公益社団法人日本柔道整復師会第43回東京学術大会
2025年9月7日(日)、帝京平成大学中野キャンパスにおいて「公益社団法人日本柔道整復師会第43回東京学術大会」が開催された。


主催者を代表し公益社団法人日本柔道整復師会・長尾淳彦会長が登壇予定であったが、公務のため同会・竹藤敏夫副会長より挨拶文が代読され〝柔道整復術は大正9年に国から正式に認められ、地域に根差した伝統医療として発展し、国民の健康と福祉を支えてきた。脈々と受け継がれてきたこの伝統は、私たちの職業倫理と技術の礎であり、未来へとつながる誇りでもある。当会が推進する「匠の技 伝承」プロジェクトも新たな段階を迎えた。昨年度より開始した「日整匠の技技術講習会」では、施術技術のさらなる向上と全国的な技術の平準化を目指し、若手会員を対象とした技術指導及び基本的な整復固定技術の共有を進めている。専門技術の研鑽は、業界全体の質的な向上にもつながるものと確信している〟とした。

主管である公益社団法人東京都柔道整復師会・瀧澤一裕会長は〝当会は【世代を繋ぐ、未来を紡ぐ】をスローガンとしている。本日は学生の方々が参加されているが、当会はまさしく学生の皆さんをはじめとする若い世代の方々のため、今、当会は懸命に色々な改革にあたっている。本日はインターリハ株式会社フィジオセンターの津田泰志先生に特別講演を行っていただく。また、ブレイキン日本代表のシゲキックス選手にもご登壇いただき、オリンピックやアスリートならではの話、さらにはパフォーマンスもしていただけることになっており、一風変わった学会になるだろう。また同時開催の「柔整・鍼灸メディカルショー in 東京」でも、多くの協力企業の方々に大会を盛り上げていただいている。柔道整復師は厳しい立場に置かれているが、未来を見据えて新しい試みを行っていきたい〟とした。
特別講演Ⅰ・市民公開講座
腰椎分離症に対する機能評価と運動療法
~股関節及び胸椎の柔軟性、足部機能に着目して~
津田 泰志(インターリハ(株) フィジオセンター)

津田氏は〝学生の方も含めお若い方も多くいらっしゃるので、明日からの診療に1つでも役立つような講演ができたらと思う〟とし、講演を開始。
〝腰椎分離症は、主に発育期に腰椎椎弓の関節突起部間に生じる疲労骨折と定義される。基本的には初期、進行期、終末期という風に分類され、初期の場合は部分的なヘアライン様のごく薄い亀裂を認める。進行期に関しては、明瞭の亀裂を伴うが分離部周辺の骨硬化像を認めない。終末期になると、骨がしっかり開いてしまい偽関節状態となる。終末期まで進行してしまうとコルセットなどの保存療法の反応率も低下するというデータが出ている。
具体的にどういった動きが腰椎分離症を引き起こしやすいか。腰椎分離症32名のCTスキャン画像を解析した結果、体幹の伸展と回旋動作を伴うスポーツに注意が必要とわかった。実際に腰痛を主訴にMRI撮影をした高校生以下1149例のデータでは、腰椎分離症がある方は46.6パーセントで男子中学生に多かった。種目としてはサッカー、野球、陸上競技の順で多かった。例えばサッカーではキック時に多くの回旋動作があるため、胸椎の柔軟性が低下している場合には腰椎の過可動性を引き起こすような要素があると考えている。
画像診断では、CTで検出された骨折線が単純X線画像でも確認できるかを評価する。レントゲンだけで早期に腰椎分離症を診断することは難しい。早期に判断するためにはCTが有効だが、被爆の影響があるため現在はMRIが多く用いられている。Bone Imaging MRIはCTに近い状態で骨の詳細なデータを検出できる。
運動療法は、関節別アプローチ「joint by joint approach 」を基本的なコンセプトとする。腰椎分離症の場合は仮腰椎が過剰に動いてしまったり、その周辺の多裂筋が萎縮して過剰に動いてしまうことでメカニカルストレスが大きくなったりすることが多い。股関節の伸展や内旋・外旋の可動域制限を呈する、もしくは胸椎が十分に伸びにくいあるいは回旋しない結果、不安定性のある腰椎がたくさん回ってしまって分離症を呈するという選手が非常に多いイメージがある。分離症を起こしている腰椎は出来るだけ安定化すること、その上下にある股関節、胸椎・胸郭に関しては柔軟性を改善することが重要。また少しエビデンスは乏しいが、足関節の制御が不十分だとどうしても股関節を多様に使ってバランスを取る傾向がある。これらの問題を解決するための評価と運動療法をご提案したい。
