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ビッグインタビュー 【新・柔整考⑥】 業界内外の声をお聞きする!

2024/01/01

筑波大学名誉教授の白木仁氏は、長野オリンピック冬季競技大会日本選手団本部トレーナーをはじめ、シドニーオリンピック、アテネオリンピック、2020東京オリンピック選手団のチームトレーナーとして活躍。また日本スポーツ協会公認アスレチックトレーナーマスターであり、日本ゴルフ協会競技者育成強化本部シニアディレクター・医科学委員長、日本柔道整復接骨医学会のスポーツ柔整分科会・委員長を務める等々、現在のスポーツ医科学の創始者といっても過言ではないトップクラスの指導者である。最近のスポーツ界の話題を含め、柔道整復師の今後について助言を頂いた。

柔道整復師は、所謂救急救命士でもあり、トレーナーでもあり、そして何より国民目線の医療者です!!
国立大学法人筑波大学 名誉教授 白木仁氏

国立大学法人筑波大学 名誉教授 白木仁氏

 

―コロナの時の筑波大学の対策等について教えてください。

コロナでは、本当にいろんなことを学びました。コロナになった途端に僕がセンター長、体育施設全部の管理者、一般体育の責任者になりました。やはり閉鎖するか、しないかという議論になりましたが、閉鎖になると授業もクラブも全部閉鎖です。体育は体を動かさないと駄目だからと言って、2020年の秋、まだコロナが流行っている頃ですが「閉鎖はナシ」と決めました。殆どの大学では体育実技の授業をWeb授業にしていましたが、筑波大学が実技授業を全面的に無しにしたら他の大学の授業運営にも影響し、大学体育の存在意義にも関連することが考えられ、なんとか実技授業を継続しました。筑波大には医学部がありますので感染症の教授に〝感染者が出たら直ぐに止めるけど可能性は?〟と聞いたところ、フィフティフィフティである〝悪いけど任せる〟と言われました。当然、感染予防には最善の注意を払い、体調の良く無い学生にはメールで連絡してもらい、万全の対策をしました。初めて2020年10月1日に対面で授業を行ったところ、学生達は授業を受けた後、帰ろうとしませんでした。初めて顔を合わせる学生もおり、とっても嬉しそうで、マスクをして距離をとりながら、会話していました。それにしても学生達は、殆どの授業をウェブで対応し、精神的にも滅入るところを我慢して頑張っていました。たいしたものです。

 

―トレーナーという仕事を作ったのは白木名誉教授ですね!

はい。僕らは、選手にトレーニングをやらせる側なので、そのバックボーンとして怪我をさせないためのトレーニングをさせようとしたのです。つまり、怪我をしてしまったら、処置するのも早く出来ると助かりますので、それには柔整がピッタリでした。本来トレーナーは、アメリカが進んでいる訳では全くなく、ヨーロッパです。ヨーロッパはPTしかいないので、僕らがオリンピックに行った頃には、「フィジオ」というスポーツに特化したPTが帯同していました。それを日本ではトレーナーって言いますが、ヨーロッパではトレーナーとは言わずに「フィジオ」、つまりセラピーのほうも含まれています。しかし、アメリカはトレーナーを上手く利用していて、経済界も動かし、組織も形成し、素晴らしい体育館を作ったり、ジムを作ったり、器具を作る等、物販もします。それをやれるのは、やはりアメリカは経営能力が高いからで、其処は凄いなって思います。ただし理念は全然そんなに凄くありません。僕が、〝柔整がトレーナーに一番近い〟って言ったのは、そのフィジオを見ているからなんです。ヨーロッパでは治療も出来て、超音波も使えて、トレーニングも出来る人がフィジオです。またアメリカでのトレーナーは、基本的に選手にマッサージをしませんがヨーロッパはします。

 

―そして白木名誉教授はスポーツ医科学を作った方の一人ですね!

そうなりますね。医学と体育を結びつける。そんなたいそうな事では無いのですが、私自身の怪我のこともありましたが、怪我で競技を断念していく選手を見たり、一生懸命練習している選手のパフォーマンスが上がらないのを目の当たりにするとコーチング内容と医学がそのような選手に何かの役に立つのではないかということが思えてならなかったのです。そのため、コーチング、スポーツ科学にも興味があり、かつ医学にも興味が湧いてきました。

大学の最初の2年間はスポーツ科学に没頭しました。3年生以降、筑波大学には医学部があり、整形外科医(故田淵先生、福林先生)の先生に教えを乞うことができるようになって、スポーツと医学を融合する感覚が養われました。時を同じにし、スポーツ医学研究室がトレーナーの勉強、研究を行う研究室となってきて、現在の形態になりました。トレーニング学や運動生理学、医学の先生も、論文レベルではこのようなことが言われてますよと伝えられても現場ではどのように使われているのかと聞いてみると〝イヤまだ入れてないと思う〟というような段階でした。しかし、ヨーロッパはしっかりしていて、こういう風にトレーニングをすると怪我の予防とパフォーマンスの向上が望めるというのがありました。それが「アウフバウトレーニング」という段階トレーニングで、1990年に僕らがヨーロッパ(ドイツ)に行って、こういうことをやるんだとそこから作り上げていきました。それをいち早く実践してくれてモルモット役になってくれたのが工藤公康氏です(笑)。いま「体幹トレーニング」とか「バランストレーニング」と言われているのは、もう30年前にあったんです。また、体幹とかコアとか言いますが、人間の重心、真ん中を鍛えるトレーニングです。当たり前のように皆さんやっていますが、でも本質は誰も知らないです。本質的には、人間はどうやって動くかというところを凄く彼も勉強してくれましたし、その頃のトレーニングの教科書自体は全く幼稚でした。それがここへきて、解剖学、生理学、医学、バイオメカニクスなどの研究内容がトレーニングに入り込できたために内容の濃い教科書ができてきました。僕らがトレーナーとして活動していた時は、トレーニングをして、且つマッサージもして、テーピングもしてトレーニングやウオーミングアップも出来るのがトレーナーだとしてやっていたんです。でも今はPTの資格を持った方もいて、〝僕はリハビリしかしません〟っていう人もいますが、そんな風に分割するものではなく全部トータルでやらなければいけない。本来トレーナーは選手が強くなるために存在する人材ですので、本末転倒していると感じるトレーナーもよく見受けられます。柔整師の多くの方は自分の治療院を持っていますが、週に一回でも二回でも選手をみてくれれば良いし、一緒に帯同するとなればトレーナーの本職になりますので、その時にはトレーナーっていうよりも、僕はフィジオになって欲しいと思っています。

