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運動器超音波塾【第4回:肩関節の観察法 2】

特集 運動器超音波塾

株式会社エス・エス・ビー
超音波営業部マネージャー
柳澤 昭一

近年、デジタル技術により画像の分解能が飛躍的に向上した超音波は、表在用の高周波プローブの登場により、運動器領域で十分使える機器となりました。この超音波を使って、柔道整復師分野でどのように活用できるのかを、超音波の基礎からわかりやすくお話してまいります。

第四回「閻魔様に怒られないように」の巻
―上肢編 肩関節の観察法について 2 ―

「肩」について調べていくと、「笑ったり」「怒ったり」、「組んだり」「並べたり」、「風を切ったり」「荷をおろしたり」、「貸してあげたり」「寄せ合ったり」と、慣用句などもかなりあるようです。「肩」も、いろいろ大変そうです。運動器の構成体としての役割以外に、こころや人間模様までも表現しなければならない。どうやら日本人は、「肩」について特別な思い入れを持っているようです。それについて、吉竹博先生(心理学者)は、仏典の中に答えがあると書いています。そもそも人間の肩には、生まれてから死ぬまでの間、その人の善悪を記録する俱生神(くしょうじん)という二人の神様が乗っかっており、その人の死後、閻魔大王にその人生での善行と悪行を報告して、それで極楽か地獄かの運命の分かれ道になるという話です。いやはや、我々の「肩」には随分とたくさんのものがのっかっているようで、肩も凝るわけです。これはもう、閻魔様に怒られないように、善行を心掛けて、日々反省を繰り返すしかないですね。

地獄の法廷を描いた中国の仏画 ウィキペディアより
地獄の法廷を描いた中国の仏画 ウィキペディアより

今回の「運動器の超音波観察法」の話は、「肩関節の観察法」の続きとして腱板について考えてみたいと思います。

50歳以上の一般住民約1/4に腱板完全断裂が存在する。
しかし、その約2/3には自覚症状がない。

これは「ポータブルエコーを用いた腱板断裂肩の住民検診」という事で、秋田大整形の皆川先生(現 城東整形外科)や岐阜大整形の福田先生らが行った仕事です。腱板完全断裂が、必ずしも痛みや機能障害の原因とは限らない。初めてその事実に触れた時は、頭を殴られたようにショックでした。私にとっては、お二人とも運動器超音波の師匠で、臨床でのデータ撮りなど、技術協力させて頂きながら、手取り足取りご教授頂きました。確かに、自分たちは何らかの痛みや機能障害があるが故に来院するわけで、一般住民に対して検診をすると、こんな事実が浮かび上がってくる。振り返ると、義務教育の時から体力テストを行ってきた記憶はありますが、運動器検診という事はなかったように思います。成長過程を含め、自分の身体の状態を知るという意味においても、運動器検診というのは、大切なのだろうと初めて気づかされた瞬間でした。そしてその実現を勝手に夢想すると、手軽さ、安全性という点でも、ポータブルの超音波診断装置が第一選択となるだろうと思っているところです。

肩関節の超音波観察法 基本肢位は座位

重要なポイントなので、今回も触れます。超音波での観察法の場合、最初に考慮すべき点としては、観察肢位が挙げられます。被験者はもちろん、観察者も楽な肢位での観察が的確なプローブワークにつながり、より情報の多い画像が得られます。この場合、大切なことは、動態観察を想定しての肢位を検討すべきだという事です。

肩関節の場合、仰臥位では後方からのアプローチが出来ない事、肩甲骨が床面と接触してしまうと、内外旋運動や外転運動のような自然な肩の動きができなくなるという理由によって、基本肢位は坐位が良いと考えられます。

棘上筋・棘下筋の観察肢位は、手を鼠蹊部において脇を締めた姿勢で腱板を肩峰から引き出した状態で行います。(肩関節軽度伸展位)

図 肩関節の観察法 棘上筋・棘下筋の観察の基本肢位(肩関節軽度伸展位)
図 肩関節の観察法 棘上筋・棘下筋の観察の基本肢位(肩関節軽度伸展位)

腱板の形態と解剖学的構造

棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋の腱は、ひとかたまりの板状に見える事から、腱板(rotator cuff)と呼ばれています。 右上腕骨を上から見ると、それぞれの腱の付着面(facet)があるのが解ります。それぞれ、SF : superior facet 、MF : middle facet、 IF : inferior facetと呼ばれています。SFには棘上筋、MFには棘下筋、IFには小円筋が付着しています。この付着面を目印にすることによって、それぞれの腱が区別できるわけです。*1

*1 超音波でわかる運動器疾患 皆川洋至 ㈱メディカルビュー社 より

図 上腕骨骨頭と腱板の付着面
図 上腕骨骨頭と腱板の付着面

棘上筋・棘下筋の観察

前回同様、結節間溝を触知してから、大結節の山にプローブを合わせます。腱板の線維構造が描出されたら、大結節の付着の際(きわ)から後方に向かって、プローブをほぼ平行移動させて、観察します。この時に、腱板の線維構造がきれいに描出されるようにプローブの角度を前後左右に微調整する事を忘れないでください。また、全体像を把握するためにも、必ず外側からの短軸での観察を併せて行います。

