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運動器超音波塾【第24回:指関節の観察法2】

2018/10/01

株式会社エス・エス・ビー
超音波営業部マネージャー
柳澤 昭一

近年、デジタル技術により画像の分解能が飛躍的に向上した超音波は、表在用の高周波プローブの登場により、運動器領域で十分使える機器となりました。この超音波を使って、柔道整復師分野でどのように活用できるのかを、超音波の基礎からわかりやすくお話してまいります。

 

第二十四回 「ミレニアム・ファルコンとはやぶさは、同じイオンエンジンで飛ぶのだ」の巻
―上肢編 指関節の観察法について 2―

とうとう月旅行が現実味をおびてきて、このところ興奮気味です。枕元でジュール・ヴェルヌを読んでもらい、「鉄人28号」の水筒と「スーパージェッター」のお弁当箱で幼稚園に通い、「ウルトラマン」、「ウルトラセブン」はもちろん欠かすことなく、アポロ11号の司令船コロンビアから分離した月着陸船イーグルが「静かの海」へ着陸、ニール・アームストロング船長が月面に降り立った姿をテレビにかじりついて観ていた世代です。その後は映画へも興味が広がり、「2001年宇宙の旅」、「惑星ソラリス」、「スターウォーズ」、「ブレードランナー」、「風の谷のナウシカ」、「攻殻機動隊」等へと、かくして宇宙大好きのSFオタクの大人が一人出来上がったわけです。地元のつくば市にはJAXAの筑波宇宙センターがあるのも幸いして、今月末の特別公開にはその聖地に禊(みそぎ)に伺う予定です。こうなるともはや、魂の浄化を求める信仰みたいなものです。

中秋の名月(十五夜)は2018年の場合9/24ですが、満月は9/25になります。関東地方は満月の夜は曇りで残念でしたが、ちなみに十三夜は10/21で栗名月とも呼ばれ、十五夜と同様に収穫を感謝してススキやお団子をお供え物にします。

月を望遠鏡や双眼鏡で覗くと、ちょうど真ん中あたり、嵐の大洋の東にコペルニクス(Copernicus)という大きなクレーターを観ることができます。その上には、嵐の大洋と島の海の間にケプラー(Kepler)というクレーターがあり、コペルニクス(地動説)はポーランド、ケプラー(ケプラーの法則)はドイツの天文学者の名前にちなんで付けられています。そのクレーターからは光条(ray system)と呼ばれる隕石の衝突で放出された噴出物が放射状に広がった、美しい模様を観ることができます。何度見ても見飽きない、不思議な光景です。

日本は少子高齢化社会へと突き進む中、唐突な自然災害の猛威にも見舞われ、何かと暗い側面がクローズアップされて損失感と閉塞感が漂う今日この頃です。この月旅行のような夢の実現が様々な分野にも波及して、今一度我々の目指す未来像のほころびを紡ぎ直すきっかけとなれば良いなと思います。宇宙の尺度から見れば、人間の営みは小さな出来事ですが、それでも追い続ける何かを忘れないようにしたいものです。

さて、月旅行の天文学的な旅費を払える当てはどこにもありません。そのうち、商店街の福引きの特賞が月旅行になる日が来るでしょうから、宇宙旅行はその日まで、気長に待つことにします。”Space, the final frontier….”

JAXA筑波宇宙センター 小惑星探査機「はやぶさ」1/2展示模型

図 JAXA筑波宇宙センター 小惑星探査機「はやぶさ」1/2展示模型

「ミレニアム・ファルコン」は「はやぶさ」と同じ、イオンエンジンが搭載されています。

 

今度のはやぶさ2プロジェクトでは、地球から3億㎞彼方のたった900mの小惑星リュウグウへ、探査機を飛ばしています。リュウグウは、太陽系が生まれた頃(今から約46億年前)の水や有機物が今でも残されていると考えられている小惑星で、地球の水はどこから来たのか、生命を構成する有機物はどこでできたのか、その謎を解くのが「はやぶさ2」の目的です。2018/9/21、「はやぶさ2」から分離され、小惑星表面に降りた世界初のローバ(移動探査ロボット)からは、移動探査の写真が送られてきました。地下のサンプルを採取して、2019年末にリュウグウを出発、2020年末に地球に帰還する予定という事で、わくわくしています。”D'où venons-nous ? Que sommes-nous ? Où allons-nous ?”

