柔道整復師国家試験対策【第10回:柔道整復学の必修項目 ―下肢骨折~軟部組織編―】
今回で10回目となる国家試験対策講座。今回は前回に引続き柔道整復学必修範囲の続きとなります。下肢骨折、体幹部骨折、脱臼、軟部組織編となります。
顎関節脱臼
1)顎関節脱臼を分類し、好発するもの
前方脱臼(両側、片側)
後方脱臼(骨折伴う)
2)顎関節脱臼が、他の外傷性脱臼と違う点
関節包内脱臼、女性に多い
3)顎関節前方脱臼の弾発性固定肢位と固定に関与するものを答えよ
開口位のまま弾発性固定
咬筋、外側翼突筋、外側靭帯により牽引固定
4)片側性脱臼と両側性脱臼の症状における相違
両側性では閉口不能だが、片側性ではわずかに可能
片側性では、オトガイ部が健側に傾く(両側性では認められない)
5)顎関節前方脱臼時の骨頭触知部位
頬骨弓下に骨頭を触知
6)口内法を2つ答え、整復時の頭部の肢位
頭部は前屈位
口内法:ヒポクラテス法(前方から) 、ボルカース法(後方から)
肋骨骨折
1)発生機序と骨折部の変形
直達外力:内方凸の屈曲変形
介達外力:屈曲骨折Ⅲ型、外方凸の屈曲変形
2)好発部位
第5〜8肋骨(前腋窩線上、乳頭線上)
※肋軟骨移行部 ※基本的にX線確認難しい
3)疲労骨折の好発部位
肋骨角と肋骨結節の間2~9(56)
4)合併症を答えよ
胸壁動揺(多発骨折、複数骨折)→奇異呼吸
外傷性気胸
5)固定時の留意点を述べよ
完全呼気状態で、貼付(呼気が追えてストップしてgo)
正中線越えに貼り、全周しない(健側から健側)
大腿骨頸部骨折
1)大腿骨頸部骨折を分類し、関節包内と包外を区別
内側骨折:骨頭下骨折 中間部骨折 関節包内
外側骨折:転子間骨折 転子貫通骨折 関節包外
2)内転型と外転型骨折を説明し、好発するものはどちらか
内転型:骨折部は内反股(頚体角が減少)好発
外転型:骨折部は外反股(頚体角が増大)
3)内転型骨折と外転型骨折の症状の違い
内転型骨折に比べ外転型骨折は、噛合骨折が多い
→ 起立可能、歩行可能なことがある。
4)大腿骨頸部内側骨折時の下肢の肢位、棘果長、転子果長
外旋位(内転の場合は、内転、外旋、短縮)
棘果長:短縮 転子果長:不変
5)頚部骨折時の圧痛部とその部位を説明
スカルパ三角部
鼡径靭帯、長内転筋、縫工筋で形成される三角
6)頚部骨折が難治な理由
・関節包内の為に、骨膜性仮骨形成がなく骨癒合遷延、偽関節起き易い
・骨頭を栄養する栄養血管が遮断され易く、阻血性壊死を招き易い
7)パウエル分類、ガーデン分類を説明
【パウエル分類】 骨折線の角度分類
Ⅰ度:30°以下 圧迫力
8)骨癒合日数
12週
9)内側骨折における合併症
遷延治癒、偽関節、阻血性骨頭壊死、認知症、沈下性肺炎、褥瘡、尿路感染
10)外側骨折と内側骨折の症状の違い
腫脹の出現度
内側:軽度
中足骨骨折
1)中足骨骨折の分類
骨幹部骨折
第五中足骨基底部剥離骨折(下駄骨折)
2)骨幹部骨折の発生機序の特徴
直達外力が多く、開放性や多発になることもある、横骨折
介達⇒バレー骨折 第五中足骨捻転骨折
3)下駄骨折の発生機序
足部内返し強制時の短腓骨筋の収縮による裂離(剥離)
外方凸変形となることあり
4)ジョーンズ骨折の留意点
遷延治癒、偽関節発生し易い
5)固定における注意点
足底板による足部のアーチの確保(外傷性扁平足の予防)
肩関節脱臼
1)肩関節脱臼を詳細に分類し、好発するもの
前方脱臼:烏口下脱臼、鎖骨下脱臼
後方脱臼:肩峰下脱臼、棘下脱臼
2)肩関節脱臼の発生頻度が高い理由
