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(公社)日本柔道整復師会第45回関東学術大会栃木大会開催!

トピック

2025年3月9日(日)、栃木県総合文化センターにおいて「公益社団法人日本柔道整復師会第45回関東学術大会栃木大会」が開催された。(日理工展示共催)

長尾淳彦会長

学術大会開催にあたり、主催である公益社団法人日本柔道整復師会・長尾淳彦会長は〝この関東学会は、私たち日本柔道整復師会の北海道から九州までの11ブロックにおいて、今年度最後の学術大会となる。大上先生の特別講演、関東ブロックの先生方から7題の研究発表が行われるが、学術大会を通じて我々柔道整復師が日頃の治療にどのように役立てていくか、またどのように施術所を経営し、世に貢献していくのかを考えていただきたい。本日は大勢の方が参加されている。様々な方と交流を深めながら、将来の柔道整復師像を見据えて議論を交わしていただきたい〟と挨拶。

田代富夫会長

主管である公益社団法人栃木県柔道整復師会・田代富夫会長は〝栃木県で関東学会が開催されるのは9年ぶり、対面のみで開催されるのは実に4年ぶりとなる。我々も心を込めて準備してきた。今日は日理工による展示も豊富に行われている。この大会をつつがなく進行、終了できますよう皆様のご協力をお願い申し上げます〟と述べた。

特別講演
「日常診療の腰痛の注意点」

一般社団法人巨樹の会新上三川病院院長 大上仁志氏

<概要>

大上仁志氏

医師は腰痛をどのように診察しているか。まず診るのは神経初見の有無、そして命に関わる重篤な腰痛ではないかどうかという点だ。神経症状には、腰の痛みだけでなく下肢の痛みや痺れもある。排泄も上手くいかなくなることもある。また狭窄症の特徴的な症状として、歩いているうちに足がだるくなって足を前に出せなくなったり(間欠性跛行)、歩行時に会陰部に灼熱感が出たりする場合もある。神経症状を捉えるためにまず問診を行い、反射や知覚、筋力、神経刺激症状などを確認して客観的所見を得ることが重要である。「腰痛症」や「変形性腰椎症」といった診断名がつけられることもあるが、実際にはその原因がはっきりしないことも多い。X線や MRIの画像が綺麗でも、患者にとっては痛いものは痛い。患者のわかる言葉に言い換えて説明することが大切。

ぎっくり腰は数日から2週間ほどで回復するが、足の痺れが出てきた場合はヘルニア疑いとして再度受診してもらう。腰が痛くなりやすい人には痛み止めを処方し、痛みが強い間は安静にしてもらう。歩けるようになったらどんどん動くよう指導する。寝たままだと却って回復を遅らせてしまう。「気持ちが良い」と思えることは基本的に何をしても構わない。楽になるならお風呂に入ってもいいし散歩をしてもいい。患者の感じ方を大切にしてほしい。痛み止めは頓服とし、必要最小限の量を服用する。NSAIDsは効果は高いが、胃腸や腎臓に負担をかける可能性があるため、使用には注意が必要だ。また理学療法として腰痛体操を取り入れる。腰痛体操は痛みを取るためにするというわけではなく、日頃から腰をケアするために行う。若者は問題のない体操でも高齢者は圧迫骨折を起こす場合もあるので、自分に合った体操を長期的に続けることが大切。患者自身が自分の腰を管理しようという意識を持つことが重要となる。

腰椎椎間板ヘルニアは比較的若い人の疾患で、椎間板が脊柱管にはみ出して神経を圧迫し片方の足に痛みや痺れが生じる。時間経過とともにヘルニアが消失することもあるため手術に至るのは全体の3割程度だが、脊柱管を塞ぐような巨大なヘルニアで排尿が難しい人や痛みが取れるのを待てない人など一部は手術適用となる。保存療法では痛み止めを使用する。一番効果的なのは仙骨硬膜外ブロックや神経根ブロックで、保存療法で効果が得られなければ手術も提案する。

脊柱管狭窄症は比較的高齢者に発症することが多く、加齢により脊柱管が狭くなることで歩行時に足の痺れや痛みが生じる。平気でも立っているだけで辛いこともあるが、一休みすると症状が軽減するのが特徴である。歩ける距離は日によって異なるが、長期的に見ると距離が減少していく。「歩けなくなるのでは」と心配する患者も多いが、全く歩けなくなることは稀で、歩行がそれほど必要でなければ手術も不要と考える。しかし加齢に伴う変化で起こる症状のため、ヘルニアのように自然に改善することはない。手術をすれば痛みは無くなり歩行距離も増加するが、筋力低下が起きていると回復には時間がかかる。手術では除圧を行う。予防的な手術は避けるべきだが、本当に必要であれば年齢に関わらず手術してもいいと考える。

