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ビッグインタビュー:広島国際大学保健医療学部准教授・諌山憲司 氏

インタビュー 特集

東日本大震災から4年が経過した。近年頻繁に起こる大規模な自然災害。また、南海トラフ地震や首都直下地震が予測されている中、徐々に国民の防災意識も高まり、災害に強い国・コミュニティの構築を目的に、いま内閣官房を中心に国土強靭化計画が図られ、2015年3月に仙台で開催された第3回国連防災世界会議でHFA(兵庫行動枠組)2の指針が出されたばかりである。

諌山憲司氏は、数々の緊急・災害現場で消防官・救急救命士として救護にあたられ、その後、医科大学大学院や京都大学大学院で医療と防災の研究に取り組み〝従来の概念・枠組みや対策のみでは想定を超える危機に対応できない〟と唱えている。徹底的に現場主義を貫く諌山氏に、国民は災害に対して如何立ち向かえば良いのか?健康医療対策等もふまえて話して頂いた。

大災害は自然現象であり、まず自助力を強めることが最も大事!

広島国際大学
保健医療学部
准教授  諌山 憲司 氏

―諌山准教授のこれまでの経緯について教えてください。

私は、約2年前までは、消防官で、19年間、消防(火災防御)・救急救助の実務にあたっていました。その間、7年ほど救助隊員で、救急救命士の資格を取って、8年ほどは救急隊員として日常の火災や救急救助の各種災害現場に出動しました。また、勤務と並行し大学院でアジアにおける災害国際協力、災害対策、コミュニティ防災などについて研究しました。つまり、災害に関しては、実務と研究の両面から取り組んできたことになります。

大学時代にアメフトをしていた関係でスポーツトレーナーやアスレチックトレーナー、理学療法にも興味があり、運動による怪我から、接骨院によく行き、柔道整復師にも興味がありました。消防という枠の中で出来ないことを勉強していく上で、もっと災害の研究を続けるか、医学の勉強を続けるか悩みましたが、医師と深いディスカッションをするには、博士の学位くらいは持っていなければと、医科大学大学院にいくことにしました。その大学院では、出血性ショック後の免疫状態の研究をしました。修了後は、以前から〝医療の分野から災害をどうにかしたい〟と思っていましたので、いよいよ本格的に取り組みたいと、京都大学大学院で研究を始めました。漸く自分がやりたいと思ってきたことに取り組めるようになりました。

―災害時には消防官のお仕事と救急救命士のお仕事は明確に異なるのでしょうか?また自衛隊の方との役割は異なるのでしょうか?

消防官と救急救命士の役割は違いますが、救急救命士の資格を持っていても、日によっては、消防車のポンプ隊になったりスプリンクラーや自動火災報知設備等を点検する係りに回ったりします。災害の規模にもよると思いますが、自衛隊が出動する災害というのは、例えば最近であれば、広島の土砂災害と御嶽山の噴火がありましたが、ああいう長期にわたる、大規模なエリアに及ぶ災害になります。原則として消防は、フェーズでいうと急性期に出動し救護にあたります。自衛隊は、捜索と救出にあたります。人員を投入して炊き出しをしたり、風呂を設けたりする等、そういう活動展開は、自衛隊にしか出来ません。各々の役割は違いますが、捜索に関しては、消防、警察、自衛隊の指揮命令系統が違うだけで、横並びでいく感じになります。

―近年、自然災害が多発し、国民はいつ起こるかもしれない自然災害に対する危機意識や防災意識はこれまで以上に高まっているように思います。諌山先生が経験された多くの緊急・災害現場から、これだけは国民皆が知っておくべき教訓など教えていただけますか?

