HOME 特集 何故、柔道整復は国民に支持されてきたのか? 【第12回:柔道整復師倫理綱領】

【第12回:柔道整復師倫理綱領】

何故、柔道整復は国民に支持されてきたのか? 特集

柔道整復師の養成校は全国に14校、卒業者数は毎年1000名程度でありました。この規制により、健康保険の一部である療養費の取り扱いを基本とする柔道整復治療現場において、国民ニーズに沿った業界バランスが保たれていたと考えられます。ところが平成11年の福岡裁判により養成校規制が解除されると、全国に柔道整復師養成校が乱立しました。年に1000名程度の卒業生数が、5000~7000名となり柔道整復の供給は過剰となります。今年度の国家試験では、受験者総数6.321名・合格者数3.690名・合格率58.4%です。
(全国レベルでの柔道整復師総数は、50.000人を超える登録がなされているようです)

柔道整復施術療養費の年間総額は約3000億円が上限であり、この総額を如何に効率よく分け合えるか、これこそが守るべき利益基盤だとする業界内での不文律があったと聞きます。
しかしながら前述の養成校規制解除はもとより、昭和63年に個人契約(受領委任の取扱規定)として、社団法人柔道整復師会に未所属の柔道整復師であっても柔道整復施術療養費特例受領委任が扱えることになりました。その後、あくまでも推計値ではありますが柔道整復施術療養費の総額は徐々に上昇し、4000億円を超えるほどになりました。ですが平成23年の4.085億円をピークとして年々大きく減少を示しており、平成27年では3.789億円となっています。
国民医療費としては平成21年に360.067億円、平成24年392.117億円、平成27年423.644億円と推移し、総額減少の一途をたどる柔道整復施術療養費とは異なる経過を示しています。
(柔整療養費の減少率は、国民医療費の伸び率とは逆に減少の一途です)

現在、柔道整復師を養成する学校は専門学校(厚生労働省所管)・大学(文部科学省所管)及び公立校として、大阪府立大阪南視覚支援学校専修部(文部科学省所管)に柔道整復科が設置され、それぞれの学校において柔道整復師を目指す学生が学んでおられます。柔道整復師の資格は国家資格であり、免許は厚生労働大臣から与えられます。柔道整復師は、医療の一端を担う医療人として国が定めたカリキュラムによって学習し、国家試験合格後には、卒後教育制度である実務研修(施術管理者の要件:「実務経験と研修の受講」)を経て、柔道整復療養費特例受領委任方式により健康保険の制度を利用した治療と保険請求を行うことが可能となります。正々堂々と適正な治療と算定が行えます。

連綿と継承されて来た柔道整復でありますが、これまでの歴史上で大きく二度も消滅の危機を迎えました。時代によっては接骨術そのものが禁止され、まるでアンダーグラウンドでの治療を行うような時期もありました。先人の言い尽くせぬ努力と共に医師会や政治家、そして柔道関係者による理解と協力、そして何よりも我が国の伝統的医療として国民からのニーズがあればこそ今日まで国家資格者として認められたことがその根本であると言えます。 健康保険の制度を利用した「保険治療」は柔道整復師の先生方のための方式ではありません。適正に行われる治療と保険請求を望まれる患者のためであり、国民を保護することを大前提とした方式にほかなりません。公益社団法人日本柔道整復師会を中心とした全国都道府県柔道整復師会では、柔道整復療養費特例受領委任の方式を通じて「都道府県民の健康と保健の向上を事業目的の第一」として公益法人の認定が下されています。 昭和62年、社団法人日本柔道整復師会・社団法人全国柔道整復学校協会において制定し採択された「柔道整復倫理綱領」をご覧ください。

― 柔道整復師倫理綱領 ―

国民医療の一端として柔道整復術は、国民大衆に広く受け入れられ、民族医学として伝承してきたところであるが、限りない未来へ連綿として更に継承発展すべく、倫理綱領を定めるものとする。ここに柔道整復は、その名誉を重んじ、倫理綱領の崇高な理念と、目的達成に全力を傾注することを誓うものである。

  1. 柔道整復師の職務に誇りと責任をもち、仁慈の心を以て人類への奉仕に生涯を貫く。
  2. 日本古来の柔道精神を涵養し、国民の規範となるべく人格の陶冶に努める。
  3. 相互に尊敬と協力に努め、分をわきまえ法を守り、業務を遂行する。
  4. 学問を尊重し技術の向上に努めると共に、患者に対して常に真摯な態度と誠意を以て接する。
  5. 業務上知りえた秘密を厳守すると共に、人種、信条、性別、社会的地位などにかかわらず患者の回復に全力を尽くす。

これら綱領は、すべての柔道整復師の先生方が理解をされ遵守し実践されなければなりません。 これまでの歴史的経緯を簡略的にとらえ、それぞれの時代における柔術・接骨術・柔道整復についてまとめてまいりました。時代に応じた国民ニーズによって守られてきた柔道整復は、国民である患者から信頼をされ、その信頼を担保として健康保険の一部である柔道整復療養費として、特例である受領委任を取り扱うことが可能となっていることを正しく理解することが大切です。

柔道整復を今日まで守り続けて来られた先人や関係者の苦労に感謝し、より信頼のある柔道整復を継続することが柔道整復師の先生方の役目でもあります。 柔道整復業界のリーダーのお一人である公益社団法人日本柔道整復師会工藤鉄男会長は、常々「利他の精神」を強調されます。他人の幸福を願い、自らを犠牲にしても他人(国民である患者)に良質な利益を与え続けられる先生方にご期待を申し上げ、本稿を綴じます。

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