腰椎分離症の選手は股関節の回旋制限を持ちやすい。腰椎分離症の患者54名を対象者として、回旋関連スポーツ群と非回旋関連スポーツ群に分類して股関節の可動域を調査したところ、回旋関連スポーツ群は非回旋関連スポーツ群と比較して有意に内旋可動域が小さかった。本来、回旋するスポーツをたくさんやるのであれば回旋可動域は大きい必要があるが、腰椎分離症のケースに関しては股関節の内旋可動域にはかなり差があるため、評価していく上で重要な要素といえる。
次のデータは、胸郭・胸椎の柔軟性が腰椎の改善に与える影響を示している。腰痛及び腰椎過可動性を呈する患者24名を対象とし、胸椎のセルフモビライゼーション群(テニスボールを背中に当てる)とコントロール群(何もしない)の2組に分け、介入から4週間後に再評価を実施した。するとセルフモビライゼーション群は介入前後でこのlhs1の回旋可動域が少し低下しており、腰椎の回旋を少し安定化できているのではないかと解釈できる。コントロール群に関しては、変化はなかった。胸椎の回旋可動域については、当然、セルフモビライゼーション群は有意に改善したが、コントロール群では変わらなかった。これらのデータから、腰椎の過剰な回旋の抑制には胸椎の回旋、胸郭の柔軟性を高めることが関係すると考えられる。
次に足部が与える影響について、足部を上手く使えない状況だと股関節をたくさん使うというデータがある。足底が通常の状態の時と、9センチの台に乗っていただいた時のバランス反応を調査した。台に乗っているときは基本的には足部の活動は得られずに、脊柱起立筋、腹直筋、ハムストリングスが同時に働いてしまう。つまり、体の近位から遠位の筋活動が起こりやすいということが示されている。サッカー選手も野球選手も必ず足部の評価を行うが、前足部に体重をうまくかけられないお子さんが非常に多い印象がある〟等、評価のポイントを解説し、その後実際の機能評価と運動療法を多数の画像を用いて詳細に紹介した。
特別講演Ⅱ・市民公開講座
プロアスリートと柔道整復師の関わりについて
プロアスリート・ブレイキン日本代表 半井重幸選手
特別講演Ⅱではブレイキン日本代表の半井重幸(Shigekix)選手が壇上に上がった。会場にはブレイクダンスを学んでいる子どもたちも多く集まっており、立ち見が出るほどの大盛況。半井選手がパフォーマンスをしながら登場すると会場は一層の盛り上がりを見せた。
講演は対談形式で進められた。インタビュアーは半井選手が小学生の頃から身体のケアをしてきた星名接骨院の院長で、自身もヒップホップグループに所属するKENNY Bこと星名聖隆氏が務めた。

KENNY B氏(以下、K):
ブレイキンはもともとストリートカルチャーとして始まって、スポーツとしてオリンピック競技に採用されましたがその違いをどう感じていますか。
Shigekix選手(以下、S):
ブレイキンはここ5~10年で急速に変化と進化を遂げた文化であり業界です。元々は1970年代にニューヨークの治安の悪い地域でのギャング同士の抗争で、血を流さずに決着をつけるために用いられたというのがブレイクダンスの起源とされています。そんなストリートカルチャーから始まり、今やオリンピック競技に採用されたと聞くだけで、かなりの変化というか進化があるなと感じてもらえるかなと思います。どっちが正解でどっちが間違いというのはなくて、他の競技も含めてアーバンスポーツ全般のカルチャーの部分をしっかりと残しつつも、競技化されていくことによっていろんな方たちに楽しんでいただけるチャンスが広がっていくこと自体に喜びを感じる。今は前向きにこの進化・変化を見守っています。
K:私が最初に半井選手と身体のケアということで関わったのが、2018年のユースオリンピック前哨戦の世界選手権の決勝前でしたね。