「自分の身は自分で守る」ということです。生物、動物として子孫を守る等、自分と家族を守るということです。その上で、社会の安全ネットがあるわけですから。近代になり、社会と経済の活力が右肩上がりの時だけが、社会の手が届きやすい、届ける余裕があるというだけで、特に日本は、自分で自発的に生き残る意識に欠けています。個別の災害への教訓を論じても意味がないと思われます。自然災害は、地球の営みの中での自然現象に過ぎません。雨や雪の延長です。

―東日本大震災における医療支援の課題として、コーディネート不足である。急性期における救援チームの調整、亜急性期以降の保健・福祉・公衆衛生を含めた調整不足です。ネクストクライシスや更に多くの救援物資が集まることを予測するとコーディネート機能をより充実させる必要があると第17回統合医療学会シンポジウムでお話されていますが、その辺についてもお聞かせください。

元来、日本人は、コーディネートが下手です。戦争や紛争などの危機に直面していない国は、やはりそうだろうと思います。戦場で重要なことは、情報収集です。先発隊がどういう動きをするか、それに続く後方部隊や偵察部隊の動き、今であれば衛星などを活用し偵察システムを設置する等が、重要となってきます。常に、戦う前のブリーフィングや作戦のミーティングを短時間でやれるよう訓練しています。

日本の場合、水を飲めるのが当たり前、時間どおり電車が来て当たり前といった便利大国の中で生きているので、平和ボケしています。有事の際に動けと言っても中々動けないでしょう。しかも全体を把握するコマンダーになる人も養成していません。とにかく、日本という国は、コーディネート機能を充実させることが非常に難しい風土です。難しい風土であるが故に、しっかり訓練しておく必要がある訳です。いま私は、子供だけでなく大人にもサバイバルキャンプを推奨し、無理にでも社会に組み込んでいく必要があると考えています。

―各自治体でも本格的な防災訓練が行われているように思いますが…

訓練が、実のあるものであれば良いと思いますが、実のない訓練ならば、時間の無駄と思っています。どんな訓練を行えば良いかというのは、1つは、先程のサバイバルキャンプです。

以前、私は、イスラエルの軍の訓練施設を視察しました。何億もかかっている施設でしたが、極秘のため訓練所の写真は、全く撮ることが出来ません。その広い大きな訓練所の中に、人形が倒れています。しかも、暗くしてあって煙がたかれていて、ヘリコプターの音やフラッシュ、風や臭いもある。そこにメディカルチームが5人くらい、医師・パラメディック・ナースが入って行って、トリアージして誰から救出するかという訓練です。現場により近い訓練をしておかなければ、戦場で生きるか死ぬかという中で、助けることなど出来ません。つまり、綺麗な明るい静かな所で訓練をしていても役に立たない。それをしているのが日本の防災訓練です。

これまで私は、何かがおかしい、違うと思いながらアメリカやイスラエル、発展途上国の救急医療体制を調査しました。特に印象深いのは先述のイスラエルで、まさしく現場により近い訓練をしているのを目にして、スッキリしました。というのは、もうそろそろ実際の現場の状況とかけ離れた訓練は、意味がないということを知るべきだと感じていたからです。勿論、年一回の大がかりな避難訓練を否定するものではありません。ただ、それで「災害対策OK」というのは、違うということです。南海トラフ地震が起こった時に、甚大な被害が予測されている市町村などでは、危機感をもって、私が提案しているような「救災」、〝家族と近所でどのように対応するか〟という取り組みをコミュニティで始めたようです。これから、日本の各地域で、このような取り組みが少しずつ進んでいくのかなと思います。

―脈診を習得することによって日常におけるコミュニティの健康保持または災害緊急事態における持続的なヘルスケアを自助・共助として提供できるのではないか?とも仰られていますが、それについて具体的にお聞かせください。

自分と家族の体調を、例えば脈診でチェック、日常から体調管理に脈診を使うということです。また脈診は、災害時にも電気を使用することなく、体調管理ができます。今後、救急隊がそんなことが出来たら面白いのではないかと、一昨年の学会で発表をしました。

