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スペシャルインタビュー第3弾:東邦大学医学部微生物・感染症学講座教授 舘田一博氏

インタビュー 特集

新型コロナウイルスによる感染者数の高止まりが続く中、コロナによる死者数が過去最高を記録した。第7波の感染拡大を止める手立ては、果たしてあるのだろうか?
政府分科会のメンバーであり、日本感染症学会元理事長で東邦大学医学部微生物・感染症学講座教授の舘田一博氏に3度目のインタビューを行い、話して頂いた。

医療的にも社会経済的にも犠牲者を出来る限り減らしていくことがウイズコロナです!

東邦大学医学部微生物・感染症学講座教授 舘田一博 氏

東邦大学医学部
微生物・感染症学講座
教授 舘田 一博 氏

―BA.5の感染拡大が続いておりますが、舘田教授はどのようなご見解でしょうか?

今後どうなっていくのかについては、未だ誰も分かっておりません。それでも今は、第7波のピークを乗り越えようとしているところです。お盆の影響で、8月18日には全国で25万人、過去最高を記録しました。お盆休みで大勢の人が田舎に帰省する等して、地方での感染が拡がっている状況です。やっとお盆が終わり、地方から都市に人が戻ってきましたから、今度は都市部の感染が拡がるだろうと予想されています。しかも夏休みが終わって、学校が始まります。新学期で学校が再開すると子ども達の間で感染が拡がりますし、またそれが家庭に持ち込まれ、そこから職場にという様に感染の拡がりが出てくることになります。まさに第7波ですが、今後落ち着いていくのか?再増加が起きてしまうのか?これがこの1週間、2週間で見えてくるのではないかという、現在はそういう状況にあります。

昨日、東京は2万7千人でしたが、この状態が1・2週間続くだけでも医療現場は限界に達してしまいます。もしそういう事態になったら、その時には「緊急事態宣言」を発令しなければなりません。最悪の事態を想定しておかなければいけないと思います。そういう意味でこれからの1,2週間は、第7波の収束が見えてくるかどうかという意味においても大事な時期です。

―感染拡大を抑えられないまま行動制限もなくお盆に突入しました。国民は、ワクチン接種への関心が少し薄れかけているようにも感じていますが、如何でしょうか?

若い人や基礎疾患のない人においては重症化はそんなに起きないということが、これまでの経験から分かってきましたので、〝もう良いんじゃない〟といった、ある意味慣れがあるように感じますし、ちょっと緩んでいるように感じております。今回のお盆休みでは、基本的な感染対策をしながらの移動であれば、〝大丈夫です〟とされておりましたが、中には緩み過ぎてしまっている人がいるのも事実かと思います。しかし、それもある意味予想されていた範囲内です。

やはりちょっと慣れてしまったのか、ちょっと油断してしまったという気の緩みが問題で、今一度気持ちを引き締めて、なんとかこの夏を乗り越えて、9月までには下げられるようにしていくことが出来るかどうか。これが今一番重要なポイントであると考えています。

―子ども達は夏休みが終わって学校に行って感染し、家庭に持ち帰り、また家庭から職場に広がるということが繰り返されると思います。子ども達の重症化はあまりないということで、自然におさまるのを待つ以外に無いのでしょうか?

子ども達は、確かに重症化するリスクは低い。しかしオミクロン株の亜系統「BA.5」になってからは、凄い数の子ども達の感染が起きてしまいましたので、頻度は少ないけれどもやはり重症化は出ており、何万人・何十万人という子ども達に感染が生じると、数人が重症化してもおかしくない。

日本では未だ数人ですが、アメリカでは1000人の子どもが亡くなっています。その違いについては、アメリカは肥満の子ども達が多い、基礎疾患を有する子供の重症化が多い。従って、その子ども達に感染してしまって亡くなるケースが多々見られます。勿論日本では、アメリカほどではありませんが、コロナに加えて何かしら基礎疾患を有する子供は重症化してしまう子どもも少なからず出てきてしまいます。さらに基礎疾患の無い10歳未満の女児が、新型コロナ感染後にお亡くなりになったことが報道されました。これは、日本では初めてのことです。

