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日本赤十字社・大塚義治副社長に聞く!

2013/07/01

―柔道整復師向けの雑誌ですので、柔道整復に関連した内容もお聞かせください。柔道整復の業務、あるいはその内容を医学的に理解することは、ある意味では難しいことのように感じます。しかし柔道整復は、日本で歴史的にみて十分貢献してきたこと。通院する患者さんは身をもって効果を感じているからこそ柔道整復は、高度診断機器、薬物を用いることなく医療先進国、日本で尚存在し続けています。こうした国民のニーズが存在している現実があります。一方で、現在、標準化されていないなど、いくつかの問題もあります。大塚副社長から見て、柔道整復の問題点はどこだと思われますか。

昨年、厚生労働省の社会保障審議会医療保険部会に、初めて柔道整復療養費専門委員会が設置されたそうですね。オープンな場で議論することは良いことだと思います。キチッと議論されることは、長い目で見れば、必ずプラスになるはずです。柔道整復師に対する一般の方のイメージは、伝統医療といわれるぐらいですから、古いというイメージがあるかもしれませんね。元々西洋医学とは成り立ち、基盤が異なるので、同じように考えられるかどうかは別ですが、西洋医学でいえば、EBM、証拠に基づく医療ということが強調されるようになってきている。特に、コンピュータでいろんなデータが処理できるIT時代になってきますと、益々具体的な数字で科学的に検証を行うことが求められる。そういう意味で、柔整の場合、西洋医学と全く同じやり方をする必要はないと思いますが、数字で具体的な説明ができるデータの集積と理論構築を進め、それを通じて一般の方々の理解を得るという努力が、これからは必要なのかなという気がしています。

 

―柔道整復業務を例えるならばスポーツトレーナー的、所謂「日常生活トレーナー」であるといわれた柔道整復師の先生がおります。超高齢化社会においては、運動能力の維持管理が重要なテーマの一つと感じます。運動能力を維持していくには、単に痛みを取るということではなく、介護における機能訓練指導員のように一般の方々に対してもトレーナー的な取り組みは必要と感じます。介護現場であっても同じだと思いますが、医師のみが医療行為を行なうとする時代ではなくなっているように感じます。以上のことから、柔道整復は今後の高齢化社会において十分に能力を発揮できると思われますが、そうした中で、現状柔道整復師が、医師を始めとして、社会に広く理解され受け入れられるには、単に来院した患者さんに満足し理解していただく以外に、広く訴えなければならないことがあると思います。どうしたことを訴えれば、広く受け入れていただけるのでしょうか。

近年、医療の世界では、「チーム医療」の重要性が唱えられるようになり、更に最近では地域包括ケアといわれるように、医師を中心に様々なスタッフが能力を発揮し、お互いに協力し合うことによって、より適切な医療、或いは地域医療の確保ができるという発想が定着し進められて来ました。私もその通りだと思っています。いろんな職種の人が夫々役割分担を持ちながら一緒にチームを組み、或いはネットワークを構築するというのは、先ほどの赤十字の活動でもこれから大事にしたいと申し上げましたように、そういう時代に入ってきています。そうした中で柔整が担える役割は十分あると思います。ただ、類似の業務、或いは資格を伴わない活動も含めて、広い意味での競争を強いられる時代でもあります。その中で存在感を示していくために、実績を積み重ねながら、まさに団体や関係者の中で、自分たちの基本的な役割を改めて議論し考えていくことが重要になってきているのではないでしょうか。

 

―柔道整復はWHO世界保健機関に民族医療〝柔道セラピー〟として仲間入りしましたが、医療先進国日本において、なお存続している柔道整復は医療先進国ばかりでなく発展途上国においても有用性が高いと思われます。また現在モンゴル国等で柔道整復師がJICAの草の根活動で国際交流を通して医療支援と医療指導を行っております。海外における活動では赤十字社は、大きな活躍を常にされていますが、"発展途上国では人口の6~8割が経済的理由で西洋医学の恩恵を受けていない"と言われております。そうした中で、柔道整復の役割も存在するのではないかと思われます。医療先進国と途上国では役割や捉え方に違いがあるように思いますが、いずれにしても柔道整復は世界的に多くの人々を救い得る有用な学問となる可能性を秘め、「国際化」の可能性もあるのではないかと思われます。大塚副社長からよきアドバイスをお願いできればと思います。

なるほど、興味深い視点ですね。柔道は世界的なオリンピック種目ですし、今や柔道人口はフランスが日本より多いそうですが、柔道そのものがグローバルな存在になりました。そんなに簡単な話ではないでしょうけど、柔道整復師のような業務が外国に技術移転されてもおかしくないでしょうね。正直私も分りませんが、柔道がこれだけ国際的なポジションを持ち、これだけ世界に普及していることを考えれば、面白い着眼だという気がします。

今後特に日本は高齢化が進みますので、医療的な業務以外にも健康づくり、或いは介護における高齢者の運動能力・体力の維持が非常に重要になってきます。こうしたニーズはもっともっと増えるでしょう。恐らくこの分野には、看護という立場からのアプローチもあるでしょうし、介護の観点からも、PT・OT等いろんな職種の方々が取り組むことが考えられます。これに柔道整復師も挑戦してみることは必要と思います。

最近は、病診連携が随分進んできました。診療所にしてみれば、いざとなれば病院に送れるという安心感があり、患者さんにも安心感があります。病院でやることが大体終わったら今度は診療所に送り返してフォローしてもらえれば病院にとっても良い。両方にとってプラスになるとして地域の中で取り組まれて参りました。それらを考えると、例えば柔整と整形外科の連携というようなモデルケースが何所かに出来れば、他の地域のいい参考になる。病院と診療所のようなネットワークに似たシステム、そんな仕組みが作れると良いですね。

 

 

●大塚義治氏プロフィール

1947年栃木県生まれ。1966年、東京都立上野高等学校卒業。1970年、東京大学法学部卒業。1970年、厚生省入省。1994年、同省大臣官房会計課長。1996年、同省大臣官房審議官、1998年、厚生大臣官房長。1999年、厚生省老人保健福祉局長。2001年、厚生労働省保険局長。2002年、厚生労働審議官。2003年、厚生労働事務次官。2004年、退官。2005年、現職。日本赤十字学園理事長兼務。現在に至る。

 

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