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スペシャルインタビュー:国家公務員共済組合連合会  立川病院   小粥  博樹  氏

インタビュー 特集

近年、日本の社会保障制度は転換期を迎え、混合診療も導入される中、2020年までに地域包括型ケアシステムの構築が急がれている。国民の皆保険は守られるのか、医療格差はどんどん広がっていくしかないのか。在宅でもしっかり生活を支えてくれる医療者と介護者は足りているのか?柔道整復師はどのように医療者と連携をはかれば良いのだろうか?

背骨を専門に診られている立川病院整形外科医長でリハビリテーション科の部長を務める小粥医師に今後の地域医療の在り方をお聞きした。

患者さんのためにも整形外科と接骨院は補完し合う関係であるべきと思います!

国家公務員共済組合連合会 
立川病院
整形外科・医長
リハビリテーション科・部長
小粥 博樹 氏

―混合診療の導入が進められております。医療費の抑制、あるいは窓口負担の増加など、今、日本の医療は転換期を迎えていると思いますが、小粥先生はどのように今の医療を分析されていますか?

そうですね。これまで混合診療の中での問題点は、自由診療を受けようとした時に、保険適用の分まで全て自費になってしまっていたことです。そういう面がなくなるという点では、良いのではないかとは思っています。しかしながら、厚生労働省は医療費を削減する考えがベースにあるでしょうから、今後未だ日本に導入されていない良い治療法、良い薬剤があって時間が経過しても保険診療扱いにはならずに自費のまま据え置かれることになりかねないと思います。仮にそうであれば、結局お金のある人は良い薬や治療法を選択できるが、お金の無い人は選択できないという医療格差が確実に起こります。場合によっては医療格差が顕著になる可能性はあると思って危惧しています。厚生労働省はお金が無いとして直ぐには保険診療を認めたくないですからね。

今までは、例えば癌で未承認の抗癌剤を使うのであれば、かかっている他の診療費まで全部保険が使えなくなってしまっていました。今回はこれまでと違って新しい薬が出たら保険を使わないで選択できる訳です。そうなるとそのままずっと保険適用をしないままにしておいても使える人は使えるということで、最初はその薬剤の数が少なくても品目数がどんどん増えていく可能性はあるのではないかと思っています。いま現在も医師会は強く反対していますが、徐々に押し切られる形になってきていると思われます。TPPについてもそうですし、民主党、自民党政権に関係なく、未だに日米MOSS協議の効力が生きていますので、この分野での政治の駆け引きにおいてアメリカはやはり依然として強いなと感じています。この先どうなっていくのかと心配しています。

―小粥先生は、昨年の8月25日に横浜で開催された酒田先生との勉強会で、プライマリケアについてスペシャリストとジェネラリストの両面が求められていると話されております。こうしたことは整形外科医の中にあっても存在するように思います。今後、整形外科医の中でのスペシャリストとジェネラリストはどのようになっていくのでしょうか。また柔道整復においては、運動療法などの手技療法にたけた方もおり、そうした分野を専門性としてみるならば、スペシャリストという側面もあると思います。一方で、柔道整復師には限界もありますので、そうした中での注意点があればお聞かせください。

いま整形外科領域では背骨や手の外科等のサブスペシャリティとしての制度が出来てきています。病診連携でいえば専門性がより高いのはやはり病院の勤務医になるのではないでしょうか。ただジェネラリストについて言うと、整形外科領域の一般疾患全てをプライマリに診られるというのは開業医の先生たちが中心になると思いますが、開業医の先生たちも勤務医の時代はサブスペシャリティを皆さんお持ちでしたから、そういう点ではある意味両面持っていらっしゃる訳です。ジェネラリストとしての知識もサブスペシャリティとしての知識も日進月歩で変わりますので、情報を常にアップデートして勉強していかなければなりません。

例えば一昔前は、”痛み”に関して心理面での影響が強いということはあまり表立って言われてはおりませんでした。今はリエゾン療法を行う福島医大の他にも多数の施設で慢性疼痛の成因、感作成立の機序などの研究が行われ、それに基づいた多角的な診療が行われています。腰痛の85%を占めると言われる非特異的腰痛には、心因性腰痛が入っているのは確かですが、今の医学で局在診断ができないというだけであって、今後の医学の進歩に伴い非特異的腰痛と呼ばれる腰痛の率は減っていくと思います。

