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埼玉県農協健康保険組合・坂本昌之常務理事に聞く!

2014/05/01

―一部の柔道整復師の方からは、治療のガイドラインが必要であり、保険者や患者さんも参加される中で、作ることが望まれるとして、作り始めているとも聞きますが、そうしたことに関してもし参加の依頼がありましたなら、参加してみたいというお考えはありますか。

私が思うには、柔整の療養費というのは受け渡し方法だけが特例なんですね。償還払いというのは元々あった訳ですから。であれば、患者さんが保険が効く施術を受けたなら当然支払われるべきです。しかし、グレーゾーンが幅広く存在するために、見解の相違が多くあるのだと思います。それをなくすための努力としては、ガイドラインが一番良いという気がします。そういう意味でガイドラインは必要だと思います。ただ、参加の依頼が来ても私は経験不足です。もっと経験のある方にお願いしたいと思います。なお、ガイドラインは一目瞭然に近いものにしていただき、患者さんも含めて殆どの人が理解できる世界にすることが大切です。そういう意味では是非とも国も一緒になって作ってもらうような取組みが大事だと思います。

 

―JBさんが出されている案については、どんな風に思われておりますか?治療計画書等も添付するようにしていくと言われています。また、昨年の11月からJB接骨院の申請書には傷病名を書かないで提出されているとお聞きしましたが、そのようなことは可能なものでしょうか。

雛型は拝見しました。JBさんが、自分たちで審査をして支払を決める、その時にしっかりチェックできる内容にしたということでしょう。大変良いことだと思います。ちょっと分からないのは傷病名を書かなくてもいいという部分です。ただ専門用語での病名では分かりづらいので、分かりやすい病名(表現)に統一してほしいと思います。しかし、結果的には傷病名と原因はセットだと思います。患者さんは保険が効かなくてもマッサージを受けたいと思えばマッサージを受けます。何故ならその人はつらいからマッサージを受けるのです。保険が効くか効かないかは先程も話した通り別の話だと思います。其処をどう判断すればいいのかと言った時に勝手に解釈を拡げられても困りますので、国が基準を示してほしいと思っています。その中で認めるというのであれば良いのではないでしょうか。これは医療保険制度のルールとしての解釈ですから、「これなら支払って良い」という概念を整理してもらえるのであれば、全部の健保、全部の国民に該当する話ですから、是非国にしっかりやってほしいと私は思います。

 

―今後どのような方策をとれば、全ての国民にとって健康に役立つ方向に向かうことが出来ると思われますか?それについてどんなお考えでもよろしいのでお聞かせください。

医療費の高騰、保険料の上昇という状況を変えるためには、国が定めた特定健診や特定保健指導等、今健保組合がやるべき事業としてとても大事です。それに加え、正い情報を送ってみんなで医療費を抑えようという形にしなければ難しいと考えます。人間ドックだとか定期健康診断に対する助成等にしても〝それより保険料を下げてよ〟という話も中には出てきます。健保組合がみんなの健康を意識して取り組みをしていますというメッセージを如何にして伝えられるか。要するに、いくらこんなことをやりますよと言っても相手が話に乗ってこないのであれば意味がない訳で、そうなるとやはり皆さんから集めている保険料というのは、こんな風に使われていますとしっかり理解してもらう必要があります。もし自分が病院や接骨院に余計にかかれば、それは保険料に跳ね返ってくることなのだと十分意識してもらい、〝安いからいいや、時間があるからいいや〟ではなく、必要のないものまで行ってはいけないと思ってもらう必要があります。

つまり、意識の問題で、例えば交通事故での施術でも最初は毎日かもしれませんが、次第に間隔はあくと思うのです。そして、どこが治療の終わりなのかということです。これは柔整に限った問題ではなく、もう1回しっかり診てもらって〝ここまでしか治りません〟というエンドポイントを示してもらわないとダメだと思います。そういうことに対して、どのような意識づけをするのかが今後の大きな鍵です。今までは、保険料をいただいているのでなんでも支払えればいいという世界でしたが、「上げられない、支払えない」となってきた時に、みんなでそれを抑えようとする努力をしなければなりません。それには「健康」が大事であり、みんなが健康にならなかったら〝どうにもなりません〟という話です。