S:そうですね。2018年に川崎でユースオリンピックの最終選考にあたる世界選手権が開催されて、昨年皆さんに見ていただいたパリオリンピック以前で初めてブレイキンがスポーツとして認識されたのがこのユースオリンピックなんですが、その最終予選ということで自分のキャリアにとってとても大事な瞬間でした。そんな大会トーナメント中、足の調子が悪くなってしまい、当時大会でケアに入られていたケニーさんに声をかけて。その時は日常的に通院しているような関係性ではなかったんですが、もう神頼みのような感じでケアしていただいて、無事決勝も戦い切ることができて、金メダルという結果でその大会を終えることができました。その大会自体もそうですし、そこでケアしていただいた記憶はすごく鮮明に残っています。
K:僕のケアのおかげで優勝できた、と(笑)
S:間違いないです(笑)
K:2020年にはRed Bull BC One world finalで史上最年少で世界一になりました。
S:当時コロナ禍で無観客での開催になってしまったんですけど、オーストリアで開催されたRed Bull BC Oneで歴代最年少で優勝することができました。この大会はブレイキンの世界の中で最も権威のある大会とされていて、ここへの挑戦やそこで得る結果はすごく強い。そんな大会でこういった結果を得ることができて、そこから昨年のパリに向けてもそうですし、現在に向かっても可能性が広がっていっているような、そんなターニングポイントの大会になりました。
K:2020年に初優勝して、2021年のRed Bull BC One world finalの3週間前かな。左第4指を脱臼骨折してしまって、その時に珍しく半井選手が「どうしよう」と電話をかけてきて。とりあえずなんとかするからおいでと言って大会に向けてケアを始めたんですよね。
S:Red Bull BC Oneは年に1回、世界チャンピオンを決めるということで行われるんですけど、未だにB-Boyカテゴリーで2連覇したダンサーは出ていない。2021年、それぐらいハードルが高い「2連覇」というものに意気込んで挑んでいたんですけど、意気込みすぎてオーバーワークで骨折してしまった。残り3週間というところで、大会に向けてやれることとしてはとにかくリハビリをして回復することと、体力を落とさないこと。競技者にとって怪我の辛い部分というのは怪我の瞬間に痛いとかリハビリ期間がしんどいとかではなく、リハビリをしている最中も刻一刻と近づいてくる大会に向けて調整すること。僕は骨折していることをメディアに伏せた状態で世界大会2連覇に挑もうと決めていたので、自分だけがわかっているこの事実と向き合いながら世界大会に向けて調整し、挑戦しないといけない。毎日不安がある状態でランニングや体幹トレーニングなどから取り組んで、あとは自分ができることは限られているので、プロの力を借りたいということで相談させてもらっていました。
K:2週間ちょっとしてMRIとレントゲンを撮ってみたら、ほぼ問題ない状態になっていましたね。
S:かなり回復自体が早くて、やっぱりすぐにケアをしていたかどうかで大きく変わっていた部分だと思います。先ほどオーバーワークという話も出たように、競技者としては常に追い込むことに慣れているので、休んだり活動をセーブしたりする意識がどうしても低くなってしまう。ケア自体もそうですし、どれぐらいのトレーニングをしていいのかといったアドバイスもいただけたことで早期回復につながったんじゃないかなと感じています。
K:その3週間でなんとか間に合ってよかったと思いました。
S:カチカチのギプスで出場することになるかと思っていたんですけど、最終的にはテーピングで済むくらいまで回復できたので、何度も言っていますが当時を振り返って改めて感謝しています。ありがとうございます。先生がいらっしゃらなかったらステージに立てていなかった。
K:それから全日本ブレイキンも3連覇して、そしてパリオリンピックを迎えた。オリンピック前、また期間中はどのように過ごしていたんでしょうか。
