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ビッグインタビュー:社会福祉法人愛隣会総合ケアセンター駒場苑施設長・坂野悠己氏

2023/03/01

特別養護老人ホーム・デイサロン・グループホーム・ヘルパーステーション・ショートステイ・ケアプランセンターと、6つの介護事業を展開する社会福祉法人愛隣会総合ケアセンター駒場苑の施設長である坂野悠己氏は、42歳である。その若き施設長が掲げる「7つのゼロ」とは、寝かせきり・オムツ・機械浴・脱水・誤嚥性肺炎・拘束・下剤を限りなくゼロに近くすることであり、「7つのゼロ」を発信し続けることで、介護の世界をより良い場所に変えていきたい等、話してくれた。

 

「7つのゼロ」を掲げることで、介護の質の向上と介護職の人気の向上を目指しています!
坂野氏

社会福祉法人愛隣会
駒場苑総合ケアセンター
施設長 坂野 悠己 氏

 

 

―「7つのゼロ」について、その考えに至った経緯を教えてください。

私は20才の時から介護職をずっとやってきて、4年前に特養の施設長になりました。何故その7つを選んだのかと言うと、特別養護老人ホームや老健等はかなり重度の方が多く暮らしている所で、オムツや機械浴等、7つに関して不適切に使われていると強く感じていました。しかもその7つは、利用者さん本人が望んでなったものは1つも無く、出来ればみんな避けたいことを安易に行っているという現状でした。それを少しでも減らせないかと取り組んできました。

この7つをゼロにと掲げることで〝無理やりゼロにしているのではないか〟や〝施設の自己満足でやっているんじゃないか〟等の誤解もありました。オムツや機械浴自体を全否定しているのではなく、利用者さんが本当に必要であれば、使用して良い訳です。ただ、必要ではないのに使われていることが多いため、「7つのゼロ」を掲げることで、全利用者さんに対して、この方は本当はトイレに行けるのではないのか、本当は普通のお風呂に入れるのではないのか?という機会を施設で作らなければ、どんどん悪いほうへ流れてしまうので、そのチェックの仕組みとして7つのゼロを掲げており、不適切、安易な使用をゼロにするのが本来の目的です。

 

―反対する方もいる中で、皆さん共感してくださるまでにどの位かかったのでしょうか?

当時は介護職の人が21人いる中、共感してくれた方は3人でした。その3人とどのようにやっていくかを話し合いました。正直、当時は反発も大きかったので、実践をみてもらうことにしました。「食事の委員会」、「排泄の委員会」、「入浴の委員会」の委員会3つを作り、一番初めに行ったのは「排泄の委員会」で、各フロアの中から一人だけ利用者さんを選んで、食後におトイレにお連れするところから始めました。実際にオムツだった人をトイレにお連れしてみて、利用者さんにどういう変化があるのか?それで利用者さんに何か不利益があれば勿論止めなければなりませんが、私の中では勝算があって、大体オムツをしている方で、この人本当にオムツで良いの?っていう人までオムツになっているため、一番出来そうな人からやりましょうと。つまり、説得ではなく実際にやってから話し合いましょうとして行ったところ、結果として凄く上手くいきました。トイレに座っていきなりお通じが出た、或いは3日目位からお小水が出るようになったとか、もう一人の方は尿意と便意が戻られ、自分でトイレに行きたいと言ってくれる方まで出てきて、それは元々そういう能力はあったのに、強制的にオムツにさせられていたから、そうなっていただけなんです。反対していた人たちもトイレで出るなら確かに連れていったほうが良いなと。利用者さんにとってメリットがありますし、トイレで出たほうが結局は職員も楽です。良い結果に繋がったことで、来月はこの3人でやろうと、ちょっとずつちょっとずつ出来そうな人からやっていったところ成功体験が続くので〝坂野が言っていることもあながち間違ってはいない〟という感じの流れになりました。やはり利用者さんにとって良いかどうかで職員さんは判断をしますので、みんながちょっとずつ理解してくれました。

 

―セミナーを開催されていますが、どの位の方が参加されているのでしょうか?

