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ビッグインタビュー:早稲田大学スポーツ外科学学術院教授・福林徹氏

2016/02/16

―以前福林教授にインタビュー(からだサイエンス誌第51号掲載)させていただいたときに、福林教授が考えられているトレーナーの全体像について、〝今はアメリカ主導の時代ですからNATAのシステムに準拠せざるをえない。そこと格段のレベルの差があると話になりません。単に医療の知識だけではなくスポーツの知識を十分に持つ、シューズ、生理学的な問題、コンディショニングをいかにキープするかという問題は非常に重要で、巾の広い知識が必要です〟等、述べられていらっしゃいますが、あの頃と今では何か変わりましたでしょうか。日本型のトレーナーというような方向性もあるのでしょうか。

私自身あの頃とは、少し考え方が変わりました。また、当時よりシューズやコンディショニング等のトレーナー知識を持っている人が増えましたね。シューズはどういうシューズが良いかとか、基本的には〝選手にあったシューズとは何か?〟そういうことを競技別に知っている人が多いし、その辺の地識を持っていますから、昔より勉強している人が多いと思います。しかし未だ栄養学等まで知っている人は居ないですね。私も、中田ヒデ君とつきあって〝怪我しないためには如何すれば良いですか?〟ということを聞かれました。つまり怪我した患部を如何治すかではなく、怪我をしないためにはどういうトレーニングをすればいいのかということであり、予防法の考え方が非常に重要になってきました。

あと日本のトレーナーで重要なのは、やはり中学・高校の学校体育現場です。最近有名な高校や大学は、トレーナーが学校付きで入っています。学校に保健婦さんが必ず居るのと同じように体育のトレーナーという指導者がスポーツ現場である学校に本当は居なくてはいけないと思います。これは行政の問題でありますけれども、私はそう思っている訳です。今後特にジュニア期の障害に取り組み、ジュニア期に予防するためには、医者がスポーツ現場に居る訳ではありませんし、学校に雇われたトレーナーが一人くらい居て、学校体育の現場で実際に障害予防の取組みをしなければなりません。体育の先生は応急処置を出来なければなりませんから、怪我をしたらアイシングぐらい体育の先生も行いますが〝怪我をした生徒の再受傷を予防するために何をするの?〟というと、それは体育の先生も分らないのです。

結局、私がやったことはFIFAイレブンプラスの予防プログラムをサッカー協会に導入しようということで、サッカー協会の全面的な協力で、やって頂きました。そんなにコンプライアンスが良い訳ではありませんが、ある程度それを行って、その結果として障害が減ったというデータも出して頂きました。つまり、医者が言うことを協会のほうで了解頂いてやってもらいました。

 

―柔道整復師に、現状に於いてアドバイスがあるとするならば、どのような点でしょうか。2020年に開催される東京オリンピックで、世界から来られるアスリートの方々に対し、それまで柔道整復師は、どのような方向性をもって、進むことが良いのでしょうか?

2020年は、現場主体ですので、前の東京オリンピックと同じ様に考えてはダメです。積極的に現場に行って、それで選手をケアする、そういう柔整師をしっかり育成していく必要があります。私が見て柔整師さんが少し遅れているのは、最近の医療というのは、特に予防が非常に重要になっている訳ですから、柔整師さんも怪我や疾患の治療だけではなく、予防の知識、〝怪我しないためには、どうしたらいいの?〟と選手に聞かれた時に、ちゃんと答えられる柔整師でなければならないでしょう。

参入するための方法論としてはスポーツによって違いますけれども、やはり現場に積極的に入っていくことです。私はサッカーしかやっていないけれども、いま柏レイソルをみています。柏レイソルはドクターも沢山いてトレーナーも何人もいて、大体ATの人がみんなトップについていますが、柔整の免許を持っている人もいれば鍼灸の人もいます。柔整の技をいかしたり鍼灸であればハリ、それも1つの力量です。そういうベーシックなものは柔整でも鍼灸でも持っていないといけない。