やはり、日本でも子ども達の重症例が散見されるようになってきたために、ワクチン接種に関してもそれを推奨する動きが出てきました。ただし子ども達へのワクチン接種については、お父さん、お母さんと子どもさんがしっかりと相談して決めることが大事。医学的には、子供であってもワクチンを打つことによって感染の重症化をさらに抑えることができることは間違いありません。

―海外ではマスクもせずに様々な制限も無くなっています。日本は未だこんなにもマスクの着用や手洗い等、一生懸命されている人が大勢いるのに何故海外よりも感染者数が増え続けているのでしょうか?

日本は未だ感染者数も全数把握を行っていますが、海外はもう検査もしなくなっています。現在、日本の感染者数がトップになってしまっているのは、そういう影響も理由の1つになっているように思います。

アメリカも未だ感染が続いておりますが、オミクロン株になって若い人の間では風邪との区別がつかないような症例も多いため、感染者の数が把握されにくくなったことが原因の1つだと思います。

これまで新型コロナウイルス陽性でお亡くなりになるお年寄りの多くは、80歳以上の基礎疾患がある人でした。お年寄りでは、コロナだけでなく、通常の風邪からお亡くなりになるケースもみられていました。海外ではコロナを受け入れた対応にシフトしていることが今の状況だと思います。

因みに、米国ジョンズ・ホプキンス大学の集計では、8月26日の段階で、世界の累計感染者数が6億人を超えました。4月に5億人を超えてから約4か月で更に1億人増えたことになります。欧米を中心に自宅で使用できる検査キットが普及したこともあり、各国の統計に反映されない感染者数が多く存在しているとみられ、実際には感染がこれまで以上に広がっているという見方も一方ではあります。

国別の累計感染者数は、アメリカが約9,400万人、インド約4,400万人、フランス約3,500万人で、日本は10番目の約1,800万人となっています。世界の累計死者数は約650万人です。

―2類相当からの引き下げについて議論されていますが、舘田教授のご見解をお聞かせください。

現在、2類相当から5類相当にという話が議論されております。もうそろそろ、そういう方向に行かなければなりません。今これだけ爆発的に感染を起こしている状況の中で、全数把握というのは無理がありますし、それより全数把握を行う必要性が低下している状況です。全数把握か定点か、という議論が行われることがありますが、ただ単に全数把握をやめて、定点把握にすれば良いというものではありません。全数把握をすることによって、全体の感染動向や患者の状態を把握することで医療に繋げるといった機能があった訳ですから、全数把握の良いところを継続しながら定点に移行できるような仕組みを考え、段階的に移行していくが大事であると私は考えています。

新型コロナの全数把握については、届け出対象を全国一律で重症化リスクのある患者らに限定することを検討しているところです。まさに全数把握から定点把握へというのが、2類相当から5類相当への移行をどのように進めるかに関係してきます。

―それについての見通しとか見込みは如何なのでしょうか?

やはり2類相当から5類相当へ、全数把握と定点把握といったものは非常に大きな変化に繋がります。しかしながら、第7波のピークは、どうなるのかが分からないような今の時期に行うことではありませんし、ある程度落ち着いた時に行うことです。

おそらく9月中旬以降、落ち着いてきた時期に行うことを考えていくべきではないでしょうか。

―医療は疲弊していると思いますが、どんな対策が必要だと思われますか?