近年、救急隊が薬剤をしたり、いろんなことが出来るようになり、それはそれで良いかもしれません。ただ、日本の場合、病院は近いですし、あれこれやって現場滞在が長くなると、結果的に救命率が下がることも考えられます。であれば、救急救命士は、何か救命処置が必要な時だけ医療行為を行い、他は応急手当にとどめ病院に運ぶ。救急救命士がプチ医師になることが、100年後にも生き残る術とは私には思えません。何故かというと、医師に近づいたところで役割がオーバーラップするだけで、希少性にはなり得ないからです。

本来、救急隊は、病院の外で、医療設備が限られた中で、手当てをして病院に運ぶことが大きなミッションです。血圧を測って、脈を触りながら、急を要するのかの判断をします。脈診は、心臓が悪い・肝臓が悪いなどその人の疾患が分かるそうですから、そういったことを分りながら病院に搬送して、問診等で知り得た内容と、心電図で測定した結果を照合した上で、適切な医療施設を選定する。そういったことをコミュニティに普及させて、地域住民が応急手当や心肺蘇生法などの医療技術を身につけていく。災害時に電気を使わなくても出来る話ですから、それこそまさしくプレホスピタルだと思います。

―自分のことは自分で守るという考えが根底に必要だということですね。

当然です。総ては其処にあります。自分は例えば脈診が出来るようになりたいと思えば、やればいいんです。自分は無理だというのであれば、他の何かをしたら良いし、何でも良いと思います。ただボーッとしていては、いけないということです。

―自助が一番大事であることは分りましたが、やはり共助も必要と考えます。コミュニティでのネットワークが求められていると思いますが・・・ 

勿論、共助も大切ですが、そこありきになると又おかしくなります。「救災」の概念でいうと、共助という時点で、既に他力本願です。自助を強くしていく中で、この部分は共助で連携したほうが良いとして、先にシステムありきで、その枠の中に嵌め込む形になるのは、いかがなものかということです。そもそも枠はあてにしない、あてにすると弱い社会になってしまいます。個を強くした結果、コミュニティで共助が生まれるのは良いと思っています。

個人が強くならなければというのは、パラリンピックをみていて、パラリンピックの選手があれだけ練習をして、あれほどのパフォーマンスができる。私たちは、どれだけ毎日頑張って、自分のパフォーマンスを上げる努力をして、生きているか。みんなどこまで真剣に、自分のため家族のため社会のために頑張っているのか?それで「共助」を言うのは、私は弱いと思います。

―阪神淡路大震災、新潟中越地震、東日本大震災等々多くの自然災害で柔道整復師の方々はインフラの整わない災害現場で救助活動ならびに急性期をすぎて疲弊されている被災した方々の救済活動を各自治体と協定を締結して行ってきています。今後も一生懸命活動されていくと思いますが、何かご助言などあればお聞かせください。

災害にとらわれない方が良いと思います。日常において、いかにサプリメントをとるかというような感覚で、〝今日は体操、明日はストレッチ、週末に近所の方々が集まって柔整の勉強会でもやろうか〟といった軽いノリと気軽さが大事です。災害発生の時だけを考えても、日常に面白く浸透しないと、意義は薄いです。私は、コミュニティの人たちのヘルスリテラシー、ヘルスに対する教育度を上げるためには、何でも良いと思っています。先述の脈診や鍼灸・漢方・アロマ・カイロプラクティック・柔整などなど、自分が良いと思うものの中で、ヘルスリテラシーが上がればいいと思っています。柔整をはじめ医療職が〝如何、生き残るか!〟として、戦略を練るのであれば、国内で人口が減少していくと、医療資源も少なくなりますから、統合医療的なケアやコミュニティヘルスワーカー的なことが、必要になってくると思っています。

―最後になりますが、スポーツ現場に於いてトレーナーは欠かせない存在です。また高齢者の運動能力という視点でみますと、柔道整復師は、高齢者の日常生活トレーナーという存在かと思います。現場に於いて即応できるという事に関しては、一部で救急救命士にも通ずるところかあるように感じます。柔道整復師に関して何か意見がありましたらお聞かせください。

