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第23回日本柔道整復接骨医学会学術大会 開催

トピック

平成26年11月29日(土)・30日(日)、『「みる」(視・観・診・看)を探る』をテーマに、第23回日本柔道整復接骨医学会学術大会が大田区産業プラザPiOにて開催され、全国の柔道整復師および専門学校の学生や大学・大学院生が参集した。

第23回日本柔道整復接骨医学会学術大会

大会会長講演
『内科医の立場から「みる」(視・観・診・看)を考える』

帝京平成大学学長 冲永寛子

冲永氏

今大会の大会会長を務めた冲永氏は〝医師はそれぞれ専門性を持っている。内科は古くから存在しており、そこから派生して外科や小児科、産婦人科等に専門が細分化していったが、細分化されればされるほど全体を「みる」ことが求められるようになった。現在は様々な検査が発達しているが、患者の負担の面から見ても医療費の面から見ても、やみくもに検査をするのではなく迅速に診断し、必要な検査をすることが重要となる。そのためにも問診・視診・触診は非常に大切である〟として、今大会のテーマにもなっている「みる」(視・観・診・看)について話を進めた。

「視る」・「観る」・「診る」の3つについては〝医療の現場において「視る」は視診、「観る」は様々な状況を想定しながら観察すること、「診る」は視診・観察とともに言葉で尋ねたり検査によってさらに詳しく調べ、診断まで導くことだと考えている〟として、4つの症例について診断までの一連の流れを踏まえて解説を行なった。さらに柔道整復師が扱う疾患と関連性のある内出血や紫斑、出血傾向についても例を挙げ、問診時に注意すべき点などをわかりやすく説明し、聴講者は熱心に聞き入っていた。4つ目の「看る」については〝医療者は今まで「治す」ことに重点を置いていたが、今は患者とその病態だけではなく、患者の社会的・精神的背景も考慮に入れた幅広い見地から診療することの重要性が強調されるようになった〟と述べた。

最後に〝患者を中心として4つの「みる」を実践することが、医療者として求められている姿勢である〟と締めくくった。

特別講演Ⅰ
『高齢者の急性腰背部痛に対する有効な体幹ギプスの巻き方』

医療法人社団宏友会栗原整形外科 栗原友介

栗原氏

栗原氏は〝脊椎圧迫骨折に代表される高齢者の急性腰背部痛は、高齢化の進行とともに増加している。脊椎圧迫骨折の治療法は保存療法と手術療法があり、整形外科の学会や様々な学術誌等でも手術療法の論文は多く出てきているが、保存療法に関する論文は少ない。今回は骨粗鬆症性脊椎圧迫骨折に対する体幹ギプス固定の治療効果向上を図ることを目的とし、診断と固定方法に若干の工夫を加え、その効果を検証したので紹介する〟と述べ、講演を開始。

診断における工夫として〝画像より臨床症状を優先した。骨粗鬆症が疑わしい高齢者で起床動作での激しい腰背部痛があれば、ほぼ骨粗鬆症性脊椎圧迫骨折であろうと判断していると言っても過言ではない。起床動作については辛いという表現が必ず出てくるので、よく聞いて判断してほしい〟と強調した。

このように診断したものには、原則として全例に体幹ギプスを巻いているという栗原氏は〝従来の体幹ギプスの場合、巻かない時よりも巻いた時の方が疼痛減退日数が長くなってしまっていた。しかし従来型のギプスから前方を10cm程度縦割りしたギプスに変えたところ、疼痛減退日数は68日から16.9日まで激減した。起床時痛消失率は78%で、痛みが残存している人も生活に支障のないレベルまで取れた。VASを見ても装着直後に効果が発揮されていることが分かる。体幹ギプス継続率は90%と相当高く、すぐに効果が表れることから継続してくれるのだろうと考えられる。高いコンプライアンス、高い疼痛緩和効果、圧潰の進行抑制効果があり是非お勧めしたい〟と、体幹ギプス固定の効果と巻く際の工夫を、写真や動画を用いながら具体的に解説した。

特別講演Ⅱ
『重症外傷診療の進歩と課題』

帝京大学医学部救急医学講座 坂本哲也

坂本氏

坂本氏は冒頭で〝外傷を含む不慮の事故は悪性新生物、心疾患、脳血管疾患、肺炎、老衰に次ぐ死因となっている。交通事故は年々減少しているが転倒・転落は微増しており、転倒・転落による死亡者が交通事故を上回った〟と、近年の外傷の傾向を厚生労働省の調査結果をもとに解説。