当健保組合では、そのためには先ずあなたの体が健康であること、体が健康であれば働くことができ暮らしが(経済的)健康になり、体と暮らしが健康になったら精神的にも楽でしょう。自分に余裕ができれば家族の健康面に気をかけられるので、家族も健康になるでしょう。家族も健康になれば地域も健康になりますよというように、体、暮らし、精神(こころ)、家庭、地域社会の5つの健康づくり運動を展開しています。全てがそんなにうまくいくとは思いませんが、仮にみんなが何も意識しないで、一人一円、百円、千円を無駄に使ったらすぐに百万二百万になってしまいます。福岡大学の先生の講演をお聞きした時に〝日本は世界一の医療を提供されながら受けている人は誰も世界一と思っていない〟そこが問題であると。

もう1つ〝自分たちの最期をどうするのかということも決められていない〟というのも問題であると話されました。みんなに「最期は延命治療をしないこと」などとは言えませんが、徐々に食べられなくなった時に、口から食べられないのであれば栄養補給をやめるかどうかを本人と意識のある内に話し合っておくことも必要だと言われました。要するに食べられなくなって弱っていったら、それが人間の最期だということだと思うんです。スウェーデンには、一般診療に「0・7・90・90」という数字があって、0は、〝ちょっと調子が悪いんです〟と診療所に電話した時に、〝どういう症状ですか〟〝こういう症状です〟〝はい、わかりました〟と受けて1週間以内に一般医の診察を手配さえすれば良いそうで、それが0と7です。7日以内に受けた診療所は、診察をして治せればそこで治してしまいますが、治せない場合〝次の大きい病院を紹介します〟と、また紹介します。紹介された病院はその時から90日以内に診察すればよく、もっと大変な治療を受けなくてはいけないと判断した時には更に上に繋げます。それがまた90日です。その理由は何故なのか?その答えは〝人間はいつか死ぬんだ〟と、90日間さえ生きられなかったのであれば、治療を受けられなくても仕方がないという考え方が国民に浸透しているのだそうです。それがスウェーデンの国民性であると在スウェーデン大使であった方に勉強会で聴きました。要するにスウェーデンは福祉国家だと言われていますが、そうやって医療費を抑えているんだと。

いろいろなお話を聞くと、やはり元々の財源が足りないのですから、みんなが何所かで我慢と納得をしているわけで、わが国にはそのための情報が足りないのかなと思っています。モラルハザードの観点からみると、「医者が患者さんに〝薬をどんどん飲んでください〟と投与して治療費を貰うということは、ある意味でそこにモラルハザードが存在します。また、患者は〝自分は保険に入っているんだからいくら病院にかかってもいいんだ〟ということにもモラルハザードが存在する」とインターネットに書かれてありましたが、確かにその通りだと思います。倫理の欠如についてみんなが意識するようになれば少しは違ってくるのではないでしょうか。

 

―最後に、日本もTPPに参加することになり、その後の交渉内容はあまり報道されていないように思います。日本の農業はTPPに参加することで相当な打撃を受けるという声は強いものの一方で国際競争に打ち勝つだけの戦略は準備されているともお聞きします。坂本常務のお考えを教えてください。

わが国の人はTPPのことをあまり知りません。TPPは、その国が法律で保護しているものを壊すものです。医療保険も同様です。FTAを受け入れてしまった韓国の弁護士の説明では、事業展開にあたって邪魔になる法律は全部ストップさせ、それを実行しなかったら約束を守らなかったとして、ISD条項に基づき政府が訴えられ、結果として賠償金を払わされてしまうそうです。日本の農業も何人かは生き残る人もいるかも知れませんが、農業で食べていけない農家はやめてしまうことになり、最終的に日本の農業も潰れざるをえないと思います。そして、今は世界一とされている皆保険制度も根幹から崩壊していくことになると強い危機感を持っています。

 

●坂本昌之氏プロフィール

坂本昌之氏1976年、JA埼玉中央会入社。企画管理課長、地域振興部長、総務部長を経て2011年埼玉県農協健康保険組合常務理事に就任、現在に至る。また、健保連埼玉連合会理事、同医療費対策委員長。

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