いま、大谷選手で騒がれていますけれども、多分、大谷選手みたいな人は過去も居た筈です。今はグローバル社会で世界が近くなったので、表に出てくるけれども、凄い人はいっぱい居たと思います。僕らみたいなのが居たり、恐らくコーチングがちゃんとしてくると彼らのような凄い選手が出てくると思います。

 

―大谷選手のトレーナーっているのでしょうか?

彼には、専属のトレーナーがいるかどうかは分かりませんが、球団のストレングスコーチや栄養士に指導してもらっているかもしれません。しかし、彼には専属のトレーナーはあまり必要無いのではないでしょうか。なんでも自分で出来てしまうので、自信の体をチェックする人がいればいいような気がします。ただし、身体のケアやマッサージは必要かなと思います。余談ですが、ダルビッシュには僕の教え子がトレーナーをしていました。大谷選手は日本人っぽく、道徳を大切にし、武士道を感じますね。

 

―白木教授の日本柔道整復接骨医学会等でのシンポジウムを聴講される方というのは、ほぼトレーナーを志されている方達なのでしょうか?

僕は、日本柔道整復接骨医学会のスポーツ柔整分科会の委員長なので毎年ゲストを呼びます。今年は、PTとしてカナダに数年いた教え子に講演してもらいました。その内容は脳震盪に如何対応するかということです。「脳震盪」というのは、ラグビー、アメリカンフットボール等で多くみられます。何故それを柔整でやるのかというと、スポーツ現場ではこれが起こっていて、今これはこういう風に考えられ、このように対応していますということを現場の正しい対応を柔整の方にも知っていただきたいからです。聴衆には学生もいますし、あと実際にスポーツ現場に出ている人達もいます。今回、学会の最終日の終わり近くの3時からでしたが、100人以上集まりました。聞いている人の中で〝今度うちの地区で「脳震盪」の講習をやってくれませんか?〟という要望も多く聞き、柔整の先生にも必要なことだと改めて感じました。スポーツに関連している内容ですが、実際の現場でも役立つことを柔整の方々にも伝えていくようにしています。

 

―アスレチックトレーナーの方の職域は増えているのでしょうか?

いま人気があり、日本各地に存在するトレーニングジムにはアスレチックトレーナーは、殆ど居ません。体育系の出身者が多くいるようです。僕らが考えるアスレチックトレーナー、本来のフィジオが職業として活躍できるところは、プロや実業団に限られるのでは無いでしょうか。特にバスケットボールは実業団が多かったんですが、今はプロになりましたし、やはりプロに雇われるとなると実績も必要ですが、実績を作るには、タダ働きみたいな経験を積まないと難しいかもしれません。雇用されるトレーナーの人数も決まっていますから、本採用には中々なれない。寧ろ前の実業団のほうが良かったと思います。必ず1社1人は採るので、1人では足りないから2人位採ることもあります。そういう時にATの資格を持っていると社員になれるのでちゃんと給料を払ってくれます。職域が拡大しないのは、プロ選手の年俸が安いことも要因ですが、コーチ自体の年俸も上がっていません。コーチがお金もらっていないのに、トレーナーに十分な給料を出せないんです。以前からですが、其処が大きな問題で、例えば柔整の資格をとりました、鍼灸もとりました、一生懸命勉強をして1000万円以上もかけて、免許を取りました。スポーツもやっていました。さあどうかという時に、その人をプロや実業団が採用するか否かというのは、もう枠が決まっているので、上の人が居たら、いくら優秀でも辞めない限りは入れません。活躍できるのは一部の人間だけです。またトレーナーをパーソナルで雇って、トレーニングをするプロの選手は殆どいません。マスコミに出てくる選手だけです。さらに雇用の決め手は、資格が重要です。資格のないトレーナーは、雇用しにくいのです。つまりPT・鍼灸・柔整の資格と、日本スポーツ協会のATが無いと雇わない。あとは、英語が出来ると選手の通訳も可能です。外国人のいるチームは、トレーナーの能力が十分でなくても英語が話せるトレーナーが居ることもあります。サッカーは最初に作った時に、アスレチックトレーナーをちゃんと雇うようにと明確に言っているので、ちゃんと居ります。現在は、プロ野球において、トレーナーの求人と入社試験があるとこもあります。

トレーナーの養成は増えてきましたが、職域となると十分ではなく、需要と供給のバランスは、良くなったとは言えないと思います。

 

―テーピング専門の人っているのでしょうか?

日本にはほぼ居ないと思います。ただバスケットとサッカーはテープをしないと出られないので、特にバスケットは、テープをやるだけのトレーナーを用意しています。相撲を観ていると、上手いテープを巻いているなっていうのは結構あります。あれは多分、柔整です。相撲部屋にはなかなか簡単には、入れないので、間違いなく接骨院でやってもらっていると思います(笑)。

 

 

 
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