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運動器超音波塾【第31回:股関節の観察法6】

2019/12/01

股関節外側の超音波観察の肢位は仰臥位(背臥位)か、側臥位で行います(外転動作等の動態観察を行う場合は、動作させやすい側臥位で行います)。まず大転子に短軸にプローブを置き、面構造を意識することから始めます。この場合、前後にプローブを傾けながら観察すると、全体像が把握できます。

大転子のファセット(facet 面)とプローブワーク

図 大転子のファセット(facet 面)とプローブワーク

プローブを前後に傾けながら、4つの面構造を意識して観察していきます。4つの面構造は、前面(AF : anterior facet)、外側面(LF : lateral facet)、後面(PF : posterior facet)、後上方面(PSF : posterosuperior facet)、となります。海外の文献では、大転子を「大腿骨の上部シャフトの外側面に見られる大きな四辺形の突起」と捉えているのは当を得ており解りやすいです。

 

大転子を上方に移動しながら観察していくと、前面からの小殿筋腱、外側面から後上方面にかけての中殿筋腱、後面には大転子部滑液包(Greater trochanteric bursa)が描出されます。また、中殿筋や小殿筋の下にも滑液包があり、併せて注意をします。

股関節外側の超音波観察法 短軸画像による大転子と中殿筋、小殿筋、腸脛靭帯

図 股関節外側の超音波観察法
短軸画像による大転子と中殿筋、小殿筋、腸脛靭帯

中殿筋腱炎による局所肥大と中殿筋腱の部分断裂や全層断裂、大転子滑液包の水腫に注意し、併せて小殿筋腱の腱炎や石灰沈着、部分断裂にも着目して観察していきます。

 

股関節外側の断層解剖 大転子と中殿筋、小殿筋と滑液包の位置関係

図 股関節外側の断層解剖
大転子と中殿筋、小殿筋と滑液包の位置関係

 

中殿筋や小殿筋の位置関係が解ったら、次に、プローブを90°回転させて、長軸画像での観察を行います。プローブを前方より後方に移動させながら、小殿筋腱と中殿筋腱、筋肉への移行部と線維の方向にも注意をして観察していきます。

前面(AF : anterior facet)からは小殿筋腱、外側面(LF : lateral facet)からは中殿筋腱前部線維、後上面(PSF : posterosuperior facet)には中殿筋腱後部線維が観察されます。中殿筋は前部線維と後部線維とに明確な筋線維走行の違いを見せており、この線を境にして中殿筋が前部線維と後部線維に分かれる様子が確認できます。また、それらの浅層には、fibrillar pattern(線状高エコー像の層状配列)の線維束に描出され、それらを広く覆っている、腸脛靭帯を観察することができます。

腸脛靭帯で重要となる大腿筋膜張筋は、knee-outが矯正された時に、外側広筋と共に制動を掛けて安定化を図ります。従ってこの観察時でも、膝蓋骨や爪先の方向にも併せて注意をして、下腿全体の動きをしっかりと意識することが大切です。

 

股関節外側の超音波観察法 長軸画像による大転子と中殿筋、小殿筋、腸脛靭帯

図 股関節外側の超音波観察法
長軸画像による大転子と中殿筋、小殿筋、腸脛靭帯

 

小殿筋の前方には脂肪組織が沢山あり、大腿神経を取り巻く脂肪ともつながっているのが観察されます。小殿筋の走行は大腿骨頚部に平行しており、筋作用をベクトルで表すと求心位を向いていることから、骨頭を求心位に保持する働きが解ります。

