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運動器超音波塾【第17回:前腕と手関節の観察法3】

特集 運動器超音波塾

株式会社エス・エス・ビー
超音波営業部マネージャー
柳澤 昭一

近年、デジタル技術により画像の分解能が飛躍的に向上した超音波は、表在用の高周波プローブの登場により、運動器領域で十分使える機器となりました。この超音波を使って、柔道整復師分野でどのように活用できるのかを、超音波の基礎からわかりやすくお話してまいります。

第十七回 「小細工を弄しない大きな単純」の巻
―上肢編 前腕と手関節の観察法について 3―

どうにも飛行機の離陸には、慣れる事がありません。
機体が地上を離れる瞬間、ちょっと足元が浮く感じが、何度乗ってもお尻がむずがゆいような気持になります。ところが、次におとずれる荷重が全身を覆うようにのし掛かりながら高度を上げていく加速感は、むしろ気持ちがいい。百回以上は乗っているのに、この感覚は変わることがなくて、実にややこしい。水流が突然逆流するようにマイナスとプラスの感情が一瞬で逆転する、不思議な気持ちになります。飛行機が水平飛行に入って、シートベルトサインが消える頃にはもう普通の感覚に戻っていて、着陸の衝撃に起こされるまで爆睡するか、PowerPointを編集したり資料に目を通したりを始めるわけです。
窓の外に目を向ける余裕がある時は、雲間から覗く地形が地図帳どおりなのを観て感心したり(当たり前ですが)、雲の上のまるで草原やジャングル、或いはグランドキャニオンに似た渓谷を想わせるような不思議な雲のつくる壮大な風景を、ぼーっと眺めていたりします。年に何回かは絶景の富士山を観る事もできて、その時に撮った写真がこれです。

図 飛行機から観た富士山
図 飛行機から観た富士山

雪の中に、つづら折りの登山道が観えます。左下には富士宮口五合目と、その右上には富士山南東斜面の宝永噴火口が口を開けているのが観えます。深田久弥は『日本百名山』の中で富士山を「小細工を弄しない大きな単純」と書いていますが、まさに日本美術や工芸のモチーフとして、さらには古来より日本国民に愛された信仰の山として、象徴的な存在であることを端的に表した、名言だと思います。*1

*1
参考 : ウィキペディア

飛行機で移動をしていると、どんなに地上でどんよりと重い雲から雨が降っていようと、その雲ひとつ突き抜けて浮かび上がれば、そこには燦々と輝く太陽がいつでもあることが解ります。それを想うと、少しだけ気が晴れて元気が出る私も「大きな単純」なのかも。

今回の「運動器の超音波観察法」の話は「前腕と手関節の観察法」の続きとして、三角線維軟骨複合体(TFCC)について、考えてみたいと思います。

三角線維軟骨複合体(TFCC)について

前回までの観察で、方形回内筋は尺骨背面近くまで巻き込むように付着していること、回外運動に伴い尺骨は掌側へ移動するということがわかりました。この事を考慮すると、掌側への尺骨頭の移動を促すように掌側橈尺靭帯、掌側尺骨手根靭帯に伸張を加えておくことも重要であることが理解できます。*2そこで今回は、掌側橈尺靭帯、掌側尺骨手根靭帯を含む、三角線維軟骨複合体(TFCC)ついて考えてみたいと思います。

*2
参考 : 運動器超音波機能解剖 林典雄 文光堂

三角線維軟骨複合体(triangular fibrocartilage complex: TFCC)は手関節尺側に存在する軟部組織で、三角繊維軟骨(triangular fibrocartilage; disc proper)とその周囲の靱帯構造からなる線維軟骨と靱帯などの複合体です。手関節の回内と回外における安定に重要な役割を果たしており、尺骨と手根骨の間のクッション(suspension theory)として働いています。高齢者の変性断裂では関節円板の穿孔タイプが多いとされ、外傷性の断裂では橈骨付着部に、変性は中心部に多いと言われています。また、慢性TFCC損傷患者のMRI 所見から、尺側手根伸筋腱(ECU)あるいは遠位橈尺関節(DRUJ)障害がTFCC断裂に高頻度(26-52%)に合併するという説もあり、注意を要します。*3

