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一般社団法人日本転倒予防学会第10回学術集会 開催

2023/12/01

2023年10月7日(土)・8日(日)の2日間、京都府民総合交流プラザ京都テルサ(京都市)において「一般社団法人日本転倒予防学会 第10回学術集会」が開催された。

大会長の金森雅夫氏は、‶本学術集会は「新しい転倒予防」をテーマとし、演題数は133に及び充実したプログラムを構築することができた。本大会のポスターには、琵琶湖疏水記念館に設置されている【巨大な輝き】というモニュメントの写真を使用している。疎水トンネル建設工事では転倒・転落などの事故によるたくさんの犠牲があったと思うが、その努力の甲斐あって琵琶湖から水を引くことができ、京都の活性化に繋がった。皆さんも新型コロナウイルス感染症のパンデミックの影響で、診療が増え忙しかったことと思うが、心機一転して「新しい転倒予防」を考えてみようということで今回のテーマとした。大いにコミュニケーションをとり、満足のいく学会としていただきたい〟と挨拶した。

 

大会長講演
健康な長寿を求めて~転倒予防研究に関する未来への期待~

羽衣国際大学人間生活学部教授/立命館大学総合科学技術研究機構
金森雅夫氏

2022年の国民生活基礎調査によれば、介護が必要となった主な原因の約14%が骨折・転倒であった。また、70歳以上の人でリハビリテーションが必要な人の割合は約半数いる。さらに65歳以上の通院者率(入院者を含まない:人口千人当たり)は、骨粗しょう症が57人、骨折が15人、認知症は20人、パーキンソン病は7人となっている。転倒に深く関係した疾患が多くなっていることからも、我々が「転倒」の調査・研究を重ねる責務は大きい。

医学雑誌『ランセット』によれば、30年間の疾病負荷(健康寿命を阻害している要因)には生活習慣病、感染症、不慮の事故などがあるが、不慮の事故の中でも転倒・転落の占める割合は大きくなってきている。2007年2月にカナダで行われた、高齢者の転倒予防に関するテクニカルミーティングの成果をまとめた『WHOグローバルレポート』では、高齢者の転倒に関する危険因子モデルとして、▼行動的リスク要因(多重薬剤・運動不足等)、▼生物学的リスク要因(パーキンソン病・骨粗しょう症等)、▼社会経済的リスク要因(不適切な住宅・社会交流の不足等)、▼環境的リスク要因(不適切な建築デザイン・滑りやすい床等)が挙げられている。1986年には、林泰史氏、籏野脩一氏らとともに老人の大腿骨頸部骨折に関する患者対象研究を行った。骨折群は対照群に対して、肉・豆腐類の摂取量が少ない、体重・BROCA指数も小さい傾向がある、認知症有の者が多い、転倒を頻回している者の割合が高い等の特徴があった。

そこでトレーニングで平衡感覚を取り戻せないかと考え、動的バランスに着目し、被験者に対しセグウェイのような乗り物に乗りバランスを取るというトレーニングを3か月間行った。すると最初は乗れなかった被験者も、トレーニングによって乗ることができるようになった。理由として、乗車による学習効果、繰り返すことによる脊髄反射経路の形成、筋力向上による姿勢維持能力の向上、達成への意欲向上などが考えられる。この実験結果からも、バランス能は中高年でも改善できる可能性があるのではないか。 また、平均気温と転落・転倒死亡率の関係性について調査したところ、気温が低いときのほうが転倒は起こりやすく、23℃前後が一番転倒が少ない。しかし近年の猛暑など気温の上昇によっても転倒死亡率が上昇することが明らかとなった。我々は転倒のリスク対策とともに、このような危機にも対応していかなければならない。

 

基調講演
Foot Healthから考えるウェルビーイングと健康長寿

学校法人立命館副総長・立命館大学スポーツ健康科学部教授
伊坂忠夫氏

歩くということは我々人間にとって極めて重要で、自立するということのひとつである。65歳以上の男女で1分間に90m程度の速度で歩ける人は、平均余命が30数年あるというデータもある。生涯を通じて自由に移動出来て自立しているということは、身体的なものだけではなく社会的なことも含めたウェルビーイング(身体・心理・社会的幸福)に繋がるものだと考える。

足の痛みやこわばりを持つ方は中齢・高齢になるとより多くなる。加齢に伴い、足趾屈曲筋力は低下する。特に女性の場合は、変形も見られやすい。足趾屈曲筋力の低下は、バランス能力の低下や歩行能力・モビリティの低下につながり、運動機能全体に影響をきたす。転倒を繰り返す高齢者では、転倒無経験者及び1回経験者に比べて足のトラブルを抱えている方が多い。足趾の力が落ちているとそれだけで転倒リスクが高まる。足の健康問題に対するケアは、転倒予防にとっても重要となる。また、足趾のトレーニングは認知機能も改善させる。認知機能の改善度合いは足趾屈曲筋力の改善度合いが最も主要に寄与する。

日本では不健康期間(健康寿命と生物学的な寿命の差)は9~13年と長期に及ぶとされており、高齢者の4人に1人は軽度認知障害あるいは認知症、運動器疾患症候群の患者数は軽度も含めると5000万人に達する勢いで増加している。足のこわばりや痛み、変形、筋力低下などはなかなかケアされない部分であるが、足の健康問題にもっと目を向けてケアしていくことで、運動機能や認知機能の改善、QOLの向上、転倒予防などに繋がり、ウェルビーイングに大きく貢献してくれると考えている。ウェルビーイングと健康長寿を伴う社会形成には、Foot Healthに対する教育・研究を促進していく必要がある。

 

 
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