- 上腕骨頭に対して、関節窩が小さく浅い
- 各方面に広い可動域
- 関節包、補強靭帯に緩み(関節窩下陥凹、腋窩陥凹)
- 固定を筋に依存(靭帯固定性の弱)
- 体表面に突出し外力受け易い
3)肩関節前方脱臼を起こし易い、肩関節への外力
外転(関節窩、肩峰がてこの視点)、伸展、外旋
4)肩関節前方脱臼時の弾発性固定肢位
軽度外転内旋位
※肩関節脱臼時の外転度
5)肩関節前方烏口下脱臼時の症状について○×で答えよ
- 三角筋の膨隆が消失する ○
- 肩峰が角状に突出する ○
- 上腕長が短縮する ×
- 三角筋胸筋溝(モーレンハイム窩)が膨隆する ○
6)肩関節前方脱臼における骨折合併症
大結節部の骨折:整復障害にならない 整復時にほとんど整復される
関節窩縁骨折:骨性バンカート
7)バンカート損傷を説明
関節唇前下方(下関節上腕靭帯付着部)の裂離
※下関節上腕靭帯のスタビリティ低下(伸展外転外旋安定性低下)
8)ヒルサックス損傷を説明
上腕骨骨頭の後外方部の関節軟骨を主体とする陥没骨折
9)上腕骨骨頭の後外方部の関節軟骨を主体とする陥没骨折
初回脱臼時、バンカート損傷・ヒルサックス損傷を発生している可能性が高い。
→従って、専門医において画像診断(MRI)による評価をすすめるべき
10)肩関節前方脱臼における整復法を2つ(日本語名も)
コッヘル法(回転法) ヒポクラテス法(踵骨法)
※スティムソン法(つり下げ法)
肘関節脱臼
1)肘関節脱臼を分類し、最も好発するもの
前腕両骨脱臼:前方脱臼 後方脱臼 側方脱臼 分散脱臼(開排、前後側方)
単独脱臼:橈骨単独、尺骨単独
2)肘関節後方脱臼時の肘関節にかかる外力と、関節包損傷部
伸展力(過伸展強制)→上腕骨遠位端が関節包前面を断裂し脱臼
3)肘関節後方脱臼時の弾発性固定肢位を答えよ
肘関節軽度屈曲位(30~40°) ※前方脱臼は90°屈曲位
4)ヒューター三角、ヒューター線を説明し、肘関節後方脱臼時は、どのようになるか
ヒューター三角:
内側上顆、外側上顆、肘頭で作る三角形(直角位で後方)
5)肘関節後方脱臼時に、上腕長と前腕長の変化
上腕長:不変
前腕長:短縮
6)肘関節後方脱臼時に索状に触れる件は何か
上腕三頭筋腱
7)肘関節後方脱臼の固定肢位を答えよ
直角位、中間位
8)肘関節後方脱臼と鑑別が必要なものを答えよ
上腕骨顆上伸展型骨折
9)肘関節後方脱臼の合併症
上腕骨内側上顆骨折、上腕骨外顆骨折、尺骨茎状突起骨折、橈骨頭骨折、骨科性筋炎、内側側副靭帯損傷
肘内障
1)肘内障の好発年齢、発生機序
学童期前(2~4歳)
肘関節伸展位での牽引時に回内力が加わり発生する
2)肘内障の病態
近位橈尺関節亜脱臼 (橈骨輪状靭帯からの)
3)肘内障について以下の問いに○×で答えよ
- 前腕回外位、肘関節伸展位に患肢を保持する ×
- 肘関節外側部の発赤、腫脹著明 ×
- 回内制限著明 ×
- 肘関節運動が不能となる ×
- 整復後2週間の固定を要する ×
膝蓋骨脱臼
1)膝蓋骨脱臼を分類し、好発するもの
側側方脱臼:内側脱臼好発
外傷性脱臼 反復性脱臼 習慣性脱臼 恒久性脱臼
2)常に脱臼している状態を何と呼ぶか
恒久性脱臼
3)Q角を説明
膝蓋骨中心から上前腸骨棘と脛骨粗面への線の成す角度
増大で、外反膝(脛骨が外反や外旋で)
4)FTAを説明
大腿骨長軸と脛骨長軸の成す角度
減少で外反膝
5)膝蓋骨発生要因を答えよ
外反膝、Q角増大、FTA減少、過度前捻、下腿外旋、膝蓋骨高位(TP比増大)、外果形成不全、内側広筋弱か、全身弛緩性、マルアライメント症候群(骨格異常配列)
