運動器超音波塾【第26回:股関節の観察法1】
株式会社エス・エス・ビー
超音波営業部マネージャー
柳澤 昭一
近年、デジタル技術により画像の分解能が飛躍的に向上した超音波は、表在用の高周波プローブの登場により、運動器領域で十分使える機器となりました。この超音波を使って、柔道整復師分野でどのように活用できるのかを、超音波の基礎からわかりやすくお話してまいります。
第二十六回 「ひよこだってかわいいぞ」の巻
―下肢編 股関節の観察法について 1 ―
新しい年を迎え今年は元号も変わるということで、今朝の通勤途中の裏道で見かけた野兎も、猛スピードでどこかへ疾走していきました。何かと周囲は、慌しく動いているようで、今年もあっという間の一年ということになりそうです。
我が家は子供たちや家内が正月早々に風邪をひいて順番に寝込み、とうとう私以外は全員が寝込むという状況に陥っています。インフルエンザの予防接種は冬休みで戻ってきた長男以外全員で受けており、医師の診断もインフルエンザではないとの事でしたが、我が家は非常事態宣言発令中です。そんなわけで、久々にペティナイフを握って、玉ねぎやほうれん草を刻んでいます。
鳥ガラでスープを作ろうかと想っていた時に、そう言えばニワトリは卵をはじめとして唐揚げや焼き鳥、フライドチキンなど、ほぼ毎日食しているのにもかかわらず、その姿を普段あまり観る機会が無くなってきた事に気づきました。ニワトリは鶏と書き、le coq sportif (ルコックスポルティフ)のジャージを着ていたこともあったので、農業国フランスの国鳥ということは知っていました。子供のころ、近所に孵卵場(ふらんじょう : 卵をヒナに孵化(ふか)させる所)があって、小学校からの行き帰りの途中でのぞくと、ひよこが溢れかえるほどいて、鳴き声がこだましていたのを想い出します。また、その頃に夜店のひよこを買ってもらって、あっという間に鶏冠(とさか)が生えてきたと想っていると、いつの間にかいなくなって、なぜか鳥料理が続く。どうやらその頃から、鶏に限らず、食用となる動物には入れ込まないようにする安全装置が、どこか自分の中にはあったようです。
袋田の滝がある北茨城の奥久慈は、「奥久慈しゃも」という地鶏で有名です。全国の地鶏がブロイラー(出荷サイクルを早めるためにアメリカで開発された外国種)との掛け合わせが多いのに対して、「奥久慈しゃも」は、江戸時代にシャム(現在のタイ)から輸入されたニワトリの品種で、気性が荒く、群れで飼うのは難しいそうですが、ぎゅうぎゅう詰めの状態で飼育されて、短期的に大量生産されるブロイラーとは大きく異なり、放し飼いで健康的且つ大切に育てられるということで、味が全く違う。深い。とにかく美味しい。
日本三名瀑の袋田の滝も氷瀑が観られ、5~6割ほどが凍結したとの一報が届いています。1年で一番寒いのは1月中旬から2月上旬との統計があり、まだまだ寒い日が続きそうです。
七十二候の鶏始乳(にわとりはじめてとやにつく)は、本来鶏は冬には卵を産まず、春が近づくと卵を産む事から来ているそうです。朝を告げる鶏は神聖な対象として弥生時代に渡来し、古墳時代には埴輪も作られ、最古級の古墳からも出土*しています。卵を取り、その後卵を産まなくなった鶏を食べる習慣が日常的に行われ、飛鳥時代に肉食禁止令が発令されてからも、ひっそりと卵と採卵終了後の鶏を食べる習慣は続いたとされています。やがて鶏は闘鶏にも使われてその結果で吉凶を占っていたようですが、江戸時代辺りからは庶民も水炊きなどにして食用が進み、今日まで品種改良が続けられてきました。そのような訳で、家禽(かきん)として古来より身近にいた鶏は、伊藤若冲はじめ数多の日本人画家も題材として取り上げ、愛でてきたわけです。我々も、そういった命を頂く事への感謝の気持ちを忘れず、鶏を愛でられれば良いなと思います。
どうやらこんなことをボーっと想っているのも、さっきから関節が少し疼き始めたのも、とうとう私に順番が回ってきたせいなのかもしれません。おっと、気を付けないと指を切りそうだ。
- *
- 賀来孝代 2002「埴輪の鳥」『日本考古学』第14号 日本考古学協会 pp.37-52
今回の「運動器の超音波観察法」の話は「股関節の観察法1」として、前方走査について考えてみたいと思います。股関節の観察法は難しく感じられる方も多いようなので、道草を食いながら丁寧に話を進めていこうと思います。
運動器超音波の最初の一歩は
運動器の超音波観察の有用性を調べるため、委託研究の技術協力で最初に行ったのは、大学病院での先天性股関節脱臼の症例観察と大学内のスポーツクリニックでの外傷の症例観察でした。先天性股関節脱臼は関節包の過度の弛緩性により大腿骨頭を臼蓋に維持できない状態を指し、寛骨臼、大腿骨頭、股関節周囲軟部組織の状態から1969 年Dunn により分類がなされました。*1
