HOME トピック ☆古今東西 柔整のキーパーソンたちNo.1『柔道整復の業務内容について、整形外科とは視点を変えて医学的に説明できることが求められています!!』

☆古今東西 柔整のキーパーソンたちNo.1『柔道整復の業務内容について、整形外科とは視点を変えて医学的に説明できることが求められています!!』

トピック

牛山 正実  氏

(一社)日本柔道整復接骨医学会 理事 牛山 正実 氏

かつて10数年前に近畿大学整形外科教授の濱西千秋氏と喧々諤々の対談を行った牛山正実氏。牛山氏は、柔整業界の中で学術において第一人者であり、また柔整の研究を長年続けている方である。この方の右に出る者は恐らく誰も居ないと断言できる人物である。その牛山氏に今後の柔整業界はどのように歩みを進めるべきなのか?道しるべをお聞きした。

牛山先生は、近年の柔整業界をどのように思われていらっしゃいますか?

近年の柔道整復業界は、骨折・脱臼の取り扱いが激減し、柔道整復が医療業界の中で何を担当しているのか分からない状況になっており、関係者への業務内容の説明が不十分となり、その為に業務に対し制約が厳しく受診抑制をされ業界不振といいますか衰退といいますか、そのような状態で、その方向に向かって動いており、有効な対策も出来ていないように感じています。

一方で保険者は、直接、私は話す立場になかったので、どの様な感覚なのかを日頃の保険者からの返戻内容から推察しますと、柔道整復の治療内容に疑問を感じており、何が何でも受診させたくないように感じています。つまり治療内容に不信感を持っていると思っています。

また当事者である患者さんは、直接接していますので、ある程度理解できていますが、整形外科での受診経験はあるものの不満を抱いて来院しており、柔道整復業界は必要だと感じています。

以前の柔整業界の良かったところと悪かったところなどありましたら、お聞かせください。

以前の柔道整復業界いわゆる骨折・脱臼の治療を担当していた時代は、社会に対する役割として明確な存在感がありました。特にその保存的治療においては、一部の先生においては素晴らしい成績を残しています。

柔道整復が公認された大正9年以来、おおよそ昭和の時代までは、骨折・脱臼において無くてはならない存在だったと思います。

但し、公認以来100年以上に亘り、骨折・脱臼は制度上、禁止あるいは制限の中で、ある種の違法状態で経過して来たわけですが、私個人の感想は、違法行為なくして日本の骨折・脱臼の患者さんは救われなかったと思うわけで、嫌な言い方かもしれませんが、厚労省では柔道整復師が要らなくなるまで、意図的かどうかは別にして違法状態を黙認というよりも容認してきたと考えています。現実はそうした事になります。

こうした曖昧のままにしていて都合のよい既成事実を作り出した段階で、解釈を示すという手法は、現代でもあると思っています。例えば「医業類似行為」や「診断」「治療」「医療」「施術」などなどです。曖昧の一端は業界も加担していて、そうしたことは業界に不利になっていると私は感じています。

さて当時の柔道整復師の保存的な骨折・脱臼治療の能力について考えますと、個人的な話になりますが、私は東京都世田谷区の和地和寿先生の元で修業していましたが、先生は江戸時代から続いた接骨の名門である名倉堂の出身であり、ありとあらゆる骨折を保存的に整復し治していました。しかし今はその技術は残念ながら廃れてしまいました。

悪かったところと言えば、日本社会にとってみると、保存的な骨折・脱臼治療の能力が低下したことは、デメリットであり、柔道整復業界においては、このような状況の中で、保存的な骨折・脱臼治療の能力を残せなかったところは残念なところであり、それは日本社会の損失だと思っています。

更に言えば、逆に柔道整復斯界が骨折・脱臼に固執し新たな道に踏み出せなかったところもマイナス面であったと思います。

保険組合の執拗な調査の影響を受けて全国の接骨院の年収は300万以下になったとも言われておりますし、廃業する接骨院も後を絶たないとされている現状について、今後どのような策がのぞまれると思われますか?

私もこの業界に長く居ますから、保険者の取り組みによって衰退していく様子をつぶさに見てきました。

そうした原因は、複数存在しますが、根本的には、骨折・脱臼以外の疾患への学術的な取組が希薄だった。あるいは制度や歴史を正しく評価できなかったことで、保険者に対する医学的な、あるいは制度的で歴史的な説明能力に乏しく、非科学的であったり、時に高圧的であったり、その場しのぎの連続であったと感じています。そのような対応では信用を失うというように感じていました。

