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スペシャルインタビュー:船橋市長・松戸徹氏

2021/11/01

船橋市は、「ららぽーとTOKYO-BAY」をはじめ「ふなばしアンデルセン公園」「船橋漁港」「船橋競馬場」「船橋アリーナ」などなど多くの観光スポットを有する中核市最大の人口を擁する都市である。また船橋市は鉄道網が発達しており、9路線、35駅が市内にある。東京都心方面(総武本線、京葉線、武蔵野線、京成本線、東京メトロ東西線)との交通の要所になっている。
天性の優しさと経験に基づいた判断力、市民に温かいまなざしを送り続ける松戸市長が舵を取る船橋市は、市民の暮らしを真剣に考え、追求する職員たちの思いがあらゆる施策にいきわたっている。
そんな船橋市の松戸市長に忌憚なく話していただいた。

 

船橋市は、子供も若者も高齢者もみんなが繋がって大きな夢と希望、そして未来を育むまちです!
船橋市長・松戸徹氏

船橋市長
松戸 徹   氏

 

―日本の社会保障制度について松戸市長のお考えをお聞かせください。

日本の社会保障制度は、世界の中で見ても非常に幅広い分野に行き届いている制度であると思っています。今の社会保障制度の基盤になっているのは、戦後の社会保障制度審議会の昭和25年の勧告が原型になっています。当時は、「戦後の日本をこれからどのように立て直して、全ての国民が生活を営めるように」、また「困っている人たちをどのようにサポートすべきか」がベースになっています。約60年前の「東京オリンピック」の頃に皆保険制度と年金制度が創設され、その後、平成12年に介護保険制度が創設されました。つまり、時代の様相がどんどん変わっていく中で、そうした制度が追加されており、障害者の方の法律も、いろいろな改善が加えられています。それが十分かどうかは、それぞれ見方はあると思いますが、そうした中で日本の社会保障制度が成り立っています。

しかしながら、多くの方が指摘しており、私も同感ですが、今は少子高齢化で人口減少局面を迎えており、特に生産年齢人口、若い世代の人口が減少していく中で、今までのような形で社会保障制度を維持していくことは難しいという問題があります。制度は国が設計しますが、日本の社会やその背景にある文化が反映されているわけです。厚生労働白書に書かれているとおり、平成の30年間で社会構造そのものが大きく変わりました。例えば、3世代同居の人たちは平成元年までは4割位いらしたのですが、今は1割位です。要するに3世代、お爺ちゃんお婆ちゃん・親・子供という家族構成が変わり、さりげなくお互いに見守れる範囲の距離で居住するといったことが今は非常に難しくなっている部分があります。またひとり暮らしの高齢者も、平成元年のデータでは14.8%でしたが、今は28.8%です。船橋市でもひとり暮らしの高齢者は今4万人を超えています。高齢者のみの世帯もかなりの数いますので、ますますひとり暮らしの高齢者が増えていくことになります。

一方で、障害のある方など様々な方をもっとサポートしていかなければいけないわけです。今は本当の意味でみんなが幸せに暮らしていくためにはどうしたら良いのかを、トータルで考えていく時期に来ていると思います。特に人間はただ生きていれば良いわけではなく、日々の小さな喜びや人と人との繋がり、生きがいといったものが必要であり、社会保障制度は、人間らしく生きていくための支えとなるものです。つまり本当の意味での社会保障制度というのは、みんなが幸せに暮らしていくためにはどうしたら良いのかを考えていく必要がありますし、今その時期を迎えていると思います。

もう1つ、社会保障制度は、福祉の観点で議論されることが多いのですが、そればかりではありません。船橋市では、毎年夏休みに「市長になったら何をしたいか?」という議題で、全中学校の生徒全員に学校でディスカッションをしてもらって、提案を受けていますが、彼らは大人のやっていることを実によく見ています。例えば、今の高齢者、障害者、あるいは生活保護を受けている方に対して、大人がどう対応しているのか、すごくよく見ており、それが彼らのスタンダートな考え方のベースになっているのです。今、私たちが制度運営プラス日常の対応をどうやって子供たちに見せて伝えていくかで、彼らが中心になっていく今後20年の社会のありようを大きく変えてしまうだろうと思っています。

