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ビッグインタビュー:一般社団法人「わをん」理事・事務局長 嶋田拓郎氏

インタビュー 特集

重度障がい当事者と介助者が一緒になって、2020年に立ち上げた一般社団法人「わをん」。丁度コロナ禍とも重なり、オンラインでの育成事業を行っている。
その「わをん」の理事であり、事務局長を務める嶋田拓郎氏に事業内容について話していただいた。

~インクルーシブな社会を目指して~
重度障がい者の訪問介護事業、介助者育成への取組み

嶋田氏

一般社団法人 わをん
理事・事務局長
嶋田 拓郎 氏

―「わをん」の代表を務められる参議院議員・天畠大輔氏との連携について、その経緯を教えてください。

私の大学時代の友人が天畠の介助者として働いていました。その友人との関係で介助の仕事を〝夜勤が入ればまとまったお金が入るよ〟と紹介されました。丁度、アルバイトを探していましたので、誘われて行き始めたのが最初です。その後、大学・大学院とアルバイトとして介助に関わらせて頂きました。その後は一般企業に就職して、ずっと過ごしていましたが、今から3年前の2020年、私が30歳になる年に、結婚して子どもも出来ました。また武蔵野市から横浜市まで、かなり遠い所まで通勤していましたので、近い所に仕事がないかなと思っていました。その時も未だ副業という形で時々介助者として入らせてもらっていた訳ですが〝フルタイムの専属の介助者をやらないか〟という誘いを受けました。どうしようかと迷っていた時に、私自身元々市民活動支援の仕事をしていましたので、仕事にその経験も生かせるよう一緒に一般社団法人という非営利の団体を立ち上げないかということも同時にお誘いを頂きました。私の役目というか仕事は、介助者と一般社団法人事務局長という2つの仕事を同時に兼務しているような形です。それが切っ掛けですが、そもそも非営利団体を立ち上げないかという話があったのは、天畠が自立生活というか、一人暮らしを始めて、大学院にも進学して介助者の事業所を立ち上げた時点で、全国からの相談を天畠が個人的に受けるようになりました。つまり、個人的に相談に乗っていたのですが、やはり出来れば自分一人だけの力ではなく、他の人達とも一緒にやりたいという思いがありましたし、私が非営利団体の知識があったこともありまして、一緒にやろうとなって「わをん」を立ち上げたというのが、これまでの経緯です。

―代表の天畠さんは昨年参議院議員になられていますが、元々政治家になられるお考えはあったのでしょうか?

本人も取材で答えております。その範囲の答えになりますが、れいわ新選組の山本太郎代表から是非という誘いを受けて、そこで初めて政治家になる決意を固めたようです。去年の参議院選挙に出て確定となり、参議院議員になりました。天畠がよく言っていることは、障がい者福祉の問題もそうですが、重度障がい者の介護で苦しんでいる人、その当事者が国会に行く、そういった当事者達が国会でちゃんと議論に加わっていくところの意味、自分が立ち上がることで役に立つことがあるんじゃないかということで、選挙に出たようです。これまでずっと研究者としてやってきましたし、そのキャリアもいっぱい断ってやる訳ですから、かなり悩まれていました。政治の場に出るということは、やはり誹謗中傷も含めて批判されたり、矢面に立つことになりますからね。

―いま日本全国で重度障がい者と言われる方達は、主にどういった方がいらっしゃるのでしょうか?

所謂「重度障がい者」と称される方には、重度の身体障がい者のような方もいれば、精神障がい者のような方もおり、また身体に含まれるかもしれませんが難病患者の方達もいらっしゃいます。いま私たちが主に支援をさせていただいているのは、特に重度身体障がい者の方達です。そういった当事者の皆さまが自分らしく地域で暮らせるための相談を受けています。例えば、介助者との関係に悩んでいたり、介助者とともに生活をしたいと言った時に情報提供をさせていただいています。もしも私たちの団体でノウハウを持っていなかった場合には、他のしっかりした団体が対応できるという時には、そういう所にご紹介する等しています。

―重度の障がい者の方達への365日の介助支援というのは相当な人数の介助者育成が求められると思いますが、どのような育成をされているのでしょうか?

まず、大きな前提としては、特に重度の障がい者の訪問介護で働く人達、重度であればある程、かなり介助者の人手不足が言われています。東京でさえ人手不足ですし、地方に行くほど人手不足です。そもそも重度訪問介護を提供する事業所自体が少ないと言われているような状況です。

