運動器超音波塾【第21回:前腕と手関節の観察法7】
株式会社エス・エス・ビー
超音波営業部マネージャー
柳澤 昭一
近年、デジタル技術により画像の分解能が飛躍的に向上した超音波は、表在用の高周波プローブの登場により、運動器領域で十分使える機器となりました。この超音波を使って、柔道整復師分野でどのように活用できるのかを、超音波の基礎からわかりやすくお話してまいります。
第二十一回 「今年も桜が満開だ」の巻
―上肢編 前腕と手関節の観察法について 7―
この所の温かさは5月並みの陽気ということで、先日の突然の雪景色が嘘のような、つくば市です。窓からは、隣にある農業関係の試験研究機関が集まった農林水産省筑波研究団地の桜がほころんできているのが観えます。ここにある「農林さくら通り」は地元でも有名なお花見スポットで、1.5㎞の通り沿いに染井吉野を中心に八重桜や山桜など500本の桜が咲いて、家族連れや大学のゼミ生、昼休みの我々もお弁当を持参して楽しんでいます。少し風のある日は桜吹雪となって、路面全体がピンク色に染まります。雪化粧の静かで清々とした景色とはまた違った、華やかですこしドキドキする季節です。
お花見のルーツは奈良時代の貴族の歌会で、梅を愛でたのが始まりだそうです。それが、酒宴となったのは豊臣秀吉の「醍醐の花見」あたりから。一般庶民に広まったのは、徳川吉宗が浅草や飛鳥山に桜を植林してからというのが通説のようです。かたや農村では「春山入り」、「岳参り(タケマイリ)」として、田の神や作神をお迎えする豊作祈願の儀式としての酒宴があり、野山に出かけて行って花見や飲食をして山遊びをする風習があったようです。それがやがて神楽や様々な郷土芸能、神事がおこなわれる伝統行事にもなっていったわけです。
民俗学者の折口信夫は、「花という語は、簡単に言うと、ほ・うらと意の近いもので、前兆・先触れというくらいの意味になるらしい」と書いており、サという田の神の神座(クラ)を意味するサクラの、その花の咲き具合や散り方などでその年の豊凶を占い、花見や山登りも単なる娯楽ではなく占いや神事のためになされたとの話があります。*1そのようなわけで桜は穀物の神の依代(よりしろ)として、大切に守り続けられてきたわけです。
また、これらの風習は農耕社会でのその年の労働開始前の行事でもあり、古来、人の霊魂は死後に山にのぼると信じられてきたことにより、秋の豊作を願って田の神や祖先の霊をお迎えに山登りするという意味があったわけです。民俗学者の飯島吉春によると『常陸国風土記』の中に筑波山での歌垣(うたがき : 特定の日時に若い男女が集まり、相互に求愛の歌謡を掛け合う呪的信仰に立つ習俗)の記事があり、「岳参り」の若い男女が未婚の間毎年山に参って花を摘んでは持ち帰り供えるというのは、若者に結婚の機会を与える風習としての古代の歌垣に連なるものでもあったとしています。*2そうやって考えてみると今の我々のするお花見は、一見、神事としての側面は薄れ春の行楽行事になっているようですが、その実、根底には古来より脈々と受け継がれた確かな流れがあるのだと感じました。
4月になると入学式や入社式など、日々の暮らしの中にも新しい風が吹き始めます。ともすれば流されがちになる日々にアクセントをくれる四季豊かなこの地に感謝しながら、今年もお花見で大自然からの精気をたくさん頂いて、ぼちぼち歩いて参りましょうか。レゾンデートル(raison d’ etre:生きている意味、存在理由)なんてあまり難しく考えずに、伸び伸びと道草を楽しみながら歩んで行ければと想っています。え、花見酒でとっくに千鳥足だって。
- *1
- 折口信夫「花の話」『折口信夫全集』2 巻 中公文庫版1975
- *2
- 飯島吉晴「花祭りと山遊び」天理大学考古学・民俗学研究室紀要 19, 57-64, 2015-03
今回の「運動器の超音波観察法」の話は「前腕と手関節の観察法」の続きとして、中手骨と手内在筋に基づいて、考えてみたいと思います。
中手骨とCM関節、MP関節の解剖
中手骨は、左右の手根骨の遠位に5本ずつ存在する細長い管状骨で、橈側から尺側へ向けて第1中手骨(母指中手骨)、第2中手骨(示指中手骨)、第3中手骨(中指中手骨)、第4中手骨(環指中手骨)、第5中手骨(小指中手骨)となっています。