ここで、小殿筋コンパートメント症候群についても少し考察しておくことにします。コンパートメント症候群というと、骨折などの外傷由来と思いますが、臀部についてはまれで、アルコール中毒や長期の寝たきりによる症例発表を見かけるぐらいです。日本救急医学会によると、コンパートメント症候群とは、複数の筋肉がある部位では、いくつかの筋ごとに、骨、筋膜、筋間中隔などで囲まれた区画に分かれて存在しており、その区画のことをコンパートメントと言うとしています。骨折や打撲などの外傷が原因で筋肉組織などの腫脹がおこり、その区画内圧が上昇すると、その中にある筋肉、血管、神経などが圧迫され、循環不全のため壊死や神経麻痺をおこすことがあり、これをコンパートメント症候群としています。骨折や打撲だけではなくランニングやジャンプなどの激しい運動によってもおこり、強い疼痛が特徴で、他に腫脹、知覚障害、強い圧痛などがみられ、処置が遅れれば筋肉壊死や神経麻痺をおこすとされています。*12

重度の挫傷時などは別にしても、長距離走などでも出現するというのは要注意です。また、小殿筋コンパートメント症候群で遠心性収縮による強い痛みがある場合、小殿筋を緩めると痛みがなくなるとの話もあります。小殿筋は高い割合で遅筋線維と筋紡錘を含んでおり、そのために微細な調整、少量の筋力発揮、長く続く活動に最も適した筋であると言われ、そう考えると、ジョギングや長距離走での痛みの出現も合点がいきます。

*12 日本救急医学会 HPより 
http://www.jaam.jp/html/dictionary/dictionary/word/1113.htm

超音波で小殿筋を動態観察すると、外転動作で小殿筋の前方に脂肪が集まると共に、大転子と小殿筋の間に脂肪が入って持ち上げる様子が観察されます。つまり、ここでも関節運動に伴う脂肪の移動が起こっているわけです。やはり、「関節周囲の脂肪組織は運動器としての役割を持つ」という思いが、より強くなりました。この位置でも、他の関節周囲の脂肪体と同様に、小殿筋深部の脂肪が癒着することで小殿筋の収縮を妨げてしまうという事が起こるわけです。小殿筋を緩め、内転可動域を稼ぐことが重要ということになります。やっぱり脂肪は重要な運動器だ、と思う今日この頃です。

ちなみに、大転子滑液包炎は障害側を下にした場合の臥位と階段昇降の困難さが特徴で、小殿筋下滑液包と中殿筋下滑液包の炎症と共に、慢性の股関節外側痛の原因となるとされており、併せて着目しておきたいところです。股関節外転筋が腱障害により衰弱すると、大腿骨頭の外側亜脱臼が発生し、大転子と腸脛骨靭帯の間の軟部組織の衝突と滑液包炎の発症につながり、したがって、大転子滑液包炎は股関節不安定性の後遺症である可能性があるとの話があります。関節リューマチなどの全身性の炎症以外では、50歳から60歳に多いというのも解る気がします。

 

それでは、動画です。大転子前面で小殿筋を長軸に描出し、股関節を外転動作させながら観察します。

動画 大転子外側での長軸画像
股関節を外転動作させて小殿筋の観察

股関節を外転動作させながら、大転子の前面で小殿筋を観察すると、画面の左下方より脂肪が入ってきて小殿筋を持ち上げる様子が観察されます。
超音波ならではの動態観察により、このような関節周囲の脂肪の移動方向が理解できると、癒着などの拘縮の場合にどの方向に手技を行うのが良いのか、治療のヒントが見えてきます。運動器の超音波観察法には、まだまだその先があります。

 