やがて超音波の分類であるGraf 法が1980 年Graf によって、腸骨に沿った直線と腸骨下端と骨性臼蓋嘴(きゅうがいし: 臼蓋外上縁)を結ぶ直線のなす角(α角:骨性臼蓋角)を基準にした先天性股関節脱臼の分類として報告されました。*2、*3
後に、側方から股関節を長軸走査するGraf法と前方から短軸走査する鈴木法が、小児股関節の領域で使用されるようになったわけです。
これらの疾患は、当初は先天性股関節脱臼(congenital dislocation of the hip : CDH)と呼ばれていましたが、関節弛緩と臼蓋形成不全に加えて、出生後に適切でない環境や肢位(腸腰筋やハムストリングスが緊張する股関節、膝関節伸展位)におかれると後天的に脱臼を起こすという説が支配的となり、現在では亜脱臼や脱臼をきたす可能性を有する臼蓋形成不全も含めて、発育性股関節形成不全(developmental dysplasia of the hip : DDH)と呼ばれつつあります。この時の先生からは、日本での症例数が多かったのは、遺伝的な側面と、日本古来よりの着物文化によって、乳幼児が股関節を自由に動かしづらい伸展状態で農作業中などにおんぶひもで背負われ、或いはかごに置かれていた事も影響しているのだろうというお話を伺いました。
また、乳幼児の股関節でのX線CTやMRI検査の場合、お薬を使って眠らせる必要があるのに対して、超音波は継続する画像から1画像良い画像が得られれば良く、やんちゃに暴れている子でも簡単に撮影でき、X線像では確認できない軟骨構造体が明瞭に描出できること、被爆の心配がなく繰り返し観察できるなど、非常に有用であると述べられていたのを想い出しました。
この、乳幼児股関節の観察が運動器超音波の最初の潮流であったように思います。やがて超音波の画質も格段の進歩を遂げ、X線画像を中心とした骨学から軟部組織へと拡がり、動態観察や血流による炎症の観察、エラストグラフィーによる硬さの評価へと繋がって来ました。まだまだ運動器の知りたいことは、たくさんあります。
- *1
- Dunn PM. Congenital dislocation of the hip (CDH): necropsy studies at birth. Proc R Soc Med 1969; 62:1035-1037.
- *2
- Graf R. Classification of hip joint dysplasia by means of sonography. Archives of orthopaedic and traumatic surgery 1984; 102:248-255.
- *3
- Graf R. The diagnosis of congenital hip-joint dislocation by the ultrasonic Combound treatment. Archives of orthopaedic and traumatic surgery 1980; 97:117-133.
股関節前方の解剖
股関節を構成する骨は、腸骨、恥骨、坐骨からなる寛骨と大腿骨ということになります。 ヒトの下肢は、魚類の腹鰭(はらびれ)にその起源を見ることができます。魚類では腹鰭付着部の腹側に骨盤肢帯が存在し、その骨盤肢帯が大きくなり、恥骨・坐骨・腸骨の3 骨が形成され、後に下肢への荷重刺激の増加とともに腸骨が仙骨と結合したと考えられています。この腸骨は、四足動物では仙椎から寛骨臼まで続く細長い形状を示すのに対して、ヒトでは扇状に拡がった形状を示しています。ヒトは二足歩行へと変化したことで、股関節の中間位が変化し上肢が非荷重となりました。そのため、股関節にかかる荷重の方向が大きく変化するとともに、荷重量が著しく増加し、結果として骨盤の形状が幅広く荷重を受け止められる形状へと変化したと考えられています。*4
寛骨は、腸骨、恥骨、坐骨からなり、仙骨で脊柱と連結して骨盤を構成しています。
寛骨の成長過程での変化を見てみると、腸骨、恥骨、坐骨の3つの骨は思春期まではY字軟骨により結合しており、成人になると癒合、骨化して1つの寛骨となります。左右の寛骨は前方では線維軟骨による恥骨結合、後方では仙骨と連結しており、寛骨臼の直下と僅か内方には大きな閉鎖孔があって、閉鎖膜によっておおわれています。成長過程の超音波観察では、これらの変化に注意が必要です。
大腿骨頭は球状をしており、お椀状の窪みの寛骨臼とで球関節を構成しています。更に言えば、球関節の中で関節窩が深く運動の制限されたものを臼状関節(きゅうじょう)と言い、股関節はこれに該当します。大腿骨頭の関節面は、球体のほぼ2/3を占め、約4/5が寛骨臼に収まります。*5
この場合着目すべき点として、骨頭の前方、外側は臼蓋があまり覆っていない為、その方向には構造的に不安定であるということです。
- *4
- 高橋尚明. 股関節の動きを比較解剖学的視点から考える. 理学療法学 第38巻第8号2011; 607-610.
