menu

運動器超音波塾【第5回:肩関節の観察法 3】

2015/08/01

今回の「運動器の超音波観察法」の話は、「肩関節の観察法」の続きとして肩関節の烏口上腕靭帯について考えてみたいと思います。

 

「烏口突起の圧痛は癒着性関節包炎の96.4%にみられ,腱板断裂の11.1%,石灰沈着性腱板炎の14.5%に比較すると、特徴的な徴候といえる。」*1

*1 Carbone S, Gumina S, Vestri AR, et al.: Coracoid pain test: a new clinical sign of shoulder adhesive capsulitis. Int Orthop 34: 385-388, 2009.

前回から考えてきた「いわゆる五十肩」のうち、癒着性関節包炎に必ずと言っていい程見られる徴候に、烏口突起の痛みがあります。これは、スポーツ選手で特に上肢を使う競技者にも多くみられ、外旋制限と供に現れます。今回は、この烏口上腕靭帯の観察法について、解剖と共に考えてみます。

烏口上腕靭帯の主な役割としては、下記の事が言われています。*2

  • 肩甲下筋を内上方に吊り上げる事で、肩甲下筋がたわまないように保持している。
  • 膜状に上腕二頭筋長頭腱を取り囲む事で、安定化させている。
  • 肩関節内旋位で弛緩し、外旋位で引き伸ばされて緊張する。
  • 肩関節伸展位では、肩甲下筋に付着する線維は緊張し、棘上筋に付着する線維は、弛緩する。
  • 肩関節軽度屈曲位では、肩甲下筋に付着する線維は弛緩し、棘上筋に付着する線維は、緊張する。

*2 吉村英哉ほか:烏口上腕靭帯の肩甲下筋腱付着部に関する解剖学的研究:肩関節Vol. 35
(2011) No.3 P707-710
*2 山口久美子ほか:烏口上腕靱帯の形態について : 肩関節 34(3), 587-589, 2010-08-04

 

烏口上腕靭帯は、想像以上に複雑な働きをして、広範囲に付着している事が解ってきています。

 

「肩関節の超音波観察法 基本肢位は座位」

重要なポイントなので、今回も肢位について触れます。超音波での観察法の場合、最初に考慮すべき点としては、観察肢位が挙げられます。被験者はもちろん、観察者も楽な肢位での観察が的確なプローブワークにつながり、より情報の多い画像が得られます。この場合、大切なことは、動態観察を想定しての肢位を検討すべきだという事です。
肩関節の場合、仰臥位では後方からのアプローチが出来ない事、肩甲骨が床面と接触してしまうと、内外旋運動や外転運動のような自然な肩の動きができなくなるという理由によって、基本肢位は坐位が良いと考えられます。

烏口上腕靭帯の観察肢位は、手のひらを上にして大腿部の上に置き、肘を体側につけてもらいます。脇を締めた姿勢で、手首を持って内外旋運動を再現しながら描出します。

図 肩関節の観察法 烏口上腕靭帯の観察の基本肢位

プローブ位置は烏口突起と上腕骨頭の両方描出し、内外旋運動を再現しながら観察
この場合、烏口上腕靭帯と腱板疎部の瘢痕化と癒着に注意を

図 肩関節の観察法 烏口上腕靭帯の観察の基本肢位

 

「烏口上腕靭帯の解剖学的構造」

烏口上腕靭帯は、烏口突起の基部より起始し、上腕二頭筋長頭腱の上方に接しながら大結節、小結節に付着しています。吉村らの研究によると、小結節側は、肩甲下筋の表面と後面を広く覆って付着し肩甲下筋下部の停止にまで及び、大結節側は、上腕二頭筋腱の一部をラミネートしながら棘上筋腱の表面と後面(関節包と腱板の間)を袋状にラミネートしていると言っています。*3

なかなかイメージが難しいと思いますが、下図のイラストを参照してください。

図 烏口上腕靭帯の起始と腱板への付着

図 烏口上腕靭帯の起始と腱板への付着

図 烏口上腕靭帯の解剖

図 烏口上腕靭帯の解剖

烏口上腕靱帯は、腱板疎部周辺と共に滑膜に富み、周辺の炎症が容易に波及しやすい場所であるという事で、スポーツ選手のトラブルも多い印象があります。

また、これらの組成はType Ⅲ collagen優位の疎性結合組織(不規則な線維配列)で、靭帯様構造ではないとされており、その結果、ひとたび炎症が起これば、組織の線維化により柔軟性が損なわれ、外旋制限の要因となるとされています。

*3 烏口上腕靭帯の肩甲下筋腱付着部に関する解剖学的研究:その意義について
吉村 英哉ほか  肩関節 Vol. 35 (2011) No.3 P707-710

 