手根骨との関節は、手根中手関節(carpometacarpal joint)或いはCM関節と呼ばれ、第1中手骨とそれ以外の第2~第5中手骨の手根中手関節が区別されています。第1中手骨の手根中手関節は、屈伸と内転(母指を第2指に近付ける)・外転(母指を第2指から離す)を行い、また屈伸と内外転の組合せに少しの回旋を伴った描円運動(円錐状に回転させる動作)も行うとされており、関節の自由度が高いのが特徴です。これに対して第2、3中手骨の手根中手関節には可動性はほとんどなく、第4、5中手骨の関節は若干の可動性により母指との対立運動での横アーチの増減に関与しています。*3
基節骨底との関節は中手指節関節(metacarpophalangeal joint)或いはMP関節と呼ばれ、手根中手関節の関節包が共通で関節腔が互いに通じているのに対して、MP関節の場合、関節包と関節腔は各指で独立しています。中手骨頭の軟骨は180°と広く基節骨の軟骨は30°と少ない球関節の形態であることで、大きな可動域を有しています。このことにより、屈伸運動の他に伸展位では内転・外転運動も可能となっていますが、屈曲位にすると側副靭帯が緊張して内転・外転運動ができなくなるのが特徴です。*4
- *3
- 船戸和弥のホームページ
http://cal.med.keio.ac.jp/spalteholz/J320.html - *4
- 林典雄 運動療法のための機能解剖学的触診技術 上肢 メジカルビュー社
手内在筋の解剖
手内在筋(手内筋)は、手根骨或いは手指骨(手関節より遠位)に起始・停止を持つ筋肉のことを呼びます。手内在筋は前腕筋群(手外在筋)の力を巧みに制御して、手指の複雑で精緻な機能を実現しています。母指球を形成する母指球筋、小指球を形成する小指球筋、その間に存在する中手筋の3群に分類されます。
母指球筋は①短母指屈筋(flexor pollicis brevis)、②短母指外転筋(abductor pollicis brevis)、③母指対立筋(opponens pollicis)、④母指内転筋(adductor pollicis)の四つ、小指球筋は①短小指屈筋(flexor digiti minimi brevis)、②小指外転筋(abductor digiti minimi)、③小指対立筋(opponens digiti minimi)、④短掌筋(palmaris brevis)の四つで、中手筋は①虫様筋(lumbricalis muscle)、②背側骨間筋(dorsal interosseous)、③掌側骨間筋(palmar interosseous)の三つで構成されています。
母指球筋(thenar muscles)の主な機能としては、短母指屈筋が母指の手根中手関節と中手指節関節で母指を屈曲させ、短母指外転筋が母指の手根中手関節で母指を外転させます。母指対立筋は母指の手根中手関節で母指を小指に合わせる(対立)働きをして、母指内転筋は、手根中手関節と中手指節関節で母指を内転します。
小指球筋(hypothenar muscles)の主な働きは、短小指屈筋が小指中手指節関節で屈曲を行い、小指外転筋が小指の手根中手関節で小指を外へ開く外転と短小指屈筋と伴に屈曲にも関与しています。小指対立筋は小指の手根中手関節で小指を母指の方に近づける(小指対立)働きをして、短掌筋は手掌腱膜を緊張させて手根部を安定させ、小指球の皮膚を寄せるとされています。
中手筋の主な機能としては、掌側骨間筋がMP関節の屈曲とわずかにDIPの伸展、指を閉じる(内転) 働きをして、示指、環指および小指を中指側へ引き寄せます。背側骨間筋はPIP関節の伸展と、指を広げる(外転) 働きがあり、中指を固定し、示指と環指を外へ広げ手を開きます。背側骨間筋は掌側骨間筋よりボリュームがあり、これによって指を広げる力の方が強いとされています。虫様筋はMP関節(中手指節関節)をわずかに屈曲し、DIP関節を伸展させ、PIP関節にもわずかに働きます。
虫様筋について
ラテン語での「ミミズ」を意味する「lumbricus」から名付けられた虫様筋は、骨ではなく深指屈筋腱の側面から起始し、主に末節骨の指背腱膜に停止することにより、伸筋腱の活動と指関節の位置に依存する事でその機能を特定するのが難しいとされています。*5
虫様筋は、屈筋腱を伸筋腱に接続するという意味での特異な筋肉と考えられます。更に理解を難しくしているのは個体差で、大部分の人は教科書の解剖学的構造からわずかに逸脱しているとの話があります。75手を調べた解剖研究によると、時には前腕部または中手骨から、または深指屈筋腱の代わりに表面から出現し、第3および第4虫様筋は2つではなく1つの腱から由来している場合があるとされています。*6
虫様筋の構造を調べていくと筋紡錘の密度が高いことで、感覚フィードバックとして重要な役割を果たしているのが解りました。*7