基本的には依頼があった時に行うという形で、2か月に1回程度、今はオンラインセミナーを中心に行っています。先日は「KAIGO LEADERS」主催の7つのゼロセミナーを4回シリーズで行いました。7つあるので、「オムツ」と「下剤」だけで2時間、「機械浴」だけで2時間という風に分けて行いました。それぞれの回で60名ほどの参加者がいらっしゃっていました。その他の発信は、私個人のSNSで行っています。ツイッターやインスタグラム、ユーチュ-ブで発信しています。そのような発信の中で一日体験の取り組みをしています。例えば、どうやって機械のお風呂ナシで重度の方を入れているのかということを職員さんが順番に実習に来て技術を修得する形です。結果的に、機械浴を止めて当施設で使っている檜のお風呂を入れて行っている特養さんも埼玉にありますので、少しずつ広まって来ている実感があります。

駒場苑 「檜のお風呂」

 

―「オムツ外し学会」の三好春樹さんと一緒に講演等を行って、何か気づかれたことはありましたか?

お会いして話す中で、なるほどと思ったのは、私は快・不快の部分で〝オムツじゃないほうが良い〟と思っていた訳ですが、三好さんはそれも良いけど、その行為自体が生活リハビリになる、オムツで寝かせきりにするのではなく、トイレに1回座るだけで、その行為自体がリハビリになる、お風呂も機械のお風呂がセットされて、石鹸水がバーッとかかって何もしないで終わってしまうよりも自分で洗えるところは洗ったり、ちょっと跨いだりする時の足の動き等、それ自体がリハビリであり、それを奪ってしまうことで、どんどん重度化が進んでしまう。リハビリの観点からもそれは凄く大事なことだというのを聞いて、確かにそうだと思いました。それを学んだので職員さんに伝える時にも、ある意味科学的にというか、運動量が増えることでリハビリになるというのを伝えられるようになりました。

 

―リハビリに関して、駒場苑さんでは理学療法士さんを雇われているのですか?

うちは柔道整復師さんです。柔道整復師の方に利用者さんの運動機能の改善というか、運動機能を高めていただくようにしています。その手法については、生活リハビリの考え方を大事にしています。散歩に行く事や、趣味活動をする事自体がリハビリになるという観点で、そのサポートを柔道整復師さんに行ってもらっています。その他、体操や風船バレー等、楽しみの中でリハビリになるものを行う事で、心が動けば、からだが動く、リハビリを大切にしています。

 

―5月8日からコロナが5類に変わりましたが、約3年間のコロナ禍で困難だったことと今後については?

当施設も例外なく、特養でクラスターが起きた時がやはり大変でした。利用者さんは、皆さん無症状や軽症で、特に重症化される方はいらっしゃらなかったのですが、その方達を看ている職員さん達が順番に陽性になって、しかも陽性になると10日間お休みです。職員さんが少ない中で陽性者を看なければならない状態でした。職員さんというのはストレスの多い仕事ですし、職員さんのメンタルケアが厳しかったというのはあります。また利用者さんも、外に出れないや家族の面会もオンラインになってしまって、利用者さんの生活範囲が狭まってしまったので、認知症の進行が進んでしまったり、普通の生活をしていた時よりも重度化が早くなって、弱られてしまう方が多く見られました。

今後については、高齢者施設なので、全部開放することは正直難しいのですが、少なくとも家族とはちゃんと会えるようにしてあげたいので、1階ホールで直接お会い出来るように解禁しました。後は様子を見ながらちょっとずつやっていけたら良いと思いますが、出来るだけ利用者さんの生活自体は、豊かにしてあげたいので、家族に会えたり、敷地内を散歩出来るようにしたいと考えています。

 

―コロナが終焉した後は介護人材の不足が益々悪化すると言われていますが、駒場苑や関連施設での人材は足りていらっしゃいますか?