私も昔と違い今は、心因性の要素が強い腰痛患者さんには抗不安薬だけでなく抗鬱剤も時に処方しています。体幹性の疼痛は四肢などの末梢に較べてサイコソーシャルな修飾を受けやすいというデータで出ています。背骨を専門にしていると〝首や、肩や、腰だ〟と体の中心周りの痛みで患者さんが多く来られます。配偶者が亡くなって日が浅く鬱状態にある人、パーキンソン病の人、介護疲れの人や、仕事場で問題を抱えている人などは腰痛が増強しやすい状態にあります。そういった背景も含めて診ていかなければいけません。かといって心理面に重きを置きすぎて、”これは心因性の疼痛だ”と簡単な診察だけで安易にかたづけてしまうと器質的な疾患を見落とすことになってしまいますので、注意が必要です。

痛みに関して先述の心理面での修飾が加わることが多いのは確かですし、様々な病気に対しての新しい治験も出てきていますので、やはりその辺りの勉強はしっかりやらなければ鑑別する眼力が養えません。病院で勤務していると自分の専門の整形外科以外の患者さんもいっぱい診る機会があります。私の高校の同級生である酒田君くらいになれれば、本当に患者さんをよく診ているので凄いと思いますが、一人で接骨院をやられている柔道整復師の方は、彼のように一人の患者さんの診察に時間をかけるのは難しいと思います。

診察には、まず最低限ベースに教科書的な知識がないと、これだろうあれだろうという鑑別疾患が思い浮かばない。だから教科書を読んだり学会誌を見たりという知識は必要になります。その上で実際に患者さんを診察して自分が下したある診断が、その患者さんの真の診断名と一致するのかしないのかの”フィードバック”がされることで、教科書的な知識が経験で修正・補強されて、貴重な信頼できるデータベースとして増えて蓄積されていく訳です。日常なんとなく診察してなんとなくやり過ごしているのでは、データベースの蓄積は残念ながら行われない。先ほどの酒田君の場合は、彼の紹介状に多くの先生が信頼をして返事をくれますし、会って直接話をする場も持っていますので、フィードバックがかかるんですね。データベースを構築していくためには、そのような何らかの戻りの情報がないと難しいと思います。

今は地域連携の部署がある病院が多くあります。紹介状の返事がもらえなかった際、医者に直接〝あの患者さんどうなりましたか?〟と聞くとハードルが高いのであれば地域連携室に何とか結果(診断名)だけでも知りたいと依頼するのが良いかもしれません。患者さんの紹介元と確認が取れれば、当院の地域連携室でも、診断名や今後予定している検査など患者さんの現状を、問い合わせの電話に対しお答えしています。柔整師さんに対して紹介状の返事を書くことが義務付けられていないことが紹介状の返事をなかなかもらえない一因ではありますが、基本的に勤務医の雑務が多く多忙なのが主因と考えます。かくいう私も返事を書く率が低いほうで、医師からもらった紹介状にも失礼ながら結構返事を書いていないんです(笑)。実際問題、鍼灸マッサージ師の方の同意書も含め、柔整師の方からの紹介状はやはりかなり少ないです。

―整形外科の先生は医大を卒業されてから研修医制度で各科を回られ勉強されますが、柔道整復師の方々は卒後研修が義務化されていないことも含め、中々ジェネラリストの勉強や経験を積むことは難しいと思われますが、小粥先生のお考えをお聞かせください。

逆に質問させていただくと、柔整業界では独自に卒後教育をシステム化されているのでしょうか。所轄の官庁である厚生労働省がその辺を担保するためのものを何か作らないとダメでしょうね。その研修を受けないと免許が更新できないとか、資格に関することで例えば受領委任払いを認めないなど、何かマイナスまたはプラスがなければ研修を受けないでしょうね。受けても受けなくても同じであれば、何も変わらないでしょう。