ただし、最近いろんな医療機器が出ていて、20年前とは違います。いまハリ治療では衝撃波が出てきて、バンとやったらアキレス腱の治療とかに一発で結構効くんです。或いはレーザー治療が出てきて、こういった新しい機器を使いこなせなければ難しいでしょう。近年、治療機器や診断機器は格段の進歩をしています。鍼灸や柔整の歴史があるのは分かりますが、何時までもその歴史だけに捉われずに、新しい治療機器が出ていますので、それを上手く使いこなせるようになることです。しかも、それを使うのは医者だけで鍼灸や柔整の人が使うなとは誰も言っていないのですからね。毛嫌いしないで、やはり近代的な機器を駆使できるようにしないと鍼灸も柔整も20年前、30年前と同じではダメでしょう。つまり、この30年間、何が進歩したかということが問われているのです。

2020年に、鍼灸や柔整の人が様々な地域や現場で働けるようにするためには、やはり進歩した医学に柔整も鍼灸もついていかないと。新しい医療機器を使いこなせて、其処に柔整・鍼灸の技を入れて、その上で〝如何か?!〟という、その辺の発想が見受けられないように思います。2020年に柔整・鍼灸がATとして活用して頂くためには、前回の1964年の東京オリンピックから何所が進歩したのかというのを世の中の人に分ってもらわなければ、特にスポーツ庁など、そういう方々に〝柔整鍼灸が進歩しているんだ、昔とはこれだけ違うんだ〟ということを分り易く、私が外から見ていて、何が20年前30年前と違うのかということが分からないのです。

 

―最後になりますが、福林教授は研究者としての功績もさることながら教育者としての指導力に優れていらっしゃることで有名で、福林教授の研究室を巣立っていかれた卒業生の多くの方が、現在の我が国の体育・スポーツ科学の第一線で活躍されていらっしゃるそうですね。この分野の展望や希望、そして福林教授の今後の抱負についてお聞かせください。

時々講演を頼まれてお話するんですが、医学というのは時代と共に変わってきて、やはり近代化されてきていると思います。それで、これからの医療というのは、先ほども言いましたように「治療の医学」から「予防の医学」に大きく変わりつつある訳で、これが大原則です。今までは怪我した人や病気になった人、また外傷・障害だけではなく内科的なものも含めて疾患を治療することに専念してきましたが、その時代はハッキリ言って終わりつつあります。また、それは政府の政策とも合致しており、予防に力を入れる時代になりました。実は私が言い始めて、日体協に採用されて、多分私が言わなかったら今のようなトレーナーコースは出来なかったと思われます。〝是非、作ってくれ〟と言って国体等に強制的にATを入れさせて、それで日体協でそのシステムを作った訳ですが、それは現場でちゃんと医療の出来る人を作りたいと思ったからです。予防をやるためには、やはり現場で働いている人が理解して、現場でそのことを指導できる人を作っていくことが重要でした。今後何年やれるか分かりませんが、手術を執刀しているよりも、そういう人たちの育成が重要だと思っているのです。

最後に、〝2020年に向けて柔整として何をやるべきか!?〟というのは、スポーツ現場でしっかり働けるような柔整師をちゃんと作って各チーム・各競技団体に送り込むことではないでしょうか。柔整が2020年に出場する選手のケアをやりたいというのであれば、自分から競技会に行って、普段から選手の信頼を勝ち得ることです。それをやらないと無理だと思います。来るのを待つという時代ではないので、自分で行って、良さを分っていただくことが重要だと思います。そうすると多分信頼関係ができて、いろんなことを選手が相談してくるようになります。私もカズ(三浦知良)・ゴン(中山雅史)・ヒデ(中田英寿)と仲良くなりましたけれどもね(笑)。

お互いに信頼関係を構築して、そうしないと選手は本当のことを喋りません。構築すると本当のことや考えていることを話してくれますから、それに対して、示唆を与えることが出来るようになる訳です。

 

 

●福林 徹(ふくばやしとおる)氏プロフィール

昭和47年、東京大学医学部卒。同53年、東京大学医学部整形外科助手。同54年、Hospital for Special Surgery で1年間研修。同57年、筑波大学臨床医学系整形外科講師。同61年、同助教授。平成8年、東京大学大学院総合文化研究科生命環境科学系教授。平成16年早稲田大学スポーツ科学学術院教授。

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