当施設では、一時的に人が不足したことはありますが、有難いことに直ぐ応募が来るので深刻に困ったことはありません。施設単体で出来る努力としては、当施設みたいに「7つのゼロ」とまで言わなくても自分たちの特徴を出して実践をしていくべきです。駒場苑の場合、採用は殆どSNSから来られます。つまり、SNSを見た人が来ますので、年齢層が割と若く30代40代位の方が多い。殆どの事業者さんがホームページは発信していますが、ホームページというのは、自分で見つけないと見てくれません。SNSは拡散されるので、いっぱいやっていれば全然知らない人にも届いたりしますので、自分たちの実践についてどんどん発信したほうが良いと思います。

私がツイッターを始めた頃は、介護職の愚痴ばかりが載っていました。それが世間のイメージになって、見た人が介護ってこんなに大変なんだと思ってしまう投稿ばかりでした。駒場苑もそうですが、今はいろんな事業所がSNSで良い発信をし始めており、ネガティブな発信は少なくなりましたから、世間のイメージを変えていけると思います。〝介護ってちょっと面白そう〟と、思ってもらえる努力をしたいと思っています。

賃金が安いことに関しては、介護報酬でコントロールされているので、上げることが出来ない。やはり国が介護の人材不足を本当に深刻だと受け止め介護職を増やしたいと思うのであれば、社会保障費をもっと大きくして介護報酬を上げられるように設定して欲しいです。その他、メディア等も虐待のニュースばかりで、良いニュースが少なすぎます。良い話もいっぱいありますので、介護が魅力的に思えるものを国が主導でメディアと連携してやってもらえたら全然変わってくるのではないかと考えています。

もう1つ言えることは、介護の業界だけではなく、多分無人化される業態が増えると思っています。これからテクノロジーが発展していって、例えば、今どんどんセルフレジになっていて、その内レジの人が要らなくなってしまうかもしれません。電車も自動運転になっていけば運転手さんがいなくなる、そういうような無人化する仕事が増えてくると思います。もしかしたら配送は無人でも出来るようになっていくかもしれませんし、そうなった時に無人化される業態とされない業態に分かれて、無人化されない業態に人は集まってくる可能性があります。つまり、無人化されない業態は、福祉とか医療の分野であると考えています。テクノロジーの力は多少使っても無人化は出来ません。其処の部分でそういう人達が流れてくる可能性にちょっと期待をしています。

 

―今後の抱負や目標等をお聞かせください。

法人とか地域を超えて日本の介護の事業所の資質の向上に役に立つ事業所になるというのが駒場苑の目標であり、そういった事業を行うことが私の目標です。つまり、駒場苑だけで良いケアしているのではなく、そのやり方をいろんな人に伝えていって介護業界全体のサービスやケアの質が底上げされるような影響力のある事業所になりたいと思っています。結果的に介護業界全体の質が上がれば、良いケアが出来る事業所が増えます。魅力的な事業所が増えていくことで、介護をやりたいと思う人が増えていくことにも貢献できると思いますし、その部分で他の介護の事業所さんにも役に立つことをしていきたい。社会に貢献が出来たら良いと思っています。

 

 

●坂野 悠己 氏プロフィール

1981年生まれ。20歳の頃から介護職として特養を中心に働き、横浜の特養では安易なおむつ、機械浴、スピード重視の食事介助、拘束等、当時の特養の現状に異を唱えてケア改革を行い、講演活動を開始。2010 年、施設改革の依頼を受け、特養駒場苑に転職。特養駒場苑では7つのゼロを掲げてケア改革を行う。現在は駒場苑グループ全6事業の施設長として在宅~施設で暮らす高齢者の「最期まで気持ち良く主体的でその人らしい生活」を支えるための環境作り、仕組み作りをSNS等を中心に発信。YouTubeチャンネル「かいご噺」運営。著書「介護百首」。

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