ただし、長いスパンで見ると、そのことで患者の不利益がもし大きくなった場合、或いは将来の国民の医療・福祉という観点から考えた場合には全体として柔整師さんの業界に跳ね返ってくる可能性はあると思います。患者さんがプライマリにかかるところが総て医者なのかというと全く違います。現実には急性の痛みに限らず慢性の痛みであっても、かなりの患者さんが接骨院にも訪れている訳で、最初に患者さんに関わる者として、いろんな病態について、推測し判断をされて怖い病気が潜んでいたら早めに見つけてあげることが大事であり、求められています。

―柔整師の先生たちは、「医接連携」と称して医師との連携を強く求めています。理想的には、国民・患者さんのために組織的な連携が望ましいと思いますが、現状は、個々の連携はあり得ても組織的な連携は難しく、現実的に個々に連携していくことしかないように思います。紹介状を書く際に、柔整の方が心得なければいけない点はどんな点でしょうか?

どこまで柔整師さんが医師との連携を求めているか、或いは医療に対してどういった姿勢で取り組んでいるか、何所まで求めているのか、それは一般的には知りえないことで、直接顔を合わす場がない限り、紹介状だけでは、どの程度この人は診たがってどの程度の回答を知りたがっているのかは、分かりません。返事を書いてくれるかどうかは、残念ながら医者によると思います。その医師の忙しさもありますが、それでも繰り返し出していれば〝この人はちょっと違う〟と、真面目に連携を求めていることが分れば多分返事が戻ってくる率は、高くなると思います。

文面においては、やはりテクニカルタームといいますか、医学的な知識をしっかり習得しているということが文面から感じ取られるようにしないといけないとは思います。ダラダラ手紙文みたいになってしまうのは良くないでしょうし、一定の書式基準というのか、患者さんの症状や経過、疑われる診断名を入れても良いと思います。最初は的外れになったとしても、しようがないのではないでしょうか。例えば〝SLRが30°で陽性で、L5神経領域の筋力低下がみられます〟という様に記載されていると、しっかり診察していることが推測されます。横文字でなければいけないということではないんですが、一般的に冠名徴候にしても外国人の名前が多いですし、”下肢伸展徴候陽性”ですと書くよりは”SLR陽性”と書いたほうが受ける印象が違います。医接連携のレベルにおいてテクニカルタームを英語で総て書かなくても良いと思いますが、必要なテクニカルタームは自ずと英語が多くなると思います。ちゃんと勉強しているか、しっかり診察しているかは紹介状の書き方に表れてきますので、積み重ねだと思います。

―未来の医療を考えた時に、小粥先生は国民の健康と福祉にプラスとなる面がエビデンスとして出ている医療が残ると仰られましたが、いま注目を集めている統合医療は今後の地域包括ケアにおいて、かなり中心的な役割を果たすようになると思われます。しかし、統合医療には、まだエビデンスが確立されていない医療も含まれています。小粥先生は、統合医療をどのように思われ、どのように活用されていくべきと思われますか?

再度、逆に質問させていただくと、柔整師さんは統合医療に入れて良いのでしょうか?代替医療CAMという捉え方で良いのでしょうか?その辺が曖昧でよく分っていないのですが、ただ柔道整復師さんがこれだけ有資格者が増えてくるとどうしても争いが生まれて、質の担保とかで差が出てくるのは、致し方ないと思います。

一方、治らない疾患や原因不明の痛みというのはいっぱいある訳で、そういった慢性の痛みや苦痛に対して医療として薬で治療するのか、或いは統合医療で治療するのかとした時に、実は統合医療のほうがコストパフォーマンス的に効果が優れているという話になれば、そっちに流れていく可能性はあると思います。個人的な見解ですが、統合医療と称されるものの中で有効性が期待されるものは、基本的に患者さんに直接手で触れるものが多い気がします。私も日々の診療で感じていますけど、相手の身体に直接手で触れるのは精神面や脳に良い影響をもたらします。

先日のNHKスペシャルでもやっていましたが、認知症の方が今後800万人になると予測されており、それに対して「ユマニチュード」といって目を見て、笑顔で話して、よく触れて、話しかけてあげると、叫んだりするなどの認知症の周辺症状が緩和するということでした。要するに笑顔というのは相手に伝わって、誰の笑顔かは識別できなくても安心をもたらし、触って話しかけてあげるのはプラスの効果をもたらす訳で、臨床をやっていれば当然肌で感じていることです。同放送内容で大学教授が脳のストレス物質が減る研究を紹介していました。統合医療でも、触れることや施術によってホルモン系の物質がこれだけ下がりましたというようなことが科学的に証明出来てくると良いですね。