更に別の論文では、「大きな筋肉と並行して関節を横切って作用する小さな筋肉は大きな筋肉より筋紡錘の密度が高い傾向にある」と書いているものがありました。*8
虫様筋は物理的な動力源としての筋肉と捉えずに、感覚器としての役割が重要な筋肉と考えるべきなのでしょうか。第1、2虫様筋が母指同様に正中神経の支配を受けている事も、協調して示指・中指を動かす必要性からと考えると意味があるように思います。いずれにしてもこれらの構造によって繊細な指先の動きが実現されているのはどうやら間違いないようです。この点については、さらなる研究が必要です。
- *5
- Keming Wang, Evan P. McGlinn, Kevin C. Chung. A Biomechanical and Evolutionary Perspective on the Function of the Lumbrical Muscle. J Hand Surg Am. 2014 Jan; 39(1): 149–155.
- *6
- Mehta HJ, Gardner WU. A study of lumbrical muscles in the human hand. Am J Anat. 1961;109:227–238.
- *7
- Leijnse JN, Kalker JJ. A two-dimensional kinematic model of the lumbrical in the human finger. J Biomech. 1995;28:237–249.
- *8
- Peck D, Buxton DF, Nitz A. A comparison of Spindle Concentrations in Large and Small Muscles Acting in Parrallel Combinations. J Morphol. 1984;180:243–252.
「猿手(ape hand)」について
正中神経は手にとって最も重要な神経で、正中神経の傷害は、鋭敏な感覚と巧緻性を要求される手にとって致命的なダメージになります。正中神経は、母指(親指)から環指母指側1/2までの掌側の感覚を支配し、前腕部では前腕の回内や手首の屈曲、手指の屈曲、さらに手部では母指の付け根の筋肉(母指球筋)などを支配しています。*9
正中神経麻痺で母指球が委縮して内転拘縮を起こすことで母指が屈曲および外転ができなくなります。それによって、母指が示指側に偏位して揃った状態になり、母指対立が不能となることで「猿手(ape hand)」と呼ばれています。サルはこの母指対立運動ができず、母指球がそれほど発達していないことで平坦な形状をしているためです。
バイオメカの研究によると、これまでチンパンジーは親指が短くそれ以外の指が長いため、指つまみ(pincer grip)が難しいとされてきました。が、どうやら小さい物を掴むときには使っているようです。ただし、上手くできない理由として、第一背側骨間筋の起始が第一中手骨底に限られていることで、内外転させる作用がほとんどないとの事です。ヒトの場合、第一背側骨間筋は中手骨体の近位半分まで広く付着しているので、内転作用が大きいとしています。この違いによって、ヒトは第一背側骨間筋を背側方向に使うことができ、チンパンジーは掌側方向にしか力を入れられないわけです。*10
ただし、進化の過程においてヒトの手はチンパンジーと共通の祖から分裂して以来、それほど変わっていないという研究があり、チンパンジーは逆に樹上生活に適応して進化しているとしています。*11
チンパンジーと比較してヒトの手は未発達で原始的というのはなかなか衝撃的な話です。
- *9
- 日本整形外科学会HP 症状・病気をしらべるより
https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/radial_nerve_palsy.html - *10
- 荻原 直道,工内 毅郎,中務 真人:チンパンジー手部構造の解剖学的精密筋骨格モデル, バイオメカニズム 18, 35-44, 2006-09-15
- *11
- Sergio Almécija, Jeroen B. Smaers, William L Jungers: The evolution of human and ape hand proportions, Nat. Commun. 6:7717 doi: 10.1038/ncomms8717 (2015).