また、船橋市はデンマークのオーデンセ市というアンデルセンが生まれた町と姉妹都市になっており、オーデンセ市の職員を招いてワークショップを開催しています。その中で、彼らは人権教育と社会保障制度を同一に考えており、利用する側の人間のありようだとか、支える側の人間のありようについて、学校を含めた様々な場で、いろいろディスカッションをしていることが分かりました。私は、今、多くの課題を抱えている社会保障制度について、安定的に財源をどうするかといった現実的な議論の必要があるのは当然としても、子供たちを含めた全体で、人権という面からも社会保障制度をどういう形にしていくのかという視点がとても大事であると考えています。

 

―人口減少社会に突入しました。超高齢化の進展に対する船橋市の取組みを教えてください。

超高齢社会を考える時に、1つは、健康寿命を伸ばすということと、もう1つは介護が必要になった時に安心してサポートが受けられる体制を作る、これが2つの大きな柱だと思います。先ずは健康寿命を伸ばす取組みをベースにすべきで、膝や腰が痛いなどはあるけれどもまだまだ元気で日常の生活が出来ている方も沢山いらっしゃいます。船橋市では、南側のほうは商業地域でもあり、若い人達がいっぱい住んでいる人口密集地域で、数値的に高齢化率が低く、どちらかというと北側のほうが高齢化率が高くなっています。高齢化率が高いエリアの高齢者の人達は元気ではないのかというと、寧ろ元気なくらいです。つまり、高齢化率というのは1つの目安にすぎません。そこで、「高齢化率」だけを言うのではなく、船橋市で「元気度」というスケールを作れないかということで、担当部署に宿題を出して、検討を重ねて市独自の高齢者の元気度を計る「健康スケール」を作りました。これは〝15分くらい続けて歩いていますか〟等といった幾つかの問診票的なものをそれぞれのご家庭に送って、回答の分析を行うものです。先述の社会保障制度に関してもそうですが、やはり新しい視点で見ていかなければ、実態にあった取組みが非常に難しいのではないかという気がします。

船橋市では健康寿命を伸ばす取組みとして、介護予防運動のための「シルバーリハビリ体操」という事業の普及に努めてきました。市民の方達にも指導士になっていただき、指導士の数が凄く増えました。また、〝私は元気になるのに、こんなことに気をつけています〟等を地域の皆さんで話し合う場である「市民ヘルスミーティング」をそれぞれの地区で続けています。他にも健康に関したイベントなどへの参加やウォーキングによって貯めたポイントに応じて、梨や人参、水揚げ量が日本一のスズキなど船橋特産の食材を使った食品などが抽選でもらえる「健康ポイント事業」を行っています。他の自治体もいろいろ行っていると思いますが、楽しみながら健康づくりに取り組める、そういう何かちょっとした仕掛けをしながら行っています。

実は、日本老年学的評価研究(JAGES)で3年毎に「健康とくらしの調査」がありますが、平成28年の調査に船橋市も参加しました。その時は政令指定都市も含めて大きな都市から小さな町まで参加しましたが、その中で〝運動機能の低下が一番少ないまち〟は船橋市でした。他にも「転ばない率」等も非常に低いということでした。その要因として考えられるのは、やはり日ごろの運動、或いは人とのお付き合いで外出することが慣例になっているからでしょう。

 

―船橋市で現在取り組まれている地域包括ケアシステムの構築状況についてお聞かせください。

船橋市の「地域包括ケアシステム」については、「予防」「医療」「介護」「生活支援」、そして「住まい」という5つの括りで各々の分野で進めています。特に「住まい」を非常に重要視しています。船橋市は市の医師会との協力関係が非常に強く、全国で初めて24時間体制で出動時から医師が救急車に同乗する「ドクターカーシステム」を構築するなど、互いに協力してきました。そういった協力をする精神みたいなものがずっと続いており、この地域包括ケアシステムにおいても市の医師会を中心に歯科医師会、薬剤師会、看護協会、ケアマネジャーや介護事業所・施設など、現在28団体の人達が多職種連携で取組みを行っています。