2012年の腰痛ガイドラインを見てみても、代替医療に関しては効果がそれなりに認められているものがあります。ガイドラインというのは質問形式で記載されており、いろんな疫学にしろ治療法にしろ、例えば〝脊椎固定術は、腰痛に有効か?〟という項目では、推奨グレード「B」といったように、ABCDIで質問への回答が評価されています。〝代替医療は腰痛に有効か?〟という項目では(代替医療はみんな海外の代替医療についてですが)一見否定的な結論に思えますが、よく読むとある程度の効果があり、それなりのエビデンスが出ているという記載になっています。

―プライマリケアの一翼を担っている柔整においてもエビデンスが求められており、ここ数年かけて富山大学で研究され、そろそろ研究の結果報告が出されると聞いています。コストとアウトカムにおいて、エビデンスが立証されれば柔整はこれまで以上にしっかりと認知され、地域医療に貢献できるでしょうか。

やはり人が多くなって淘汰の時代に入った場合に否応なくそちらを考えざるを得なくなると思います。例えば医師においても、相対的に医師の多い県は、県民一人当たりの医療費が多い傾向であることが分っています。同様に柔整師の方が今後全体として大きく増えた結果、以前より保険診療の支払い額が大きく増加することになって、柔整師間で何かしらの調整や差別化が起きるのではないかと思っています。

しかし、業界全体でのエビデンスが確立され、しかもコストパフォーマンス(患者さんの疼痛が改善し、社会復帰または自立した状態になるまでのコスト)が他の治療法よりも良好となれば、医療界の反発があったとしても、厚生労働省はそっちを押したくなるでしょう。エビデンスについては、いろいろな機関で研究されているようですが、侵襲的な検査を行えないこと、二重盲検法での対照群を設定しにくいことなどから有意差を証明するには、現在ある手法ではやや力不足で、何らかの技術革新やブレークスルーが必要な気がします。

しかしそれ以上に大切なのは柔整師業界が一丸となってそちらに向かおうとすることではないかと思います。柔整師個々人でかなり向かうベクトルに差があるのではないかと感じます。一丸となってエビデンスを出し、国に認められれば、これまで以上に地域に密着した医療に貢献していただけるのではと思います。

―柔整の問題点はどこだと思われていますか?それについてアドバイスもお願いします。

以前、浜西先生と酒田君の対談内容を読ませていただいて、実際に法律上認められているのは急性期の「骨折・脱臼・打撲・捻挫・挫傷」に限られると知って、確かに〝えっ?そうなんだ〟って正直思いました。ただ整形外科と柔整師さんとでお互い補完できなくないという思いもあります。

反面、浜西先生が言われるように見過ごされたり、骨折されたり、状態を悪化させられたり、やはりマッサージを受けると背骨が折れる人はいます。なにしろ洗濯物を干したり、ゴミ出しをしたり、お孫さんを抱っこしても骨折しやすい人は直ぐ折れます。施術或いはリハビリ訓練を行う上で、外力をかける時は難しい点がありますので十分注意をされたほうが良いと思います。

他にも、一部に含まれている悪性疾患や炎症性疾患(レッドフラッグの疾患)に対して注意が必要です。炎症性疾患は基本痛みが強いので数人経験すればあまり間違えたりしないのですが、悪性疾患は疼痛の程度はいろいろで、頻度は腰痛でいうと統計上100人に1人となっています。一般的に多くは一か月二か月で消えてしまう腰痛ですが、ガイドライン上も一か月を超えるようであればレントゲンを撮るなど検査をしたほうが良い。

厚生労働省の最近の統計によると、日本人は男性で55%、女性では40%が一生の間に何らかの癌にかかりますので、知らずに担癌状態になっている人は意外と来院されます。癌の既往歴があり背骨に転移してくる人もいれば、何の癌の既往歴もなく、腰が痛いと言って普通に開業医さんとか接骨院にかかっていて、長く続くのでおかしいと思って精査したら癌だったというのは全然稀ではありません。日本人の2人に1人が癌になっている時代です。癌で死亡する人が今3人に1人です。最早、癌になること自体は当たり前の加齢現象の一つです。全部の癌の1割以上で骨転移が見られ、肺の次に転移しやすい場所です。