母指CM関節の超音波観察法
第1中手骨の中枢よりには、母指CM関節(carpometacarpal joint)があります。母指の付け根が痛くなる母指CM関節症は、高齢化に伴い変性疾患として増加しています。この母指CM関節は鞍関節(saddle joint)と呼ばれ、母指対立運動を可能とするため靭帯の緩みを有しています。そのため、他の指にはできないローリング動作が可能で、自由度が高いわけです。肩関節が自由度と引き換えに他の関節よりも脱臼が多いのと同様に、逆に言えば母指CM関節も生理的緩みが不安定性となり、日常動作でよく使うことや加齢に伴って変性しやすい構造、ということになります。疫学でもDIPのへバーデン結節の次に多い関節炎とされています。この傷病についても、早期発見が重要となります。
観察時の目印としては、母指の爪があります。母指を上から見ると爪の幅の面に垂直方向に屈伸の軸があり、長母指屈筋腱(FPL)が走行しています。長母指屈筋腱(FPL)を確認後、やや橈側、近位方向にプローブを移動すると、第一中手骨基底部からは前斜靭帯AOL(或いはbeak靭帯)が大菱形骨隆起部の尺側に帯状に付着しているのが観察されます。この靭帯は、母指CM関節の重要な安定機構といわれており、浅層と深層の2層構造を持つとされています。外転・内転動作を行い観察すると、このbeak靭帯が緊張・弛緩する状態を観ることができます。この位置で骨棘や関節の狭小、剥離骨片や靭帯断裂の有無にも注意をして観察していきます。更にはドブプラ機能で、毛細血管の拡張の有無(炎症所見)も観察することが大切です。
また、最近の研究によると、母指CM関節の背橈側にある背橈側靭帯(Dorsoradial ligament DRL)も安定性に重要ということで、外転では前斜靭帯AOL、内転・屈曲では背橈側靭帯DRLが最も緊張するとの報告があり、併せて観察することが大切です。*12
- *12
- Halilaj, E., Rainbow, M.J., Moore, D.C. et al, In vivo recruitment patterns in the anterior oblique and dorsoradial ligaments of the first carpometacarpal joint. J Biomech. 2015;48:1893–1898.
母指CM関節の背橈側にある背橈側靭帯(Dorsoradial ligament DRL)は、大菱形骨結節のほぼ反対側に位置しています。
母指球筋(thenar muscles)と長母指屈筋腱(FPL)の超音波観察法
母指球筋(thenar muscles)には長母指屈筋腱(FPL)が走行しており、プローブの傾きを調整すると高エコーに描出されることから目印になります。母指に直交させる形で母指球にプローブを置くと、第1中手骨と長母指屈筋腱(FPL)が比較的簡単に描出されます。長母指屈筋腱(FPL)の断面は卵円形で、この時、プローブの角度を長母指屈筋腱(FPL)に垂直に合わせると高エコーに腱の実質が描出されます。更に母指を屈伸させると、周囲の筋組織と長母指屈筋腱(FPL)が動作するのが観察されます。
短母指外転筋(APB)は母指球の浅層、短母指屈筋(FPB)の橈側にあるために、比較的理解しやすい位置にあります。母指対立筋(OPP)は短母指外転筋(APB)と短母指屈筋(FPB)の深層にあります。母指内転筋(ADP)も深層筋でやや内側にあり、尺側種子骨から広がる様子が解ります。*13
いずれの筋も走行に対して垂直にプローブを微調整すると、高エコーに筋内腱などが描出され理解しやすくなります。ただし母指球筋を構成する筋肉は筋膜による境界を有せず、各々の筋の走行が違うことで、必ずしも1画面で全ての筋肉が高エコーに描出されることはありません。さらに筋相互の位置関係にも個体差があり、どうやら解剖の教科書通りにはいかないようです。*14
つまり、実際に滑走する様子で境界を理解するようにして、それぞれの筋を緊張・弛緩させながらの動態観察をすることがポイントとなるわけです。
次に長母指屈筋腱(FPL)を画面中心にして、プローブを90°回しながら長軸像を観察していきます。この場合、母指を先端から観察して爪の幅の垂直方向にプローブが入射するように母指球に対して約60°寝かせるようにします。長母指屈筋腱(FPL)の長軸が捉えられたら、画面上の腱の走行が平行になるようにプローブを調整すると、高エコーに一様な線維の模様を観ることができます。同様に母指を屈伸させると、母指球の中を滑走する長母指屈筋腱(FPL)の様子が解ります。
- *13
- 皆川洋至 超音波でわかる運動器疾患 メジカルビュー社
- *14
- 野田和恵.ヒト母指対立筋の 肉眼解剖学的観察. 神大医保健紀要 第15巻,55-58.1999.