S:オリンピックに向けては、本当にいろんなことに取り組みました。やらなかったことで後悔するのが1番嫌だったので。もちろん試したことの中には全然必要なかったとか無駄だったかなって思うようなこともたくさんあったんですが、必要ないということを確認できるだけでも、オリンピックという大きな舞台に立ち向かうにあたって1つの安心材料になりました。本当にいろんな専門知識のある方々にご協力いただきながら、栄養面や身体面のケアをしていただいた。特に、真夏に野外ステージでのパフォーマンスだったので、どう暑熱対策をするのか。オリンピックの丸一年前に、全く同じ日程に同じ場所で太陽を浴びて暑さを体感してみたり、大会の直前で言うと、3週間前から大会が開催される時間帯に合わせて毎日練習することを意識していた。水分をどのタイミングでとるか、どれぐらいアミノ酸を摂取するのか、どれぐらいで身体を冷やすのか。そういうことを毎日イメージしながら、繰り返しの作業の中で少しでもアップデートしていくっていう生活を送っていました。
特に栄養面はシェフの方に帯同していただいて、3週間のパリ滞在中、ずっと日本食を食べ続けてしっかりと準備しました。パリの気候はカラッとしていて気持ちがいいんですが、その分日光の暑さは半端じゃないですし、ダンスは全身運動なので1分弱のパフォーマンスでも息が上がって汗もかく。体温もぐっと上がるので、それこそオリンピックの時は1戦目を終えて、舞台裏に戻った瞬間に氷のベストを着て、施術のベッドで横になって氷を全身に当てて5分ぐらいそのまま体を冷やしました。インターバルも短かったので、身体冷やして、体温が戻ってきて、少しウォーミングアップした頃に呼び出されて。そういう感じで1日10近くの対戦をしたので、かなりハードでした。
K:そういう時にケアすることはとても大事だと思うし、僕は柔道整復師という資格を取ってからもう40年近くになるんですけど、未だに成長したいと思って努力しています。半井選手のようなアスリートを診るには技術がなければいけないし、僕は半井選手が最初に世界選手権に挑んだ時から、彼をしっかり優勝させられなければ僕の存在意味がないと思いながら提案させてもらっています。常にそのぐらいの気持ちで自分の技術を磨いていかないとダメだと思う。
半井選手は普段からコンディションのケアとして行っていることはありますか。
S:遠征中に身体のケアを定期的にしてもらうのは習慣にしています。特に海外遠征では長時間の飛行機移動があったりするので、現地に着いたら踊るよりも何よりも先に、筋肉の硬直をほぐしたり身体のバランスを整えたりする。まずはベースとして身体を整えることが、これまでの競技人生でいろんな経験をしたなかで大事だと感じています。
さらに、ケニーさんはじめ、皆さんすごく情熱を持ってケアをしてくださっていると感じていて、もちろんそれは身体を触る以上は全力でというプロ意識もあるのかもしれないですけど、それ以上にやっぱり応援していただけているっていう心強さもあります。たくさんの方々に応援していただいてモチベーションは高くても、現地に行ってみると意外と1人ぼっちだったりするんですよね。みんな集中していて、周りはライバルばかりで。なかなか大会について一緒に話し合ったりできない環境なので、身体のケアをしていただいている時に他愛もない話をしたりとか、メンタルを整える会話のきっかけをいただくことが多かったりする。僕の中ではもちろん身体のケアが1番ですけど、同じくらいサポートしてくださっていることへの安心や心強さをとても感じています。
振り返ってみると、実際に世界選手権の時に「痛いな」と思ってからすぐケアを受けられたから、その後の一戦で自分のベストを尽くすことができてメダルに繋げられた。実際にケアしていただいたから勝てたと思うような瞬間も正直あるので、我々としてはとても心強い。
K:そういう信頼関係ってとても大事だし「ケアしたおかげで結果が残せた」ということから信頼関係が生まれると思う。自分も若い柔道整復師たちと勉強会をしていて、いいなと思ったことはどんどん取り入れている。いろんな人を見るためには今でも自分の技術はまだまだだと思っているし、そういう努力はみんな常にしてもらいたいと思う。ダンスも教えてもらっても自分で一生懸命やらなかったら上手くなれないですよね。
S:皆さんずっと座って話を聞いてくださっていますが、そろそろ身体を動かしませんか?
