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運動器超音波塾【第13回:肘関節の観察法 6】

2016/12/01
橈骨管症候群(RTS)について

神経圧迫症候群には、手根管症候群、肘部管症候群とともに、橈骨管症候群(radial tunnel syndrome:RTS)があります。手の甲の親指側周辺と人差し指にかけてのしびれ感や、手関節の伸展障害があり、手関節および手指の伸展と前腕の回外動作で痛みが生じます。他にも、橈骨神経管症候(radial tunnel syndrome)、後骨間神経症候群(posterior interosseous nerve syndrome)、あるいは回外筋症候群(supinator syndrome)と言われています。

絞扼因子の一つとして,橈骨神経深枝(後骨間神経)が橈骨神経から分岐して回外筋近位縁の線維性アーチ、Frohseのアーケード(the arcade of Frohse)に潜りこむ位置が挙げられます。解剖学的にこの回外筋の近位縁は、成人の70%において膜性で,30%は線維性アーチを形成していることが報告されています。その他の要因として、短橈側手根伸筋近位部の線維性腱膜,橈側反回動脈,橈骨頭,回外筋などが絞扼因子として関与することが示唆されています。

3ヶ月以上続く肘外側部の疼痛がある場合は、橈骨神経深枝の絞扼性障害(radial tunnel syndrome)である後骨間神経障害も考慮すべきという話や、外側上顆炎と橈骨神経障害は5%の割合で共存するという論文があります。*6

*6 Werner CO. Lateral elbow pain and posterior interosseous nerve entrapment. Acta Orthop Scand Suppl 1979;174:1–62.

 

橈骨神経を圧迫する橈骨管症候群は、症状がテニス肘に非常に類似しているものの、標準治療に耐性を示すため、「難治性テニス肘」ともよく言われ、主な圧痛が上腕骨外側上顆にある腱付着部に非常に近い腱線維で生じる特徴があります。

また、解剖学的に見てみると、橈骨神経管は、短橈側手根伸筋、長橈側手根伸筋、腕橈骨筋の腱によって、片側を接しており、上腕二頭筋と上腕筋の腱は、橈骨神経管の反対側の壁を構成しています。さらに、腕橈(上腕骨小頭と橈骨)関節の関節包は、橈骨神経管の底を構成しています。*7

*7 Dawson D, Hallett M, Wilbourn A. Entrapment Neuropathies. 3rd ed. Philadelphia: Lippincott-Raven; 1999.

図 橈骨管症候群(radial tunnel syndrome:RTS)

図 橈骨管症候群(radial tunnel syndrome:RTS)

図 橈骨神経の長軸走査と回外筋入口(the arcade of Frohse)

図 橈骨神経の長軸走査と回外筋入口(the arcade of Frohse)

上腕骨小頭に短軸走査して、橈骨神経と橈骨動静脈の位置を同定します。橈骨神経を画面中央にして、橈骨神経を外さないようにプローブを90°回転させ、長軸画像を観察します。

 

後外側回旋不安定症(PLRI)について

転倒受傷などで橈骨と尺骨が後外側に不安定性を示す症例に、後外側回旋不安定症(PLRI)があります。*8

不安定性は、軽度亜脱臼から繰り返す脱臼まで様々で、転倒受傷以外でも肘外側の手術後、長期に松葉杖を使用した際の慢性的な内反ストレス(内反肘変形による骨性アライメント異常)などでも起こるとされています。

肘関節の外側側副靱帯複合体(LCLC)の構造的破綻を主因とする考えから、特に外側尺側副靱帯(LUCL)の断裂・弛緩による機能不全がいわれています。最近の解剖学的研究によると、外側側副靱帯複合体(LCLC)構成要素全体ならびに肘筋であるとされており、外側尺側副靱帯(LUCL)は第Ⅳ中隔繊維束、回外筋浅層起始腱、尺側手根伸筋(ECU)の起始腱の一部からなる複合構造であるとして、外側尺側副靱帯(LUCL)が単独で後外側回旋不安定症(PLRI)を発症する可能性は低いとされています。*9

*8 O'Driscoll SW, Bell DF et al. 1991. Posterolateral rotatory instability of the elbow. J Bone Joint Surg 73-A : 440-446

*9 三浦真弘ら 肘後外側回旋不安定症を誘発する責任構造は何か 臨床解剖研究会記録No. 14 : 2014. 2

図 後外側回旋不安定症(PLRI)

図 後外側回旋不安定症(PLRI)

後外側回旋不安定性テストは仰臥位で、上肢を頭上に保持し、回外させた肘に外反ストレスを加えて行う。この時に超音波観察を併用すると、動揺の程度が把握しやすくなります。

 