重要視する「住まい」というのは、例えばアパートの2階の部屋を借りてずっと住んでいた方が、高齢になり膝が痛くて2階に行くのが困難となり住み替えをしようと思っても、賃貸物件を高齢者の方が新たに借りるのはハードルが高くなります。高齢者の方に賃貸物件を貸すことについて、大家さんとしては何かあったら困ると言った時など、高齢者の方が借りられる物件がない場合、いかにするのか。高齢者の方達の住まいがなくなるというのは、即ち生活の拠点がなくなってしまいますので、先ずは居場所、生活の拠点を確保しようということで、船橋市では平成29年に千葉県で初めて「居住支援協議会」を立ち上げました。これは全国の市区町村で20番目でしたが、不動産業界の方にも入って頂いて、大家さんに掛け合ってもらう等して頂いています。これまでの相談者数は500人以上を超えており、113件ほど契約が成立しています。このように「住まい」というのは、非常に大事なことですので、そこを先ず優先しながら、「予防」とか「医療」、「介護」、「生活支援」を組み合わせて行っています。「住まい」というのは、持ち家のある人は別ですが、アパートや借家等で暮らしている人、経済的にも余裕がない方にとっては切実な問題です。

 

―少子化対策についても聞かせてください。

人口の多いまちはほぼ同じだと思いますが、船橋市の合計特殊出生率は全国平均より低いのですが、人口は今後10年位伸びていくと予想しています。令和3年9月1日時点の船橋市の人口は64万5千人で、政令指定都市を除くと一番人口規模の多い市です。人口推計では、66万4千人位になるということを見込んでいます。その中で少子化対策はいかにしていくのかということですが、やはり〝産む安心感〟と〝育てる安心感〟という両方に取り組む必要があります。不妊治療も特定不妊治療と一般不妊治療がありますが、その両方に助成をしています。まずはそこからがスタートですが、やはり育てていく上での安心感というのは、とても大事なことで、船橋市では例えば母子手帳をただ渡すのではなく、保健師が全員の方に面談をしながら〝これからこういうサービスがありますよ〟と伝えています。また、赤ちゃんが生まれた全家庭に生後60日までに保健師が訪問して、様子を見ながら初めてお子さんをもった方の不安などを聞いています。その際には、社会では痛ましい事件も起こっていますので、ご家庭の様子を見て何らかのリスクがあると判断した方にはフォローアップを行っています。

保育園については、低年齢児クラスの定員不足がかなりありましたが、この10年間で定員を増やしました。ただ、地域によって、保育園に空きのある地域とまだまだ足りない地域が出てきており、このバランスをいかにとるかというのが1つ大きな課題になっています。

また、育てる安心感という上では、小学生や中学生の学校生活への支援も非常に大切です。例えば、スクールカウンセラーの配置は、中学校は県の制度で配置されましたが、小学校への配置が無かったため、船橋市では市独自にスクールカウンセラーを全校に配置したことにより、今では市立の小中学校全校でスクールカウンセラーによる相談体制が整っています。また、経済的に困った時は福祉と連携しなければなりませんので、スクールソーシャルワーカーも市独自で配置をして、経済的な面も福祉と一緒になってトータルで見ていくことにしています。そうした取り組みにより、子供を育てていく時に〝安心感がある〟と思っていただけるまちを目指しています。

平成30年度に子供がいる家庭の全戸調査を行いましたが、経済的に余裕がない家庭の子は自分の進路に対する目標値を自分で低く抑えてしまう傾向がありました。自分の学習机も無い家庭とか、家が狭いので勉強する部屋が無いなどの比率も高くなっています。船橋市では平成26年度より学習支援事業を実施しています。これは、生活困窮世帯・生活保護世帯・ひとり親世帯等の中学生を対象に学習する場を提供し。学習指導や進学・進路支援、居場所づくりを行うものです。私も学習支援の現場を何度も見ていますが、興味深いものがありました。分数が出来ない子、問題をスラスラ解ける子、いろいろな子が一緒に勉強しているわけです。それぞれの子の状況に応じてみてあげる。本来は学校がベストですが、学校が終わった後の時間も大事なので、是非こういう仕組みを国がもっと進めてくれると良いと思っています。

 

―昨今、地球規模で大災害が多発しています。船橋市の防災計画について教えてください。

いま地震や風水害などで予測出来ない災害が起きてしまっています。やはり防災のハード面とソフト面とをしっかり充実させる必要があります。ただハード面は非常に時間がかかります。災害対策基本法が改正になり、避難指示の在り方等についても、分かりやすく市民の方たちが自分たちで動けるようにすることをどんどん進めていくべきですし、効果が上がると思います。ハード的な面は財源との関係もありますが、可能な限り早く、改善をしているところです。

