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ビッグインタビュー:帝京大学大学院医療技術学研究科
柔道整復学・前専攻主任 塩川光一郎氏

2014/05/16

―また、あらゆる可能な学会に発表されるともお話されていましたが、他の学会とはどんな学会に発表されましたか?

夫々の発表論文が受け入れられやすい専門の学会で発表しましたし、接骨医学会で毎年発表しました。柔道整復師の集まる接骨医学会で発表することは、少しでも接骨医学会にその学問を近づける意識を持たせるためであり、そちらに顔を向かせるために行かせています。アフリカツメガエルの研究をして接骨医学会で発表してそれで事足れりとしているようでは困りますし、それはあくまでも通過点です。本当のところ、接骨医学会で発表されるものの中で寧ろ未完成なように見える学問が柔道整復学の芽ではないかと私は見ているんです。

大学院で、これこそ柔道整復学の高等教育だと言っている人間が出してくるものは殆ど全部違う部門の、先程私が話した境界領域に埋没するところの学問を延長したものです。逆説的ですが、地道に研究している柔整師の方たちが、おとなしく自分の治療の箱の中から接骨医学会に出してくる論文発表の中にこそ柔道整復学の芽がいっぱいあるんだと睨んでいる訳です。従って私の考えは、大学で高等教育を受けて修士とか博士をもった人間が、現場で治療している中から出てくるそのテーマを磨きあげてこそ柔道整復学が育って来ると思っています。中途半端なものだとしてバカにすることは容易なことですが、その芽をキチッと見分けて、ハイテク或いは最先端の生化学、分子生物学、細胞生物学、或いは解剖学、整形外科学の先端的な頭でそれを真面目に取り出して、磨き上げる時に柔道整復学が育つのではないかという風に私は思います。だから大学の中のハイテクの中から柔道整復学がすくすくと育つのではない。寧ろたとえば萩原前会長が集められた『柔道整復學 構築プロジェクト報告集』の中にこそ柔道整復学の芽がいっぱいあると思っています。それを他の学問とコンバインすることが重要で、ああいうものは学問ではないと言って相手にしないようでは柔道整復学は育たないという考え方です。

結局、学問をやる人間というのは謙虚でなければいけません。あくまでも謙虚に、高邁にみえる理論を振りかざすようなことをしない学生を育てようと私はしている訳で、地に付いた眼でじっくり見ながら何所に柔道整復学を育てる芽があるか、どこに着眼して、新しい考え方とテクニックでそれを磨いていくと素晴らしい柔道整復学が育っていくかと考える。そこに着眼してもらいたいために私もアフリカツメガエルの分子生物学と細胞生理学を教えている訳で、カエルの世界の研究論文を何とか柔道整復学に関係あるような理屈をこねながら無理して接骨医学会に行って話してきているのです。そこのトライの中から本物が次第に生じるのです。そして又、本物の学問を何所かで見ておく必要もあるんですよ。塩川研でカエルの細胞の分子生物学を学んだその目で、例えば『柔道整復學 構築プロジェクト報告集』を見ると、こういうアプローチとこういう解析が面白いかなと気がつく。じゃ実行してみようと。その中で、昔覚えたテクニック、訓練が役に立って新たなる柔道整復学が出てくるようになるだろうと。〝これって柔道整復学として成り立つのだろうか?〟ということを何時も考え続けるべきです。結局、成果としては上がって来ているという評価です。

 

―これまでの学部教育に加えて一つ新しい観点としてEBMの考え方を学生に指導する必要も感じられる〟とも述べられていらっしゃいますが、その辺の手応えと申しますか、学生さん達に十分指導効果が得られましたでしょうか?

今年卒業していく6人の大学院生は、次の博士課程にいって更なる展開をしようとして夫々が自分なりの努力をしています。極めてまだ不完全な状況ですが、施術とその効果の客観的な対応関係を求める立場に立って、完全な方向を目指してじりじりと近づこうとしているところで、其処が良い訳です。高等教育と称してはおりますが、実はまだ殆ど高等教育を出来ていないんです。高等教育は何であるかをイメージしながら既存の学問のテクニックを必死で学んでいるにすぎないのです。柔道整復学の領域における本当の意味での高等教育は何所にあるか。如何になされるべきか。未だほとんどの人に見えていないんじゃないでしょうか。そういう気がしています。しかし、それでいいんじゃないでしょうか。学問というのはそうやってトライすることで育つものでしょう。

 

―マクロの学問分野としての臨床柔道整復学的研究分野の研究テーマとミクロの学問分野としての分子細胞組織学的柔道整復学分野の研究テーマについても解り易く教えてください。

結局、今まで述べた中にもう答えは出ているんです。柔道整復学といえども、人の体の学問です。人の体というのは肉眼で見たマクロの姿とある計測機器をもって見た分子のレベルの姿と両方ある訳です。しかも全体の姿と分子一個の姿との間には途中ずっーと階層がある訳で、何所の階層で柔道整復学を展開するにせよ、分子から全体までずっと繋がりのある学問になるのです。そのことは、あらゆる生命科学について言えることであり、柔道整復学特有なことでは全く無いのです。答えはシンプルで、いかなる生命体の研究についてもマクロとミクロがあるんだということに過ぎない。つまり、まだ柔道整復学がなんであるかを答えられていないし、答えられないんです。しかしながら、それだけの幅があるというのが人間世界、生き物の世界であって、マクロのレベルの研究は肉眼で把握できる領域に主眼を置いた研究であり、ミクロのレベルの研究はそれより微細なレベルのできごとに主眼を置いた研究であり、研究にはいつも階層性があることを言ったに過ぎないのです。従って、今も同じ考えです。

 

―昨年の12月に塩川教授は、『ガードン卿:その研究と人柄の魅力』という本を出版されましたが、ガードン博士は2012年、山中伸弥教授と一緒にノーベル医学生理学賞を受賞された方であり、塩川教授と40年来のご友人で研究仲間であられますが、出版の動機などお聞かせください。

ガードン博士は2012年のノーベル医学生理学賞をiPS細胞の生みの親である山中伸弥京都大学教授と共同受賞をしました。ガードン博士と私が出会ったのは、私が九州大学大学院を修了し、武田薬品からニューヨークに移った1972年です。以来、毎年開かれる国際会議でもよく顔を合わせ、お互いの自宅に泊まるなど旧知の仲です。私が東京大学を定年で退官し、帝京大学で教えるようになってから、この帝京大学でガードン博士の公開講座も開くことが出来ました。またガードン博士には、数々の素晴らしい研究があり、わけても「クローンガエル」の研究成果は、これまでも幾度となくノーベル賞候補になってきました。そのガードン博士が2012年になって期待された通りにノーベル賞を授与されることになったことは、世界中のこの分野の研究仲間を喜こばせました。そこでこの受賞を心から祝福したい気持ちを表現する意味も込めて、この機会にガードン博士の研究の軌跡を、私の目から見たもので限定的でありますが、ノーベル賞受賞の研究という観点から解説してみたいと思ったのです。執筆にあたって、どんどん書いていくとあの本の中にも書いておりますように、〝なんだ自分のことを書いているんだなあ〟と。それを読んだ友人から〝塩川さんらしいね〟という手紙ももらいました。書いている内にひとりでにああいう風になってしまいました(笑)。国会図書館に入っておりますから、手にとって読んでいただければと思います。

ガードン卿からの手紙○2012年に届いたガードン博士からの手紙

文末に〝あなたの世話している新設の大学院柔道整復学専攻がうまく行くように、祈っていますよ〟と記されている。

 

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