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運動器超音波塾【第15回:前腕と手関節の観察法1】

2017/04/01

株式会社エス・エス・ビー
超音波営業部マネージャー
柳澤 昭一

近年、デジタル技術により画像の分解能が飛躍的に向上した超音波は、表在用の高周波プローブの登場により、運動器領域で十分使える機器となりました。この超音波を使って、柔道整復師分野でどのように活用できるのかを、超音波の基礎からわかりやすくお話してまいります。

 

第十五回 「疑似体験が実体験になる日」の巻
―上肢編 前腕と手関節の観察法について 1―

先日、大学生の息子が春休みということで家に戻ってきて、「竜神大吊橋でバンジージャンプをして来る」と、早々に出かけて行きました。
竜神峡(茨城県常陸太田市)は、奥久慈県立自然公園の中にあって、V字形の美しい渓谷と、その渓谷を流れる竜神川をせき止めて作られた竜神ダムがあります。その湖上に竜神大吊橋は架けられており、四季折々のパノラマは圧倒的な景観です。長さは375m、高さが100mと、歩行者専用の吊橋としては本州一の長さを誇ります。*1
自分も奥久慈のあたりはデイパックを担いで藪漕ぎで縦走した経験がありますが、あの吊橋から飛ぶと想うと親ばかの一人としては若干ハラハラではありました。帰ってきた息子は、意に介せず、興奮気味にその強烈な体験を話していましたが。

図 竜神峡と竜神大吊橋

図 竜神峡と竜神大吊橋

*1 参考 :竜神大吊橋公式サイト
http://ohtsuribashi.ryujinkyo.jp/guide.html
観光いばらきHP
https://www.ibarakiguide.jp/db-kanko/ryujin_bridge.html

 

政治学者で思想史家の丸山真男氏が戦後の日本を評して、日本人は理論信仰と実感信仰に分かれると言いましたが、テレビやインターネット、様々なゲームコンテンツやSNSと言った媒体によって、どんどん現実と非現実の境目が曖昧になっているような気がします。
4Kの画像は、窓枠の向こうに実際にその景色があるようにリアルで、360°のバーチャルリアリティの技術も現実の景観にさらに情報を付加する機能などが試作されています。感覚的には現実と変わらない、或いはそれを超える体験ができる、そこまで技術革新は来ているようです。
前に仕事で訪問した九州大学の実験室で、テレイグジスタンス技術(遠隔存在感)による遠隔手術ロボットの実機を見せてもらって、とても驚いたのを覚えています。けっして震えることがない3本のアームで、人間の手の可動域を超えた手術が可能となる支援ロボット。
外科医が現場にいなくても処置が可能になるとは、もはや、疑似体験が実体験になる日がもうそこまで来ています。その反面で、生き物としての自分の肉体性を強烈に体験することができるバンジージャンプのようなアトラクションが、人々に人気を呼んでいるのもわかります。
さて私の場合、バンジージャンプはダイエットが成功してから体験するとして、とりあえずスカーレット・ヨハンソン主演の『ゴースト・イン・ザ・シェル』でも観に行くとしますか。

 

今回からの「運動器の超音波観察法」の話は「前腕と手関節の観察法」として、前腕と手関節の解剖と超音波のアプローチ方法について考えてみたいと思います。

 

前腕・手関節の解剖について

超音波で観察できる前腕・手関節構成体は、多数あります。

骨性は、
橈骨・尺骨と手根骨8つ(舟状骨,月状骨,三角骨,豆状骨の近位列4個と,
大菱形骨,小菱形骨,有頭骨,有鉤骨の遠位列4個)

関節は、
遠位橈尺関節DRUJ:前腕の回内・回外
橈骨手根関節RCJ:手関節の掌背屈と橈尺屈
手根中央関節MCJ: 〃

となります。

図 前腕遠位部と手関節を構成する骨

図 前腕遠位部と手関節を構成する骨

 

図 手根骨の構成と手根アーチ

図 手根骨の構成と手根アーチ

 

手関節を超音波で観察していると、負担がかかる事でこの手根アーチが消失してくる様子(湾曲度の減少)を観ることが、多々あります。手根アーチの減少は、手根管症候群に至る危険信号と言えるかもしれません。

 

前腕の筋群の解剖

前腕の筋は、掌側の屈筋群と背側の伸筋群に大別され、それぞれ浅層と深層に分けられています。また、屈筋群は主に上腕骨の内側上顆と骨間膜前方、伸筋群は外側上顆と骨間膜後方に起始しており、対称的な構造を持っています。前腕の筋群を前面、橈側、後面の3つのパートに分けて考えると、下記のような分類になります。

図 前腕の筋群

図 前腕の筋群

 

また、手関節と手指の伸筋腱は、橈骨と尺骨遠位端の伸筋支帯で構成される6つの区画を走行しています。この場合、手関節背側の橈骨茎状突起と尺側茎状突起、Lister結節を骨性の目印として触診しながら観察すると、画像に映し出された構成体が理解しやすくなります。

図 前腕背側の伸筋支帯(背側手根靱帯)の区画その1

図 前腕背側の伸筋支帯(背側手根靱帯)の区画その1

 

手の伸筋支帯は前腕筋膜が前腕下端部で厚くなったもので、橈骨下端からやや斜めに尺骨下端、三角骨および豆状骨に向かって走行しています。その下に前腕伸筋の腱が滑液鞘(腱鞘)に包まれて通る6管を作って、これらの腱をその位置に固定するとされています。*2

*2 参考 : 船戸和弥のホームページ
http://www.anatomy.med.keio.ac.jp/funatoka/

図 前腕背側の伸筋支帯(背側手根靱帯)の区画その2

図 前腕背側の伸筋支帯(背側手根靱帯)の区画その2

 

前腕の神経の解剖

前腕の神経は、正中神経median nerve、尺骨神経ulnar nerve、橈骨神経radial nerveです。橈骨神経は、深枝(回外筋を貫いて前腕の背側面にあらわれ、そこで多数の枝に分れ、伸筋群の浅層と深層との間を通り、前腕のすべての伸筋に分布する)と、浅枝(深枝よりも細く、前腕の掌側面から腕橈骨筋に沿って橈骨動脈の橈側に接しながら遠位へ向かう)があります。
また、正中神経の運動枝である前骨間神経は、肘関節からやや遠位部で正中神経の本幹から分岐し、示指・中指深指屈筋、長母指屈筋への筋枝を分岐しながら、さらに末梢へと下行して方形回内筋を支配しています。

図 前腕の神経群

図 前腕の神経群

 

橈骨遠位端骨折について

前腕の代表的な疾患に、橈骨遠位端骨折があります。主に転倒した時に手をついて、受傷します。橈骨遠位端骨折は、年齢により大きく3つに分けることができ、子供の骨折、青壮年の骨折、高齢者の骨折となります。子供の骨は骨膜が厚いために「ポキン」と折れず、青竹や若木が「ミシミシ」と折れるような状態になります。
また、骨癒合が良く、ある程度曲がって骨癒合しても、徐々に自然と本来の形に戻っていく点で、成人の骨折とは異なります。これに対して高齢者の骨折は、骨が脆くなること(骨粗鬆症)に関係しており、つまずいて転倒した程度でも骨折してしまいます。*3
年代的には、男性の場合10歳代が多く、女性の場合は閉経後の50歳代後半以降に多いとの報告があります。*4

*3 参考 : 一般社団法人日本骨折治療学会のホームページ
https://www.jsfr.jp/ippan/condition/ip23.html

*4 橈骨遠位端骨折診療ガイドライン2012,編集 日本整形外科学会診療ガイドライン委員会

 

 
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