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スペシャルインタビュー:厚生労働省老健局総務課介護保険指導室長・遠藤征也氏

2016/07/01

―〝介護保険制度の改正について、一番大きな改正が平成18年施行の改正で、予防という概念を重視し、施設給付を見直すなど給付の適正化に大きく舵を切った。一方で、地域包括支援センターを創設し、地域の重要性を認識し始めた。今回の改正は、介護保険当初の考え方が大きく転換する一つの改正で、ある意味、制度が出来た当初とは社会状況の変化で考え方が変わってきて…〟と述べられておりますが、その背景の変化について教えてください。

社会状況が大きく変わったというのは、まず急激な少子高齢化の進展です。これは想定されていたことですが、想定された以上に急激に進んだということです。しかも単に人口減少し稼働層(支え手)が減るという事だけではなく、世帯構造も大きく変化し、単身世帯や老々世帯が急増したことによって、様々な問題が生じてきています。同時に生涯未婚率の上昇により親と未婚の子のみ世帯の増加も顕著です。これは介護と仕事の両立やこういう言い方が良いかどうか分りませんが、年金パラサイトなどの問題も内在化されております。これらの状況は、全国一律に進展するのではなく、都市部と地方では全然状況が異なり高齢者の増加率やそのピークも地域によって異なり40%を超える人口減少の地域も珍しくありません。また人口移動にともない社会資源なども減少するなど地域の脆弱化、地域間格差がかなり顕著になっていきます。さらに非正規雇用者の割合も4割を超え、支え手である稼働層内においても格差が生じ格差社会が進行しているのが現状です。

どちらかというと今まで支え手の方というのは1億総中流ではありませんが、支え手総員で支えていましたが、実は支え手の中で非正規雇用が4割というのは、支えての中でさえ支援を必要とする人が出てきてしまっています。このように高齢者を取り巻く環境が大きく変化、複雑化してきておりますから当然高齢者自身のニーズも変化、重層化してきますので、それに対応できるシステムが必要になります。同時に地域の多様化が進展しているということは、そこにお住まいの方々のニーズに対応するシステムを作る必要があります。介護保険は地方分権の試金石と言われて創設されましたが、まだまだ画一的なシステムです。今回の改正では、勿論全国画一的な部分で担保しなければならないところはありますが、地域のニーズを的確に把握をして対応できるようなシステムに変えなければいけないとして「新総合事業」というのを創設し市町村の創意工夫で事業が実施できることになりました。その結果、支援する側(サービス事業所)は今までは専門職一辺倒だったのが、地域の社会資源、住民力をも活用し地域全体で制度を支えていくという方向に舵が切られているのです。専門職だけではなく地域の社会資源も活用して地域全体で取り組んでいくんだということです。

この「新総合事業」は名称のとおり事業ですから、地域のニーズに応じた地域の創意工夫をこらした独自の施策展開が可能となります。但し、事業である以上給付とは異なり、事業実施にあたってあまり制限は受けませんが、予算の制約は受けるので効果的・効率的な実施が必要不可欠です。例えば武蔵野市さんでは創意工夫でいろんなことを実施していますが、予算の制約は受けるので何でもかんでも無制限に実施できるわけではありません。今回の改正で勿論給付の部分も残っていますが、これから社会状況の変化に応じて、専門職だけではなく、地域住民の力も踏まえて総力戦でやっていこうという方向に変わってきていると思います。

 

―地域包括ケアシステムの構築が言われ出してから3年経過したと思います。地域が主役になっていく必要があり、住民が自治体に参加する。まさに参加型の社会保障とは、どういったことでしょうか。また国民はどのようにあるべきでしょうか?

もともと介護保険というのは、地方分権の試金石と言われスタートしました。地方分権とは、住民一人一人に生活と未来を決定する権限を移譲していくことです。ですから今までであれば、国民から最も遠い中央政府が当事者の参加なき生活保障などを決めていたわけです。しかしこれからは国民に身近な地方自治体における住民参加による当事者参加型の保障に切り替えていくことで、まさに住民による住民の為の施策を構築し展開していくことが必要です。近年のグローバル化によって、国は所謂他国の状況を勘案しながら施策を展開していかなければならないため、国の施策が国民のニーズに必ずしもマッチした施策になっているかというと齟齬が生じている部分があります。更に地域が多様化していますから、国の行っている施策がAという地域ではマッチしているかもしれないが、Bという地域ではマッチしていない可能性があるわけです。しかも1500超もの保険者がありますので、国がいくら苦心し施策を講じたとしても、全ての自治体が満足するような施策は困難です。従って、最も住民に近い地域の自治体が施策を実施できるようにしましょうということで地方分権が提唱され、その一つの方法として地域包括ケアシステムがあるということです。また住民が参加をするということは、停滞している今の現状を活性化させるチャンスでもあります。