覚えておいてほしいのは癌の転移や、炎症性疾患は処置が遅れると、麻痺が出てきてしまったり重症化して、治療経過が不良になってしまいます。今は癌の転移であっても、色々な治療法のオプションがあり、早期発見すれば手術になったり、麻痺になったりする危険性を減らし、余命の延長に大きく寄与することになります。柔整師さんに求められるのは、この種のレッドフラッグの疾患についての知識と、素早い対応です。決して囲ってしまってはいけません。

―やはり昨年のセミナーで小粥先生は、〝今後はナースにしても、アメリカみたいに例えば麻酔の補助、簡単な麻酔はナースが行える仕組み、これはプラクティショナーナースといって専門性が高まる。理学療法士さんも脳血管専門の理学療法士、認定理学療法士というように、柔整師さんのほうでも今後多分質を確実に担保することが行われていくのではないか。それに乗れない人たちはどこかで切られていくか、恐らく厚生労働省では認定がついている人とついてない人で診療報酬に差をつけるなどしてくるでしょう。取っても取らなくても同じであれば誰もモチベーション上がらないですから。そういう構造に医者がなっていますので他の医療業界も全部なっていくと思っています〟と発言されていらっしゃいますが、もう一度教えていただけますか?

どちらかというと、アメリカのプラクティショナーナースというのは医者の補助で、医者がやらなくても出来ることはどんどん振っているのではないかと思います。日本は医者の数が、人口比あたり高いほうではないので本当はそういうのがあったら良いと思います。医療は何所へ向かって行っていくかといったら、やはり患者中心に向かっていく訳です。それは医療費との兼ね合わせで、より効果の高い、コストパフォーマンスの高い医療、しかも患者さんの満足度の高いほうに自然と向かわざるを得ないようになっていっていると思います。

質問の主旨とは若干ずれますが、最近、手術や検査の前に行う説明を「インフォームドコンセント」という表現から徐々に患者さんが主体的に治療法を選択するという意味の「インフォームドディシジョン」と言うようになって来ています。他にも昔は「コンプライアンスが悪い患者」というのは、指示通りに薬を飲んでくれない患者さんのことを言っていましたが、コンプライアンスが悪いというと、どっちかというと従わせる意味あいが強く感じられるということで、今は「アドヒアランスが悪い患者」と言うんですね。つまり今は患者さんの自主性を重んじた言葉に変わってきています。

又、これは対立する言葉ではないけれどもエビデンスベースドメディスンEBMについて、今それを補完するものとしてナラティブベースドメディスンNBMという発想があります。これも基本的なポジションとして患者中心ということです。確かにエビデンスといっても患者さんの各々の事情、個々の患者さんでケースとしては違いますし、やはりEBMは、ある集団において統計上こうだったという話で、個々の患者さんにおいては微妙に匙加減を変えてオーダーメイドしたほうが良い事例が多い。こういう言葉や考え方がいろいろ出てきたのは2000年位になってからで、この10何年かです。結局医療が供給サイド側の視点から、どんどん患者中心の視点になってきているのは間違いないことです。

―在宅医療について小粥先生のお考えをお聞かせください。

医療費の面から考えると、在宅医療は流れとしては仕方がないと思いますが、所謂医療難民、介護難民と言われる人たちが続出するでしょう。 2025年というのは単に団塊の世代の方達が後期高齢者に入るだけなので、そこから2040年位まで高齢者は増え続けることになります。医療保険制度上、急性期病院は平均在院日数が18日以上になると7対1看護の点数はとれなくなってしまいます。だからといって無理やり追い出して家に帰すのかといっても不可能な話で、次の受け皿が整っていないとダメなんですね。

ただ、今回の改正で急性期病院退院後の行先として在宅へ戻す率75%というのも7対1看護算定の要件に入っていますので、その要件もクリアしなければならないため、介護保険と医療保険をフルに導入して、受け入れ態勢を整えていくことが必要不可欠です。イギリスの成功しているケースで、認知症の発症を5年後ろにずらすだけでも、認知症患者数の全体数が半分位に減るということです。認知症を遅らせる薬、あとはリハビリテーションや介護方法を工夫することによって、認知機能或いは廃用で運動機能が落ちていた人を歩かせたり、要介護度を下げてADLを上げるということが期待できます。