はやぶさ2プロジェクトサイト 
http://www.hayabusa2.jaxa.jp/

今回の「運動器の超音波観察法」の話は「指関節の観察法」として、PIP関節について考えてみたいと思います。

 

手は口ほどにものを言い?

PIP関節に関する文献を読んでいると、いかに「手」の機能が重要であるかに気づかされます。人が他者と相対する時に顔以外に着目するのは、手の表情や仕草とよく言われます。上海の大学で超音波画像診断装置を持ち込んで運動器への有用性を探るべく解剖実習を行った時に、ご献体を前にして最初に畏怖の念に打たれたのは、全く感情や意志を示す事のない「手」でした。また、人間が類人猿の中から飛びぬけた存在になれたのは、二足歩行・音声言語・道具の発明と、拇指がほかの指と対向できることを挙げる人もいます。つまり「手」の機能が人間を人間たらしめる重要な要因であったというわけです。それゆえに手の疾患は、運動機能や知覚機能以外にも生活の質(QOL : quality of life)に大きく影響するという事になります。生理学的運動機能を把握し、関節疾患や傷害による機能低下をどのように治療・改善できるのか検討する上で、改めて超音波による解剖学的な観察が必要であると感じるところです。

 

PIP関節の解剖

通常、PIP関節は蝶番関節に分類されており、屈曲・伸展運動のみの一軸関節として側方運動はできないとされています。*1
基節骨頭の関節面は滑車の形状をしており、中節骨基部は滑車の凸状面に対応する2つの凹状の関節窩になっています。MP関節とはまた異なった関節形状であり、人体の構造の巧妙さには感嘆するばかりです。プロテーゼ関節(埋め込み型人工関節)では、指節間の関節は横方向、すなわち水平方向の回転機能が組み込まれていないものが好ましいとしています。では、本来の人体の構造ではどうでしょう。

PIP関節の回旋許容角度について調べてみると、健常男性ボランティア10名40指を対象として、指伸展位にて徒手的動態CT撮影を行い、基節骨頭と中節骨頭掌側面のなす回旋角度および変化量を算出した論文がありました。*2

これによると、PIP関節の無ストレス下での回旋角度は平均3.9°外旋位であり、橈側指が外旋位をとる傾向にあるとした上で、ストレス下での平均変化量は内旋8.9°、外旋9.0°、内外旋合わせた総変化量は平均17.9°であり、いずれも各指間に有為差を認めなかったと報告しています。PIP関節が比較的大きな回旋許容角度を持つ事が明らかになり、高い柔軟性が手指の動作において重要な役割を担うと考え得ると書いています。そもそもPIP関節は、一軸関節として、屈曲・伸展方向以外の運動許容範囲に関しては注目されてこなかったわけで、これには驚きです。確かに関節の形状を良く観察すると、膝の脛骨大腿関節のような要素も持っているように感じますし、「なじむ」という機能にとっては都合が良い構造であると考えられます。

*1 Kuczynski K.: The proximal interphalangeal joint. Anatomy and causes of stiffness in the fingers.J Bone Joint Surg Br,50:656-63,1968.

*2 真壁光、淺野祐一、田村正吾、高畑直司: 近位指節間関節の回旋許容角度の検討, 北海道勤労者医療協会医学雑誌, 36 ,19-22 ,2014.