それでは、まとめです。
今回の観察法でポイントとなる事項をまとめると、下記のようになります。

股関節の滑液包に炎症が起こると、大腿から股関節の外側に痛みが出て、歩行など日常生活に大きな影響が出始める
大腿筋膜張筋は股関節屈筋の大腿直筋や腸腰筋などが働く際に、股関節の外旋動作を抑制し、歩く時や走る時に股関節が外旋しないようにして、足をまっすぐ出せるように働いている
中殿筋・小殿筋は股関節を外転する時のほか、片足立ち等の場合には軸足がぐらつかないように股関節の安定にも働き、股関節伸展位では前部線維および中部線維が股関節の内旋、後部線維が股関節の外旋に作用する
大殿筋の主な作用は股関節の伸展と外旋で、下部線維が外転、上部線維が内転に作用し、片側の上肢を挙上させる際には、三角筋に先行して大殿筋が活動するとの報告もあり、上肢との連関もある
大殿筋は、股関節肢位の違いによって筋線維走行や筋線維長が変化し、発揮される筋活動や運動作用が変わる
腸骨関節包筋(iliocapsularis muscle)は股関節臼蓋形成不全の場合に肥大して、安定のために機能すると言われている
股関節外側の大転子の痛みは、中殿筋腱炎による局所肥大と中殿筋腱の部分断裂や全層断裂、大転子滑液包の水腫に注意し、併せて小殿筋腱の腱炎や石灰沈着、部分断裂にも着目して観察するということがポイントとなる
股関節の石灰沈着性腱炎は、寛骨臼蓋縁、大転子部及び周辺滑液包に石灰化を認め、急性型では疼痛が強く、歩行も困難となる
急性型の石灰沈着性腱炎は、レントゲン上石灰化の確認が困難である事が多いとされ、超音波観察が有用と言われている
肩関節における石灰性腱炎を対象にした話では、血液供給の少ない低酸素状態が続いた部位が腱の線維軟骨異形成を生じ、軟骨細胞が石灰沈着を引き起こすとの報告があり、加齢に伴った変形性関節症などによる関節の変形が重要な要因となると考えられる
股関節外側の超音波観察の肢位は側臥位で行い、まず大転子に短軸にプローブを置き前後に傾けながら全体像を把握し、面構造を意識することから始める
大転子を短軸に上方に移動しながら観察していくと、前面からの小殿筋腱、外側面から後上方面にかけての中殿筋腱、後面には大転子部滑液包(Greater trochanteric bursa)が描出され、中殿筋や小殿筋の下の滑液包にも注意をする
長軸での観察の場合、中殿筋は前部線維と後部線維とに明確な筋線維走行の違いを見せており、この線を境にして中殿筋が前部線維と後部線維に分かれる様子が確認できる
腸脛靭帯で重要となる大腿筋膜張筋は、knee-outが矯正された時に外側広筋と共に制動を掛けて安定化を図る機能があり、膝蓋骨や爪先の方向にも併せて注意をして、下腿全体の動きをしっかりと意識することが大切となる
小殿筋の前方には脂肪組織が沢山あり、大腿神経を取り巻く脂肪ともつながっている
コンパートメント症候群は、骨折や打撲だけではなくランニングやジャンプなどの激しい運動によってもおこり、強い疼痛が特徴で、他に腫脹、知覚障害、強い圧痛などがみられ、処置が遅れれば筋肉壊死や神経麻痺をおこす
小殿筋は高い割合で遅筋線維と筋紡錘を含んでおり、そのために微細な調整、少量の筋力発揮、長く続く活動に最も適した筋であると言われている
超音波で小殿筋を動態観察すると、外転動作で小殿筋の前方に脂肪が集まると共に、大転子と小殿筋の間に脂肪が入って持ち上げる様子が観察され、関節運動に伴う脂肪の移動が起こっている
小殿筋深部の脂肪が癒着すると小殿筋の収縮を妨げるため、小殿筋を緩め、内転可動域を稼ぐことが重要となる
大転子滑液包炎は障害側を下にした場合の臥位と階段昇降の困難さが特徴で、小殿筋下滑液包と中殿筋下滑液包の炎症と共に、慢性の股関節外側痛の原因となるとされている
超音波ならではの動態観察により、関節周囲の脂肪の移動方向が理解できると、癒着などの拘縮の場合にどの方向に手技を行うのが良いのか、治療のヒントが見えてくる

 

次回は、「下肢編 股関節の観察法について7」として、引き続き外側走査について考えてみたいと思います。

 

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情報提供:(株)エス・エス・ビー

 
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