- *5
- 船戸和弥 Rauber-Kopsch解剖学
http://www.anatomy.med.keio.ac.jp/funatoka/anatomy/Rauber-Kopsch/1-30.html
ヒトの股関節は、二足歩行となり片脚立位の姿勢をとるなど、四足動物にはあまり見られない動作を行うことから高い安定性と可動性を両立する機能を有しています。その為に、関節唇や関節包、関節周囲を覆う靭帯によって強固な補強がされています。
股関節の靭帯は、寛骨臼内で大腿骨頭への血液供給を行なう動脈がその中に走行する(閉鎖動脈の寛骨臼枝が通り、小児では大腿骨頭の栄養血管として作用し、成人になると血管は退化し閉鎖する)大腿骨頭靭帯、上部と下部にY字型に広がり350kgに耐える人体最強の靭帯*6である腸骨大腿靭帯、その腸骨大腿靭帯と癒合しながら関節包を補強している恥骨大腿靭帯、後方で股関節内旋や股関節屈曲位での内転の制限要素となる坐骨大腿靱帯があります。
腸骨大腿靱帯、恥骨大腿靱帯、坐骨大腿靱帯は足関節の前距腓靭帯などと同様に関節包内靭帯で、中立位において捻れた状態に走行しているため、股関節伸展位において緊張(伸張)し、屈曲位において弛緩します。したがって股関節は最大伸展位において最も安定することで、ヒトが二足歩行や片脚立位の姿勢がとれることに大きく寄与し、股関節周囲の筋力を補助する作用も備えていると考えられるわけです。*4逆に考えれば、腸骨大腿靭帯が不動により拘縮を生じれば、股関節伸展制限となるわけです。
- *6
- Kaiser G (1958) Die angeborene Hüftluxation. Fischer, Jena, S 7
股関節前方の筋としては、寛骨内にある腸腰筋、上前腸骨棘(ASIS)の下方から始まる縫工筋、下前腸骨棘(AIIS)からと臼蓋上縁から始まる大腿直筋、恥骨櫛(ちこつしつ)およびこれより外方にある恥骨枝の寛骨臼部の面からとその他に恥骨筋膜から起る恥骨筋などが挙げられます。
大腿直筋の臼蓋上縁からの起始腱については、下前腸骨棘からの起始腱の深層に位置し、外側に回転しねじれて筋内腱となるとの報告*8に対して、下前腸骨棘からの起始腱が広がりながら表層の起始腱膜となり徐々に内側にねじれて筋内腱を形成していたとの報告もあり、筋内腱の構造に過去の報告と相違を認め、個体差や人種間差の存在が示唆されたとされています。*9
人体における「ねじれの構造」は、様々な部位で観察することができ、機能解剖を考える上でたいへん重要であると考えています。
- *7
- 日高惠喜,青木光広,他.股関節周囲靭帯の伸張肢位を検討する 拘縮に対する効果的な治療手順を求めて, 日本理学療法学術大会 2012(0), 48101237-48101237, 2013
- *8
- Hasselman CT et al. An explanation for various rectus femoris strain injuries using previously undescribed muscle architecture. Am J Sports Med 1995;23:493-9.
