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日本赤十字社・大塚義治副社長に聞く!

2013/07/01

世界各国で起こっている地域紛争、そして大規模な自然災害はとどまることを知らず、赤十字の〝苦しむ者に手を差し伸べる〟という偉大なる使命に基づいた活動は今後ますます期待が高まるところである。

日本赤十字社副社長・大塚義治氏は、2013年3月に行われた(公社)日本柔道整復師会設立60周年記念式典で「赤十字概観、社会保障雑感」と題し、特別講演をされた。

その大塚副社長に持続可能な社会保障制度と2011年に起こった東日本大震災時における救護活動、義捐金の使われ方、今後のことなど多くを話していただいた。

 

『赤十字の尊い使命を守り、多くの人々が健康で幸福な社会を持続できるよう今後も努力していきます』

『日本赤十字社』
副社長   大塚  義治   氏

 

 

―大塚福社長は厚労省の事務次官をされた方ですが、日本の社会保障制度についてお考えをお聞かせください。

日本の社会保障制度には、医療・年金・介護、その他沢山の制度がありますが、今日では非常に大きな規模になり、総額で約110兆円という国の予算よりも大きい金額が給付される程になりました。それだけ国民の生活にいきわたった密着した制度であり、人々の暮らしになくてはならない大事な制度になっています。国民皆保険、或いは国民皆年金という言葉がありますが、これらの制度が創設されたのは昭和36年ですから、約50年になります。その半世紀の間に急激なスピードで人々の生活の中に定着してきた。そういった国民にとって大事な社会保障制度を、なんとしても守ってより良いものにしていかなければならないと思います。

一方、少子高齢化といわれるような様々な社会変動、大きな変動があります。そうした中で社会の変化に合わせて見直し、上手く適応させていく努力を続けなければなりません。そういう意味では課題も沢山ありますし、知恵を絞って上手くメンテナンスをしていくことが重要です。

国民の共有財産であるこの社会保障制度には大勢の方が関係しますから、ある意味で利害調整という難しさも伴います。ただし、今の社会保障制度の大切さ、必要性、重要性を否定する人はいません。従って、その時代に合った社会保障制度の仕組みを考え、必要な見直しをしていくことになると思います。改革は当然必要ですけれども、根本は国民の合意ですので、その合意形成を粘り強く図っていくということが最も重要なことではないでしょうか。

 

―関連して、日本の医療制度は、世界から高く評価されていますが、現在進行中のTPPの中で、問題とされていることはどのような懸念でしょうか。日本の医療制度についてお考えがありましたらお聞きかせ下さい。

医療制度というのは国によってヴァリエーションがある制度だと思います。つまり、夫々のお国ぶりに合った制度を夫々作っている訳ですが、そういった世界の国々と比較しても、トータルで見ると日本の医療制度は、少なくとも今日までは、大変上手く機能してきたと思います。最近、「救急患者の盥回し」であるとか、「医師不足、看護師不足」といった問題が社会的な関心を呼びました。それでも全体としてみれば、世界から高い評価を得ている制度だろうと思います。

国民皆保険の理念は、みんなが参加し、みんなが支えるという考え方が基本になっています。国民の高い関心或いは監視の下に時代に応じた医療制度が育まれて来たと思いますが、今後の最大の問題は如何に少子高齢化に対応していくかでしょう。たいへん難しい課題ではありますが、これまで社会保障制度を作ってきた国民の知恵で、なんとか乗り切っていけるだろうと思っています。

TPPについては、未だ具体的な議論が始まっておりませんし、各国からどういった提案が出されてくるのかハッキリしていない段階ですので、お答えすることは率直にいって難しい。日本医師会をはじめとする医療関係団体は、国民皆保険制度を崩す切っ掛けにならないかということで強い懸念を示しておられますが、私自身は、先ほど述べたように、国によって医療制度というのはかなり異なりますから、医療制度そのものをこうしろああしろという議論にはならないと考えています。関係国の主要メンバーもそういうことは考えていないと表明されていますし、実際そうだろうと思います。つまり、制度の骨格や枠組みを変えろといった議論にはならない。

しかし、どんな意見が出てくるかはもちろん分りません。考えられるとすれば、より効率的な制度を目指すという視点から、民間企業等の活力を十分に発揮できるような、もしそれについて阻害するような要因が我が国の医療制度にあるならば、それを緩和、若しくは取り払っていくべきだというような議論が出てくるかもしれません。例えば、医薬品や医療機器、あるいは薬価に関連する問題ですね。これから先、全く影響は無いなんて言うのは些か無責任だと思います。日本の良いところは守るという姿勢は堅持しなければならないでしょう。

もうひとつ、混合診療についても議論が出そうだと言われていますね。この議論が非常に分り難くなってしまっているような気がするのですが、健康保険と、本人が費用を負担する医療サービス、その両方の良い面を取り入れる枠組みが既に出来ているというのが私の考えです。難しい用語ですが「保険外併用療養費制度」と呼ばれている制度です。その枠組みを上手く活用すれば、そんなに大上段の議論をしなくても現実的な答えが出せるテーマであると思います。一番身近な例では、所謂差額ベッドといわれる室料の負担とか、高度先進医療のような特定の方に必要な医療については既に枠組みができていますから、それを如何に運用するかという問題であると考えています。最近は正確な議論も少しずつされるようになってきているとも感じますが、保険と自費負担との秩序ある併用は十分可能でしょうし、キチンとした議論が行われれば、具体的な解決ができる問題だと思います。

 

―日本赤十字社の社会的使命を教えてください。

日本赤十字社の職員が常に携帯しているカードがあります。そのカードには〝わたしたちは、苦しんでいる人を救いたいという思いを結集し、いかなる状況下でも、人間のいのちと健康、尊厳を守ります〟というMission statementが記されているんです。

ご承知のように赤十字の起源は、スイス人のアンリー・デュナンが提唱してスタートした運動です。戦争で傷ついた兵士は、もう戦う人間ではない。敵であろうが味方であろうが救おうということで始まったという歴史的な経緯があります。特に国際赤十字・赤新月社連盟では、戦いで傷ついた人々と同じように、災害その他の大きな事故等で傷ついた人、救いを求める人に手を差し伸べるということを大きな使命にしています。つまり災害救護活動ですが、国内、国外を問わず日赤の重要な事業の1つです。もとより、それだけに限らず、日赤病院も日本全国各地にございますし、献血していただいた血液を製剤にし、輸血を必要とする患者さんにお届けする血液事業、また福祉事業も行っておりますので大変幅広いんですが、苦しんでいる人に手を差し伸べるということが社会的使命であるという基本に立って、様々な事業を展開しています。

 

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