匠の技伝承プロジェクト第4回指導者養成講習会 開催
2025年2月9日(日)、日本柔整会館(東京都台東区)において、「匠の技伝承」プロジェクト2024年度第4回指導者養成講習会が開催された。今回は肩甲上腕関節脱臼をテーマとして、ヒポクラテス法による脱臼整復・麦穂帯固定および超音波画像観察法のフォローアップ講習が行われた。


公益社団法人日本柔道整復師会・長尾淳彦会長は〝荒天で全国的に大変な状況の中、たくさんの先生方にご参加いただき感謝申し上げます。本日の講習会だけではなく、こうして全国の先生方とオンラインで様々なことができるインフラが整備されているのも日本柔道整復師会だからこそだと思う。スムーズに連携が取れるよう手を尽くしたい。今日一日よろしくお願いします〟と挨拶。

森川伸治副会長は〝ご承知のように、肩関節脱臼は子ども、青壮年、女性など、患者の状況に応じて臨機応変に対処しなければならない。指導者候補の先生方には、1つだけではなく様々な整復法を身につけていただき、地元の県で若い先生方にしっかりと指導できるようトレーニングを積んでいただきたい〟と述べた。

また、趣旨説明として徳山健司学術教育部長は〝先生方にはすでに今年度から各県において指導者として講習会を開催していただいている。やはり我々柔道整復師も、根拠を持って施術を行っていかなければ将来が見えないと考えている。根拠のある施術のためには施術の平準化、可視化をしっかりと行っていかなければならない。将来的にこれが柔道整復術のエビデンスになるよう、我々も一生懸命頑張ってまいりたい。今後も先生方のご理解とご協力を賜りながら、しっかりとこの業界の将来を見据えて進めていきたい〟と述べた。
その後、整復固定施術及び超音波観察の実習として、座学・実技の講義が行われた。
整復固定施術技術実習
講師 山口登一郎氏
座学
肩関節脱臼は高頻度に遭遇する脱臼の1つで、主に成人に見られ、小児に発生することは稀である。治療の経過により反復性脱臼に移行するものもあるため、十分な注意のもと治療する必要があるが、最近は画像診断の進歩により、初回脱臼からバンカート損傷等が見られるため、観血的に反復性脱臼を防ぐという方向に進んでいる。発生頻度が高い理由として、上腕骨骨頭に対して関節窩が極端に小さいこと、各方向に極めて広い可動域を持つこと、関節包や補強靭帯に緩みがあることなどが挙げられる。
整復法として有名なのはコッヘル回転法、ヒポクラテス踵骨法、スティムソン吊り下げ法、ドナヒュー吊り下げ法、ゼロポジション法などがある。
また、合併症としては大結節骨折は発生頻度が高い。肩関節窩縁骨折(骨性バンカート損傷)や上腕骨骨頭骨折(ヒルサックス損傷)も重要となる。
鑑別診断では、肩関節前方烏口下脱臼と上腕骨外科頚骨折外転型との鑑別がポイントとなる。脱臼では三角筋部の膨隆が消失し、肩峰下に骨頭を触れず空虚を認める。上腕は軽度外転位に弾発性固定される、一方で骨折の場合は、内出血のため三角筋部が膨隆する。肩峰下に骨頭を触知でき、肩関節の運動はある程度保たれ軋轢音を聴取できる。
実技
整復法
<ヒポクラテス法>
まずは腋窩を保護するためにタオル等を挿入する。背臥位の患者に接して座り、踵及び足の外側縁を患側腋窩に当て肩甲骨を固定する。それから両手で前腕部を脱臼肢位のまま把持し、徐々に末梢牽引する。患者が痛がる場合は膝を屈曲させると腹圧が下がり楽になる。外転・外旋し、足底で上腕骨を体幹から離すように内転・内旋する。
<ゼロポジション法>
患者をベッドに背臥位に寝かせ、術者は患者の患側に立つ。脱臼肢位のままゆっくりと肘関節を伸展させる。牽引を持続したまま上肢を肩関節のゼロポジションまで挙上すると整復音とともに脱臼が整復される。
<ドナヒュー法>
椅子の背もたれを使って行う整復法。タオルを椅子の背もたれにかける。患者に椅子の背もたれ側に患肢が来るように座らせ、腋窩を背もたれに当てる。このまま下垂した患肢に3~4kg程度の錘をかける。これでも整復されない場合は、患者の肘関節を90°に保持し術者が自身の体重をかけ整復する。
なお、どの整復法であっても必ず最後に弾発性固定が消失したかを確認することが肝要だ。
固定法
<麦穂帯固定>
麦穂帯固定では腋窩枕子、3裂包帯、湿布、厚紙副子を使用する。前は胸鎖関節、上は肩峰、後ろは肩甲骨の上角を隠すように巻くのが基本的な巻き方になる。上腕遠位から包帯を巻き始め、腋窩に枕子を挿入し、患部に湿布を当てる。圧迫の強度を増し、包帯を巻きやすくするためにも厚紙副子がある方が良い。肩の前後に厚紙副子を当て、包帯を最後まで巻き綺麗に被覆する。できるだけ一点から放射状に巻くのが綺麗に巻くポイントとなる。また、全体が見渡せる位置に立って固定するのも重要だ。この状態のまま三角巾で提肘する。結び目が首に当たって痛みが出ることがないように、三角巾はなるべく患側の方で結ぶ。軟部組織損傷もあるので、この上からアイスバック等で冷却すると良い。