- *9
- 江玉睦明, 影山幾男, 熊木克治. 大腿直筋の筋・腱膜構造の特徴 -肉はなれ発生部位との関連について- 厚生連医誌, 第21巻, 1号 2012, 34-37
股関節の運動方向をみてみると、屈曲・伸展、外転・内転、外旋・内旋の6方向の組合せでできています。
この6つの方向の組合せによって、下肢を下肢帯に対して自由に動かし、それによって膝の屈曲軸を様々な方向に移動させるという働きをしています。また、下肢を固定した場合には上半身を胴から動かし、併せて股関節より上方にある体部の重さを支えています。 股関節の負担は歩行時には、体重の3~4.5倍の負荷がかかり、階段を登る時には、体重の6.2~8.7倍の負荷がかかると言われています。*10*11
股関節の負担を軽減するために股関節は靭帯や筋肉で覆われていますが、年齢を重ねると筋力が衰えてくるので、負担が大きくなって軟骨が摩耗することにより変形性股関節症に至るとされています。
論文を漁っていくと、内蔵の荷重センサおよび遠隔計測装置を備えた股関節インプラントを使用して、同じように、つまずいた時(stumbling)の股関節接触力(負荷)を計測しているものがありました。これによると、驚くべきことに体重の9倍の負荷と報告されています。*12
筋力の衰えにより足が上がらなくなってつまずく事があると、階段を登る時以上の負荷が股関節にかかるわけです。論文中でも、日常的な状況での偶発的なつまずきは、特に股関節置換術や関節症の患者では避けるべきであるとしています。つまりは、つまずかないように足が上げる筋力を維持することが大切ということになるわけです。股関節の屈曲という事で、大腿直筋、腸腰筋、縫工筋、補助としての長内転筋、薄筋、足関節背屈の動作筋である前脛骨筋、長拇趾伸筋、長趾伸筋などの筋力を保つことが、先ずは「転ばぬ先の杖」ということになりそうです。
- *10
- Bergmann G, Deuretzbacher G, Heller M, Graichen F, Rohlmann A, et al. (2001) Hip contact forces and gait patterns from routine activities. Journal of Biomechanics 34: 859–871.
- *11
- Bergmann G, Graichen F, Rohlmann A (1995) Is staircase walking a risk for the fixation of hip implants? Journal of Biomechanics 28: 535–553.
- *12
- Bergmann G, Graichen F, Rohlmann A (2004) Hip joint contact forces during stumbling. Langenbeck’s Archives of Surgery/Deutsche Gesellschaft für Chirurgie 389: 53–59.
股関節前方の超音波観察法
それでは、股関節前方の超音波観察法です。まず全体像を把握するために、前方からの観察をしていきます。
この観察の肢位は仰臥位(背臥位)で、股関節屈曲の場合、大腿骨頭頸部の前捻角によって骨頭が下がり筋肉が緩んでしまうため、股関節中間位(屈曲0度)で観察します。また、骨頭や腸腰筋を触診する場合は、やや伸展位にすると骨頭が前方へ出て理解しやすくなります。この時に、正常ではベッドと腰椎との間に手の平一つ分の腰椎前弯が存在し、腸腰筋拘縮がある場合には腸腰筋に骨盤や腰椎が牽引される事で腰椎前弯の程度が増大するとの話があり、観察前に注意しておきたいポイントです。*13
超音波による観察の場合、観察肢位やこのような下準備をすることがとても大切で、安定した再現性のある画像にするためにも心掛けておきたいところです。
股関節屈曲の場合、大腿骨頭頸部の前捻角の為、骨頭が下がり筋肉が緩んでしまいます。骨頭や腸腰筋を触診する場合は、やや伸展位にすると骨頭が前方へ出て理解しやすくなります。
股関節前方の観察では、大腿骨頭の位置を触診で確認して大腿骨頭と大腿動静脈を観察後、大腿動脈に沿って上り腸恥隆起に合わせてプローブを置きます。この時、拍動する大腿動脈を目印として位置関係を確認します。*14
大腿骨頭は、下肢を内外旋するなど動かすと回転する様子を観察することができます。超音波画像診断装置の2画面機能などを利用して幅広く観察すると、全体が把握しやすくなります。
- *13
- 林 典雄 運動療法のための運動器超音波機能解剖 文光堂
- *14
- 皆川洋至 超音波でわかる運動器疾患 メジカルビュー社
正常な鼡径リンパ節は、高エコーの髄質を低エコー域と薄い皮膜が取り囲んでいる様子が観察されます。併せて、リンパ節の腫脹にも注意が必要です。*14