保険者の取り組み内容について総論的に思う事は、柔道整復業務を縮小させるための一環に見えます。つまり根本的には、医学的な信用が失われた結果の様に感じます。

今後について考えるに、こうした状況は柔道整復師にとって良くないという事は、そうなんですが、患者さんや国民にとっても良いこととは言えないと考えています。

今後は、柔道整復業務が日本社会の医療の中に存在を必要とする領域が有るという事を自覚し、その内容を患者さんのみならず保険者を含めて学術と共に説明できる能力を持つことが必要です。

その他、今の業界を以前のように復活させる対策等ございましたら、お聞かせください。

未来は、患者さん、あるいは社会が必要とする業務内容であって、それは過去とは違います。未来は過去と同じにはなりません。柔道整復業界は、上り坂がありました。そして今、下り坂です。戦国武将、毛利元就の『人生には三つの坂あり、上り坂と下り坂、そして“まさか”の坂』との言葉を借りれば“まさか”を見つけることが必要です。

私は“まさか”が有ると考えており、患者さんが来院していることが、その証です。但し、その理由を医学的に理解する必要があります。

今年は診療報酬改定の年ですが、常に医科の半分とまるで定められているかのようで、このことに対して誰も異議を唱えないのは何故なのでしょうか?また珍しく6月に一部改正がありましたが、これについてご意見がありましたら、教えてください。

確かに問題はあるでしょう。過去にも診療報酬の改定で業界は、無知なために低く抑えられていた時代がありました。しかし現状は有用性を疑われ、柔道整復業務の実態といいますか現実が分からない中での改定であり、当然、現実には合致していません。

柔道整復業務の有用性や現実の業務内容の理解なくして無理だと考えています。

(公社)日本柔道整復師会の在り方については、どのようにお考えでしょうか?

日整では、会員のために様々な事を企画して行って来たという事だと思いますが、そうした企画が役員の個人的能力に頼って来たのではないかと思います。

日本医師会には「日医総研」と言うシンクタンクがあり、医療や社会保障、地域医療、医療経済などについて「調査研究」「データ分析」「政策提言」を行っており、役員が変わっても政策が一貫し継続して行うことが出来ます。

その様な専門家集団の組織が簡単であっても柔道整復業界にも必要だと思っています。

継続は力なりです。この業界が活気を取り戻すための原理原則みたいなものがありましたら教えてください。

たしかに私は継続して取り組んできました。しかし鈴木宗男さん曰く「出る杭は打たれる。出過ぎた杭は打たれないが、抜かれる」なのかどうか、分かりませんが、私は、ほとんど地域では認められる事はなく、長野県社団の一会員として過ごしてきました。そのため70歳を最後に、仕事や学会を辞めようと思っていました。

その矢先、学会の理事にという話があり引き受けることにしました。

といいますのも私は、開業した30歳代前半、ちょうど昭和50年代後半に業務内容が骨折・脱臼治療からそれ以外の疾患にシフトしていくと考えており“柔道整復を変えるんだ”という、地方の一介の若い柔道整復師にして、無謀な野望を持っていましたから、最後のチャンスとして引き受けることにしたわけです。

学会の理事職は、初めて業界の役職に就いたということになります。私にとっては、前述しましたが“まさか”というのが実感です。

表現が適切かは分かりませんが、活気を取り戻すには、あたりまえのことになりますが柔道整復業務は、日本社会の中で、どの分野で役立っていくのかということ、その事を理解し、その方向で能力を高め発揮していく以外にないと思います。

牛山先生は、毎年のように論文を書かれて発表されておりますが、それについて業界の方達から何か意見を言われたり、評価されたことはありますか?牛山先生の学会に対するお考えを聞かせてください。

私は、学会が発足した当時、未来を感じましたし、発表の場が与えられたことに“わくわく感”がありました。と言いますのも、其れまでの業界では論文発表の場がなく、また演題発表のレベルであっても地域の柔道整復師の推薦が無ければ、地域での発表に留まります。その為私は常に地域の発表に止まり県で発表した事がありませんでした。

日本柔道整復接骨医学会では、第3回から演題発表を始めました。そのテーマは「柔道整復とは何か」であって、始まりは「“柔道整復”名称の歴史的発生経緯と内容」でした。

それ以来、演題発表にしても論文発表にしても、根底には常に「柔道整復とは何か」がテーマとなっていて、歴史、制度、現実の業務内容について演題発表や論文発表を行って来ました。

業務内容に直接関連する論文としては、2000年に「柔道整復の業務範囲」として、歴史的な取扱疾患の範囲、法規による業務範囲、保険協定の範囲疾患の変遷、学校教育上の範囲の変遷、業務範囲に対する認識や考え方の推移、業務範囲特定の方法、について発表し、翌2001年に「柔整疾患の内容分析その1、柔整疾患の病態について」として学会発表における取扱疾患の病変部や病態分類を行って発表、更に2002年には「その2、柔整疾患の病因(外因)について」として、取扱疾患の病因特に外因について発表しています。