超音波観察装置取扱技術実習
講師 小野博道氏
座学
まず前方走査で観察する。短軸像で結節間溝のところに当てると小結節、大結節が描出される。結節間溝の中には上腕二頭筋長頭腱がある。患者さんの顔かたちが一人ひとり違うのと同様に、結節間溝の形も人それぞれであり、形によっては上腕二頭筋長頭腱が逸脱しやすい不安定な状態になりかねない。小結節には肩甲下筋が停止していて、そのままの流れで、上腕二頭筋長頭腱を上から抑えている横靭帯が描出される。肩甲下筋の腱と三角筋の間には、少し輝度の高いPeribursal fatという柔らかい組織があり、その下に滑液包が描出される。滑液包は通常とても薄いため、エコーで観察した際に映し出されるということは水様性の成分があり、腫れている可能性が示唆される。
また、上方から腱板の付着部を観察する場合、前額面に対してプローブを45度程度の角度で持って描出しなければならない。前額面と並行した状態で見ていくと完全に見失ってしまう。注目していただきたいのが、腱付着部では腱は腱のまま骨に付いているわけではなく、軟骨になり、しっかりと釘を打つような形で直角に骨に付着しているという点。腱付着部を痛めるケースでは、その直角の層が崩れて炎症が起きているということも示唆される。
肩のインピンジメント症候群の際に、滑液包が腫れる病態がよく見られる。烏口肩峰靭帯はインピンジメントされやすいため圧痛があるかどうかをしっかり診ること。インピンジメント症候群がある患者さんの場合はPeribursal fatに厚みがあることが多い。患者さんが肩の痛みを訴えてインピンジメント症候群を疑う場合に観察すべき肩峰下滑液包と三角筋下滑液包、そして烏口肩峰部分の滑液包は、実際には1くくりになっている。しかし肩峰下滑液包は肩甲上神経が分布し、三角筋下滑液包は腋窩神経領域、烏口肩峰部分の滑液包は外側大胸神経から支配されている。つまり1くくりの滑液包でありながら、支配神経が部分的に違う。そのため、痛みを誘発している神経はどこなのかを考えたうえでアプローチする必要がある。
後方走査の場合、関節窩、上腕窩、上腕骨頭、そして棘下筋が見え、上の層は三角形の後部線維と中部線維が混ざって見えてくる。ここで関節唇がしっかりと三角形に捉えられるかどうかもポイントの1つ。上腕骨を内旋した時に関節唇がどのような形で動くかにも注目してもらいたい。上腕骨頭、烏口突起、そして三角筋があり、肩甲下筋の腱が存在し、右側に棘上筋腱がローエコーで描出される。その間に上腕二頭筋長頭腱が走行している。その周りが腱板疎部という部分だが、投球動作で後方にテイクバックをした際にトップまで上げていく伸展から外転の動作の時に痛みを出す人は、極度の伸展動作からの回転という圧迫されるようなストレスが加わって腱板疎部が腫れてしまっているケースもある。
合併症としては、大結節骨折、バンカート損傷、関節唇損傷に気を付ける。また、脱臼時に関節窩とぶつかって上腕骨頭の一部が欠損するヒルサックス損傷にも注意が必要。
実技
まずは前方走査を行う。大腿部に手を回外位で置き、烏口突起、結節間溝の位置を確認する。烏口突起からそのまま横にスライドすると結節間溝が出てくる。ここでプローブを内旋・外旋と動かして観察する。結節間溝をしっかりと映した状態で、パワードプラのボタンを押すと中の方に血流があるかどうか観察できる。プローブを強く押し当てすぎてしまうと血管は潰れて血流が止まってしまうため、パワードプラで観察する際は優しく置くようにして血流を観察する。血管流入があるということは損傷等が示唆されるため、しっかり確認を行うこと。
上方走査は、前額面に対して45度のところに肩峰、そして大結節を映す。
後方走査は肩甲棘と水平にプローブを置く。そうすると関節窩、関節唇、上腕骨頭が見えてくる。そこから内外旋すると、関節唇が潰れてしまう。患者さんによっては関節唇がこのような形で棘上筋腱とぶつかって痛みが出ているケースもあるため注意して観察する。




山口講師は〝回を重ねるたびに、皆さんにどんどん技術が上がってきている〟とコメント。小野講師は〝プローブ走査も上達している。練習を重ねて解剖学的な部分も含めて再度確認していただきたい〟と評した。

閉会の辞として金子理事は〝皆様のご協力のおかげで、本プロジェクトも折り返し地点に来た。さらなる皆様のご協力をお願いしたい〟と締めくくった。
次回は、4月13日(日)に「令和7年度第1回指導者養成講習会」が開催される予定だ。
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