続けて介助者の種類についても説明したいと思います。確定的な数字ではないんですが、いま重度訪問介護を利用する当事者の大体9割くらいは、事業所から派遣されてくるヘルパーを利用しており、事業所の都合で別の利用者さんへ交替したりすることもあり得るスタイルです。残りの1割程度が「自薦ヘルパー」です。「自薦ヘルパー」は、制度の用語ではなく、障がい者運動が作ってきた用語です。自らを推薦するヘルパー、つまり自分で採用して育てていく。その代わり、自分専属のヘルパーであるということです。何故そんなことになっているのかというと、重度障がい者の介護というのは、かなり個別性が高いということも言われております。勿論ベースとなる、その方がこの仕事に取り組まれる姿勢だったり、技術というところは共通してありますが、重度であればあるほど、その場でその方のニーズ、その方の独自の生活の仕方等にフィットしていく。しかも重度訪問介護というのは、長時間介助に入るので、どういうことを気にするかというと、人間対人間の付き合い、人間関係というところで躓くとかなりきつくなります。従って、そういった合うか合わないかというのは大事なところで、〝習うより慣れろ〟ということがよく言われています。

当事者が重度訪問介護を利用する上では、上記の2つが前提にありますので、地域で介助を利用しながら生活するのはなかなか容易ではないんですよね。当団体では、人手不足の多い地域で、介助を利用することが困難な方に、自薦ヘルパーであれば、そのような場所でも自立生活できるんだということを情報提供しているんです。

つづけて、研修についてもご説明します。「重度訪問介護従業者養成研修」は、最短3日で取れます。

3日で取れるというのは、他の資格に比べると格段に早い。それは何故かというと、重度訪問介護の特性上、出来るだけ早く簡単にとらせるということを、重度障がい者の運動側が要望してきた結果の資格研修だからです。つまりプロの介護者として気概を持って入って来た人が、あまり役に立たない場合が凄くある訳です。〝自分の技術はこうなんです〟〝こういうやり方が正しいんです〟という風な思いを持った人が入って、それで上手くいかなくて困るという当事者の声が歴史的に凄く多く、素人でも良いから先ほど言ったように、〝習うより慣れろ〟で、自分の所に入って、その都度やり方を教わっていくというような、そういった当事者主権ではないんですが、正に利用者さんが実際に生活している人のやり方を尊重して教わっていくというやり方が基本になります。また、よく言われることなんですが、介助者が「困っている当事者を助けたい」という風に思って来る人というのは長続きしません。何故かというと、過去の障がい者運動では、助けたいと思って来た人になんて言ったかというと、〝お前は差別している自覚があるか?〟と突きつけるんです。そういう言い方で、自分の健常者性を問い直させられるわけです。どちらかというとこの場で働き、当事者の人と一緒に居ながら自分の生きづらさも解消していっているような人、当事者と同志のような感覚を持てる人のほうが長続きするような感じがあります。なんというか、凄く面白い世界です。

―魅力的な仕事ですね。一緒に居たい、働きたいと言って来られる方は多いのですか?

そうとはいえません。何故かというと、重度障がい者の訪問介護はあまり知られておりませんし、やはり給料が「安い」「きつい」「汚い」の3Kと“思われている”ためです。これは介護業界全般に言えることだと思いますが、特に重度であればあるほど、「きつい」のではないかと思われてしまうようで、実際はそうでもない介助現場もあるんですが、知られていない故に求人採用に苦慮する事業所も多いようです。また、たとえば当事者のなかには一日中テレビを観て過ごしたりというのもその人らしい生活だったりします。かと言って一日中一緒にテレビを観て過ごすというのは仕事として飽きるから嫌だという人もいます。仕事として合う、合わないということも当然ですが、あります。

私たちの団体では、Webメディア「当事者の語りプロジェクト」を通じて、介助を利用しながら地域で自分らしく生活する当事者にインタビューした記事を掲載しています。インタビュー記事を通して、当事者が自立生活をするヒントを提供できればと考えておりますし、「介助の仕事って魅力的だな」と思ってもらえるようになればと願っています。

―当事者事業所の起業支援も行っているとありますが、それはどういった形で行われているのでしょうか?

当法人の理事の中には元々事業所をやっている人もいますので、これまでやってきた経験に基づいて情報提供を随時行っております。何故「当事者事業所」や自薦ヘルパーなのかということ、住んでいる地元にヘルパーを派遣してくれる事業所が無いからという理由が多いように思います。ないならどうするか?と。「重度訪問介護」の支給時間は行政から得たけれども、ヘルパーが見つからないとなったら、もう自分で探すしかありません。自分で貼り紙とか、求人サイトに求人広告を出して、自分で面接をしてやるしかないということです。ただ実際にヘルパーの登録を助けてくれる全国団体もありますので、そういう団体と協力をして行ったりもしています。

結果的には、ヘルパーに安定的に高い賃金を出すためにはどうしたら良いかというと、ヘルパー派遣事業所を立ち上げて、様々な加算を取ったり創意工夫を重ねて、ヘルパーにより高い給料を出すようにやっていくことで、自分に合うヘルパーに、継続的に仕事を続けてもらおうと、必要にかられてやる場合が多いと感じています。しかしながら事業所運営ってキツイのが実際です。お金の計算もしなければならないし、税金もそうです。いろいろな請求業務だったり、日々の問題、全部それが当事者に覆いかぶさってきます。生活すべてがヘルパーのシフト調整のような生活みたいになってくる場合もあります。なので、それ事態を面白がれる人、または耐えがたい人というのは出てきます。なので、そこはしっかり実態をお伝えしています。こういう事業所運営の大変な部分も含めて、一緒になって事業所運営を助けてくれるヘルパーを見つけていくことが大事かなと思います。

当事者事業所を経営する当事者の方からは、経営者ゆえの孤独感や辛さを持っている一方で、自分が介助者の生活を支えているんだという、「生きがい」のようなものを持てたことが大きいと語っている人もいます。「支えられる」一方だった当事者が、「支え、支えられる」生き方を獲得できるのは大きいように思います。

―この間、いろいろな取組みに対して嶋田事務局長は成功してきているという実感がありますか?