半井選手の呼びかけにより、突如ブレイキン講座が開始。会場に詰め掛けたB-Boy、B-girlだけでなく、日本柔道整復師会役員陣も壇上に上がり、ブレイキンの基本となるステップをレクチャーされた。初心者も経験者も関係なく、笑顔で楽しんで踊る様子が印象的であった。


最後に半井選手は〝僕自身まだ23歳という年齢で、おそらく学生の皆さんと世代も近いのかなと思う。皆さんが今、夢に向かって目標に向かって日々一生懸命努力されているのと同じように、僕自身も実は今年11月9日に両国で開催されるRed Bull BC One world finalに日本代表として出場が決まっている。そこでカッコいい姿を見せたいと思っているが、皆さんにサポートしてもらって僕が頑張るだけではなくて、僕も皆さんの夢や目標に向かって今一生懸命頑張っている姿を応援し続けたいと思う。今日のトークセッションやパフォーマンスが、少しでもエネルギーを与えられたら嬉しい。同じ世代として引き続き一緒に頑張っていきましょう〟とメッセージを送り、圧巻のパフォーマンスで締めくくった。
学術教育部講演
柔道整復師の今と匠の技伝承プロジェクトの意義
公益社団法人日本柔道整復師会 学術教育部長 徳山健司氏

日本柔道整復師会では現在、10年計画でこの「匠の技 伝承」プロジェクトを進めており、ちょうど6年目の折り返し地点まで来た。今後、しっかりと我々の柔道整復術の平準化を行い、再現性のある施術を行っていかなければこの業界に未来はないだろうと考え、若い先生を中心にプロジェクトを推進している。最終的に「日本全国どこ行っても同じ施術が受けられる」ようになることを目標としている。それと同時に、その平準化した施術を行っていく中でしっかりとしたデータを蓄積していこうと考えている。我々の今までの施術は、先輩や師匠から教えられたものを継承してきた、いわば経験や勘、そういったところから引き継がれてきたセンスである。しかし、今の時代しっかりとした根拠を持って施術の有効性を示していかなければ成り立たない。
理学療法業界では2021年に、理学療法士1400人以上の方が医師を交えてガイドラインを構築している。その『理学療法ガイドライン』第2版において、日本理学療法士協会前会長のコメントとして、中医協の会議で「ガイドラインのない治療法は報酬の対象になりえない」との発言が厚生労働省からあり、ガイドラインのない学会に対しては強くガイドライン作成を要請するといった論議が交わされた、とされている。柔道整復業界もいつこのような状況になるかわからない。この「匠の技 伝承プロジェクト」を継続しつつ施術ガイドラインを作り、柔道整復の有効性が外部に認知されるよう活動していかなければ、柔整業界の未来は非常に厳しいものになる。
エビデンスを構築するための具体的な活動として、まずエビデンスの構築を目的とし、チームを結成して達成のために取り組む。例えば、冷罨法料と温罨法料には現在10円の差があるが「この10円の差を生む科学的根拠は何か」ということをテーマとし、文献を検索・収集して冷やすのがいいのか、温めるのがいいのかを検証する。1978年にRICEを提唱したDr. Gabe Mirkinは、自身のホームページで、最近の研究データではアイシングは治癒を早めるという科学的根拠は見当たらず、むしろアイシングによって治癒を遅らせるとの見解を示している。一方で、アメリカのジャーナルには軽微な筋損傷に対してはアイシングが有効であるとの論文も掲載されている。その後もアイシングの是非を問う文献が出てくるようになった。冷やすのがダメということではなく、罨法の有効性を示していくことが重要。その結果を分析・統合してエビデンスを構築する。そのエビデンスの確実性の評価が終わったら、推奨度を決定する。推奨していいかを吟味するには論文知識がなければならない。レビューの外部評価ではCochraneなどの信頼できるデータベースを使用する。
柔道整復師の施術を未来につなげるために重要となるのは施術の再現性である。この業界を後世に残していくためにも全国の柔道整復師が協力し、エビデンスに基づいたガイドラインを策定したい。
エコーを柔道整復師の手に
公益社団法人日本柔道整復師会 学術教育部 小野博道氏

現在、接骨院が約5万軒あるといわれているなかで、エコーを使っている施術所は5000軒を超えた程度と言われておりまだまだ少ない。柔道整復師が使用するエコーの見解については、平成22年12月15日の厚生労働省医政局医事課事務連絡にて「柔道整復師が施術に関わる判断の参考とする超音波検査は施術所で実施しても関係法令に反するものではない」と示されている。エコーを使用できる根拠があるのであればそれを上手く活用すべきだ。