それらは解決策の1つであり、複数を上手く組み合わせないと介護難民、入院難民は必ず増えますし、もう実際に出ていると思います。しかも在宅では介護者も疲れて共倒れになったり、仕事を辞める人も今は相当増えている印象です。在宅は一人の開業医さんだけではなく、専門医がチームで取り組み、介護面での行政の支援もないと幸せな結果を生まないでしょう。

―2025年を目標に地域包括ケアシステムの整備が推進されております。柔整が参入するためには、どのような手続きが必要でしょうか。柔整の方々をはじめ多くの医療職種の方々が連携しないとこの超高齢化社会を救えないと思っております。ご意見を聞かせてください。

私は地域包括ケアについての専門家ではなく、病院のソーシャルワーカーさんなどの方が詳しいと思いますが、一医療人として感じていることを述べます。柔道整復師の方は機能訓練指導員となる資格があり、ケアマネジャーの資格もとられて、事業所を運営している人もいらっしゃって、多分その方面の選択肢も今後増えてくるだろうと思っています。

一般的に効果が高いのは介護度の低い人です。介護度の重い人になってくると脳血管疾患が多いため、機能訓練的なアプローチよりも医療的アプローチが求められると思います。介護予防給付で、ある程度エビデンスが出ていて効果があるものは、やはり要支援1・2とか要介護1くらいの介護度が低い人に対してでしょう。介護を統括している専門家が〝認知症になりはじめた要支援段階の人に本来手厚くするべきであるのに現段階では既に進行してしまった人に対して介護報酬を手厚くしているのはお金の使い方が間違っているんじゃないか〟〝この要支援をしっかりおさえることが大事で、介護の認知症予防のプログラムをしっかりやると効果が高いのに〟と嘆かれていました。こういった正しい指摘があっても実際には行われていない。その辺を、柔道整復師の皆さんで各自治体の担当者とかけあって運動器疾患患者のみならず、運動療法の有効な認知症初期の方もカバーしていってあげることも大事ではないでしょうか。

これまで以上に各自治体は地域包括型ケアシステムの構築に向けて真剣に取り組んでいくことになるでしょうから、十分あり得るのではないでしょうか。介護保険の給付は今後どんどん増えますし、柔道整復師さんの人数がいっぱい増えてくる中で、いま介護の人材が不足していると言われており、就職の確保としてはやはり絶対に押さえておいたほうが良いと思います。そしてその領域というのは、開業医さんなどともバッティングしない。ただ理学療法士さんとは、介護保険では同じ運動機能の専門家として重なる面はあるでしょうね。本来は柔整師さん自体が個々で違う方向を向いていないで横の繋がりを持って医療サイドにもっとアプローチして、地域包括ケアだけではなく、医療全体の中でプライマリケアも共にやっていきましょうみたいな動きを期待しているところです。仰る通り今後も進行する超高齢社会で満足のいく患者立脚型の医療、介護を構築するにはためには、今までとは違う他職種の連携、参加が必要になってくると思います。

小粥博樹氏プロフィール

  • 1983年3月東京都立戸山高等学校卒業
  • 1991年3月慶応義塾大学医学部卒業
  • 1991年4月慶応義塾大学医学部整形外科学教室入局
    慶応大学病院整形外科助手
  • 1992年7月佐野厚生総合病院整形外科医員
  • 1993年7月平塚市民病院整形外科医員
  • 1994年7月済生会宇都宮病院整形外科医員
  • 1995年7月東京歯科大学付属市川総合病院整形外科医員
  • 1996年7月慶応大学病院整形外科助手
  • 1997年7月稲城市立病院整形外科医員
  • 1999年7月埼玉社会保険病院整形外科医員
  • 2001年7月総合太田病院整形外科医員
  • 2004年7月国家公務員共済組合連合会立川病院整形外科医長
  • 2010年7月同リハビリテーション科部長(整形外科医長兼務)現在に至る。

日本整形外科学会専門医、日本整形外科学会認定脊髄脊椎病医・日本整形外科学会認定リウマチ医・日本整形外科学会認定リハビリテーション医

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