6)膝蓋骨脱臼の弾発性固定肢位
膝関節軽度屈曲位
膝関節伸展で自然整復されることが多い
7)アプリヘンションサイン陽性とは何か
膝蓋骨外方移動時の不安感
8)膝蓋骨外側脱臼における圧痛部はどこか
内側支帯部
9)運動療法において、特に強化が必要となる筋はどこか
内側広筋(パテラセッティング)
肩部軟部組織損傷
腱板損傷
1)好発部位
好発⇒棘上筋→断裂は、大結節から1.5㎝近位部(血行乏しく、受け易い)
腱板疎部
2)発生機序
肩部の直達外力、介達外力による大結節の肩峰への衝突
亜急性損傷(インピンジメント)
3)疼痛が出現する肩関節運動とその運動範囲
外転運動(60~120)
4)その他の疼痛誘発動作
90°外転位、内外旋
5)圧痛部位
大結節部、三角筋前部、中部
6)次の○×に答えよ
- 夜間痛を認めるものもある。 ○
- 損傷部に陥凹を触知する ○
- 運動制限は認めない ×
- 陳旧例では、筋萎縮を認める ○
7)代表的検査法と実施法を答えよ
ペインフルアーク:外転60~120°疼痛
クレピタス:60~120°クリック音
肩峰下インピンジメント症候群
1)インピンジメントが起こる部位
烏口肩峰アーチ(肩峰、烏口肩峰靭帯、烏口突起による)
棘上筋出口の狭小化
2)病態
腱板の炎症、変性、肩峰下滑液包炎
3)発生機序
外転位での最大外旋位から内旋位動作
上腕二頭筋腱損傷
1)好発年齢、好発者
40~50歳肉体労働者
2)断裂損傷と、炎症性損傷の発生機序を答えよ
断裂損傷:重量物の挙上(収縮、緊張した筋に突発的に伸長力)
炎症性損傷:肩関節外転外旋運動により、長頭腱の小結節との摩擦
3)徒手検査法
ヤーガソン:直角位、回外抵抗
スピード:伸展位で屈曲
その他の肩部軟部組織損傷
1)ベネット損傷とはなにか
肩関節窩後下方の骨増殖による骨棘
2)ベネット損傷時の骨棘形成部位
上腕三頭筋長頭起始部付近、関節窩後下縁部
3)ベネット損傷時に絞扼される神経部位と神経
クアドリアテラルスペース部の腋窩神経
4)SLAP損傷とは何か
肩関節上方関節唇(上腕二頭筋腱付着部)の裂離、断裂
5)リトルリーガー肩とは何か
上腕骨近位骨端軟骨板の炎症、離開(疲労骨折)
6)動揺性肩関節とは何か
肩関節構成骨や構成筋に明らかな異常がなく、肩関節に動揺性を認めるもの
7)動揺性肩関節の主要な動揺方向と誘発テスト
下方 サルカス徴候
膝部軟部組織損傷
側副靭帯損傷
1)好発部
内側側副靭帯>外側側副靭帯 近位、遠位付着部
2)単独損傷と合併損傷どちらが多いか、また合併損傷部位
合併損傷>単独損傷
前十字靭帯、内側半月⇒unhappy triad
3)検査法と実施法
側方動揺テスト:膝関節伸展位、軽度屈曲位で内外反(損傷高いと伸展陽性)
牽引アプレイ:腹臥位、牽引内外旋
前後十字靭帯損傷
1)前十字靭帯単独損傷と合併損傷の発生機序
前十字靭帯単独損傷:
ジャンプ等の着地、急停止、方向転換(非接触多い)、大腿四頭筋の強い収縮
2)特徴的な症状
関節血腫(膝蓋跳動)、膝崩れ(慢性期)、膝部不安定性 階段の下り、しゃがみから立ち上がり等の不安感
3)検査法と実施法
前方引き出し、ラックマン(角度の違いは、腫脹度)
→エンドポイントの確認
4)予後
前十字:観血例でないと十分な修復はない
→一般的に腫脹が退くまで実施しない
5)前十字靭帯の運動療法
