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これだけは知っておいて【第74回:柔道整復師の診れる「痛み」 <そのII>】

これだけは知っておいて 特集

明治国際医療大学 教授 長尾淳彦

現在、施術側である柔道整復師と料金の支払い側である保険者には、文言の問題として「急性」「慢性」と「急性期」「慢性期」または「急性痛」「慢性痛」の見識の相違があります。平成30年5月24日までは「療養費の支給対象となる負傷は、急性又は亜急性の外傷性の骨折、脱臼及び捻挫であり、内科的原因による疾患は含まれないこと」とあり「亜急性」という文言も共通の認識ではありませんでした。

ここでの「急性」「亜急性」という文言は、外傷の発生機序を捉えての文言なので一般に使われている時間軸でみる「急性」「慢性」とは意味が異なります。前者の「急性」「亜急性」については当時の柔道整復学校協会教科書委員会によると「損傷時の力:急性と亜急性に分類できる」とあり、現在の柔道整復学・理論編第6版においても「損傷時の力:瞬間的に作用する(急性)ものと繰り返しや継続して作用する(亜急性)ものとがある」とあります。

柔道整復学・理論編第6版には、瞬間的に作用するもの(急性)は、原因がはっきりした直接的、瞬間的な「力」によって損傷が発生する.繰り返しや継続して作用するもの(亜急性)は繰り返しや継続して力が作用して器質的な変化にいたる.とあります。

損傷時の力の種類として、「直接的に作用するもの」と「介達的に作用するもの」に分類されています。一般的には時間軸で使われている「急性」「亜急性」「慢性」の文言を発生機序の力の分類に当てはめるために施術者が患者さんにその説明を相当な時間と労力を必要とします。

厚生労働省の社会保障審議会医療保険部会柔道整復療養費検討専門委員会で上記の文言の整理をして施術側である「柔道整復師」と料金の支払い側である「保険者」、患者である「国民」が共通の認識を持ち合わせるべきです。そのためには、各々の齟齬を取り除き、「柔道整復師」「保険者」「国民(患者)」が納得した上での柔道整復療養費の取扱いをすべきです。

「痛み」の種類をベースに今の患者さんの状態を診るのもひとつの方法です。
ここでは一般に使われている「急性痛」「慢性痛」について記載します。

 急性痛慢性痛
原因外傷、手術、急性病態、中枢神経系は正常で侵害に直結末梢神経、脊髄レベルの異常入力と交感神経系の変化
組織損傷あるないか回復している
身体所見炎症、損傷の存在ないことが多い
感情変化あまり関連が無い深く関係している
症状苦行顔貌
交感神経活動の更新
心拍数の増加
血圧の上昇
不安錯乱状態
無関心様顔貌、表情は乏しい
疲弊
不眠
食欲減少
引きこもり
抑うつ状態
痛みの
感受性
正常増強、または、普段感じない刺激を痛みに感じる
治療消炎鎮痛薬が有効消炎鎮痛薬が効かない

(医学のあゆみ、203、2002)

また、急性疼痛と慢性疼痛の臨床的相違点として

 急性疼痛慢性疼痛
顔貌苦悶表情乏しい
心拍数増加正常
血圧上昇ありなし
発汗ありなし
心理的
状態
不安抑うつ
身体所見損傷や炎症があるないときもある
疼痛行動なしあり
鎮痛薬
効果
あり少ない

(臨床整形外科2007)

参考文献:
いちばんやさしい痛みの治療がわかる本:伊藤和憲(明治国際医療大学鍼灸学部教授):医道の日本社:2017
整形外科臨床パサージュ8 運動器のペインマネジメント:総編集中村耕三、専門編集山下俊彦:中山書店:2011

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