図 肘筋の観察法 長軸走査

図 肘筋の観察法 長軸走査

後外側回旋不安定症(PLRI)の観察法は、外側側副靱帯複合体(LCLC)の観察に加えて、肘筋の観察が不可欠です。肘筋の起始部を観察すると、その一部は後外方の関節包より起こり、インピンジメントを防止するとともに、後外側部の関節包を緊張させる事で安定化にも働いています。屈曲・伸展動作や外反のストレス検査をしながら観察すると、その振る舞いが良く解ります。

 

肘関節外側の橈骨頭・輪状靭帯レベルでの回内制限の考察

それでは肘関節外側の橈骨頭・輪状靭帯レベルでの回内・回外動作を短軸で観てみます。

動画で観ると、肘関節の橈骨頭レベルでの回内動作時に、輪状靭帯が伸張すると共にECRL(長橈側手根伸筋)が後外方へ移動し、EDC(総指伸筋)も回外筋の動きと共にECRL(長橈側手根伸筋)の深部方向へ伸張される様子を観察する事が出来ます。前々回、 ECRL(長橈側手根伸筋)が後外方へ回り込む様子を観察しましたが、EDC(総指伸筋)もその動きに影響されていることが解りました。つまり、逆に考えれば、回内時にEDC(総指伸筋)の柔軟性も関与している事が示唆されるわけです。

動画 肘関節外側の橈骨頭・輪状靭帯レベルでの回内・回外動作の観察

中部学院大学の林教授は、回外筋の痙縮(Spasm)の存在が橈骨輪状靭帯の緊張を高め、前腕の可動域を制限する要因となるとしています。*10

この動作時に、更に周囲の筋と筋膜の関係を観察すると、EDC(総指伸筋)を介してECU(尺側手根伸筋)と表在側をつなぐ筋膜が伸張されているのにも関わらず、ECU(尺側手根伸筋)はあまり形状を変える事はありません。つまり、関節包に面した、ECRL(長橈側手根伸筋)からEDC(総指伸筋)深部側をつなぐ筋膜と、EDC(総指伸筋)とECU(尺側手根伸筋) とを表在でつなぐ筋膜までの柔軟性に着目すべき、と考えているところです。この件に関しては、観察例をさらに増やして、結論付けていきたいと考えています。

回内制限にも、複数の要因があり、症状が完成する過程がありそうです。

*10 参考資料 林典雄 運動器超音波機能解剖 文光堂

 

この観察も、超音波による動態解剖学の視点での考察をしていけば、治療に対する情報や、今後の注意点も検討することができる良い例です。

 

さて、まとめです。
今回の観察法でポイントとなる事項は、下記のようになります。

テニス肘は、臨床的にスポーツ関係は5%以下で、一般の40~60歳に多い
上腕骨外側上顆炎の病因となる短橈側手根伸筋(ECRB)の解剖学的特殊性は、外側上顆付着部から橈骨頭付近まで筋成分を含まない腱性の組織であるということ
外側上顆の関節包は、前方では非常に薄く骨への付着幅も狭いのに対して、遠位後方では回外筋と共に複合体を形成して厚みがあり骨への付着幅も広いという局在性が存在する
この事により、前方関節包の脆弱性が隣接してあることによって、上腕骨外側上顆炎は、関節外の付着部症と関節内の滑膜ヒダの病変が病態として共存していると推測される
外側上顆炎の特徴として、慢性テニス肘患者の60%に外側上顆の頂点位置に骨棘が形成されており、観察時に注意する
外側上顆炎の観察法としては、外側上顆を触知して橈骨頭に対して平行に観察する
この時に、総指伸筋の筋線維の模様と短橈側手根伸筋の腱繊維が連続して描出されるように筋腹に沿って合わせ、遠位のリスター結節の伸筋腱第2区画(ECRL、ECRBの通過する区画)を目印に調整すると解りやすい
橈骨管症候群(radial tunnel syndrome:RTS)は、橈骨神経深枝(後骨間神経)が橈骨神経から分岐して潜りこむ回外筋近位縁の線維性アーチ部、短橈側手根伸筋近位部の線維性腱膜,橈側反回動脈,橈骨頭,回外筋などが絞扼因子となり、観察時には注意する
橈骨管症候群(radial tunnel syndrome:RTS)の観察法は、上腕骨小頭に短軸走査して、橈骨神経と橈骨動静脈の位置を同定、橈骨神経を画面中央にして、橈骨神経を外さないようにプローブを90°回転させ、長軸画像を観察する
後外側回旋不安定症(PLRI)は、外側側副靱帯複合体(LCLC)構成要素全体ならびに肘筋であるとされており、外側尺側副靱帯(LUCL)が単独で後外側回旋不安定症(PLRI)を発症する可能性は低いとされている
プローブは必ず先端を持ち、薬指・小指などで肘との支点を作って保持することが重要

 

次回は「上肢編 肘関節の観察法」の最後として、肘内障と肘関節後方アプローチについて考えてみたいと思います。

 

情報提供:(株)エス・エス・ビー

 
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