エコーは超音波をプローブから送信し、跳ね返ってきたものを受信することで画像を描出する。問診・視診・触診によって判断・評価して、患者に説明し納得していただいて施術を行うというのが、長い間歴史の中で積み上げてきた我々柔道整復師の技術だが、誰が見ても同じ「客観的なデータ」として見せることができるエコーを上手く使いながら、患者に対して説明しなければいけない時期に来ている。現在、エコーは柔道整復養成校カリキュラムにも取り入れられており、国家試験にも出題されている。これは「柔道整復師はしっかりエコーをやりなさい」という厚生労働省からのメッセージでもあると考えている。
一例として、大腿直筋の肉離れの症例を解説する。エコーで観察するとバウムクーヘンのように筋の層が見え、さらに出血箇所が黒く見える。12日目で痛みのない範囲でセルフストレッチを開始したが、この頃には先ほどの黒く見えた箇所が若干モヤモヤしてくる。16日では黒い層がだんだん狭まってきて、ジョギングを開始した22日目では黒いところはほぼなくなっており出血していたところが線維化組織になってきていることがわかる。その後、48日目には完全復帰できた。我々施術者は手で感じて状態がわかるが、それを患者にどう説明するか。患者の同意のもと、一緒に施術計画を立てて治していくためには、このように変化を示し、治癒過程を証明しなければならない。
徳山先生のお話にもあったが「ガイドラインのない治療法は報酬の対象になり得ない」という言葉に、我々は本当に危機感を持たなければいけない。ガイドラインを作るというのは並大抵のことではない。柔道整復師全員で考えていかなければならない危機的状況であり、皆さんの協力が必要だ。客観的なデータを示すために、我々が持っている手段はエコーしかない。データを積み重ねてガイドラインを作るためにも、エコーをさらに普及させたい。時間はかかるがやらないと始まらない。「柔道整復師にエコーあり」と言われるような業界に作り上げていきたい。業界を発展させていくためにもエコーは絶対に必要なものだと考えている。ぜひご協力いただきたい。


続いてのワークショップでは、足周辺の骨折と顎関節脱臼をテーマとして整復固定およびエコー走査のデモンストレーションが行われ、非常に盛況であった。

総括として、(公社)日本柔道整復師会・長尾淳彦会長は〝「学術大会はこうあるべき」というような既成概念もあるが、やはり時代に沿った「会場に足を運ぼう」「来年もまた来たい」と思える仕掛け作りが大切だと感じた。今回の東京大会はまさにその仕掛けが万全であったと思う。もう1つ、私が日本柔道整復師会会長として喜ばしいのは、この大会を見て各地区の会長や担当者から「うちもこういうことをしよう」というようなお話が合った。今大会が起爆剤となり、日本柔道整復師会、ひいては柔道整復師業界全体が良くなることとに繋がるだろう。ぜひ若い先生方にもっと積極的に意見を出していただいて、業界が大きくなって成熟していくことを願っている。非常に熱量がある素晴らしい大会だった。今後とも変わらず研鑽を積み、地域医療のために頑張っていただきたい〟と締めくくった。
同時開催された「柔整・鍼灸メディカルショーin東京」には多くの企業が出展、最新医療機器などの展示を行った。豪華講師陣による特別セミナーも多数実施され、盛況であった。




研究発表
神奈川学術交流研究発表
- 臨床に活きる歩行分析公益社団法人神奈川県柔道整復師会 伊藤由嗣
(敬称略)
一般発表
- 膝蓋骨骨折に対する保存療法とその治療経過の一症例岡村接骨院グループ, 五反野名倉岡村接骨院 岡村洋利
- 肩関節脱臼に合併した上腕二頭筋長頭腱損傷の一考察北多摩支部,おなりばし接骨院 髙橋達徳
- 成長期骨盤裂離骨折に対し、受傷時画像を用いた考察について金森整骨院、板橋支部 松崎政弘
- メゾヌーブ骨折に対して保存療法を行った一症例葛西整形外科内科 髙橋良明
- 徒手整復不良であった足関節脱臼骨折の1 症例高洲整形外科、SBC 東京医療大学・健康科学部整復医療トレーナー学科 山川紗輝
- 関節面の1/3 以上を含む骨性槌指に対する保存療法の有用性について野島整形外科内科 立木北斗
- 柔道整復施術所におけるABA 活用と慢性疼痛リハビリテーションの新展望アルファ医療福祉専門学校 塩﨑由規
- 足関節前方不安定性に対する高周波EMS 療法を用いた早期運動療法の1 症例北多摩支部、おなりばし接骨院 小田優輝
- 足関節捻挫に併発する下伸筋支帯損傷と足関節背屈制限の関係性について北多摩支部、ふかさわ接骨院 深澤晃盛
- 陸上短距離選手腰椎分離症に対する一症例、保存療法の経過と再発予防への取り組みについての考察F.C.C. かんだ駅前整骨院、千代田・中央支部 原田優佑
- 肘関節に単関節炎として発症した関節リウマチの1 例野島整形外科内科 河岸誠司
- 地域包括支援センターにおける柔道整復師によるフレイル予防体操教室の実施帝京短期大学 石川貴之
- 柔道整復師による機能訓練訪問事業の効果品川支部 上條里実
(敬称略)
PR
PR