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特集

この人に聞く!【東京有明医療大学・久米 信好 准教授】

2011/06/16

現在、多くの柔整大学が設立されてきていることから、柔道整復に関する様々な研究者が育成されることを期待しているところである。引き続き将来も柔道整復が医療の一端を着実に担っていくには、今ある柔道整復学をキッチリ体系づけていくことが求められている。柔整ホットニュースでは、柔道整復大学で活躍されている教育者にテーマを設け、リレー式でご執筆いただくこととした。今回の執筆者は、東京有明医療大学 保健医療学部 柔道整復学科 の久米信好准教授である。

 

『柔道整復の高等教育に求められるもの』
東京有明医療大学 保健医療学部 柔道整復学科  久米 信好

私は, 一昨年まで柔道整復師養成専門学校でも教鞭をとらせていただきましたが, 私たち家族の生活基盤は私(柔道整復師)の臨床により, 患者様からその技術に対する対価報酬を得ることでした. よって, 現在, 柔道整復の高等教育に携わり一番感じることは, 臨床を行う柔道整復師が安心して技術を患者様に提供できる環境を学問的視野から構築しなければならないということです. 現在の明治国際医療大学から始まり, 柔道整復の高等教育を行う大学は増加の傾向にあります. その各大学が特色を持った研究を行うことは重要ですが, 忘れてはならない大きな柱に臨床を行う柔道整復師の技術の有用性について評価し, その結果を柔道整復師の先生方にフィード バックしなければ, 理解は得られないと考えています. 医療系大学の臨床を担当する教員は,「教育」・「研究」だけでなく「臨床」を行う必要があります. この正三角形を保たなくてはなりません.

接骨医の時代からこの国の外傷に挑み続けている「柔道整復術」を単なるEBM(experience based medicine: 経験に基づく医療)ではなく, その有用性をEBM(evidence based medicine: 根拠に基づく医療)にするための研究を大学で行っていくことこそが, 私に要求されているものと考えています. これは, 単に金儲けのことばかり考え, 日々の精進を怠り自分の技術力にあぐらをかいているような方のためでなく, 一生懸命, まじめに柔道整復術のことを日頃から考えている方々のためにです. 行政刷新会議の事業仕分けではありませんが, まじめに柔道整復術を患者さまのために提供している柔道整復師が馬鹿をみるような仕組みは絶対に反対だからです. 「経験」とは, 少しどこかで研修しただけで生まれるものでなく, 責任を持った立場で患者さまに向き合い, 失敗を重ねることで生まれるものです. 「師は患者なり」柔道整復師は古くから患者さまから多くのことを学び, 自分の技術にしてきました. 柔道整復師の教育に携わる若い教員は, 教科書的な座学だけで満足することなく臨床から多くのことを学び, それを教育に還元していかなければ, 学校の存在が単に国家試験を取得させるためだけの塾になってしまいます.

柔道整復術は, 整復・固定・後療法(物理療法・手技療法・運動療法)からなると教科書に記載されています. この中で, 他医療業種と柔道整復術の違いを明らかにするためには, 柔道整復師独自の「徒手整復法」と「固定法」の有用性を調査することしかないと考えます. これらの研究の積み重ねこそが, 柔道整復学構築の一助になるものと信じています. これを実現させるためには, 学部の研究だけでは不可能です. 研究機関である柔道整復の大学院を作ること. そして, それには日本柔道整復師会を始めとした業界団体の全面的な協力が必要不可欠であります.

皆さんはご存じでしょうか?

今, WHOは1990年に勧告したICD-10 を見直し, ICD-11へ改訂の作業に入っています. このICD-11には「伝統医療」という枠組みができる予定です. この枠組みの中に「柔道整復術」を入れることができなければ, 次の改訂は10年後になります. 「Judo Therapy」というキーワードは, 正式なWHO刊行物に掲載されているものでなく, 世界の伝統医療といわれるものには, 「このようなものがある」という紹介の冊子に掲載されただけなのです. 今, ICD-11の伝統医療の枠組みに柔道整復術を入れることは, 最重要課題であると私自身認識しています. 個人の努力だけでこの大きな難題に取り組むことは, 時間的・金銭的にみても不可能です. 日本の伝統医療を担う全柔道整復師のためです. 日本柔道整復師会と共に強力なタッグを組み, 柔道整復術を体系化してICD-11の枠組みの中に入れること, これこそ今やらなければ絶対に後悔する事業であると考えます.

 

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