しかし、近年こそ交通事故死亡者は減少しているが、昭和30年代は「交通戦争」と言われ年間1万6000人以上が交通事故で亡くなっていたという。〝外傷による死亡者を減らすため、昭和38年に消防法の改正により救急搬送業務の法制化が行なわれた。また救急車を受け入れる救急告知医療機関の認定、昭和52年には初期、二次、三次救急医療体制の整備、最後の砦としての救命救急センターの設置が行われた。平成3年には救急救命士制度が成立し、迅速な処置にあたっている。さらに平成21年度の消防法改正により重症度・緊急度判断基準に基づいた搬送が法制化され、メディカルコントロール体制のもとで搬送先が選定されるようになった。ドクターヘリ事業は現場において医師による治療を開始し、迅速かつ広域の患者搬送を可能とした〟と、現在の医療体制が出来た背景を詳細に解説。〝死亡者を減らすためには迅速な処置が大切である〟と述べ、外傷患者の予後改善を目標とした8つの提言を紹介した。

最後に、〝日本の外傷診療は着実に進歩している。しかし、十分な外傷診療体制を敷いている中で理想的なチーム構成で医療が行なえる施設はごく一部である。役割分担を国家的なプロジェクトとして考えていく必要がある〟と今後解決すべき課題を示した。

シンポジウム

シンポジウムでは、理学療法士、鍼灸師、AT、ケアマネージャー等の資格を保有する4名の柔道整復師が、それぞれが有する資格を通じ、柔道整復師の業務や教育などについて討論を行なった。

シンポジウム

① 理学療法士の立場から柔道整復業務の「みる」を探る

公益社団法人東京都柔道整復師会 辰野正和

柔道整復に対し、理学療法士からはレントゲン検査もできずに骨折の診断・治療ができるのか、地域性に富んだ職種なのになぜもっと地域医療に参画しないのかといった疑問の声が上がっている。対象者や対象疾患、治療目的の相違により、理学療法士は幅広い基本的知識量が必要である。そのため柔道整復師の知識量とは領域的には差があると思われるが、業務上において大差はないと考える。高齢化が進む現在では疾患が重複しているケースもまれではなく、他職種との連携が大切。伝統をしっかり継承しつつ、技術を向上させていくことが重要となる。


② 鍼灸師の立場から柔道整復業務の「みる」を探る

帝京科学大学医療科学部 東京柔道整復学科 二神弘子

鍼灸は中国を中心として発祥した伝統医学で、応用範囲は広くあらゆる領域にわたる。鎮痛効果や循環改善などが期待され、ペインクリニックなどでも用いられている。治療技術の面で柔道整復と鍼灸は相性がいい。外科的で外傷をみる柔道整復と内科的疾患や慢性疾患等その他の範囲を診る鍼灸を組み合わせれば、より広く患者をみることができる。また鍼灸の持つ、患者を全人的に捉える姿勢は様々なストレスの中で生きる現代人の健康を担う医療者として有益であり、このような考え方を柔道整復の教育・臨床に取り入れていくことで、より豊かな医療者の育成につながると考える。


③ ATの立場から柔道整復業務の「みる」を探る

東京有明医療大学 小山 浩司

公益財団法人日本体育協会公認(JASA)が養成する日本体育協会公認アスレティックトレーナー(JASA-AT)は、スポーツによる外傷・障害に対応するメディカルコンディショニング資格のひとつに位置づけられている。ATの持つアスレティックリハビリテーションやコンディショニングの技術、さらに栄養学や心理学といったアスリートをサポートするために必要な教養は、柔道整復業務の「みる」に活かせるのではないかと考える。例えば競技復帰を希望するアスリートに競技特性に応じた段階的リハビリテーションを指導することで、より安全に競技復帰まで進めることができる。


④ ケアマネージャーの立場から柔道整復業務の「みる」を探る

公益社団法人富山県柔道整復師会 酒井重数

現在の日本は急速に高齢化が進行しており、団塊の世代が75歳以上となる2025年以降は、国民の医療や介護の需要が大きく増加する。厚生労働省は、機能訓練・介護予防といった重度化を防ぐサービスの充実・強化を計画しており、その一環として来年から地域包括ケアシステムを導入する。今後、在宅医療・介護の連携の中に柔道整復師が如何に参入できるかが課題である。接骨院・整骨院を情報収集の中核に位置づけ多機能化することで、地域に安全と安心を提供し、さらに医療費も抑制できることを地域や行政にアピールすることが柔道整復師のみならず地域のためになると考える。

この他、教育研修セミナー「危ない!知っておきたい危険ドラッグ」、実践スポーツ医科学セミナー「サッカーにおけるスポーツ傷害-特に膝関節について-」の講演があり、各分科委員会フォーラム21題、インターナショナルセッション2題、ワークショップ2題、口頭発表142題、ポスター発表84題が行われた。

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