“PIP関節 関節面の形状

図 PIP関節 関節面の形状

PIP関節が比較的大きな回旋許容角度を持つ事で、その「あそび」により接触を安定させているというのは、興味深いところです。物をつまむ動作や安定把持を可能にしているのは、単純なトルク調整だけではないということで、この事はロボットアームの制御のヒントにもなるはずです。

 

PIP関節の安定性を保ち、脱臼を防ぐ支持機構としては、側副靭帯(collateral ligament)・副靭帯(accessory collateral ligament)・掌側板(volar plate)・その他の支持組織があります。側副靭帯は基節骨頭側方の陥凹部と背側中央から、中節骨基部掌側に向かって広範囲に走行しており、通常見られる部分的な解剖図とは異なるとする論文があります。*3

PIP関節の側副靭帯の概略図

図 PIP関節の側副靭帯の概略図

 

靭帯性腱鞘は屈筋腱が浮き上がってしまわないように掌側板や指節骨に付着して保持しています。丈夫な側副靭帯は、屈曲時には緊張する事でPIP関節の外転・内転を抑制し、より精密な把持とグリップを可能にしています。この機能的なストレスと、ジョイントの大きさが影響して、特に微小断裂が起こりやすいとされています。

*3 Allison DM:Anatomy of the collateral ligaments of the proximal interphalangeal joint. J Hand Surg Am 2005;30:1026-1031

 

PIP関節の側副靭帯が広範囲に走行しているという事で、副靭帯は指節骨の長軸からやや斜めに掌側版に向かう部分という事になります。PIP関節の特徴としては、掌側板近位縁から連なる2本の手綱靭帯(Check rein ligament)があります。掌側板から伸びる様子から、「ツバメの尾」または「手綱(たづな)」のような形態をしているため、この名前がついています。主にPIP関節の過伸展を抑制し、掌側板は手綱靭帯で基節骨掌側に固定されていることで、屈曲・伸展に伴い近位・遠位方向にスライドして動きます。この構造により、PIP関節を屈曲位で固定すると、手綱靭帯が短縮した状態になり、屈曲拘縮が起きやすいと言われています。PIP関節は伸展位固定が原則とされるのはこのためです。

掌側板と手綱靭帯

図 掌側板と手綱靭帯

 

靭帯の付着部は腱と同様に、エンテーシス(enthesis)構造を持つとされています。エンテーシス(enthesis)とは、線維組織層、非石灰化線維軟骨層、石灰化線維軟骨層、骨層と複数の層に分かれた構造で、徐々に腱や靭帯実質の柔らかい構造物から硬い構造物へと移行して骨に付きます。つまりエンテーシス(enthesis)は柔らかい部分と硬い部分の境目で、繰り返される張力により力学的ストレスが発生し、微小外傷が生じ、その外傷と修復のバランスが崩れることで症状が引き起こされる事になるわけです。張力を骨に伝えることで機械的損傷が生じやすく、障害が起きやすい部分と言えるわけです。このエンテーシス(enthesis)部の退行性変化、線維軟骨の欠損や軟骨細胞の肥大、軟骨下嚢胞性変化など変形性関節症との関連が「enthesis fibrocartilage OA」の総称で研究されています。*4,*5

変形性関節症を病理学的にみると、骨膜の線維軟骨において生じ得るとことや、靭帯の障害が骨経路を介して関節軟骨に影響するという記述があります。微小損傷の靭帯の付着部から、変形性関節症の炎症が生じていたなんて、まさに驚きです。

エンテーシス(enthesis)の構造

図 エンテーシス(enthesis)の構造

エンテーシスとは、腱・靭帯・関節包などの緻密性結合組織の線維が直接骨に入り込む部分で、direct insertion (fibrocartilage insertion) と indirect insertion (fibrous insertion) の二つに大別されます。

 

*4 Tan AL, Grainger AJ, Tanner SF, et al. High-resolution magnetic resonance imaging for the assessment of hand osteoarthritis, Arthritis Rheum , 2005, vol. 52 (pg. 2355-65)

*5 Benjamin M, McGonagle D. Histopathologic changes at “synovio-entheseal complexes“ suggesting a novel mechanism for synovitis in osteoarthritis and spondylarthritis, Arthritis Rheum , 2007, vol. 56 (pg. 3601-9)

 

 
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