そこでの最も大きな課題は地域住民にどのように参加して頂くかになります。住民自身が自分の住む町を今後どのようにしていくのか常日頃から地域の状況を気にかけ、他人の問題としてではなく自分の問題として認識する事が重要です。ただし日々生活が忙しい中でなかなか認識するのは困難ですから、やはり市町村の支援が不可欠になります。少なくとも市町村から自らの地域の人口構成や将来予測など地域診断を行い、それらを「見える化」する。そして住民に情報提供などを行うことにより現状認識して頂くと同時に、このまま何もしなかった場合のリスクなどを示して共有することが大事です。住民も行政も一緒になって考えていく、住民一人一人が地域で生じている課題を自分のこととして捉える、その自覚をもたないと本当の意味での参加型の社会保障にはなりません。地域住民が自分たちの町を今後どうしていくのかという意識を持って行政と一緒にいち早く取りかかるべきだと思います。おそらくこれからそういう取り組みが出来ている自治体と出来ていない自治体で、かなり格差が広がってくるのではないかと思います。ある意味、これまで国に任せていた部分がありますが、これからは自分たちの責任というか、自分たちで変えられるということを自覚する。そして其処をしっかりやれば、今よりもはるかに暮らしやすい生活環境を整備できる可能性がありますし、自分たちに決定権があるというのは大きいと思います。その為には住民と市町村が車の両輪となって施策を構築することだと思います。住民一人一人が地域を改めて振り返りみる事、何が起こっているのか他人事でなく自分の事としてとらえる、その自覚を持つ必要があります。

 

―〝地域包括ケアシステムの目的は、①ケア付きコミュニティの構築②在宅生活限界点の向上であり、この実現のためには、如何にネットワークを構築できるか。ここが肝になる〟とも話されており、地域のネットワークづくりがスタートラインとお話されました。この点について各自治体の足並みはどのようでしょうか?

地域包括ケアシステムの構築にむけて「新総合事業」がスタートしましたが今年度中の実施予定も含め約3割程度にすぎません。この数字だけで判断すればまだまだ厳しいという感じがしますけれども、地域には趣味のクラブ、或いはお祭りのネットワーク等の既存の小さなネットワークが沢山あります。ゼロから作るのは確かに大変な労力を要しますが、まずは既存のネットワ-クを結びつけリンケージ化して、それが繋がっていけば大きなネットワークになります。そういう意味で元々地域のポテンシャルは高いと思っていますし、ネットワークがゼロという地域はまずありません。この小さなネットワークを把握し繋げていくことがやがて大きなネットワークの構築に繋がっていく事を理解して頂ければ、今はバラツキがあるものの2年後3年後に足並みも揃ってくるのではないかと期待しています。ただ、声がけしリンケージしていくには保険者の協力が必要なため、保険者と地域包括支援センターがしっかり自分の地域にどんなネットワークがあって、どのような機能を有しているのか把握する事が大切ですし、ただ単に繋げばいいわけではありません。お互いがそれぞれの役割を認識し繋がる事によってどのような効果があるのか等を理解してもらう事が大切になります。そこがうまく機能すれば自然に発展していくと思います。また少子高齢化が進んで稼働層が減るといっても、実は65歳の高齢者が増えますし元気な方が大半です。彼等をどうやって担い手に回すか、その方達の知識や知恵をも活用できれば在宅生活の継続性は、十分可能であるように思います。たとえ要介護5でもご本人が在宅で過ごしたいという希望があれば、24時間365日介護サービスを入れることは難しいにしても、ここは専門職が、こちらは地域の方が中心となって支援する、必要に応じて協働するなど棲み分けができれば可能と思っています。

 