これからのポイントは、行政と市民と事業者の連携をどうやってとっていくかということであり、実際の災害が今この瞬間に起こってしまった時に大きな力になります。そのためには行政が持っている災害のリスクデータをしっかりお知らせをして共有していることが大事です。船橋市で地域防災計画の適宜修正を行なっていますが、平成29・30年度に、地区の「防災カルテ」を作りました。千葉県も見直しを行っており、県は250mメッシュで災害予想をしています。しかし、船橋市ではもっと細かく50mメッシュという災害予測をすることで、かなり詳細なデータが得られました。この地区にこんなリスクがあるということが、より鮮明に浮き彫りになりました。これについては、市のホームページでも公開していますし、地区で勉強会をずっと続けてきています。その他にも、洪水や内水に関して、想定し得る最大規模の降雨により、既存施設の排水能力を超えて発生する水害の浸水範囲や浸水深ならびに避難所等の情報を記載した洪水・内水ハザードマップを全戸配布しています。マイタイムラインについては、共通認識になってきましたけれども、何時の時点で自分は何を行う、家族は何を行うというマイタイムラインの案を作って活用してもらう等、伝えてきました。

やはり今の都市型災害の原型は、「阪神淡路大震災」です。各自治体やっていますけれども、船橋市も阪神淡路大震災が起こった時の被害の状況を踏まえて、市の医師会をはじめ、歯科医師会、薬剤師会、柔道整復師会の皆さんにも訓練に参加してもらっています。何故かというと、市では大規模な災害の発生時には病院前救護所を設置して救護活動を開始しますが、その際にはトリアージを行い、軽症の方は病院前救護所の治療エリアで処置を行います。そういった時にドクターだけではなく、柔道整復師の人にも参加していただいて、例えば骨折されている方にはギプスとかシーネをしてもらうといったことも必要です。やはり、オール船橋で何が出来るかということを常に考えてやっていかなければいけないと思っています。

備蓄に関しては、阪神淡路大震災以降、避難所の在り方で1つ指摘をされてきたことは、「口腔ケア」です。避難所で「エコノミー症候群」というのは確かによく言われていますが、もう1つ保健衛生管理の面で口腔内の衛生が十分ではないために誤嚥性肺炎になってしまって具合が悪くなったということが、阪神淡路大震災でもデータが出ており、船橋市歯科医師会からもいろいろ提案を受けています。今年度、船橋市は避難者の口腔ケアのため「液体歯磨き」を全避難所に配備しました。

私は、市の元職員で、防災の担当部長でした。平成21年に、防災士の資格を市の職員で100人作ろうと言って、その取り組みをスタートさせ、今では目標の100人を超えました。また、市職員だけではなく、市民の方にも防災士資格の取得の補助を行い、現在30人近くの市民の方が防災士の資格を持ち、それぞれの地域の中で頑張っていただいています。「防災人脈」というネットワークを作ってもらって、とにかく地域の中で活動してくださいと。こういったこともいろいろな人と話をするとアイデアをいっぱい出してくださるので、それを取り入れていく形でやっていますが、まだまだ十分ではなく、改善すべきところも沢山あると思っています。

 

―新型コロナウイルス感染拡大に伴い船橋市の対応策やワクチン接種の状況についてお聞かせください。

船橋市ではコロナ対策本部を令和2年2月3日に立ち上げました。また、船橋市で初めて陽性となった方が確認されたのは同年3月1日です。

令和2年3月下旬には千葉県東庄町にある船橋市の障害者支援施設で大規模クラスターが発生しましたが、備蓄していた防護服やマスクなどの物資を支援したほか、市職員の派遣も行い、乗り切ることができました。防護服やマスクなどをかなりの数備蓄していたおかげで対応できたのですが、これは2009年に船橋市で起こった関東で初めてとなる新型インフルエンザの集団発生がきっかけとなります。当時、感染対策において市の医師会がいろいろと協力してくださいましたが、その後も保健所と医師会で感染症についての部会を毎年開催し、感染症の勉強会を続ける中で、感染症予防のための防護服やマスク等の物資の備蓄の重要性といった意見を取り入れたからこそです。

コロナ対策においても船橋市と医師会は連携し、家庭内感染を防ぐこと等を目的として、コロナ専用病床やホテルでの宿泊療養施設の確保を行ってきました。

船橋市は令和3年8月現在、千葉県で唯一ホテルでの宿泊療養施設を市として2つ確保しています。また、コロナ専用病床は当初から順次拡大を図り124床確保しておりましたが、第5波が訪れた令和3年8月には19床増床し、現在は143床確保しています。県と連携をしながらベッドコントロールを行い、それぞれの病院で役割分担を行い重症度に応じた患者の受け入れをしていましたが、それでも今は非常に厳しい状況が続いています。