圧迫骨折は、骨が弱くなった人が尻餅をついたり草むしりをしていたり、軽い外力でも起こることがある。背景には骨粗鬆症があるため女性に多く見られる疾患だが、男性にも起こり得る。保存療法が原則だが、偽関節や神経症状を伴う場合には手術が必要になることもある。圧迫骨折を経験した患者はとにかく再度転倒しないようにすることが大切。現在では骨粗鬆症の効果的な治療薬も出ているが、毎日の食事で肉や魚を摂ることも重要となる。

では命にかかわる、見逃したくない腰痛とは何か。がんによる腰痛は特に重要だ。乳がんや前立腺がんは骨に転移しやすい。かつてはがんは恐ろしい病の代表のように言われていたが、現在は非常に効果的な薬も出てきているし、痛みはきちんと取れる。恐怖で痛みが増すこともあるため、怖がらず前向きに捉えた方が痛みにも良い。化膿性脊椎炎という疾患もある。胸膜や腹膜のような、バイキンから守るバリアを持たない骨が細菌に感染することによって腰痛が起こる。抗生剤が効かないと手術になる場合もある。腰痛の原因が骨以外にあるケースもある。例えば腰痛で来院したある患者は、股関節も脊柱管も問題がなかったが、MRIを撮ったところ腹部に大動脈瘤が見つかった。もし発見が数日遅れていたら破裂していた可能性もあった。このようなケースで来院される患者もいるかもしれないと理解しておくことが重要である。

病気にはさまざまな種類があり一朝一夕には解決できない。しかし患者の不安は少しでも少なくしてあげたい。命に関わる危険な腰痛を問診で見抜くには、いつから痛むのか、痛みが増強しているか、下肢の神経症状があるか、痛みが増す動作があるか、発熱があるか、癌などの既往があるかなどを確認する必要がある。また「何かおかしい」という直感は大切にしたほうが良い。これらをチェックすることで重大な疾患の見落とし防止につながる。

学術教育部からのお願い

匠の技伝承プロジェクトの意義等について

公益社団法人日本柔道整復師会学術教育部長 徳山健司氏

<概要>

徳山健司氏

現在、日本柔道整復師会では「匠の技伝承プロジェクト」を10年計画で進めており、ちょうど折り返し地点に到達した。昨年も説明させていただいたが、我々柔道整復師の施術は経験や勘に頼った施術だが、これからはしっかりと科学的根拠を持って進めていかなければならない。

国民皆保険制度は「いつでも・どこでも・誰でも」という公平性があって初めて成り立つ。その公平性を担保するものがエビデンスである。すでに医療では標準治療が当たり前になっており、臨床研究を検索し、それが本当にエビデンスの評価の高いものかどうかを見極めたうえで患者に適用する。これが医療の中ではスタンダードになっている。

2021年に出版された『理学療法ガイドライン第2版』には、理学療法士協会前会長のコメントが掲載されている。中央社会保険医療協議会(中医協)の専門委員である理学療法士協会前会長によれば、中医協の会議において「ガイドラインのない学会に対しては強くガイドラインの作成を要請する」「ガイドラインのない治療法は報酬の対象になりえない」との発言が厚生労働省からあったという。そして2022年診療報酬改定に費用対効果判定を導入することが決まり、当面の間は単価の高い治療等について検討することになったとされている。私は柔道整復業界もいずれはそうなるのではないかと危惧している。だからこそ「匠の技伝承プロジェクト」で平準化した治療を行うことによってガイドラインを作っていく。これに向けて柔道整復術の正当性、有効性を示していかなければならない。

エビデンスレベルを意識した研究論文や症例集積、症例対象研究に取り組まなければ、今後我々の業界の発展はない。日本は少子化もあり、今後は経済力を落としていくと考えられる。療養費の抑制を強く求められる時期が来る可能性があるという危機感を持っていかなければならない。エビデンスを意識した研究活動を行ってガイドライン作成を目指す必要がある。

先行研究の記載がないものは論文ではない。再現性もなく、偶然であることを統計解析で否定できないものは研究でもない。学会発表は論文投稿のための事前準備であり、雑誌(ジャーナル)に掲載されて初めて論文を発表したと言える。我々柔道整復師の発表は症例報告が非常に多い。症例報告が悪いとは言わないが、論文に繋げていくためには追試研究が必要になる。

