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インタビュー:帝京平成大学ヒューマンケア学部柔道整復学科・樽本修和 氏

2015/06/16

―学術的な問題点に関してどのような取り組みをされているのか教えてください。

基礎医学的な根拠と臨床機能的な観点から物理療法のエビデンスを追及しております。私は大学院でも教えておりますので、正常な健康人を対象にあらゆる検査機器を使用していろいろな刺激・介入をさせてデータを蓄積しています。まだまだ結果は出てきていません。また、臨床データとして新しい手技療法の開発(関節・軟部組織モビライゼーションなどのエビデンスを追及)を行い、柔道整復師の特徴を活かした手技療法を開発すること、急性期の足関節捻挫などの関節モビライゼーションの方法とそのエビデンスの追及などを検証しています。今まで自分たちが行ってきた治療法の裏付け根拠をもう一回見直すということです。例えば急性の足関節捻挫、足首を捻った場合、従来は安静固定です。しかし今は、安静固定ではなく動かすのです。関節モビライゼーションをすることによって、そのエビデンスを追及し検証しています。早く動かして早く治してあげるという国民のニーズに合うことをやろうとしています。今までは捻挫したらテーピング固定、包帯固定、ガッチリ固定していたものが逆に動かすことで腫れがひくのです。そういうことの裏付けをとっているというのが今の状況です。

なかなかエビデンスがない中で、少しずつですがエビデンスのある論文が出てきています。一つのモデルとして柔道整復的な手技療法のエビデンスをしっかり検証するということを、大学で研究をしています。まだまだ小さい点ですが、私どもの大学はグループがありますので、点がだんだん大きい丸になってきているところです。

 

―所謂「単なる肩こり」と「肩こり」、あるいは「頚部捻挫」、これらの関係性を医学的な面でお聞かせ下さい。

単なる肩こりについて、医学的にお話するのは中々難しく、何故なら肩こりというのは病名ではなく症状だからです。頚部捻挫は「捻る、挫く」ですから、微小の外力が入る。例えば急性、亜急性という言葉がありますが、そういうものの捉え方によって変わってくる訳です。肩こりは一つの症状ですから、患者が肩こりと言ったとしても、病名ではないのです。そこの捉え方が健保組合さんなども勘違いをされています。

急性は一つの外力が入ったことによって起こる「捻る、挫く」で、引っ張られたり、圧迫されたりいろいろです。小さな外力の反復によって引き起こされる亜急性というものの中で、繰り返すことによって起こる症状として肩こりが出てきます。健保組合さんは何が間違っているかというと、患者さんの症状を病名として捉えていますので、それはいかがなものかと。整形外科と柔道整復師の違いは当然ありますが、共有する面もいっぱいあるのです。ただし、我々は病態を診ているのではなく、身体機能の動き、事象を診ているのです。そして捻挫も打撲も医学的には挫傷です。それをわざわざ病名で分けているのです。何故病名を分けているかというと、保険の取り扱いの中での話で、学問ではないからです。つまり、いわゆる「肩こり」「腰痛」というのは、学問の話としては無理なんですね。

長くなりますが、頚椎捻挫の説明をします。頚部捻挫は、交通事故やスポーツ事故などで頚に不意に衝撃を受け、頚椎(頚の骨)周囲の筋肉や靭帯、神経や血管などの組織に損傷を受けたもので、首の痛みなどのほか、ひどいときは頭痛、肩こり、吐き気、めまいなどがみられます。頚椎捻挫の多くは一部分の軽い症状にとどまりますが、重症例では、交感神経や筋肉の異常な緊張により、眼が疲れる、だるい、腰が重い、肩がこるなどの症状がみられます。これらは大きく分けて4つの病型に分類することができます。1つは、頚椎捻挫型で、頚椎捻挫といえば大半がこの型で、頚の周りの筋肉や靭帯、椎間関節(頚の骨の関節)が捻挫を起こしたものです。神経根症状型といって、頚の神経が圧迫されたり、刺激されて、頚椎動作時に上肢の痛みやしびれが強くなり、握力低下などもみられます。そして自律神経症状型というのは、不眠、頭痛、耳鳴り、めまい、肩こり、疲労感、食欲不振、抑うつ症状など多彩な症状がみられます。頚椎前方に自律神経の中枢、星状神経節があり、そこに影響がおよんだものです。もう1つは、脊髄症状型で、脊髄が損傷された場合は、両手のしびれや、筋力低下、重度では両下肢の麻痺もみられます。治療は急性期の場合、頚部を安静にします。頚部を保護するため、頚椎カラー固定(頚の装具)も使用します。後療法として手技療法を行い、頚のストレッチや牽引、温熱療法、低周波、干渉波などの電気療法、筋力強化など症状にあわせて治療します。

 