ホテルでの宿泊療養施設は家庭内感染を防ぐ目的や症状が軽度で入院できない方など、リスクが高い方などについて受け入れを想定しており、看護師を24時間配置した上で、各ホテルを担当する専門の病院も決めています。しかしながら、今は家庭内感染を防ぐというレベルを超えてしまっており、入院するほどではないけれども、リスクが高い人が療養できる場所の機能が問われていると思います。

今、船橋市の保健所では、変異株、デルタ株の検査を独自に行っています。変異株の状況についての公表は県単位が基本ですが、船橋市は市ホームページ等で日々の検査件数やデルタ株の件数を伝えています。つまり、デルタ株の市中感染状況について、リアルタイムに告知しています。情報を市民の皆さんに正しくお知らせをして、”だから危ないですよ”と注意喚起をしています。

先ほどのクラスター発生の時には、施設の入所者と職員全員にPCR検査を行ったところ、陽性者のうち無症状の方が6割位おり、私は非常に大きな危機感をもちました。いろいろ調べてみたところ、海外では無症状者のリスクをしっかり指摘していましたが、日本では去年のゴールデンウィーク前から秋頃まで無症状者については全く触れられていませんでした。しかしながら、船橋市では広報などで〝無症状感染者、いわゆるサイレントキャリアがいるから気をつけるように〟というアナウンスをしていましたが、逆に県外の方やいろいろな方たちから〝不安をあおるな〟等といったご意見をいただきました。船橋市としては実際にそういう懸念がありましたのでマスク着用や手洗いの徹底についてアナウンスし、また、これは言うべきだとして、国にもいわゆるサイレントキャリアの存在や危険性について国民への注意喚起を周知いただく要望書を提出しました。

船橋市のワクチン接種は、医師会と話して初めは町中のクリニックを中心にして行うという方針でした。1つのクリニックで何人位打てるかなど数字を出していただいて〝これで大丈夫〟と始めてみると、意外に時間がかかって非常にご迷惑をかけてしまいました。そこで、集団接種を急遽加えて、1週間に4万人ちょっとくらい打てる体制を作ったところに、今度は国からワクチンが来ないという状況になってしまいました。今はワクチンの量もある程度示されましたので、夜8時まで接種できる場所や複数の場所で集団接種を再開しています。

 

―小さいお子さんのいる家庭の感染を防ぐにはどのような対策をとられていますか?

学校の感染症対策マニュアルを、独自に改訂しながら作成しました。これについては感染症の専門家の方に当初からずっと相談をしながら取り組んできていますが、その中で大事なポイントは、クラスターにならないために、例えば家の中で誰かが濃厚接触者となり、症状があってPCR検査を受けるとなれば、検査の結果が出るまで登校は控えてくださいといったことや、発熱があったり、普段よりも熱が高かったり、或いは具合が悪い時は休んで様子をみてくださいということを徹底して行うことです。その他にも、学校に来る時の検温等、そういった基本的なことを各家庭で注意していただくことも大切です。

もう1つ大事なポイントは、学校の先生方が大変ではありますが、学校の感染症対策マニュアルをしっかり徹底してもらうということです。当初、ホテルでの宿泊療養をしていただいていましたが、医療体制が追い付いていかない場合、ご自宅での療養となれば、こういうところに気を付けてください、お子さんと接する時にはこうしてくださいというようなことで自宅療養をしていただき、保護者が急に具合が悪くなった時には保健所に相談していただいて、それぞれの家族構成に対応しながら、いろいろな策を講じている状況です。

船橋市は、外部委託も含め保健所のコロナ対応に関わる職員の増員を図り、最大280人を超える職員で対応していますが、それでも今は足りない状況です。職員は頑張っているものの、それぞれの事情にキメ細やかに対応しようとすると未だ全然足りません。

1つ言えることは、中核市である船橋市は保健所がありますから、リアルタイムで全てのデータが出ます。保健所を持っていない他の市では、何人感染したというデータはあっても、うちのまちのどんな人がどうなったというデータは十分でないことから、独自の政策をうつのは非常に困難です。県と各自治体との情報共有をどのようにするかというのは、今後大きなテーマになります。