柔整施術に対する科学的な裏付けがないと「保険適用の根拠がない」と言われてしまう。それを改善するために研究論文を積み上げていく必要がある。「匠の技伝承プロジェクト」を継続する中で最終的にはガイドラインを作成したい。柔道整復師分野における様々な論文が積み重なれば、診断精度の向上、不正請求の防止、施術の効率化、患者管理の向上、教育や研究の支援が実現できる。柔道整復療養費の交渉を行うためにも説得力のある資料が必要だ。柔道整復師だけでなく、多様な職種と連携しながら進めていきたい。先生方のご理解とご協力をお願い申し上げます。

エコーを柔整師の手に

公益社団法人日本柔道整復師会学術教育部員 小野博道氏

<概要>

小野博道氏

今年の柔道整復師国家試験にもエコー画像に関する問題が出題されている。これはつまり厚生労働省からの「柔道整復師はエコーをしっかり勉強しなさい」というメッセージともとれる。皆さんにも我々はエコーを勉強していかなければならないと認識してもらいたい。

柔道整復師が使用する超音波観察装置の見解としては、平成15年に厚生労働省医政局医事課長通知にて「施術に関わる判断の参考とする超音波検査については、柔道整復の業務の中で行われていることもある」とされている。あくまでも皆さんが行う施術の中で参考にするのであれば関係法令に反するものではないという見解。このように評価をするまでの間に自らの意思でエコーを使って観察するという医療職種は医師と我々柔道整復師しかない。この既得権を守っていくためにも、教育を行い、技術をアップデートしながら皆がエコーを使いこなせる時代を作り上げていくことが求められる。

柔道整復師は、患者が来院したらまず三診(問診・視診・触診)を行う。それから徒手検査を行い、評価する。そしてその評価をもとに患者にインフォームドコンセントを行い、治療計画を立てる。これが通常の流れになるが、この徒手検査と評価の間にエコーで観察していただきたい。健側と患側で対比させることで、患者さんにより明確に、視覚的にわかりやすくインフォームドコンセントを行うための材料になる。また、三診・徒手検査をし、評価を出す前にエコーで確認することで誤診も防ぐことができる。特に経験の浅い若手の柔道整復師は、評価に自信がないときでもこういったアイテムを活用することで正しい評価を出せる。さらに、治癒に至るまでの過程をエコーで観察することも重要だ。今はどの段階なのか、「これならもう治っているな」「運動しても大丈夫だな」という判断材料にもなる。これは我々のためではなく、患者さんのためにやるべきことと考えている。

以前、舟状骨骨折が疑われる患者が来院され、その後整形外科に紹介したことがあった。その際、レントゲンでは明らかな骨折線は認められないが、紹介時に送ったエコー画像では線状高エコーに不連続性を認めるため骨折だと診断された。このように整形外科でもエコー画像が診断基準になっているところが増えてきている。今後エコーが普及することで、柔道整復師もエコーを材料として医師と対話することができるようになるのではないかと考えている。

エコーは患者さんにより分かりやすく、より安全な柔道整復術を提供するためのアイテムの一つだということを認識していただき、まだ手に取ったことがない方にも試していただきたい。先ほど徳山先生からもお話があったように、ガイドラインを作成するためには客観的にエビデンスを示す必要があるが、エコーがあればそれができる。先達が培ってきた柔道整復術を後世に伝えていくためには、時代の変化に対応して我々も変わっていかなければならない。そして新しいものを取り入れて我々の技術を証明していく必要がある。先生方にもご協力をお願いしたい。


ワークショップでは、(公社)日本柔道整復師会学術教育部の山口登一郎氏による整復実技講習および小野博道氏による超音波実技講習が行われた。

全発表終了後、研究発表者表彰が行われ、本学会は盛会裏に幕を閉じた。

研究発表

  • 自閉症スペクトラム障害を伴う上腕骨顆上骨折の一症例埼玉県 天津大輔会員
  • 富士山噴火・火山灰災害への対応
    関東大規模災害における危機管理
    山梨県 小山真史会員
  • 成長期の分裂膝蓋骨についての調査と考察千葉県 波々壁宏明会員
  • 腓骨神経麻痺改善の一症例群馬県 長屋努会員
  • ポジション別にみるOCD発生との関連性について~エコーによる投球障害調査の結果より~茨城県 岩本勝久会員
  • 股関節痛の一因としてIliocapsularisの炎症:症例報告と超音波画像による評価神奈川県 八巻優汰会員
    (共同発表者 小野博道会員)
  • 男体山登拝祭登山救護の実態調査及びアウトドアアクティビティの柔道整復師の役割栃木県 刈屋翼会員
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