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ビッグインタビュー 【新・柔整考⑨】 業界内外の声をお聞きする!

新・柔整考 特集

静岡県浜松市で接骨院を営む鈴木一史氏は、多くの柔道整復師に知られている整復操作実用研究会のメンバーである。また整復操作実用研究会は様々な学術発表を行い、学会への功績も大きい。今の柔道整復師界において学術の構築は一体如何なっているかについてお聞きした。

柔整業界にイノベーションを
~様々な矛盾と葛藤を越えて柔道整復独自の学術の構築を目指して~

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柔道整復師  鈴木一史 氏

―日本柔道整復接骨医学会の現在の会員数は4,187人、その1割にも満たない方達が学会発表をされており、全国の柔道整復師の数と比較するとあまりに少ない数と言えます。元帝京大学教授の佐藤揵氏は、医学会の場合は開業医であっても勉強して学会では今こういうことになっているというのは情報として知っているが、多くの柔整師は知ろうともしていないと仰られています。鈴木先生はどのように思われていますか?

静岡県の柔整学会もそうですが接骨医学会に(発表者も含めて)参加している柔道整復師の数も年々少なくなってきているように感じました。それでも参加されている方々は、いつも来られる意欲のある柔道整復師・勉強熱心な学生さんと新人柔道整復師等という感じでしょうか。おそらく接骨医学会に参加して新しい知見や施術等の何らかの情報を知ろうとする柔道整復師が少なくなっているが、独自の知識や技術、情報を持つ柔道整復師が行う個人や団体の勉強会やセミナーには、多く参加されているのだと思います。

接骨医学会会長である安田秀喜先生は「日本柔道整復接骨医学会は、日本学術会議の自然科学部第7部“予防医学・身体機能回復医学の分野”に団体登録が認められている。」「学術会議の7部と言えば医学部・薬学部・および医療関係が団体登録されている。学術会議の7部に入るのがいかに難しいことか理解している。」「それだけ学問的に認められているということである。」と仰っています。

私自身は、接骨医学会が日本学術会議に団体登録されていることの凄さを認識していませんでした。ただし、接骨医学会に参加されている多くの柔道整復師の方々は日本学術会議に登録していることの凄さは、認識されているのではないでしょうか。

「接骨医学会の存在意義とは何か?」と問われたときにそれに対して、“接骨医学会が医学に追従した柔道整復学ではなく、生理学や生化学等の基礎学科から構築した独自の柔道整復学を発表する場所としての確立”、“先行研究者としての発表者の権利の確保や保護”、“発表した論文を社会へ伝えていく”、“柔道整復師独自の学術の構築展開により業務範囲の拡大の場である”と考えます。

学会で発表された論文や学術が、社会に多く発表し認知され伝わっていくことで接骨医学会に参加する柔道整復師が増えていくのではないかと考えます。

―今の学会発表の大半は大学の教員が行っていると筑波大学名誉教授の白木仁氏も佐藤元教授も話されております。これについては鈴木先生はどのような見解をお持ちでしょうか?

基礎研究の発表だとやはり実験室を持っていて時間をかけて実験を行える大学の教員の方の発表が多くなると思います。整復操作実用研究会では、実験会の日程を決めて岡山にあるダイヤ工業の実験室や整復研の会員の施術所を使い、実験器具を借りて少ない日程で実験を行っていました。昨年は各会員の日程の調整が難しく実験会自体がなくなってしまったので、接骨医学会発表用に実験器具を借りるために自分が懇意にしている医療機器ディーラーさんの“袋井市のコーヨーメディカル様”に協力をお願いしまして何とか実験をすることができ、接骨医学会に発表できました。コーヨーメディカル様そして担当の永澤様、本当にありがとうございました。

それでも実験器具を個人で借りるための資金確保と日程調整に大変苦労しました。できる事なら接骨医学会や日本柔道整復師会が専用の実験会場を確保して会員なら安価で臨床研究を行える研究所を作ってくれるか、または臨床研究を柔整大学等につないでもらい実験施設を借りることができるような協力体制があると、今後臨床研究の論文の発表本数が増えてくるのかなと思います。

―岡山県の佐藤勇治先生は以前からだサイエンスで、〝接骨医学会は単なる学習発表会でしかない現状と医学追従の酷さを鑑みれば柔整学がいつまで経っても「柔整師のための柔整学」ではなく「医学からみて都合の良い柔整学」でしかない。これに独自性ってあると思えますか〟と言われたことがありますが、鈴木先生は静岡県柔道整復師会の学術部を退いて学会の方に力を注ぎたいとされておりますが、何故でしょうか?

