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「匠の技 伝承」プロジェクト第3回指導者養成講習会開催される

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2021年11月28日(日)、日本柔道整復師会会館(東京都台東区)において、『「匠の技 伝承」プロジェクト第3回指導者養成講習会』が開催された。今回は足周辺の骨折として、外果骨折をテーマとして講習が行われた。

第3回指導者養成講習会
長尾淳彦学術教育部長

公益社団法人日本柔道整復師会・長尾淳彦学術教育部長は〝柔道整復師は、骨折・脱臼の施術にこそその存在価値があると考えている。それを基本に、捻挫・打撲の施術、そして機能訓練指導員やケアマネジャーといった介護分野にも参入できる。骨折・脱臼の整復・固定技術を手放してはならないということで、この「匠の技 伝承」プロジェクトが始動した。10年をかけて、日本全国の接骨院でいつでもどこでもどなたでも、骨折・脱臼の施術ができる体制を整えることを目指している。今回参加されている先生方には、技術や知識を向上させるだけではなく、他の施術者や養成校の学生、あるいは地域の患者に対し匠の技の趣旨を伝えていただくことで、より我々柔道整復師についての社会的理解も深まると思う〟と趣旨説明を行った。さらに、〝今回は第3回目の指導者養成講習会となるが、2022年度はコロナ収束状況によるが、できるだけ対面で匠の技を学んでいただければと考えている。指導者候補の皆さんは、自分が指導者となったときに、どのように技術を伝えていくかを考えながら受けてほしい〟と語った。


整復・固定施術技術実習

講師:森川伸治 氏

森川氏は〝一人で行っている接骨院が多いことを考慮し、ひとり整復を想定して行う。患者は仰臥位になり、膝関節を45度屈曲する。右外果骨折の場合は、右手で中足部を支えながら左手で踵骨を把持して長軸に対して対抗牽引する。足関節はゼロ度(自然位)にて回外する。長軸牽引しつつ、外果に母指球を当てて直圧を加えながら整復する。整復後は、持続牽引をかけたまま金属副子を足関節に当てる。足趾はMPまでとし、指を動かせるようにする。踵骨に金属副子が当たらないように注意することと、外返しの肢位を維持して固定することが重要。後療しやすいよう、まずは中足部の固定を行う。中枢側も固定した後、湿布をして足部の固定を行う。足関節はさらに厚紙固定を行う。厚紙を金属副子の内側で使用するか外側で使用するかは、下腿の太さによって臨機応変に対応すること。包帯はずり落ちないよう、らせん帯、折転帯、麦穂帯を状況に応じて使い分け、患部が動揺しないように落ち着いて固定する。固定後は踵骨が少し浮いた状態になっているようにする〟と詳細に解説した。

続いて各都道府県参加者による整復・固定実技に移った。森川氏は各参加者の実技の様子をじっくりチェックし〝伸展位で整復・固定すると隙間が空いてしまうので、膝関節は必ず45度屈曲位にて行う。牽引する際には踵骨より上を把持すると痛みが出る可能性があるので注意すること。牽引後は即直圧するのではなく、持続して牽引することも重要。踵骨アーチは大きく取りすぎると隙間が空きすぎて固定力がなくなってしまうので注意すること〟等、指導を行った。

超音波観察装置・操作技術編

講師:佐藤和伸 氏

佐藤氏は〝向かって左が中枢、右が末梢となるよう描出する。腫脹が強い場合はエコーゼリーは少なめで良いが、健常の足関節を観察する場合は凹凸が非常に激しいため、エコーゼリーは多めに使用する。まず腓骨下端から長軸走査を行う。線状高エコーとして1本の線のように表示されるようにする。次に短軸走査を行う。腓骨、腓骨筋腱から横に切るようにプローブを中枢から末梢まで移動する。骨折があることを想定して、後上方から前下方へ移動すると骨折の転位状況がよくわかる。骨折している部分は段差が生じるため、どの程度の段差があるのか、あるいは横方向に末梢骨片が同移動しているのかを観察できる。末梢に行くにつれて腓骨が扇型に広がっていく。左に腓骨、右に距骨が描出される。腓骨を中心にピボット走査(扇形にプローブを動かす)を行うと、前距腓靭帯が描出される〟と手順を説明。

各都道府県参加者による実技では、〝前距腓靭帯は薄くて描出しにくい人もいるが、プローブを左手に持ち、右手の第3・4・5指で踵骨を把持し、第一指で前方から後方に押し込むようにして関節にストレスをかけると描出しやすくなる。損傷の状態等が非常によくわかるのでぜひ練習していただきたい〟と具体的にアドバイスを行った。

講義終了後、森川氏は〝骨折や脱臼は常日頃から遭遇するわけではないが、だからこそ繰り返し練習を行わないと患者が来院した際に落ち着いて整復・固定ができない。繰り返し患部に触れ、評価し、技術を磨くことが重要となる。決して一朝一夕にはできない。柔道整復術を後世に残していくために、指導者候補の先生方には日ごろからそういった気持ちで施術に臨んでいただきたい〟、佐藤氏は〝超音波画像だけだと患者さんは全体をイメージするのが難しいため、タブレット等を用いて解剖図を示して説明するのも良いかと思う。超音波観察において最も重要なのは技術ではなく慣れであり、どこに靭帯があって腓骨があって、というのをイメージしながら操作できるようになると安定した描出ができる。ぜひ楽しんで使っていただきたい〟と総括した。

第3回指導者養成講習会
工藤鉄男会長

講評として、公益社団法人日本柔道整復師会・工藤鉄男会長は〝自分の利益のためではなく、国民の利益のために技術を学んでいく必要がある。成功するかしないかは「他人のために仕事をしよう」という精神を持っているかどうかだと考えている。柔道整復はこれまで社会に必要とされて繁栄してきたが、近年個人契約の誕生、養成校の乱立をはじめ様々な問題が生じている。日本柔道整復師会は苦しいときこそ変わろう、原点に立ち返ろうということで、「匠の技 伝承」プロジェクトを進めている。チーム医療が進む中で、骨折・脱臼・打撲・捻挫・挫傷についてはすべて柔道整復師に任せよう、と言ってもらえる体制を構築することを目標としている。また、科学的検査機器である超音波観察装置の取り扱いを学ぶことは国民の利益にも繋がる。すべての柔道整復師が超音波観察装置を使いこなせるようになることが大切と考えている。私は今後、すべての業界において階層化が進むと考えているが、柔道整復師業界においても「施術管理者になるためには3年の実務経験が必要」となったように階層化が進んでいる。超音波観察装置を適切に使用できる柔道整復師についても階層化が進むと考えており、それをもって国民に貢献できる仕組みを作り上げたいと考えている。指導者となる皆さんにはそういったことを心に留めて、立派な指導者となるため頑張っていただきたい〟と激励した。

最後に、長尾学術教育部長は〝現段階では、2022年は4回の講習会開催を予定している。新型コロナウイルスの感染状況も考慮しながら、対面あるいはオンライン、ハイブリッド方式と、日本柔道整復師会の持つツールを最大限に生かしながら皆さんとともに骨折・脱臼の整復固定技術、超音波観察装置の取り扱い技術を広めていきたい〟と締めくくった。

次回は、2022年2月20日に開催が予定されている。

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