そんな実感は殆どありません。率直に言えば試行錯誤しつつ、また様々な人にお叱りを受けながら活動を重ねてきています。ただ、当事者の語りプロジェクトを通して、「自分らしく地域で生きていきたい」という当事者やご家族からの問い合わせは増えてきました。その方達の切実な思いに応えられるように、他団体の力もかりながら進めていきたいと思っています。

―当事者から困りごとなどの相談にも対応されていますが、世の中の変化や日常が変わりつつあるというような手ごたえ等はどうでしょうか?

重度訪問介護であれば、自分の生活を諦めずに済むんじゃないかという風に思っている人は少しずつ増えているのではないかなと感じます。施設に居たり、親元に居る選択肢しかないと思っている当事者やご家族の方は未だ多いですが、介助者が居て24時間生活が出来れば、家族も生活を諦めずに済むし、自分もやりたいことを捨てずに済むのではないかと、一縷の希望を持ってくる人が増えてきたのかなという印象はあります。ただし〝大丈夫ですよ〟〝バラ色の生活が待っていますよ〟なんて楽観的なことは勿論言えません。何故かというと、先に言いましたように介助者との生活というのは、赤の他人が生活の中に入ってくる訳ですから悩みが尽きないんです。介助者にもいろんな人がいて、良いヘルパーも居れば、何か悪意のあるヘルパーというか、そういう人もおりますし、それで苦しめてられている当事者の事例も沢山聞きます。

しかし、そういう実態もあるけれども、介助があることで生きることを諦めずに済んでいる人が実際にいるんだということを知っていれば、当事者の皆さんの生きる選択肢を増やすことに繋がるかもしれないと信じています。当事者の方もそのご家族の方も自分らしい生活を諦めなくていいんだということを、情報提供を通して出来るだけ伝えたいと思っています。

―当事者の困りごと等も一緒に解決していくとありますが、そういった困りごとの事例等を教えてください。

多いのは、〝自立生活をしたいが、行政に交渉して重度訪問介護の支給時間をどのようにすれば出せるようになるのか?〟と悩んでいる人もおられます。他には〝事業所が見つからない、介助者が見つからなくて困っている。自薦を利用できる事業所を知りたい〟という人もいます。或いは、実際に介助者を伴って自立生活をしているけれども、介助者との関係性に悩んでいるといった困りごと、結構一緒に長く居るのでお互いに不満がたまっていく、自分の家なのにしんどいとなった時に、じゃどうやったらそういう介助者との関係性をよどみなくしていくかっていうところで、工夫をしている人、他の当事者にも入ってもらって一緒に相談にのってもらう等、そういったことを行っています。私たちの団体は、支援される人が他の人を支援するようになることが大事であると考えておりますので、出来ればその地域で介助者と共に自立した生活の在り方を築いていってもらいながら、その地域で他の人の相談にも乗ってもらえるキーパーソンになっていって欲しいと願っています。

―今後の具体的な展開について

団体として特にいま取り組んでいるのは、「介助付き就労」の普及啓発です。重度障がい者が介助を利用しながら働くということ。実は去年ハンドブックを助成金をもらい作りました。

いま国会で問題になっていることは重度訪問介護の告示523号です。これはずっと厚労省がこの告示を取り下げないんですけれども、就労中・就学・就労時に重度訪問介護は使えないといった告示がありまして、それを撤廃するようにと様々な議員が政府に迫っておりますし、野党もそれを変えるような法律案を出しているんですが、やはり壁が厚いというところがあります。政策的にもそこを切り崩していくような調査研究、アンケート調査なども行って、介助付き重度障がい者のニーズがどれくらいあるのかということの調査を3月くらいから仕掛けてやっていきたいという風に考えており、いろんな当事者の方達と協力しながら全国展開をしていますので、それを引き続きやっていきたいと思っています。

―事務局長自身の夢などもありましたら。

介助の仕事は続けていきたいと思っています。介助の経験を積みながら団体を継続させていきたいと思っています。

嶋田 拓郎 氏プロフィール

1990年生まれ。国際基督教大学教養学部を経て、一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。学生時代より代表理事である天畠大輔の介助に携わる。大学院卒業後、不動産会社、調査会社、中間支援組織のコーディネーターを勤めた後、㈱Dai-job highにて天畠の介助者を勤めている。現在、介助の傍ら、一般社団法人わをんの理事兼事務局長として、法人の運営を行っている。

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