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ビッグインタビュー:(公社)日本柔道整復師会 保険部長 三橋裕之 氏

2016/12/16

かつて柔道整復師は、まちの接骨院の先生として、国民の支持を一心に集めていた。現在、整形外科病院がいっぱい出来たことで、その役目を終えたとされるべきではない。これまで先生方が築いてこられた患者さんとの温かい信頼関係は易々と断ち切れるものではなく、地域包括ケアシステムの構築が急がれている今こそ、その信頼関係を十分に発揮することが可能である。公益社団法人日本柔道整復師会は業界の舵取りを行い、羅針盤としての重要な役目を担ってきた。また柔整業界で最も重要視されている保険取扱いのエキスパートであり一番のキーマンである日整保険部長・三橋裕之氏に今後の業界のビジョンを熱く語って頂いた。

 

国の要望すなわち国民の要望に応えるために柔整業界は一丸となって社会貢献し続けます!
三橋氏

(公社) 日本柔道整復師会
保険部長
三橋   裕之   氏

 

―日整の保険部長に就任されてから、国との交渉等で以前から引き継がれている案件、また新たに取り組まれていることについて教えてください。

平成26年の料金改定等については、丁度消費税アップの際に前任の吉田保険部長から引き継ぎ、厚労省といろいろな折衝を重ねた結果、逓減や負傷原因記載等の付帯事項が全くつかないプラス改定を実現することが出来ました。

そして、この年に日整は通常の政党への予算要望ではなく、厚生労働大臣宛てにはじめて直接要望書を提出する事としました。内容は、これまで三者協定において、受領委任の取り扱い規定の見直し、施術管理者の要件強化、公的審査会の権限強化、柔整療養費の適正な料金改定、卒後臨床研修の制度化、地域包括ケアへの参入、生活保護取扱いの円滑化、養成施設の急増防止対策等を挙げさせて頂き、結果、幾つかの検討課題について道筋がつけられたところであります。

そして平成28年3月より第4回柔道整復療養費検討専門委員会がスタートし「制度の見直し」についての議論がはじまり、また11月2日の第8回委員会では受領委任協定の見直しの議論を通して公的審査会の権限強化、施術管理者の実務経験3年間(研修・講習)、そして電子請求のモデル事業実施等について白熱した議論が交わされました。我々施術者側は、この3点を柱に委員として全力で議論に取り組んできたということです。今回ようやく厚労側から実施に向けての工程表も作成されゴールが見えてきたところで当然成果にも繋がってくるとは思います。これは2年間に亘って、要望書を提出したり、いろいろ交渉し話し合いを続けた結果であると思っています。

 

―出来れば今年出された成果についても教えてください。やはり皆さん、結果を期待していらっしゃると思いますので。

何をもって成果とするのかというのは、議論があるかもしれませんが、専門委員会で決定したことでいうならば、今お話した柔整療養費のプラス改定ではないかと思います。8月末の委員会にて決定をみた今回の料金改定については、全体への影響率は低いが我々の本来の技術料である骨折・脱臼・不全骨折の整復固定料への加算を目指し交渉を進め実現、たとえば大腿骨の骨折の整復料が9,000円から11,500円、骨折・脱臼の施術の中核群が所謂28%の増額改定となり、専門委員会では保険者側より根本的に柔整療養費の支給範囲を見直すべきであるとか、3部位目に逓減強化等の付帯事項や制限などが要望されていましたが、今回は60年ぶりの制度改正も進めながらの交渉ではありましたが、公益社団法人として日整会長をはじめ役員、事務局が一丸となり、そして田中威勢夫会長はじめ全整連の全面的な協力があってこそ実現できたと思います。