「烏口上腕靭帯の観察」

では、烏口上腕靭帯の観察法です。結節間溝を触知してから、小結節の山にプローブを合わせます。肩甲下筋腱を内側に辿っていくようにすると、やや頭側に烏口突起が観えてきます。烏口突起が描出されたら、烏口上腕靭帯を示す高エコー像に沿って、大結節の付着に向かってプローブをほぼ平行移動させて、戻るように観察します。この時に、手首を持って内外旋運動を再現しながら観察すると、烏口上腕靭帯が緊張したり撓んだりする様子が観察できます。

図 烏口突起と烏口上腕靭帯

図 烏口突起と烏口上腕靭帯

上記の画像は、陳旧例の烏口上腕靭帯で、やや肥厚した状態と、血管の陥入が認められました。

 

腱板の観察法の時にも記載したように、棘上筋の5層構造の1層目と4層目は、烏口上腕靭帯という事になります。Clarkらは腱板が単一の腱組織ではなく、5層構造として分れ、複雑に腱線維、関節包、靭帯が重なり合って作られた組織であると発表しています。*4

*4 Clark J.M.: Tendon, Ligaments, and Capsule of the Rotator Cuff. J.Bone and Joint Surg.74-A:713-726, 1992

図 腱板の5層構造と烏口上腕靭帯

図 腱板の5層構造と烏口上腕靭帯

図 腱板位置での烏口上腕靭帯の超音波画像

図 腱板位置での烏口上腕靭帯の超音波画像

 

「烏口上腕靭帯の観察と拘縮について」

烏口上腕靭帯の観察と拘縮について整理すると、下記のような事が考えられます。*5

  • 下垂外旋動作時に、烏口上腕靱帯が緊張し、内旋動作時に撓むのが観察される。
  • 烏口上腕靱帯、腱板疎部周辺は滑膜に富み、周辺の炎症が容易に波及しやすい。この場合、ドプラ機能により毛細血管の拡張の状態を観察する事が重要となる。
  • 拘縮肩発症メカニズムにおいて、烏口上腕靱帯と腱板疎部の瘢痕化が関節拘縮を加速すると言われており、癒着による制限が無く内外旋動作が円滑に行われるかを注意して観察する。
  • 肩関節拘縮の病態は、烏口上腕靭帯を中心とした腱板疎部の瘢痕化と下関節上腕靭帯複合体の肥厚が原因であり、これら組織の伸張性獲得が重要となる。この場合、大円筋や肩甲下筋の伸張性にも注意し、併せて観察をする。
  • 慢性的な拘縮の場合、大胸筋、大円筋、広背筋、上腕三頭筋、三角筋後部線維などに強い緊張がある。更に、小胸筋の過緊張により著明な圧痛を認める事もあり、触診の情報と併せて観察をする。

*5 参考資料 総合リハビリテーション・カパンディー関節の生理学など

 

内外旋動作で観察すると、上腕二頭筋長頭腱を一部ラミネートとしている状態が良くわかります。超音波は、プローブから垂直の位置は良く描出されますが、斜行している部分は不明瞭となりますので、このような動態観察で進入角度が変わると、画像が認識しやすくなります。

動画 陳旧例 烏口上腕靭帯の超音波観察 内外旋動作

 

さて、まとめです。今回の観察法でポイントとなる事項をまとめると、下記のようになります。

烏口肩峰靭帯の観察法の基本肢位は、座位で行う
自然下垂・脇を締めた状態で、手を大腿部に置いた位置から内外旋動作を観察する
烏口突起を目印にして、結節間溝に向かうように移動して観察する
腱板疎部の位置では滑膜性の炎症に注意し、ドプラ機能で毛細血管の拡張を観察する
烏口上腕靭帯を中心に腱板疎部の瘢痕化と癒着、下関節上腕靭帯複合体の肥厚に注意する
慢性的な拘縮の場合、大胸筋、大円筋、広背筋、上腕三頭筋、三角筋後部線維や、更に、小胸筋の過緊張に注意して観察する

 

上肢を使うスポーツ動作は特に、この烏口上腕靱帯の短縮が外旋可動域の制限や上腕骨頭の後方または下方への移動を制限して,その事で肩峰下impingementを誘発すると考えられています。烏口上腕靭帯は、一般的にはあまり知られていない肩関節の構成体ですが、日常的にストレッチ等を含めた、メンテナンスが必要である事がわかります。

次回は、「上肢編 肩関節の観察法」の続きとして、その他靭帯や注意事項について、考えてみたいと思います。

 

情報提供:(株)エス・エス・ビー

 
前のページ 次のページ
大会勉強会情報

施術の腕を磨こう!
大会・勉強会情報

※大会・勉強会情報を掲載したい方はこちら

編集部からのお知らせ

メニュー