基礎学科を基にして外力によって損傷した身体の不調を直す柔道整復術、その理論体系である柔道整復学を柔道整復師自らが構築展開していくことが、それが本来独立した国家資格の存在証明だと思います。これを前提にすることで接骨医学会は、医学とは違った独立した国家資格である柔道整復師の学会になると思います。ただし整形外科学やリハビリテーション医学に追従した柔道整復学では医学の亜流となり、独立した学術である必要性がなくなるので国家資格の存在自体も危ぶまれます。

医学追従の接骨医学会では、独自性がない柔道整復学の発表会、つまり“学習発表会”でしかないと思います。

日本柔道整復師会の学術部長の徳山先生が「PubMedに鍼灸師が42000本、理学療法士は56000本の論文の発表をしている。柔道整復師はたった8本しか出していない。」と東海学術三重大会の講演で仰っていました。今後、都道府県の学術大会で発表した(過去に発表したものを含めて)論文をPubMedに出していくなら、徳山先生のスライドに書いてあった“エビデンス”の構築もできるのではないのでしょうか。 私が以前接骨医学会に発表した“顎関節症を超音波治療器と整復操作で改善した症例報告”がJ-Globalに載ったこともあり、また学生時代に使用していた柔道整復学理論4版と最新の7版で顎関節症の治療という項目の記述が、若干ですが発表内容に沿って変わっていたので独自の柔道整復学に寄与できたと思い、今後も接骨医学会に発表をしていこうと考えました。ただし、静岡県柔道整復師会学術部との両立は、実験の日程確保等の事を考えるといろいろな面で難しいと考え、学術部を辞めさせていただき接骨医学会に専念することにしました。

―接骨医学会の安田会長は、新柔整考のインタビューで、認定柔道整復師の数は現在365名で全体の1割弱である。接骨医学会が専門の柔道整復師制度を作り、体系化してそれをお互いがフィードバックする仕組みを構築したいとも話されました。鈴木先生はこれについてはどのようなお考えをお持ちでしょうか?

自分は認定柔道整復師制度についてあまり詳しくないため、お答えすることが難しいです。

“柔道整復師は、外力によって損傷した身体の不調をどのように直すのか?”というところを突き詰めて学術の構築展開していき、教科書を改訂して業務範囲の拡大をしていくことが先決ではないかと考えています。

これらをまず先にやっておけば、認定柔道整復師制度にも何かしら活きてくるような気がします。

―同じく元帝京大学教授の佐藤揵氏は、自身が研修試験財団の専門委員をされていた頃、当時の理事長だった長谷川慧重氏が、〝これからの柔道整復師は軟部組織の専門家になったほうが良い〟と、何度も言われていたそうです。佐藤元教授は、未だその話の域を出ていないと仰られています。どのように思われますか?

痛みだけに焦点を合わせた施術をしていると、いろいろな情報にとらわれて施術の結果が出ないのではないかと思います。まず傷の状態(傷態)・発痛様式・発痛機序・受傷様式・受傷機序の定義等をしっかり把握し学術展開する必要が感じられます。

本来柔道整復師は、傷の状態(傷態)・発痛様式・発痛機序・受傷様式・受傷機序の定義等から考えて施術するものだと思います。症状があるところに原因があるという考えではなく、原因があるから傷の状態(傷態)があるという考え方です。その上で骨折や脱臼の施術に特化した柔道整復師でも良いですし、軟部組織に特化した柔道整復師でも良いと思います。なんなら神戸の柔道整復師の林先生のように子宮頸がんワクチン副反応・起立性調整障害・コロナワクチン接種後の副反応やコロナ罹患後症状の改善といった“いわゆる自律神経系の施術をする柔道整復師”でも良いわけです。

ただし生理学・生化学等の基礎学科を基にした柔道整復術でなければいけないと思います。基軸がないけど何をしても自由だからと“30分3000円の慰安マッサージをやる整体院の看板を掲げた接骨院”と同類にされても迷惑だと思います。基礎学科を基にした柔道整復学の学術を構築して論文発表し、なおかつ柔整大学や研究所等で反証実験を行い教科書に記載されていくように接骨医学会・日本柔道整復師会・全国柔道整復学校協会・教育支援委員会教科書部会が一緒になって教科書を改訂していかないといけないと思います。本当は柔道整復師ではない第三者が紙ベースで作る“からだサイエンス”という業界誌があると厚労省や国民に柔道整復学を広く知ってもらえたのにと残念に思っています。業界誌がなくなってしまった事を柔道整復師は後悔しないといけませんね。(枝さんの編集のお仕事の大変さを考えると、本当に申し訳なく思っています。)

―やはり佐藤元教授は、柔整の場合はガイドラインが出来るレベルに未だいっていない。これやったから、こういうことをすればこうなりますよという証拠固めが未だ不十分と言われましたが、整復操作実用研究会のメンバーである鈴木先生達の出番ではないかと考えますが如何でしょうか?