図 棘上筋・棘下筋の観察 プローブの走査方向 上腕骨を上から見た図
図 棘上筋・棘下筋の観察 プローブの走査方向 上腕骨を上から見た図
図 棘上筋・棘下筋の観察 長軸走査で前方から後方へ
図 棘上筋・棘下筋の観察 長軸走査で前方から後方へ

超音波で観ると付着面の形状は、SFが山のように盛り上がった形をしており、後方のMFに向かうと平坦な形に変わってゆきます。

では、棘上筋腱の超音波長軸走査の画像の解説です。

図 棘上筋腱の超音波画像の解剖
図 棘上筋腱の超音波画像の解剖

超音波の場合、腱板の構造が潰れる事なく、線維の模様として描出することができます。プローブを懐中電灯で照らすように、角度調整をしてください。この時に、肘関節を持って少しだけ動かすと、腱板と骨頭が動き出すことで、腱板と滑液包の境目を認識する事ができます。

Clarkらは腱板が単一の腱組織ではなく、5層構造として分れ、複雑に腱線維、関節包、靭帯が重なり合って作られた組織であると発表しています。*2

更に、皆川先生は棘上筋の筋内腱が主に前方1/3に移行しているのに対し、他の腱板構成筋では均一に筋内腱が分布していることを、また棘下筋は棘上筋後方1/3を上方から覆いかぶさるように存在することを報告しています。*3

*2 Clark J.M.: Tendon, Ligaments, and Capsule of the Rotator Cuff. J.Bone and Joint Surg. 74-A:713-726,1992.
*3 皆川洋至、他:腱板を構成する筋の筋内腱-筋外腱移行形態について. 肩関節. 20:103-110, 1996.

図 腱板の5層構造
図 腱板の5層構造

腱板断裂の観察ポイントは主に3点

腱板断裂の観察ポイントは、主に3点あると言われています。*4

A
断裂部では、線維構造が描出されず、水腫による低エコーが観察される
B
Peribursal fat、肩峰下滑液包は、正常であれば腱板と平行な位置で丸いドーム型を 形成するのに対して、菲薄化する、或いは断裂の程度でフラットや陥凹型になる
C
腱板の付着位置であるfacet、或いは周囲の軟骨下骨が、不整(骨棘の有無)

*4 超音波でわかる運動器疾患 皆川洋至 ㈱メディカルビュー社 より

図 参考 腱板断裂(RCT=rotator cuff tear)

Peribursal fatは、肩峰下滑液包の天井にある脂肪の結合織で、腱板表面の形状をそのまま表している為、とても重要な情報を提供してくれます。腱板が菲薄化するにつれ、或いは断裂の程度で、その形状がドーム型から平坦、更に陥凹する状態が観察できます。*5

参考 腱板断裂(RCT=rotator cuff tear)の下図の場合は、肩峰下滑液包の水腫、付着面での骨棘も顕著に観察されています。以上の3点と併せて、肩峰下滑液包の水腫、石灰性腱炎(腱板内部での高エコー像)の有無なども注意すべき項目です。この場合、石灰像は棘上筋から棘下筋への移行部に認める場合が多いと言われています。また、肩峰下滑液包の水腫に関しては、プローブで圧迫しすぎると、見落とす可能性がありますので注意してください。

*5 超音波でわかる運動器疾患 皆川洋至 ㈱メディカルビュー社 より

図 腱板内の高エコー像 石灰の存在を示唆
図 腱板内の高エコー像 石灰の存在を示唆

側方拳上と不安定感

次に、棘上筋腱の位置にプローブを置きながら、動態観察をしてみます。肘関節を保持して下方へ牽引、或いは側方拳上へ外転動作を誘導すると、肩関節の不安定感を観る事ができます。

動画 側方拳上と不安定感

今回の観察法で大切な事項をまとめると、下記のようになります。

  • 腱板の観察法の基本肢位は、座位で行う
  • 棘上筋・棘下筋の観察は、手を鼠蹊部におき、肩関節軽度伸展位で行う
  • 腱板は、上腕骨付着面の(facet)を目印にして区別する
  • 腱板の線維構造をきれいに描出するよう、プローブの角度を微調整する
  • 棘下筋は棘上筋後方1/3を上方から覆いかぶさるように存在する
  • 腱板断裂の観察ポイントは、線維構造・Peribursal fatの形状・付着面の不整に注意する
  • 肩峰下滑液包の水腫、腱板内の高エコー(石灰の存在)も併せて観る
  • プローブで強く圧迫してしまうと肩峰下滑液包の水腫などが見えなくなる事があり、圧迫を緩めながらプローブ角度を微調整して観察する
  • 動態観察により、肩関節の不安定感を観察する

次回は、「上肢編 肩関節の観察法」の続きとして、その他靭帯や注意事項について、考えてみたいと思います。

情報提供:(株)エス・エス・ビー

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