股関節屈曲拘縮の主要因は、腸腰筋の拘縮であるとされています。また、腸腰筋の拘縮は腰椎の代償的前弯を引き起こし、しばしば腰痛の原因となるとされています。*15
つまり、各徒手検査による拘縮の評価と併せ、超音波による腸腰筋の硬さを観察することは、たいへん重要であると考えられるわけです。
- *15
- 林典雄 運動療法のための機能解剖学的触診技術 下肢・体幹 メジカルビュー社
では、動画です。大腿骨頭位置で、腸腰筋をプローブで圧迫した様子を短軸走査で観察してみます。
腸腰筋の位置をプローブで圧迫しながら超音波観察をしてみると、正常な場合、大腿神経が腸腰筋の傾斜に沿って滑って動くのを観ることができます。ところがこのケースの場合、神経周囲の脂肪がより高エコーで、滑走する様子が鈍く、どうやら周囲に滑走を妨げる要素、何らかの絞扼や癒着がある事が予想される訳です。先にも書いたように腸腰筋は股関節屈曲拘縮の原因となり腰痛を引き起こす最重要組織のひとつで、大腿神経支配の腸腰筋と恥骨筋の観察は股関節の超音波観察法の重要なポイントです。
手関節の手根管内の正中神経もそうですが、正常な場合の神経は屈伸運動などの動作によって位置を自由に変えます。超音波では、ある位置で、そのような神経の「遊び」の動態が観察されます。ところが、症状を持ち徒手検査などで拘縮を疑われるケースでは、この「遊び」があまり観察されず、絞扼や癒着と思われる画像をしばしば観察することになります。この点については、まだまだ症例の観察数と生理学的な裏付けも必要で、観察の指標と病態の進行の構造的変化が明らかにされれば、早期の治療につながる指標となるかもしれません。超音波による動態観察の必要性は、このようなところでも感じることができます。
それでは、まとめです。
今回の観察法でポイントとなる事項をまとめると、下記のようになります。
- ヒトは二足歩行へと変化したことで、股関節の中間位が変化し上肢が非荷重となり、股関節にかかる荷重の方向が大きく変化するとともに荷重量が著しく増加し、結果として骨盤の形状が幅広く荷重を受け止められる形状へと変化したと考えられている
- 寛骨の成長過程での変化を見てみると、腸骨、恥骨、坐骨の3つの骨は思春期まではY字軟骨により結合しており、成人になると癒合、骨化して1つの寛骨となるため、観察時には注意する
- 骨頭の前方、外側は臼蓋があまり覆っていない為、その方向には構造的に不安定である
- 腸骨大腿靱帯、恥骨大腿靱帯、坐骨大腿靱帯は関節包内靭帯で、中立位において捻れた状態に走行しているため、股関節伸展位において緊張(伸張)し、屈曲位において弛緩する
- 腸骨大腿靭帯が不動により拘縮を生じれば、股関節伸展制限となる
- 股関節の運動方向は、屈曲・伸展、外転・内転、外旋・内旋の6方向の組合せでできている
- 股関節の負担は歩行時には、体重の3~4.5倍の負荷がかかり、階段を上る時には、体重の6.2~8.7倍の負荷がかかると言われている
- 年齢を重ねると筋力が衰えて股関節への負担が大きくなり、軟骨が摩耗することで、変形性股関節症に至るとされている
- 股関節前方の超音波観察法は仰臥位(背臥位)で、股関節屈曲の場合、大腿骨頭頸部の前捻角によって骨頭が下がり筋肉が緩んでしまうため、股関節中間位(屈曲0度)で観察する
- 骨頭や腸腰筋を触診する場合は、やや伸展位にすると骨頭が前方へ出ることによって、理解しやすくなる
- この時に、正常ではベッドと腰椎との間に手の平一つ分の腰椎前弯が存在し、腸腰筋拘縮がある場合には腸腰筋に骨盤や腰椎が牽引される事で腰椎前弯の程度が増大するとの話がある
- 大腿骨頭の位置を触診で確認して大腿骨頭と大腿動静脈を目印として、大腿動脈を沿って上って腸恥隆起に沿ってプローブを置いて観察する
- この位置で下肢を内外旋してみると、骨頭が回転する様子を観察することができる
- 正常な鼡径リンパ節は、高エコーの髄質を低エコー域と薄い皮膜が取り囲んでいる様子が観察される
- 股関節屈曲拘縮の主要因は腸腰筋の拘縮であるとされ、腸腰筋の拘縮は腰椎の代償的前弯を引き起こし、しばしば腰痛の原因となるとされている
- 腸腰筋の位置をプローブで押しながら観察してみると、正常な場合、大腿神経が腸腰筋を滑って動くのを観ることができる
- 症状を持ち徒手検査などで拘縮を疑われるケースでは、神経の「遊び」があまり観察されず、絞扼や癒着と思われる画像をしばしば観察するが、この点は更なる生理学的な解明が必要。
次回は、「下肢編 股関節の観察法について2」として、引き続き前方走査について考えてみたいと思います。
情報提供:(株)エス・エス・ビー
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