膝関節拘縮の予防、膝関節安定性の確保、膝関節関連筋の筋萎縮 、完全伸展位と成らない範囲での膝関節屈曲伸展運動(CPM)、等尺性収縮運動(パテラセッティング、quadriceps setti…
半月板損傷
1)好発部位、年齢
内側半月板、若いスポーツ外傷
※形態異常として、外側の円盤状半月でおこる
2)発生機序
膝関節屈曲、伸展時に下腿に回旋が生じ発生(屈曲>伸展)
内側:外旋、外側:内旋
3)特徴的な症状
関節血腫(膝蓋跳動)、嵌頓症状(完全伸展不能)、弾発症状、膝崩れ
4)検査法を答えよ
マクマレー:屈曲位、内旋(外側)外旋(内側)角度浅い程前方
圧アプレー:内外旋
足部軟部組織損傷
距腿関節損傷
1)好発部
内側靭帯<外側靭帯
前距腓>踵腓>後距腓 重症度によって進む、
2)圧痛部、腫脹部、皮下出血斑部
前距腓:外果前方、
踵腓:外果下方、
3)テスト法
前方引き出し:
①前距腓完全断裂:前方に移動
4)代表的な損傷予防のトレーニング
チューブによる長短腓骨筋の外反(求心性収縮)トレーニング
肩鎖関節脱臼
1)チューブによる長短腓骨筋の外反(求心性収縮)トレーニング
上方脱臼、下方脱臼、後方脱臼、上方脱臼好発
※男性に多く、15〜30歳に多い
2)肩鎖関節脱臼の損傷分類
Ⅰ度:関節包、肩鎖靭帯の部分断裂 関節安定性良好 捻挫型
Ⅱ度:関節包、肩鎖靭帯完全断裂 関節安定性不安定 不全脱臼
3)肩鎖関節上方脱臼における固有症状
階段状変形、反跳症状(ピアノキー、弾発性固定)
4)肩鎖関節脱臼と外見上類症鑑別しなければならないもの
鎖骨外端部骨折
5)予後について
固定が困難な為に、変形治癒(階段状変形)を残すことが多い
→機能障害は、陳旧例では、鎖骨遠位端部の肥大変形、石灰沈着例もある
如何でしたか。柔整は必修問題14題、一般問題45題出題されます。一般問題の約4割程度は必修問題の範囲から出題されている傾向となりますので、柔整の必修問題をしっかりと把握しておけば、ある程度の対応は可能になると思います。必須問題においては、14題中、悪くても2ペケ以内に抑えておかないと合格は厳しくなります。著者の経験上、柔整で3ペケとなった人で合格した人はおりません。また、一般問題45題のうち、合格のボーダーは35題ぐらいです。したがって、柔整の必修問題の範囲を高い精度で自分の知識とすることは大変重要となってきます。
これまでの解剖、生理の苦手意識の克服と共に、柔整必修項目に関しては得意としなければなりません。柔整が得意というアドバンテージは今後の勉強をすすめる上で、精神的にもかなり有意となります。今回の部分をまずはしっかりと自分自身のものとなるように励んで下さい。年内に解剖、生理、柔整必修項目をかなりの精度で把握しておくとかなり勉強上でも精神的にも楽になります。逆にこれらの教科を年明けまで伸ばしてしまうと、年明け精神的にもかなり追い込まれてしまいますのでしっかりと準備して下さい。
来月は2回にわたり一般臨床医学の主要ポイントをお送りします。
プロフィール
西村 雅道
柔道整復師、鍼灸師、柔道整復専科教員、医科学修士
北斗総合整骨院院長 (一社)日本整体協会NSTインストラクター、柔道整復師、鍼灸師、、柔道整復専科教員、医科学修士
平成15年より平成26年まで学校法人杏文学園東京柔道整復専門学校に在職、同校の国家試験対策を牽引。また国家試験対策塾『杏文塾』の代表として同塾を運営。著書に一般臨床ポイントマスター。現在北里大学大学院博士課程に在学。
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