―「肩こり」についてもご説明ください。

やはり長くなりますが、肩こり(かたこり/肩凝り)とは症候名のひとつで、正式な病名ではありません。肩こりと言われますが、そのほとんどは首の後ろや背中(肩甲骨の間)に症状を有することが多いため、「首こり」と言ったほうが本当は正しいのかもしれません。肩こりの部位を解剖の言葉を用いると、肩こりとは項頚部から僧帽筋エリアの諸筋に生じるこり感・重苦しさや痛みにいたる症候です。肩こりの原因にはいろいろなものがありますが、肩こり自体の正確な定義がなく、その為、正しい評価や治療法が確立されていないのが現状です。一般的にその個人の体形や生活様式に起因し、病気によって二次的に引き起こされるものとに分ける傾向があります。また、この症状に対する原因には諸説あるものの、一説では、同じ姿勢をとり続けるなどして頭や腕を支える僧帽筋やその周辺の筋肉(肩甲挙筋・上後鋸筋・菱形筋群・板状筋・脊柱起立筋)の持続的緊張によって筋肉が硬くなり、局所に循環障害が起こってきます。それによって酸素や栄養分が末端まで届かず、疲労物質が蓄積し、これが刺激となって肩こりを起こすと考えられています。二次的に起こる肩こりは内臓疾患による関連痛や放散痛であることもあり、いわゆる「放置すると危険な肩こり」と考えられます。二次的に起こる肩こりは他に原因があり、その症状の1つととらえることができます。二次的に起こる肩こりの原因として他にも色々なものがあります。

 

―同様に「単なる腰痛」と「腰痛」あるいは「腰部捻挫」、これらは、どのように違うのか、またどう関連しているのか、お聞かせください。

腰部捻挫(ギックリ腰を含む)についてですが、脊柱は合計24個の骨からなります。その内、3つの腰椎は、それぞれ左右に関節包につつまれた椎間関節があり、椎間板や靭帯の筋肉でつながれています。原因は、運動中に腰を無理にねじったり、中腰でものを持ち上げるような不用意な動作の瞬間に、この関節包、椎間板、靭帯、筋肉などの一部が引き伸ばされたり、断裂したりして起こります。突然はげしい痛みにおそわれ、身動きができなくなることもあります。この急性の腰痛症状が出た直後には、その原因を明確にすることが難しいので、腰痛の中に腰部捻挫、椎間板ヘルニア、骨粗鬆症による脊椎圧迫骨折などが入っています。また症状と評価は、激しい体動時の腰痛、腰の両わきの痛みだけで、坐骨神経痛や下肢のしびれはみられません。咳やくしゃみをすると腰に痛みがひびきます。評価は、発病の状況を参考にして痛みの原因の多くは推定するしかありません。治療については、腰痛をできるだけ区別して治療方針を決める必要があります。しかし、急性の痛みの強い間は、もっとも痛みの少ない姿勢で1週間前後寝ていれば、たいていは楽になります。後療法として手技・物理・運動療法等を痛みの程度によって施術を行います。痛みが軽くなり次第、コルセットをつけて歩く練習と体操療法を少しずつ始めます。また、腰痛を起こしやすい動作や姿勢を避けることが重要です。

 

―柔道整復師の治療の優れている点とはどのような部分でしょうか?

かなり少なくなりましたが、骨折・脱臼の整復固定について、優れた知識と技術を持っている柔道整復師が現在もいます。上腕骨外顆骨折の回転骨折を整復でき非観血的に治療できるなど、優れた先生の技術を伝授できる場所の確保が必要不可欠であります。柔道整復師はあらゆる器具を使用し、骨折・脱臼の整復や固定を行い、軟部組織損傷においても痛みに対する処置を上手く行っています。

 

※長文のため、後半を省略しております。
 全文読みたい方は『からだサイエンス』にお問い合わせください。

●樽本修和氏プロフィール

昭和30年8月11日生まれ、本籍地・高知県。
学歴:昭和51年3月、帝京医学技術専門学校柔道整復科卒業。同55年9月、日本鍼灸理療専門学校卒業。平成10年3月、専修大学経済学部経済学科卒業。同18年3月、帝京平成大学大学院情報学研究科情報学専攻修士課程修了。24年3月、同大学大学院健康科学研究科博士後期課程を修了、博士(健康科学)を修得。
学位:経済学士、修士(情報学)、博士(健康科学)。
職歴:昭和49年4月、帝京大学本部勤務。同52年5月、要町病院理学療法科勤務。54年5月、朝霞整形外科勤務。57年10月、樽本接骨院を開業。平成元年4月、帝京医学技術専門学校専任教員。同16年4月、帝京平成大学ヒューマンケア学部身体機能ケア学科トレーナー・整復技術専攻専任講師。19年4月、同大学ヒューマンケア学部身体機能ケア学科トレーナー・整復技術専攻准教授。22年4月、帝京平成大学地域医療学部柔道整復学科教授。24年4月、帝京平成大学大学院健康科学研究科柔道整復学専攻教授。26年4月、帝京平成大学ヒューマンケア学部柔道整復学科教授、学科長に就任、現在に至る。
海外研修:平成5年8月より2年間カリフォルニア州立ロングビーチ大学にてPNF及びモビリゼーションの研修。
学会活動:日本柔道整復接骨医学会会員、日本健康科学学会会員、日本健康行動科学会会員。
社会における活動:平成12年4月より6年間、財団法人柔道整復研修試験財団第5・6・7期柔道整復師国家試験委員。同2年~25年まで、全国柔道整復学校協会厚生労働大臣指定柔道整復師専科教員認定講習会講師。
賞罰:平成26年5月、(公社)日本柔道整復師会帰一賞受賞。
著書:編集・共著 メジカルビュー社 「柔道整復師 ブルー・ノート イエロー・ノート」、他多数。

 

 

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