その他の要望事項については、未だ実現には至っていないことから成果ということで報告するのは難しいと思いますが、今、専門委員会で議論されている「施術管理者の要件強化」は、平成28年3月に開かれた専門委員会の冒頭で私が発言させて頂いたとおり、反社会的勢力による不正受給事件も「起こるべくして起きた」事件であり、柔道整復師資格者がなくても開設者になれる、まして法人でも開設できるという制度上の問題であり、せめて施術管理者の要件を定めておけば防げたものが、何も策を講じないままに国が規制緩和をしてしまった結果が今般の事態を招いた根幹であることを何度も専門委員会でお話させて頂いております。来年の春に約5千名の新卒者が出てくるという現実がある以上、やはり実務経験3年を課して、学校教育では全く触れられていない保険請求業務、中でも保険適用の適否の鑑別、そして医療従事者としての倫理観等について、経験と実務を積んでもらう事が主旨で、他の医療職種の管理者の要件を参考に、施術現場での実務経験3年間を主張しています。しかしながら、11月2日の委員会では実務経験からスタートさせるという施術者側からの意向に対して、保険者・有識者を巻き込み、研修・講習のシステムを作り上げてから年度内実施に向け検討すると厚労側は主張を崩しません。我々は保健所にも問い合わせをし〝証明書を出せる〟というお話も頂いていることもあり、先ずは勤務柔道整復師の登録をして頂き厚生局にて管理する、新卒者約5千名が同時に施術管理者の登録を行う訳ではありませんし、その都度、手作業で証明書を出せば良いことなので、我々としては無理なことは申し上げていないつもりです。また協定・契約の中にも「施術管理者」についての要件はなく施術所において責任のある立場で居ながら、開設者が指名し登録制であるということが一番の問題点なので、平成29年4月から施行して欲しい、これが急務であるとお願いをしているところです。

もう1つは「公的審査会の権限強化」でありますが、療養費の支給申請書の返戻、患者調査、施術所調査等はすでに動き出しており、今のまま順調に進めば来年の4月以降に決定がされる予定です。これまで実施している公的審査会で行っている傾向審査を活かして疑義のある接骨院を抽出し、権限強化により直接その施術所の申請書を集中的に調査することが可能になります。先程申し上げた反社会的勢力による詐取事件で表面化したように、健康保険組合をはじめ多くの保険者が行っている申請書一枚毎審査、そして二次点検は一枚ずつ見ている訳ですから、それではその接骨院の全体の請求傾向がわからず、結果的にすり抜けて適正化に繋がらない現実を変えるために、これも早期に実施しなければなりません。

 

―ここ数年保険者からの調査、照会が激化しており、かなりの数の整骨院が廃業していると感じますが、日整の保険部長として、今後はどのような取り組みをされていくことになるでしょうか?

この受診抑制に繋がっている民間調査会社への委託を、公的審査会の権限を強化することで減らせればと考えています。あまりに頻回に患者様へ送付される調査書により受診抑制に繋がっていることは明らかであり、患者の利便性を図るための受領委任制度を覆すものであると思っており、いま、日整保険部でも殆どがこの対応がメインになっており、行き過ぎた保険者や調査会社からの照会文書自体が違法性のあるものであれば、日整から厚労省保険局を通じて指導して頂く方法をとらせて頂いております。

数年前までは組合健保自身が一枚一枚点検していましたが、あまりにも労力と時間がかかるということから、民間調査会社に一次審査を委託する状況になってしまい、それに加えて平成24年3月に厚労省から4課長通知が出された時に、「外部委託するのであれば、国から補助金を出す」ということで、国からも援助されているのです。本来は二次点検、三次点検であるはずの民間調査会社が一次審査になってしまっていることが一番大きな要因だと思います。
あまりに頻回に患者様へ送付される調査書により受診抑制に繋がっていることは明らかであり、患者の利便性を図るための受領委任制度を覆すものであると思っております。 そういった問題が内在している柔道整復師の業務環境を、「公的審査会の権限の強化」によって変えていくことが重要だと思います。