この位置での注意事項として、肘部管症候群、ギヨン管症候群、手掌部尺骨神経障害があります。手掌部尺骨神経障害はガングリオンや腫瘍、血管障害、破格筋、豆鉤靭帯での絞扼性ニューロパチー(小指外転筋は豆状骨および豆鉤靭帯に起始しています)、外傷や小指球への持続的圧迫などが原因とされ、障害部位も症状も多岐にわたるとさています。*15.16
- *15
- Uriburu IJ, Morchio FJ, Marin JC. Compression syndrome of the deep motor branch of the ulnar nerve (piso-hamate hiatus syndrome). J Bone Joint Surg Am 1976;58:145–7
- *16
- Christiaanse EC, Jager T, Vanhoenacker FM, et al. Piso-hamate hiatus syndrome. JBR-BTR 2010;93:34.
では、小指外転筋(abductor digiti minimi)の動画です。
この画像も私の手ですが、いわゆる「指がつった状態(痙攣)」で、外転動作を繰り返し実験している最中での出来事でした。筋組織が異常収縮を起こしている様子が良く解ります。
それでは、まとめです。
今回の観察法でポイントとなる事項をまとめると、下記のようになります。
- 虫様筋は屈筋腱を伸筋腱に接続するという意味での特異な筋肉と考えられ、個体差も多く、解剖研究によると、時には前腕部または中手骨から、または深指屈筋腱の代わりに表面から出現し、第3および第4虫様筋は2つではなく1つの腱から由来している場合がある
- 虫様筋は筋紡錘の密度が高いことで、感覚フィードバックとして重要な役割を果たしている
- 母指の付け根が痛くなる母指CM関節症は、高齢化に伴い変性疾患として増加しており、DIPのへバーデン結節の次に多い関節炎とされている
- 母指CM関節の観察時の目印として母指の爪があり、母指を上から見ると爪の幅の面に垂直方向に屈伸の軸があり、長母指屈筋腱(FPL)が走行している
- 長母指屈筋腱(FPL)を確認後、やや橈側、近位方向にプローブを移動すると、第一中手骨基底部からは前斜靭帯AOL(或いはbeak靭帯)が大菱形骨隆起部の尺側に帯状に付着しているのが観察される
- 母指CM関節の背橈側にある背橈側靭帯(Dorsoradial ligament DRL)も安定性に重要で、外転では前斜靭帯AOL(或いはbeak靭帯)、内転・屈曲では背橈側靭帯DRLが最も緊張するとの報告があり、併せて観察することが大切である
- 背橈側靭帯(Dorsoradial ligament DRL)は、大菱形骨結節のほぼ反対側に位置している
- 母指CM関節症の観察では、滲出液、滑膜肥厚、びらん、骨棘、関節軟骨欠損、脱臼、または骨の変位の状態に注意をする
- 母指球(thenar muscles)の観察は、第1中手骨と長母指屈筋腱(FPL)が目印となる
- 母指球筋を構成する筋肉は筋膜による境界を有せず、各々の筋の走行が違うことで、必ずしも1画面で全ての筋肉が高エコーに描出されることはない
- 母指球筋相互の位置関係にも個体差があり、実際に滑走する様子で境界を理解するようにして、それぞれの筋を緊張・弛緩させながらの動態観察をすることがポイントとなる
- 長母指屈筋腱(FPL)の長軸の観察法は、母指球に対してプローブを約60°寝かせるように傾けると線維が高エコーに描出される
- 小指球筋(hypothenar muscles)の超音波観察法は、掌側からの短軸画像で解剖学的に観ていくと理解しやすくなり、目印とするのは第5中手骨と尺骨神経、尺骨動脈となる
- 小指球筋(hypothenar muscles)の注意事項として、肘部管症候群、ギヨン管症候群、手掌部尺骨神経障害があり、手掌部尺骨神経障害はガングリオンや腫瘍、血管障害、破格筋、豆鉤靭帯での絞扼性ニューロパチー(小指外転筋は豆状骨および豆鉤靭帯に起始している)、外傷や小指球への持続的圧迫などが原因とされ、障害部位も症状も多岐にわたるとさている
次回は「上肢編 前腕・手関節の観察法」の続きとして、虫様筋・骨間筋、MP関節に基づいて考えてみたいと思います。
情報提供:(株)エス・エス・ビー
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