日本では、今回の新型コロナウイルス感染症も含めて新型インフルエンザ行動計画という計画があります。しかしながら、その計画は薬があることを前提にしており、薬が全くないということを前提にしていません。法律を変えなければ出来ないことがいろいろあるわけですが、今回の経験を踏まえて、薬がある場合とない場合を考慮して、今後の行動計画は大きく見直されることになると思います。

 

―コロナ後の社会はどのように変わっていくと思われますか?船橋市の将来ビジョンなども含めてお聞かせください。

船橋市の市民アンケートの調査結果を見ると、〝文化活動はコロナ以降、今よりも大事になると思いますか?〟という質問に対して7割以上の人が〝大事になる〟と答えています。ということは、日常生活の面からいうと、所謂コロナの前のような状況に直ぐには戻れないけれども、やはり人との繋がりを求めている人は大勢いると思います。自分の余暇時間等を充実させていきたいと思っていたり、コロナで厳しかった分、心の安らぎなども求められていると思います。これは文化だけではなくスポーツもそうです。オリンピックに感動したり、米大リーグの大谷選手を見て家でホッとしたり等々、そういった癒しと心の充実感を求めるのはもっと強くなるのではないかと思います。

その一方で、地域の活動、いま高齢者の人達が非常によく地域を支えてくれており、そういった方の存在が非常に大きかったわけですが、コロナでかなり疲弊してしまいました。以前活動をしてくださっていた方から、コロナの後は〝次の人にやってもらおう〟みたいな声を聞くことがあります。この辺の再構築、これが行政としては非常に大事な視点になると思います。これまで培ってきた社会を取り戻すためには誰が何をいかにすべきか。そしてそこには心の充実感や喜びなどがなければ長続きしません。それを加味しながらの再構築は非常に大きなテーマです。もう1つの経済的な部分については、リーマンショックの時のような世界不況みたいなものとは違いますし、業種によっても凄く濃淡があります。例えば、飲食店の方々や、飲食店への卸店、食材を扱っている市場関係の人達などが非常に窮地に追い込まれて大変な人達が多い。ただこれは生活が戻っていくと、やはり自然に回復していくと思います。従って、その辺のサポートをどのようにすべきか、苦しくなってしまっている人達のサポートはどんなものが一番良いのかということを行政はアンテナを高くしてコミュニケーションをとって一緒に考えて取り組んでいく必要があります。若い人たちがこのコロナを経験したことで、どういう価値観を自分の中に見出していくのか?それによって、社会の在り様が随分変ってしまうのではないかと思っています。

船橋市は先述しましたように、人口が64万5千人位で、これからも人口が伸びていくと話しましたが、人口が多くて伸びるから良いまちになれるかというと、そんなことはありません。それは一つの現象でアドバンテージにはなりますが、人口が多いからこそ、人の繋がりというものを大事にする「まちづくり」をやっていかなければ、これからの「良いまち」にはなれません。そのためには市だけでやっているのではなく、若者達や市民の人達の市民活動、いろんな人が出会って、例えば農家の人と会社員と商店の人などが出会う形、それの1つのツールが音楽イベントであったりしますが、そこで出会ってお互いに繋がっていく。コロナ後もそうですが、そういったものをより意識して仕掛けていく必要があります。そこに時間をかけていくと若い人達も一緒になってやり始めます。つまり、自分たちだけでやり始めるようになるんです。これは私が市長になってからの実感です。本当に「良いまち」を作るためには、街並みとかそういったものも当然大切ですが、それと同時に人と人との繋がりが出来るような仕掛けを行政と市民の方達とのディスカッションの中で行っていくことが非常に大切です。

コロナ対策は引き続きしっかり取り組んでいきます。その上で地球環境というものに対してもそれぞれの自治体が頑張っていく必要がありますし、人と人との繋がりの中で様々なテーマを掲げてやっていくようにしたいと考えています。

〈取材日 2021.9.1〉

●松戸徹(まつどとおる)市長プロフィール

生年月日:昭和29年(1954年)11月9日
学歴:東京理科大学理学部物理学科卒業
主な経歴:
昭和53年4月 船橋市役所入所
平成14年4月 市長公室秘書課長
平成19年4月 市長公室長
平成21年10月 船橋市副市長
平成25年7月 船橋市長1期目
平成29年7月 船橋市長2期目
令和3年7月 船橋市長3期目

 

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