あと1つは、保険者側から要望されている「電子請求」です。電子請求の導入にあたって、今年の2月に官報にて出産一時金と一緒に「支払基金」に柔整の療養費が含められることとなり、枠組み自体は既に出来、近い将来「支払基金」に移行できれば、縦覧点検・傾向審査が確立し現在行われている保険者からの不要な民間委託会社による照会がなくなっていくと考えます。これらについては、日整だけが走り出しても保険者の理解がなければ出来ないことですので中々難しいだろうと思っていましたが、国がある程度受け皿を作ってくれましたので、後は制度改革と業界全体の適正化が図られ反社会的勢力の問題などが法的に抑制できることが、一番重要な課題と受け止めております。

 

―地域包括ケアシステム参入への三橋先生のお考えをお聞かせください。

各地域において柔道整復師側から積極的に地域の医師会のご指導を賜りながら行政にアプローチをしているところです。これは最も重要なところであり既に、国はその決定権を各市区町村に移譲しています。

実は第7回の専門委員会で、厚労省の考えとして〝地域包括ケアに柔道整復師はこれから重要な役割を担う〟という記載がされた資料について、一部の保険者からは〝柔道整復師が重要な役割を担うなど誰が言っているんだ〟と誹謗を受けました。私がその時に手を挙げ〝貴方がた保険者は、地域包括ケアに柔道整復師は必要がないということを言っているのですか?〟と逆に質問をしたところ、〝いや、そういうことを言っている訳ではない〟といったやり取りをしました。我々柔道整復師は地域医療の一端を担っていると自負しており我々の役割は非常に大きいと思います。

現在、後期高齢者の保険制度の見直しも視野に入れて、在宅医療の医療資源として勿論これは患者さんだけではなく、介護関係者にも理解が進めばという条件付きですが、独居老人の安否確認等の需要にも推進されていくと考えます。また、在宅ケアでの接骨院を利用した介護予防事業は地域行政との委託契約でありますので、いま現在公益社団各県柔道整復師会の支部が中心となって対応しています。従って柔道整復師による往療や、接骨院を利用した介護予防事業を推進するためには、そもそもコンプライアンス並びにガバナンスが求められますので、地域の中での公益活動を行ってきた公益社団柔道整復師を中心に担うことが十分可能ではないかと考えているところです。

また、地域包括ケアだけではなく、防災訓練・災害救護、スポーツ大会の救護等、様々な行政との連携活動を通して、地域行政には公益社団柔整師の「顔が見える化」がされていると推測されます。利他の精神で、地域活動に貢献する柔道整復師が増えてくればかなり活動の拡がりが大きくなっていくのではないかと期待できます。いま日整では山形市と松戸市、船橋市、名古屋市で新総合事業の中での介護予防が始まっております。これがどんどん他の自治体でも広まっていけば、もっと地域のお役に立てる訳です。また、訪問介護予防については、なにしろ我々は院内で仕事をしていますから、施術所を空けて外に行かなければいけないという壁があります。厚労省老健局に行って話をすると〝先生方に一番良いのはやはり施術所の中でやることですよね。その方向で日整が今全国で展開している事例を引き続き進めてください〟という話を頂いております。介護予防サービスの通所型サービスC、通所型AとBに参画しようということで、日整保険部の介護対策課員が厚労省といろいろ話をしながら各市区町村の情報を各県に流しております。おそらく医師会の先生方が在宅に行けるかといえば、在宅医療を担える医師の方達は限られていると思います。そうするとやはり最終的には我々がその一翼を担うのが役目であると思っています。

そうは言っても、その役割分担が決定してからでは遅きに期しますので、我々柔道整復師は何が出来るかということを地域行政にアピールしていく必要があります。今まで我々は、ただ待っているだけでしたが、それではダメなんです。ただし、たまに勘違いされる方がいらっしゃいますが、柔整で食べられなくなってしまったから、介護で食べるんだという言い方はおかしい訳で、我々柔道整復師が何が出来るかということを追及する必要があるんですね。日整では機能訓練の指導員講習会を開催し、介護予防の機能訓練指導員の認定も行っており毎年約千人ずつ増えており、現在1万2千人以上を超える数になっています。同時に必ず認知症のサポーター講習会もやっております。接骨院には、認知症の方や障害者の方も来られますので、自分たちが一番最前線の場に居ると思っているところです。

 

 

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