構成体としては、関節円板(articular discまたはTFC)、メニスカス類似体(meniscus homologue:MH)、三角靭帯(triangular ligament)、尺骨三角靭帯(ulnotriquetral ligament)、尺骨月状骨靭帯(ulnolunate ligament)、掌側および背側橈尺靭帯(volar/dorsal radioulnar ligament)、尺側側副靭帯(ulnar collateral ligament)が挙げられます。中村によると、立体的にはハンモック状の遠位component、橈尺間を直接支持する三角靭帯(橈尺靭帯)、機能的尺側側副靭帯である尺側手根伸筋腱腱鞘床と尺側関節包で構成されるとしています。*4

*3
山藤 滋 : 三角線維軟骨複合体損傷に合併した尺側手根伸筋腱障害と遠位橈尺関節障害のMRI所見. 第58回日本手外科学会学術集会 一般演題27:TFCC(診断)
*4
中村俊康:手関節三角線維軟骨複合体の機能解剖学および組織学的研究.日整会誌.1995; 69: 168‒180.
図 三角線維軟骨複合体(TFCC)の解剖
図 三角線維軟骨複合体(TFCC)の解剖

三角線維軟骨複合体(TFCC)の観察法

では、前腕の尺側手根伸筋腱(ECU)を目印にしながら、手関節尺側に長軸で観察してみましょう。尺側手根伸筋腱(ECU)は、テニス選手の73%で不安定性があるとの発表もあり*5、尺側に痛みがある場合には、最初に観察すべき部位であると考えています。尺骨と三角骨を画面上に表示すると、その奥に月状骨が観察されます。プローブをやや月状骨の方向へ微調整すると、メニスカス類似体とその深部に三角靭帯の線維の束(fibrillar pattern)を観察することができます。三角骨に接する部分には、低エコー域の関節円板(TFC)を観ることができます。また、尺側側副靭帯は、靭帯というより関節包の一部として捉えられています。

*5
Sole JS, Wisniewski SJ, Newcomer KL, Maida E, Smith J. Sonographic evaluation of the extensor carpi ulnaris in asymptomatic tennis players.PM R 2015; 7:255–263.
図 三角線維軟骨複合体(TFCC)の長軸走査
図 三角線維軟骨複合体(TFCC)の長軸走査

この画像は、実は私自身の手です。手関節を尺屈動作してみると、滑液が側副靭帯を尺側に押し上げ、関節円板が三角骨に沿ってせり上るように移動するのが観察されました。永年テニスのラケットを握っていた右手は、滑液の動きが大きく、三角靭帯が柔軟性に欠け、緩慢に動作する様子が観察されました。これらの点については、解剖学的にそのような傾向があるのか、観察症例数を増やして結論したいと考えており、まだまだ仮説です。動態で観察すると、三角線維軟骨複合体(TFCC)のクッションのように弾力性のある様子や、滑液の移動も観ることができます。三角線維軟骨複合体(TFCC)は運動器超音波の中ではまだまだ未開拓の部位で、これらの現象を動態解剖学(勝手にそう呼んでいます)として考察していけば、拘縮や痛みの治療に役立つ新しい発見があると考えています。
では、三角線維軟骨複合体(TFCC)を背側から掌側へ観察してみます。

図 三角線維軟骨複合体(TFCC)背側から尺側の長軸画像
図 三角線維軟骨複合体(TFCC)背側から尺側の長軸画像

尺屈の動態観察で観ると、三角線維軟骨複合体(TFCC)は三角骨を回り込むように移動して、尺側に凸になる様子が観察されました。高周波数のプローブを使うと、微細な断裂や軽度の滑膜炎も捉えることができ、治療に役立つ情報が溢れています。もはや、「三角線維軟骨複合体(TFCC)はわからない」とは言えなくなってきたと考えています。

三角線維軟骨複合体(TFCC)の観察の場合、表在から近い位置にある事や、手関節の運動を併用しながらの観察を許容するために、ゲルを多めに塗布するか、音響カプラ(ゲルパッド)を利用しての観察が大切となります。超音波の読影を難しくしているのは、実はこの様な超音波の工学的な原理を補完する、ちょっとした工夫の欠如にもあると考えています。デジタル技術の進歩で画質も格段に向上して手軽に観察が可能な超音波ですが、このような工夫で、さらに明瞭な画質に向上させることができるわけです。アナログの機器で水槽に手を沈めながら観察実験を始めた、私の経験からのアドバイスです。