いま医療現場は、非常に厳しい状況に置かれています。また、「BA.5」は感染力が非常に強いため、医療スタッフの感染や濃厚接触による欠勤等も多く、病棟の閉鎖や診療制限も行われる等、逼迫した状況が続いています。

最近4学会(感染症学会・日本救急医学会・日本臨床救急医学会・日本プライマリケア学会)の提言が出されました。つまり、医療が更に逼迫する恐れがあるので、65歳未満で基礎疾患がない人や軽症者は受診を控えてほしい。症状が重い人、37.5℃以上の発熱が4日以上続く人は受診が必要であり、受診する時には、「かかりつけ医」に電話で相談をしてから行く。検査にこだわらずに自宅で様子をみる、といった内容でした。

とは言っても、軽症から中等症に進行してしまうという不安を多くの方がもっているのではないでしょうか。もしコロナ陽性になったとしても、若い人・リスク因子の無い人は殆ど風邪様の症状で軽快します。風邪であれば、皆さん今までの経験から分かっています。風邪の場合には、検査をしないで家に安静にしている人も多いのではないでしょうか。そのような人は、例えばお腹が空いてコンビニやスーパーに食品を買いに行く、或いは必需品を購入しに行く時には、マスクを着用して基本的な感染対策に注意しながら外出して戻ってくれば良いでしょう。しかし、風邪の症状とは明らかに異なるとなってきた時には医療機関を受診しなければなりません。例えば、1日ごとに熱が高くなり、呼吸苦や咳が強くなっていくようなことは風邪ではあまり見られない症状です。また「ご飯が食べられない」、「息が苦しい」、「唇の色が紫になっている」、「ゼイゼイ言っている」、「意識が朦朧としてくる」等、そういう症状があれば、医療機関を受診する必要があります。

自宅待機の人が増えることで発熱外来や救急外来の混雑を少なからず抑制することが出来ますし、医療現場の逼迫を少しでも抑えることが可能になります。つまり、医療機関の負荷を如何に抑えていくかが大事になります。しかし自宅待機をしている方が、急変して亡くなることが無いように、しっかりフォロー、サポートをしなければなりません。

新型コロナウイルスの感染拡大で救急患者の搬送先が決まらない等、逼迫した状態が続いている地域もあります。特に熱中症とも重なった時期もありましたので、救急隊員の疲労がピークに達しているとの報道もありました。医療へのアクセスが悪化すれば、死亡リスクが高まることが懸念されています。

2020年8月に開催された第94回日本感染症学会
2020年8月に開催された第94回日本感染症学会
四柳宏先生と舘田理事長

―NHKの番組で舘田教授は〝社会全体の犠牲を最小限にして、感染症に強い社会を作っていく。一人一人の感染対策が重要になっていく〟と述べられておられました。今一度お考えをお聞かせください。

ウイズコロナを目指す中で、感染症で亡くなる人、或いは不幸になる人が大勢います。一方で、政府が様々な行動制限を行うことによって、社会・経済が回らなくなる中で、事業が上手くいかなくなった人達、例えば飲食業の人達等ですが、赤字が2年も続いて〝収入が無くなったために、もう続けられない〟と自殺してしまう人も多数おられます。つまり、社会経済が動かなくなることによって犠牲になる人達が大勢居る訳です。両者とも、コロナ禍で犠牲になられた人達です。要はその両方の犠牲を、出来るだけ少なくしてあげる。新型コロナウイルス感染による犠牲を最小限にしていく。ウイズコロナとしてどういう風に向き合ってやっていくかということが最も大事なことです。

決して医療だけではなく、社会経済による犠牲も含めた形で、社会全体としての犠牲を如何に少なくしていくのかということを模索して実践していく。これが正にウイズコロナの追求していく方向性だと考えております。それが私からの大事なメッセージです。

〈最終校正 8月30日〉

舘田一博(たてだかずひろ)氏プロフィール

1960年鎌倉市生まれ。1985(昭和60) 年3月長崎大学医学部卒業。1985(昭和60)年6月長崎大学医学部第二内科入局。1990(平成2)年10月東邦大学医学部微生物学講座助手。1999(平成11)年10月~2001年3月米国ミシガン大学呼吸器内科留学。2005(平成17)年12月東邦大学医学部微生物・感染症学講座准教授。2011 (平成23) 年4月同講座教授。東邦大学医療センター大森病院感染管理部部長。 

関係学会等

日本感染症学会理事理事長(2017- )、日本臨床微生物学会理事長(2018- )、ICD協議会議長(2017— )

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