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『日本転倒予防学会第1回学術集会』開催

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2014年10月5日(日)、東京大学伊藤国際学術研究センター、赤門総合研究棟および経済学研究科棟において『日本転倒予防学会第1回学術集会』が開催され、運営スタッフを含め総勢636名が参加した。

日本転倒予防学会は、2004年にスタートした転倒予防医学研究会を前身とし、今年四月に発足。現在多職種多分野の専門家500名以上(2014年10月4日現在)が参加し、学際的な組織として歩み始めた。

武藤芳照氏

日本転倒予防学会第1回学術集会会長である武藤芳照氏は〝転倒予防は学術的な課題であると同時に、極めて重要な社会的な課題の一つであると理解している。我が国の不慮の事故の大きな原因は「転倒・転落死」であり、交通事故死の件数を上回っている。分野・領域を超えた多数の人々の知恵と力を結集した、機動力のある活動が求められている。日本転倒予防学会はその中核となって、学術的研究活動と社会的提言・行動を進めていきたい〟と挨拶を述べた。

特別講演

特別講演では、日本パラリンピアンズ協会会長を務める河合純一氏が登壇し、『夢への努力は今しかない!』と題した講演を行なった。

河合氏

河合氏は〝例えば目が見えない人が時間を知りたい時、時計を見ることは出来ないが携帯の時刻読み上げ機能を利用したり、点字の時計を読んだり人に聞いたりして知ることができる。つまり時間を知るという目標を達成するために、目が見えないということが障害にはならないという発想の転換が重要〟として、障害に対してリハビリや医学の力でアプローチしていくと同時に、障害を障害と感じずに生活できる人間関係や社会、地域を作るために何ができるのかを考えるという新しい視点が必要と主張し、聴衆を惹きつけた。

河合氏は先天的な弱視であったが、15歳の時に網膜剥離により失明した。それでも将来の目標や夢を追い続け、水泳で1992年のバルセロナから2012年のロンドンパラリンピックの6大会に出場し、合計21個のメダルを獲得した。2020年に東京でのオリンピック・パラリンピック開催が決定したことについて〝日本には身体障害がある人は300万人、知的障害・精神障害がある人を含めると770万人と言われている。怪我を負っている人、妊娠中の人、高齢者等を含めると10人にひとりは何らかの不自由さを抱えている。この人口を考えると、パラリンピックこそ東京で開催される意義がある。より多くの人がこの問題に前向きに取り組むことが不可欠。パラリンピックでは皆、道具を使ったりそれぞれに出来ることを生かして活躍しており、意識の壁を乗り越えさせる大きなきっかけになると思う〟と述べた。

障害を他人事ではなく自分の身にもいつ起こるか分からないものと考えて、障害を持つ人も暮らしやすい環境を整備していくことの大切さを再認識させられ、また失ったものを引きずらずに自分の持っているものを最大限に生かして前向きに歩んでいく姿勢に感銘を受ける講演であった。

シンポジウム

シンポジウムは独立行政法人国立長寿医療研究センター研究所所長・鈴木隆雄氏と帝京大学整形外科主任教授・松下隆氏を座長とし、前半に『転倒事例から学ぶ転倒リスクと予防対策』をテーマとした以下6題が発表され、その内容を踏まえて後半で討論が行われた。


地域社会での高齢者の転倒

島田裕之
(独立行政法人国立長寿医療研究センター部長)

島田裕之

転倒は環境要因・身体要因・身体活動の3つの要因が重なった場合に生じる場合が多い。逆に言えばこれらの要因のどれか一つでも排除できれば転倒を予防できる可能性が上昇する。したがって転倒予防のためにはこれらの3要因を理解し、操作、改善可能な要因に働きかけることが重要となる。

転倒ラウンドから見えること―すべては患者安全のために―

宇高さとみ
(一般財団法人永瀬会松山市民病院看護師長)

宇高さとみ

当院が転倒予防対策チームを結成して10年が経過した。転倒予防対策を講じているが、それでも転倒した際には多職種参加による転倒ラウンドを行い、中立的な見地で①医療・看護行為の過失の有無、②有害事象の発生、③前2者の因果関係について考察を深めている。

高齢者介護施設における転倒・転落事故の特徴と予防への示唆

河野禎之
(筑波大学大学院人間系障害科学域特任助教)

河野禎之

介護施設における転倒予防は早急に対処すべき課題であるが、常に困難が伴う。入居する高齢者が転倒の高リスク群であるという個人要因と、施設の職員数などの人的・物理的問題を含む環境要因が主として考えられる。施設での転倒予防は、入居者の安全とQOLの両立の考慮が必要となる。

認知症高齢者の転倒予防 ―看護師の立場から考えた急性期の病棟におけるケアの視点―

梅原里実
(独立行政法人地域医療機能推進機構JCHO本部研修センター専任教員)

梅原里実

加齢による注意機能、記憶機能、睡眠維持機能等の低下、筋肉量や運動機能の低下等に加え、認知症になると転倒リスクはより高まる。認知症高齢者にとって治療のために環境が変化することは混乱の要因となる。転倒は特徴を捉え、正しいアセスメントを行なうことである程度予防できる。

人間工学から見た転倒リスク

山本創太
(芝浦工業大学工学部機械機能工学科准教授)

山本創太

工学的観点から転倒の要因を考えると、加齢による人体特性の変化に起因するものと環境に起因するものに大別できる。加齢による人体特性の変化は本質的には不可避である。環境に起因する要因は対象者の人体特性に応じ危険度が変化する場合があり、施設や場所に応じて検討する必要がある。

紛争事例から見た転倒リスク

望月浩一郎
(虎ノ門協同法律事務所弁護士)

望月浩一郎

転倒事故をなくすことができないが、施設や介護者の責任となる紛争をなくすことはできる。リスクマネジメントとして、①転倒自体を防止する、②転倒しても大きな怪我にならないよう配慮する、③入居者・患者とその家族との間で転倒は回避できないという共通認識を持つ、という3点がある。


討論では〝施設の移動や病院内での転科等の際に、転倒予防策をどう共有していくか〟という問題については〝病院内で転倒したことがあれば、転倒の状況や転倒リスクについて看護サマリーに詳しく書くようにしている〟や〝認知症患者の場合、その人の特徴的な考え方や人生史を踏まえた情報も書いて、他の職員がアセスメントできるようにすることが大切〟との意見が挙げられた。

さらに、転倒時の被害を最小限に止めるための策として〝事故を未然に防ぐことが一番だが、事故はいつか必ず起こる。そこには理由があり、各段階で対策をきちんと取っておく。また、転んだ時のダメージを抑える安全な転び方など示せたらと思う〟との意見が上がったが、若いうちであれば身につけられる技術も身体能力が衰えると難しくなる。〝加齢に伴い、サルコペニアやフレイルの問題が加わると転倒を完全に防ぐことが難しくなる。しかし若いうちであれば予防できる可能性は非常に高い〟という意見にみられるように、早い段階から転倒予防を行なうことが効果的であるようだ。座長の松下氏は〝高齢者が骨折をしたりするとなかなか治らず、寝たきり状態になり認知症が悪化するというケースも多い。転倒を予防し、それでも転倒して怪我をしてしまったらすぐに治すという連携が必要〟と結んだ。

この他、パネルディスカッション2題・ワークショップ1題・ランチョンセミナー2題・一般口演28題・ポスター発表21題が行われ、盛会のうちに終了した。

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