手関節の靭帯について

遠位橈尺靭帯は尺骨茎状突起からなり、橈骨月状関節面の尺側縁に付着しています。掌側と背側に分かれて関節円板を支持している構造です。これらの靭帯によって関節円板は橈骨月状関節面と一体となっており、前腕の回内・回外時に動く事はありません。*7

*7
超音波でわかる運陶器疾患 皆川洋至 メジカルビュー社

あらためて手関節の橈屈、尺屈を考えると、橈屈は15°、尺屈は40~45°で、尺屈の可動域は橈屈の可動域の2~3 倍ということになります。手関節動作の回転中心軸は、掌屈・背屈および橈屈・尺屈も共に有頭骨近位であることが知られており*8、橈骨に対して近位列の手根骨は尺側に滑り運動が起こり、尺屈時においては三角骨の尺側移動を三角線維軟骨複合体(TFCC)が防いでいるとしています。

*8
Youm Y, McMurthy RY, Flatt AE, et al. Kinematics of the wrist. 1. An experimental study of radial-ulnar deviation and flexion-extension. J Bone Joint Surg Am. 1978 Jun;60(4):423-31.
図 手関節の解剖 掌側の骨と靭帯
図 手関節の解剖 掌側の骨と靭帯

掌側橈尺靭帯の観察法

では、三角線維軟骨複合体(TFCC)を構成する掌側橈尺靭帯を観察してみたいと思います。プローブを短軸に尺骨茎状突起を描出して支点にしてから、橈骨月状関節面の尺側縁を目指して微調整をしていきます。中間位から回外位へ動態観察してみると、掌側橈尺靭帯が伸張されていく様子を観察することができます。靭帯の肥厚や瘢痕化に注意をしながら、制限されずに円滑に動作するかを観察します。遠位橈尺関節不安定性がある場合、動作時に轢音がすることもあり、回外時に尺骨頭が掌側へ移動できなくなる尺骨突き上げ症候群(尺骨の橈骨に対する相対長が長い)と併せて、注意をして観察します。

図 掌側橈尺靭帯の観察法
図 掌側橈尺靭帯の観察法

掌側尺骨手根靭帯の観察法

続いて、掌側尺骨手根靭帯を考えてみます。前述したとおり橈骨手根関節は、橈骨関節面が尺骨方向に25°傾斜しており、橈屈より尺屈の自由度が高くなっています。それを掌側手根間靭帯と掌側尺骨手根靭帯・掌側橈骨手根靭帯とで緊張関係をつくり、手根骨の運動方向を制御しているわけです。尺屈時は、掌側手根間靭帯の外側脚および掌側尺骨手根靭帯の伸張が起こり、橈屈時は、対角にある掌側手根靭帯の内側脚および掌側橈骨手根靭帯が伸張されバランスを取っているという、実に良くできたシステムです。

図 掌側尺骨手根靭帯の観察法
図 掌側尺骨手根靭帯の観察法

月状骨には近位端に特徴的な少し隆起した形状があり(骨標本があれば遠位から近位に触知してみて下さい)、掌側尺骨手根靭帯の付着部として目印になります。三角骨側は豆状骨に潜りこむように線維の模様が観察されます。いずれも、浅層と深層に連結を強めた構造の組織に観えます。この点については、解剖学的に更に研究が必要です。

中間位から回外位に動作させると、掌側尺骨手根靭帯は緊張していきます。前々回の橈骨遠位端骨折と回外制限の話の時にも触れましたが、林先生らの研究*9によると、前腕回外運動に伴い尺骨は橈骨に対して回内しながら掌側へ移動し、橈骨よりも掌側へ突出するとして方形回内筋の柔軟性の必要性を指摘していましたが、さらに三角骨に対しても掌側移動しているとの指摘もあり*2、掌側尺骨手根靭帯の柔軟性も回外動作には大事という事が解りました。