―高齢者の医療は、治す医療からQOLの向上に視点が大きく変わってきており、まさにここで医療と介護の目的が一致した訳で、当然一緒にやっていく必要がある。団塊の世代が後期高齢者になる2025年が大変だと言われてきたが、もっと大変なのは団塊ジュニアが高齢者になる2040年を念頭において考えていくことが重要等、述べられています。分り易く教えてください。

団塊ジュニアの方々は現在まさに稼働層の中心として日本経済や社会保障制度を支える中核的な層として頑張って頂いています。日本の将来象を予測すればこれから更なる少子高齢化が進展し稼働層が激減する一方で、高齢者は2042年まで増加し続けますし後期高齢者の第2のピークは2053年になります。そうすると2040年が一つのメルクマールになって、実は2040年以降、高齢者とその他の世代の割合は1対1を割り込み稼働層の割合が低下していきます。実は2025年というのは、団塊の世代が後期高齢者になり、介護需要の急増に向けた入口に過ぎず、サービス提供体制の維持において様々なリスクが発生するのは、2040年を超えてから長期間にわたり継続します。少なくとも2040年になった時点で、その時点での高齢者、まさに団塊ジュニア世代になりますが彼らを支えるシステムが構築されている必要があります。社会保障を含めて高齢者の問題を議論する時に今の高齢者を支援するだけであれば課題は限られていますが、同時に未来の高齢者も支援するための施策を考えなければいけないのです。もし仮に財政状況が良くなったとしても、稼働層の割合はよほどの事が無い限り今の推計値から大きく変わることはないと思います。急激に子どもが増えたりするわけではないので、おそらく稼働層は減少し介護人材の確保も難しくなりますから、当然システムを構築するのに様々な課題をクリアーする必要があります。しかしながら、今からそれに向かっていかないと、その時になってからでは間に合いませんから、今以上に効果的かつ効率的なサービス提供システムの構築が求められるわけです。

 

―また遠藤室長は、〝高齢者問題は重要だけれども、実は全世代に対して社会保障を行っていかないと難しい時代になっている〟とも言われております。そのことについて教えてください。2060年くらいまでにどのように社会構造の変換を行っていく必要があるのでしょうか。

社会保障を考える中でやはりリスクを負う者、社会的な弱者を支援するというのが基本的な考え方だと思います。従前はやはり高齢期になった時がある意味一番リスクを負うことから高齢者問題を中心に議論してきました。しかし今日社会状況が変化することによって単身世帯の増加、共働き化により家族機能が著しく低下しました。また都市部に人口が流入することによって都市部も地方も地域に親しい方がいないなど地域力が脆弱化しました。その結果、所謂「血縁、地縁」が消滅したわけです。同時に雇用形態、経済状況の変化により終身雇用制度が崩壊し非正規雇用者が急増することによって最後に残された「社縁」がなくなったわけです。つまり何かあった場合に、血縁・地縁がなくても会社の人が助けてくれる「社縁」という最後の砦があったのですが、もう頼る縁がないということです。実はこれは高齢者だけでなく稼働層や若者も同じ状況です。高齢者だけがリスクを背負っている訳ではなく、30代、40代の方も〝もし明日仕事がなくなったらどうしよう〟全世代がリスクを抱えているのが現状です。

そう考えた時に、まず何をすべきなのか、様々意見はあるかと思いますが、私はまずは「格差社会」をどうやって解消するかがポイントだと考えています。高齢者だけ支援しても社会的なリスクはなくなりませんし、現在日本は所謂「格差社会」が進展しています。すなわち所得のある親のお子さんは高学歴という図式が出来上がっています。生活に余裕があれば、余裕分を子供の教育費用に充当できます。職業格差が教育格差を生み教育格差が学歴格差を生む。日本はまだまだ学歴社会ですから学歴格差が職業格差を生むわけです。生活保護世帯の4分の1は生活保護世帯になると言われています。彼等が悪いわけではなく、そういう環境に恵まれなかったのです。ですからそのような環境におかれている方々への支援も必要になってきます。いま安倍政権で1億総活躍社会を推進していますが誰もが平等に同じような恩恵をうけられるよう税の配分問題など含め、教育に恵まれないお子さん等に対しては何らかの補助を検討して環境を整えてあげる必要があると思います。それらの取り組みを通じてみんなが平等となる社会を構築していくということが2060年に向けて重要になってくると思います。

 

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