病態と病因は、疾患の治療対象の中心ですから必ず押さえなければならないものです。それを原因の無い疾患だとか、内科的原因だとか、訳の分からない事が平気でまかり通るようでは、将来はありません。

そもそも症状は病態から発症するもので、単に“痛みなどの症状に柔道整復術を施術したところ軽快した”レベルの話ではなく、病変部や病態の把握が出来なければ、治療が十分とは言えないという事になります。

これらの論文は、当時、学会の会長をされていました故 信原先生から「浸透するには10年はかかりますよ」と言われましたが、既に25年以上になります。しかし何らの反応もありません。

その他に「骨折・脱臼・打撲・捻挫」が取扱疾患であるとする認識の元となった、大正9年の柔道整復術公認時の附則「本令ノ規定ハ、柔道ノ教授ヲ為ス者ニ於テ打撲、捻挫、脱臼及骨折ニ封シテ行フ柔道整復術ニ之ヲ準用ス」に病名が記載された理由について、簡単に言えば業務範囲を示したものではないという事についても論文を提出しましたが、学会の編集委員会からは“査読者から理由なく不掲載”とされたと説明され不掲載になっています。尚この論文は、仕方なくといえば失礼かもしれませんが「からだサイエンス誌」で発表させていただきました。何ずれにしても評価されていると感じたことはありません。このままでは、全ての疾患が、骨折・脱臼の二の前を踏むことに、なりかねません。

論文について一言いえば、私のような専門学校卒の柔道整復師は、論文など書けません。それが普通です。しかし柔道整復業界に必要な価値のある意見や資料、データを持っている方も大勢います。そうした価値あるものを論文とすることは、今後、柔道整復業界には必要だと考えています。それには周囲の支援がなければ出来ません。論文は個人ではなく、柔道整復全体に有益となります。

現状は、支援するシステムが無いことは、少し心配ではあります。

―この度、「柔道整復師の未来を考える会(仮称)」が発足しましたが、こういった業界の動きについてはどのようにお考えでしょうか?

未来を考える事は大切ですが問題は内容という事になります。

箱は必要ですがポイントは中身です。それは、社会から何を求められ、何に貢献できるのか、何が出来ているのかであって、具体的には、柔道整復師は、どの様な疾患を、どの様に治療し、どの様な効果を上げているのか、それを示したガイドラインを創出することだと思います。

柔道整復師に未来が有るとするならば、患者さんや国民の為に業務を行う集団であることが絶対条件です。つまり柔道整復師が何を望むのか、あるいは自分たちの利益のための未来は存在しません。

つまり来院する患者さんが、どの様な外傷や障害を抱えているのか、病因や病態を理解し、患者さんの社会生活に対し、生活指導を含めた大きな意味での治療という行為が必要だと考えています。

総てについて言えることは、柔道整復師の為に制度を変えことはる不可能ですが、患者さんや国民のために制度を変えることは出来ます。またそうでなければなりません。

―その他

私は、長男であり故郷へ帰ろうと思い立ち、それまで勤めていた東京税関を退官し、25歳で柔道整復師となりました。帰郷に当たり職を身に着けてと考え、当時は柔道をしていましたので、この職業を選びました。当時は、整形外科が台頭し始めており、追々、柔道整復師は消滅するだろうと考えていました。ただ当時の定年は55歳、その位まで続けられるだろうと考えていました。現在76歳になりましたが未だに患者さんは来院します。

私は、前述したように骨折・脱臼治療の名人の元で修業した事で、実は膝痛、腰痛の治療法は、訳が分からずに開業した事で当初から苦労しました。最近はそれなりの治療成績が出るようになりましたが、そのキッカケとなったのは、やはり病態分類と病因の論文発表がターニングポイントとなっています。

患者さんの病態や病因を理解することで、治療対象が明確になり、結果、治療部位や治療法の選択が容易になったことが、大きかったと思います。そうした行為が、実は整形外科の現状とは違いがあるなと感じています。

柔道整復が存続し存在しているのは、医学的な理由があったからですが、それは整形外科とは、同じ疾患であっても視点が違うことで、そこに存続し存在し続けている理由があると考えています。

現在の柔道整復を取り巻く疾患の医学的な要素は、すべて整形外科が創りましたので、その視点で柔道整復を見てしまいがちですが、それでは理解が難しいと思います。医学的でなければいけませんが疾患の診る視点をかえないと柔道整復を理解することが出来ないと思います。

患者さんは体感することで理解できますが、他者には言葉で説明することが必要です。

今後、柔道整復を理解して頂くには視点を変えた医学的な理由を言葉として説明することが必要であり、同じ疾患であっても整形外科とは違う視点で捉え、説明できる医学的能力が必要だろうと考えています。

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