*9
笠野 由布子,林 典雄. 前腕回外運動に伴う尺骨遠位部の動態分析 超音波を用いた観察 第25回東海北陸理学療法学術大会O-18

海外の論文を探してみると、「手関節の靭帯及び三角線維軟骨複合体(TFCC)の大部分は、超音波で評価することができる」という論文が出てきています。やはりその中で、ゲルを多量に使用すること、検査する構造物にプローブを垂直にしなければならないこと、そして動態観察の必要性を強調しています。*10
また、Taljanovicらによると、関節円板は中央より末梢が厚く、中央穿孔を有していても良いとしており、三角線維軟骨複合体(TFCC)の障害は、臨床診療において頻繁に見られるとしています。但し、中村らのハンモック構造が正しいのであれば、この論文中でのTFCの解説位置は少し違うように感じており、検討の余地があります。*11

三角線維軟骨複合体(TFCC)に限らず、加齢性変化や異常な変性の境界を見極めるには、ドプラ機能による血流情報も積極的に活用し、そして何より、静止画ではなく動態を解剖学的な視点で観察する姿勢が大切で、それらの固定観念にとらわれない自由な発想が新しい評価方法を生み出すと考えているところです。

*10
Renoux J, Zeitoun-Eiss D, Brasseur JL. Ultrasonographic study of wrist ligaments: review and new perspectives. Semin Musculoskelet Radiol 2009;13(1):55–65.
*11
Taljanovic MS, Goldberg MR, Sheppard JE, Rogers LF. US of the intrinsic and extrinsic wrist ligaments and triangular fibrocartilage complex—normal anatomy and imaging technique. Radiogr Rev Publ Radiol Soc N Am Inc. 2011, 31: e44.

尺側手根伸筋が三角線維軟骨複合体を支えており、それに沿って三角骨の関節面を抑えているのが観察されます。メニスカス類似体とその深部の三角靭帯と関節円板では、硬さの違いからか、動き方が違うのが解ります。この仕組みについては、さらに解剖学的な研究が必要です。
この観察も、超音波による動態解剖学の視点での考察をしていけば、治療に対する情報や、今後の注意点も検討することができる良い例です。やはり運動器の超音波観察では、動態観察が大切であるということです。

静止画と動画 三角線維軟骨複合体の観察法 橈屈と尺屈の動き

さて、まとめです。
今回の観察法でポイントとなる事項をまとめると、下記のようになります。

  • 三角線維軟骨複合体(triangular fibrocartilage complex: TFCC)の高齢者での変性断裂は、関節円板の穿孔タイプが多いとされ、外傷性の断裂では橈骨付着部に、変性は中心部に多いと言われている
  • 慢性TFCC損傷患者のMRI 所見から、尺側手根伸筋腱(ECU)あるいは遠位橈尺関節(DRUJ)障害がTFCC断裂に高頻度(26-52%)に合併するという説もある
  • 中村によるとTFCCは、立体的にはハンモック状の遠位component、橈尺間を直接支持する三角靭帯(橈尺靭帯)、機能的尺側側副靭帯である尺側手根伸筋腱の腱鞘床と尺側関節包で構成されるとしている
  • TFCCの長軸での観察法は、尺側手根伸筋腱(ECU)を目印に行う
  • 尺側手根伸筋腱(ECU)は、テニス選手の73%で不安定性があるとの発表がある
  • 尺屈の動態観察で観ると、三角線維軟骨複合体(TFCC)は三角骨を回り込むように移動して、尺側に凸になる様子が観察される
  • 三角線維軟骨複合体(TFCC)の観察は、表在から近い位置にある事や、手関節の運動を併用しながらの観察を許容するために、ゲルを多めに塗布するか、音響カプラ(ゲルパッド)を利用して観察する
  • 掌側橈尺靭帯の観察は、プローブを短軸に尺骨茎状突起を描出して支点にしてから、橈骨月状関節面の尺側縁を目指して微調整する
  • 掌側尺骨手根靭帯の観察は、付着部として目印になる月状骨近位端の特徴的な少し隆起した形状を、三角骨側は豆状骨に潜りこむように観える線維の模様が描出されるように注意してプローブを調整する

次回も「上肢編 前腕・手関節の観察法」の続きとして、少し戻って伸筋支帯の区画に基づいて、考えてみたいと思います。

情報提供:(株)エス・エス・ビー

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