約3500人になります。更に私の発案で、市の職員全員を「認知症サポーター」にするため、3年かけて全職員を養成し、私も既に受講して認知症サポーターになっています。また高齢者問題とは別ですが、救急救命訓練も私を含めて全職員がやっております。ユニークな取り組みとしては「認知症ケアパス」をいろいろな関係機関との協働で、準備を始めています。病気になって入院した場合に、見通しが立つと不安が解消されますので、いま医療分野で「クリティカルパス」の整備が進んでいる訳ですが、これは福祉・介護の方にも拡充されていくと思います。当市では、仮に認知症を発症した場合、何所に相談をして、どういうサービスが受けられてどのように生活していったらよいのかという一つの安心材料になってくれればという思いで「認知症ケアパス」を作ろうということになり、来年度には完成してパンフレットを配る予定です。更に「認知症初期集中支援チーム」を設置しようと準備を進めており、認知症対策に徹底的に取り組んでいます。

幸い稲城市内には東京都から『地域連携型認知症疾患医療センター』の指定を受けている稲城台病院がありまして、これを核にして平成29年度に向けて地域で支援チームを作っていく予定です。稲城市は比較的狭い市でありますが、市をブロック別に4つの生活圏域に分割して、認知症高齢者グループホームや、小規模多機能型介護施設等の地域密着型サービスを各圏域ごとに整備しながら介護施策を整備してきました。今後はこの生活圏域を母体として、地域包括支援センターも4つ、「認知症コーディネーター」もゆくゆくはその4カ所に1人ずつというように、全て市を4分割して、同等の整備をしていきたいと考えています。

他にも「生活支援介護予防サービス協議体」を設置して、地域の状況の情報共有と今後どんなサービスを作っていったら良いかを話し合います。一層二層に分けて、第一層協議体は、生活支援介護予防サービスを協議するもので一か所設置しています。その構成員は、生活支援コーディネーター・自治会・民生児童委員協議会・老人クラブ連合会・シルバー人材センター・社会福祉協議会・市民活動サポートセンター・配食とヘルパー等のNPO法人・介護保険事業者・介護予防自主グループ・地域包括支援センター・市など、所謂高齢者介護を支えていく関係者総てに入ってもらっています。第2層協議体の構成員は第1層とほぼ同一ですが、第2層協議体はより具体的なことを協議します。

介護は比較的確立されたシステムで、元々介護保険事業者等の連携もあったり認定審査会があったり、システマティックに整備されている訳です。ただし医療は必ずしも連携がとれていないということもございまして、もっとそれを生活全般に密着させていく必要があります。我が国ではフリーアクセスな医療が原則ですから、各市町村そうだと思いますが、あまり医療について関与していない。今まで市町村との連携は予防注射、或いは健康診断や定期健診、乳幼児健診などの所謂健康事業、予防事業に関するものでした。ただ稲城市の場合、医療に参入し単独で市立の「稲城市立病院」を運営しております。その稲城市立病院と稲城市の診療所の医師会の先生方との関係で、医療の提供体制における地域連携がはかれており、稲城市版の『稲城市医療計画』を作ることにしました。これも私の今期の選挙公約の1つですが、〝地域包括ケアシステムを適切に機能させる稲城市バージョンを作っていく〟というのは、口では簡単ですが、結局医療とのところをどうやって密接に連携をとっていくかについて難しい問題があり、お互いに膝を突き合わせて話し合いをするためにも、先ずは現状把握で市内の何処に何科の医者があるのか?等、現状を把握して〝本来あるべきは何なのか〟、更には先述の2025年の推計で高齢者が倍になり、認知症も倍になる。単に我々がこういうシステムを作りましょうと言っても空回りして、介護保険でいう事業者、医療でいえば診療所に提携していただけないと成り立たない訳ですから、稲城市の医師会さんと一緒に考えていく。一定のご理解を得て「稲城市医療計画」を作成します。ただし、これはいま国や都で取り組んでいるような医療計画とは全く関係ないもので、我々サイドで考えた独自のものですがそれを今やっております。

 

前のページ 次のページ
大会勉強会情報

施術の腕を磨こう!
大会・勉強会情報

※大会・勉強会情報を掲載したい方はこちら

編集部からのお知らせ

メニュー