日本の人口は、100年後、4,000万人ほどに減少すると予想されています。一方、地球人口は70億人から120億人に増加すると予測されています。世界展開を速く思案されるのが良いと思われます。NASAや宇宙開発関連企業は、火星や金星などの地球外惑星移住を真剣に計画しています。清水建設は、以前から月面建設計画を練っています。宇宙空間や月面、発展途上国等での柔整のあり方を検討すべきでしょう。実は、宇宙空間と高齢者医療は、骨粗しょう症などで関係は深いと考えます。地球人口が爆発するので、世界の医療資源は足りなくなります。理学療法の分野では、日本で飽和的になっていても、海外展開を考えたら、これからまだまだ出来るでしょう。それこそ宇宙とか、月面、1/3位の重力の中で、如何柔整していくのかというのは、未だ無かった話であり、どういう展開をしていくのかなと思って見ています。

私は救急救命士で応急手当はできますし、医学・医療は学んでいますが、直接、救急現場で手当てすることとは、少し離れています。だからこそ物理的に客観的でいられるのです。戦略を考えて、統合医療という枠に入るのも良いですし、入らないのも良い、独自でやるのも、それはそれで良い。それを否定すると統合医療といえませんし、私のポリシーでもありません。

柔道整復師の免許資格を取って、民間企業に就職しようが行政に就職しようが、法学部を出ても皆が法律家にならないのと同じように、または、経済学部を出ても、みんながエコノミストになる訳ではありません。つまり、医療系の大学を出たとしても、民間に行くほうが、私は面白いと思っています。救命の知識がある人が、民間企業に入って、日々の業務で、誰かが怪我をした時に、応急手当などを行えますから。

私は災害医療の授業を担当していますが、BCP(事業継続計画)や災害対策のことを知っている人のほうが、社会には役に立つと思っています。従って、柔整の方もクリニックや接骨院だけではなく、どんな分野にでもガンガン入っていって、例えば、宅配会社や引っ越し会社で従業員+トレーナーというような形で就職すると、企業は医務室を設けなくてもすむかもしれません。そういうプロポーザルをして、自分達で居場所を作っていくべきでしょうし、その目的は自分らの派閥を作ることや自分らの職域を拡大するというのではなく〝社会が如何ハッピーになるか〟です。

今後、サバイバルキャンプの社会人バージョンをやりたいと思っています。そんな場所で捻挫や骨折の人が出た場合に、救急隊、或いは柔整の人がいて、手当してくれるのが良いかもしれません。かつては医療の資格をとれば、=(イコール)医療の仕事という時代だったと思います。それがそのまま続いているというところで、概念が変革出来ていない訳です。時代はどんどん変わっていますので、変えていくべきと思います。地域包括ケアシステム、またはプレホスピタルの適正化の中で、埋まらないところを埋めてくれる人達になってくれるかもしれません。鍼灸に関しては、JAXA(宇宙航空研究開発機構)と提携して、宇宙ステーションで鍼灸を如何活かすかについて、一昨年の学会で話されています。表面上のことだけを考えていると、自分達の分野の利益ということになりがちです。本当に生き抜いていくためには、100年以上先を考えていかなければ、たちゆかなくなります。出来る限り、本質を考えていくべきでしょう。

諌山憲司氏プロフィール

1994年、京田辺市消防本部勤務。2013年、退職。2003年、立命館大学大学院修了、修士(国際関係学)。2004年、救急救命士。2010年、関西医科大学大学院医学研究科(救急医学)修了、博士(医学)。2012年、京都大学大学院地球環境学 国際環境防災マネジメント論分野研究生。2013年、広島国際大学保健医療学部准教授。

専門分野:社会災害医学、災害医療
主な研究:ヘルスケアを通じた災害に強いコミュニティネットワークづくりプレホスピタルの適正化から disaster resilience へ 
最近の研究業績:Steps Toward Sustainable and Resilient Disaster Management in Japan: Lessons from Cuba. IJHSDM(2015), Building Disaster Resilient Community Through Healthcare Networking.(2014)
他の活動:NPO法人日本国際救急救助技術支援会理事

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