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介護における柔整の現状 
―介護保険における柔道整復師の役割―

2010/08/01
介護保険

介護における柔整の現状を語る前に介護保険、特に柔整業務に関与する部分を整理したい。

2000年にスタートした介護保険制度は、当初より3年ごとの更新と、5年ごとの大幅見直しが行われ、実情に沿った運用が施行されるよう適宜、軌道修正が加えられている。直近の大幅改定は、当初の計画通り本年2006年4月に「新介護保険」としてリニューアルされ今日に至っている。新介護保険の概要は、予防的措置の導入とそれに伴った要介護区分の細分化や施設入居者への自己負担増額、地域密着型サービスの創設、地域包括支援センターの機能強化など旧来の介護保険の脆弱部を補う目的のため導入された。介護保険がスタートした2000年には3.6兆円であった介護保険給付総費用が、僅か5年の2006年で約2倍の7兆円の概算要求になり、年率20%以上の急激な増加に対抗する措置として導入された。

介護保険給付費抑制の最も確実な方法は、被介護者の要介護状態低減化と介護状態悪化の遅延であり、従来の6段階の認定区分(要支援と要介護1~5)から要支援1・2が加わった新認定区分に分類され、特に要介護度の低い高齢者の要介護度の低減化が図られた。

従来の介護保険、特に在宅サービスに位置付けられる通所介護(デイサービス)や訪問介護等の給付費は、医療費でいう出来高払い制度が導入されている。利用者は要介護区分ごとの支給限度額までを介護保険給付対象として希望に応じてサービスを受けることが可能であり、サービス提供者(介護保険事業者)はその弁償として給付を受けることができる。この形態は、介護保険を初めて導入した日本において経営的メリットが得られる勝算から、従来の社会福祉業界のみならず医療、建設、運輸、金融等多くの業界から介護分野への参入がみられ、「介護バブル」と比喩される程賑わったことは周知の事実である。このことは国民への介護保険制度導入の周知活動、啓蒙活動に大きく寄与し、結果的に介護保険導入前の社会的入院、社会的通院と称される高齢者への過剰な医療費支出の抑制に繋がった。さらに介護現場の実態も旧来の措置制度下での施与的介護形態から契約に基づいた選択的介護サービス形態へと質の向上に大きく貢献した。

また、介護保険導入前、超高齢化社会の到来により将来にわたり増え続ける医療費を抑制するため、さらに医療費抑制に対する医療業界からの反発を抑えるために医療業界から介護保険に参入する場合の見なし法人の取扱等許認可のハードルを取り払い、医療費抑制の代償を介護保険で補えるよう行政から医療業界に対しては格段の配慮がなされた。

一方、柔道整復業界に対しては介護保険における機能訓練指導員としての位置付け、介護支援専門員受験資格の一端に加えられたが、柔道整復師導入のメリットの少ない機能訓練加算額や臨床と介護支援専門員との両立の困難さから介護保険導入に関する柔道整復師のメリットは皆無であり、前記の医療業界優遇施策とは格段の相違があり今日に至っている。

2006年に導入された新介護保険制度による介護給付費抑制施策は1) 自己負担の増額、2) 在宅介護、3) 介護予防、これら三点を中心に進められた。この際、これらの施策が円滑に機能するため地方自治体、特に政令指定都市や市町村等自治体に大きな裁量権を与えた。従来の医療保険のように厚生労働省の決定による上意下達、トップダウン方式を改め、各都道府県独自の介護保険事業支援計画の設定や市町村の判断による基準該当サービス基準、基準相当サービス基準、地域支援事業の設定など、その地方、地域の実情に合わせたサービス提供を行うことが可能となった。医療の現場に例えると、医療資格も有していない管理者が国の法的基準に沿っていない病院や接骨院に、市町村の一存で保険適用施設に指定するようなものであり、来たる超高齢化社会に対応するための変革の第一歩である。

一方、地方自治体に与えられた大きな裁量権は、ともすれば曖昧さやダブルスタンダードを生じる危険性があり、市町村によってはサービス事業者の決定やサービス内容について大きな隔たりが生じている。特に介護予防の分野では、介護予防対象者の一部である特定高齢者(要支援、要介護に当てはまらない元気な高齢者)は、介護保険被保険者ではないため市町村でも把握しておらず苦慮している状況である。さらに介護予防の内容も市町村の裁量権が認められてはいるが個々具体的な対応には苦慮しており、公共浴場の建設や公共スポーツジムの建設など箱物行政と批判されている一面もある。(もっともスポーツジムに通う元気な特定高齢者と引きこもりがちな虚弱特定高齢者を同一のメニューにより予防事業を行うことには無理がある。)

 

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