柔道整復師のガイドラインは、長野県の柔道整復師である牛山正実先生をはじめ有志の会員が作成しています。以前、牛山先生に岡山県で柔道整復師のガイドラインの講演をしていただいていますし、接骨医学会でも発表していたと思います。佐藤元教授が仰っている「ガイドラインが出来るラインに未だ至っていない。」という言葉は、医学追従ではない独自の柔道整復学の理論体系や技術体系の構築がまだ不十分だったころを感じての発言ではないかと考えます。今は牛山先生が、ガイドラインを学会で発表していますし整復操作実用研究会の考えと親和性が高いのでガイドラインに沿って施術を行っていけばいいかと思います。

―また佐藤元教授は以前に、〝柔整(学)が西洋医学そのものではなく、まして整形外科(内科)学の疑似でもなく存在しうるためには、その「対象」と「方法(計測、分析、評価)」と「治療指針」において独自のものが必要であるが、これを確立体系化しうるのか〟と言われました。整復操作実用研究会では、これらについてこそ自分達の研究成果をしっかり文献に残す役目があるのではないかと思っておりますが、ご意見をお聞かせください。

佐藤元教授の仰っている通りだと思います。
患者さんに「外力で損傷した身体が、どのように直っていくのか?」を説明する際に今のリハビリテーション医学とは違い、生理学や生化学等の基礎学科から導き出した柔道整復学で身体の状態や施術方針、施術方法生活指導等を説明をする際に患者さんもいろいろ理解しやすいと思います。また柔道整復師の療養費の支給条件にも“外傷性が明らかな~”“いずれの負傷も身体の組織の損傷状態が慢性に至っていないもの”と明記されていますので生理学や生化学等の基礎学科からの方が理解しやすいと思います。

今後は、整復操作実用研究会の内容をどの範囲まで接骨医学会で発表するかは、接骨医学会が医学追従ではなく柔道整復師のための基礎学科に基づいた学術構築の場となり、先行研究者として発表者の権利保護が明確になり、発表した論文内容に沿った教科書の改訂があった時に全貌が明らかになるのではないかと思います。

―どうして今の若い柔道整復師の方達は食べられなくなってしまったのですか?

私自身、あまり儲かっていないので偉そうにいえませんが・・・。
結局、研修先の接骨院で施術知識の理論体系や技術体系を指導してもらえなかったからなのではないかと思います。

整復研の講習会に参加されている講習生を見ると、すごく勉強されている方が多いように感じます。ただし、佐藤先生みたいに生理学・生化学的基準での考え方は、全く聞いたことがないみたいで講習生の方々は真剣に勉強されていますね。だから講習会に参加される柔道整復師さんが増えていくのでしょうね。

受講後は「あそこは、ほかと違って身体を直してくれるところ。」という認識が患者さんに伝わるので、そこから紹介も増えていき、時間はかかると思いますが、食べていけるようになると思いますよ。

―整復実技研究会に集まる人は優秀な人が多いのでは?

自分を除いてですが、優秀な方ばかりだと思いますよ。患者さんの困っている状態に対して何とか技術や知識を学びたいという探究心が強い方々ばかりだと思います。以前佐藤先生に「柔道整復師は保険を使って揉んでいるだけですよね?治療できるのですか?」と直接メールしてきた鍼灸師がいましたが、その方は整復操作を知ったあとは柔道整復師の免許を取りに行き、柔道整復師になりましたね。またアメリカの州のカイロプラクティック免許を持っているカイロプラクティックの先生やイギリスのマッサージ師の先生も佐藤先生の施術体系や理論体系を確認するため日本に帰国していましたね。 イギリスのマッサージ師の先生は「佐藤先生の生理学の知識と整復操作の技術は、療養費の条件や外傷への施術の事を考えると日本の中で一番理にかなっているメソッドだと思うよ。」と仰っていました。

―新柔整考⑧の酒田達臣先生が〝オーダーメイドでそれぞれの患者さんに合わせて必要な施術を提供出来るという意味では、結構世の中の役に立つ仕事になり得るのではないかと思っています〟と述べておられます。鈴木先生が考える柔道整復師の社会的な役割について教えてください。

柔道整復師の仕事とは、外傷で困っている患者さんの早期社会復帰と怪我予防に尽力するということじゃないでしょうか。酒田達臣先生が仰っているオーダーメイドで必要に合わせた施術も大切だと思いますね。当院に来られる怪我から復帰する老若男女の方々やスポーツに復帰する子どもにも整復操作を行い、必要に応じて徒手での筋力増強訓練やDYJOC等を患者さんの傷の状態を見ながら行ったりもしています。生理学や生化学等の基礎学科に基づいた施術を行うことで、外力によって損傷した身体の不調を直す柔道整復師と認識され、他のところとは明確に区別されると思います。

柔道整復師が行う柔道整復術が患者さんに理解されて社会に浸透していく、まさに柔道整復学の構築こそがそれを可能にすると考えます。

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