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(公社)日本柔道整復師会 第36回北信越学術大会石川大会 開催

トピック

平成26年6月29日(日)、ホテル金沢(石川県金沢市)において「公益社団法人日本柔道整復師会第36回北信越学術大会石川大会」が開催された。本学会では、公開特別講演1題・協賛発表1題、研究発表5題・実技発表1題・ポスター発表2題・ランチョンセミナー2題が行われた。

第36回北信越学術大会石川大会

公開特別講演『金沢発~整形外科医療の最前線』
金沢大学付属病院整形外科 主任教授 土屋弘行 先生

土屋氏

土屋氏は〝整形外科が何なのかをよくわかっていない人が多い。最近では美容整形、形成外科と混同されてしまっている。整形外科は骨・筋肉・関節・神経等の運動器を扱う。頭より下は診ることができ、非常に守備範囲が広い〟など、整形外科の扱う範囲や疾患等について説明した。

整形外科では近年、メタボリックシンドローム・認知症と並び健康寿命を阻害する三大因子に数えられるロコモティブシンドロームの対策に力が注がれているという。〝運動器の疾患は世界的にも注目されており、WHOは高齢化社会に向け、運動して寝たきりになることを防止するよう推奨している。片足立ちを1分間1日5回程度行なう簡単なトレーニングだけでも、筋力が鍛えられ骨折予防に効果を発揮するのでお年寄りに勧めている。膝を軽く曲げて行なうスクワットも効果的である。これらを行なうだけでかなりの割合で予防できる〟として、土屋氏はロコモティブシンドロームを防ぐための運動について紹介した。

また〝現在の日本人の平均寿命は、男性79歳・女性86歳くらいで世界でもトップクラスを誇る。ところが健康寿命は男性72歳・女性78歳であり、平均寿命とは7~8年程度の開きがある〟として、男女ともに介護状態となっている期間が長いことを指摘。寝たきりになる原因については〝脳血管疾患、高齢による衰弱、骨折・転倒・関節疾患等などの運動器に係る疾患が多い。大腿骨頚部骨折は高齢者に発生しやすい骨折だが、データによれば大腿骨頚部骨折後に5年生存する割合は50%ほどであり、半数は死亡してしまっている〟として、未然に怪我を防ぐことの重要さを主張した。

その後、土屋氏は整形外科における最新技術を紹介。〝多発性内軟骨腫症という骨の腫瘍になった患者は、大腿骨が大きく曲がってしまっておりバランスをとるために背骨も曲がってしまっていた。他院では切断を勧められたが、骨を切って創外器で固定し、変形を矯正しながら毎日少しずつ伸ばしていくことによって骨が再生し、無理なく歩けるようになった。骨肉腫の手術においては、ガンに侵された骨を取り出して-196℃の液体窒素に20分間漬けることでガン細胞を凍らせて死滅させ、解凍後体内に戻して抗菌金属で固定するという画期的な技術がある。また液体窒素処理骨移植により、凍って死滅したがんの組織に体が反応して免疫反応を起こし、他の組織に転移したガンを消すことができる可能性が出てきた。豊胸手術や乳がん切除後の乳房再建術では、腹部や大腿部から採取した脂肪を必要な部分に注入する処置が行なわれている。脂肪の中には幹細胞(脂肪由来幹細胞)があり、骨や軟骨、脂肪組織、筋肉や神経に変わることができる。これを応用して、変形性股関節症などの治療に生かそうと研究が進められている〟と、症例写真を交えて具体的な治療方法を解説し、会場の参加者からは時折驚きの声が上がっていた。

土屋氏は最後に〝金沢大学整形外科のモットーは「医学への精進と貢献」で、最良の医療を提供すべく頑張っている。医学を進化させるためには挑戦するしかない。医療業界は今、風当たりが強くて守りの医療となっているが、そうなると進歩がなかなか望めなくなってしまう。果敢に挑戦していかなければならない。夢を抱いてそれを実現するように努力しようと常日頃から考えている〟と締めくくった。

その後続いて、協賛発表1題、研究発表5題・実技発表1題・ポスター発表2題・ランチョンセミナー2題が行われた。(協賛発表・研究発表・実技発表・ポスター発表は学会誌をご覧ください。)

ランチョンセミナー
『草原に架かる虹を追って
-日本柔道整復師会モンゴルでの活動記録-』
(公社)日本柔道整復師会国際部 田澤裕二先生・根來信也先生

田澤氏は〝公益社団法人日本柔道整復師会は2006年から政府開発援助(ODA)を使い、モンゴル国において日本伝統治療である柔道整復術を普及するために様々な活動を行なっている。今回はモンゴル国の情報を含め、私たちの活動を紹介する〟と発表を開始した。

田澤氏はモンゴル国の国土や人口、文化、政治情勢、生活環境等について説明した後、〝モンゴル国では現在においても社会主義時代の影響が残っており、ほとんどの病院は国に管理されている。バグ(地方の集落)においては、一次医療を担っているのは3年間の医療教育を受けた人たちで、決められた治療施設を持たずにお産や怪我の応急処置など全ての医療を担っている。ソム(村)にはいくつかの小規模病院があり、基本的には6年間の医療教育を受けた医師が治療を担っている。しかし設備は整っておらず、勤務したがる医師も少ない。アイマグ(県)には入院施設を持つ比較的環境の良い大きな病院があり、医師の数も多いがこのレベルにおいても設備が整っているとは言えない。モンゴル国では乳幼児期にかいまき状態でいることが原因と思われる先天性股関節脱臼の頻度が高い。落馬、交通事故が原因であるものが多いが、最近ではスポーツによるものも増えてきている〟とモンゴル国の医療状況について解説した。

根來氏は〝地方の医師を対象に、現場にあるもので柔道整復術を伝えている。一般住民を対象に公開講座も行ない、柔道整復術の紹介や怪我に対する応急処置の方法などを教えている。日本でも指導を行なっており、現在は3名が各地で研修を受けている。帰国後は病院や学校などで学んだ技術を生かしている〟と述べ、現在富山県で研修を受けている研修生を紹介した。また、この事業に対する外務省の評価として〝総合評価としてA判定をいただいている。モンゴル国に本当に必要な技術だと国も認めている。高価な機材を必要とせず、現地で入手可能な材料を使って治療しているということが要因。実技を中心とした講習で試験もしっかりしていると高い評価を受けている〟と報告した。今後の展開としては〝医療状況は発展途上国も先進国も同じで、高齢化社会となっていくことは間違いないと考えている。その時に伝統医療や保存療法を見直す必要が出てくる。我々は業界の代表として「伝統医療産業の輸出」をし、海外から評価され日本にフィードバックされることで評価も向上し、ひいては柔道整復師自身の意識の改革にもなる〟として、国内外でさらに柔道整復が必要とされることへの期待感を示した。

ランチョンセミナー
『柔道整復師と介護保険について 生活目標を達成する運動とは?』
(公社)日本柔道整復師会介護対策課 藤田正一先生・三谷誉先生

三谷氏

はじめに三谷氏は、介護の中心課題とされる地域包括ケアシステムについて〝社会保障制度が大きく変わっていく中で、各市町村で地域包括ケアシステムが作られるようになる。地域包括ケアシステムでは、医師・歯科医師・薬剤師・看護士・介護支援専門員その他専門職の積極的な関与のもと患者・利用者の視点に立ってサービスを提供する。柔道整復師も専門職として関与していく。言い換えると、自分の住んでいる地域を住みやすいように町づくりをするということ。政府は、入院患者を約2週間程度という早い段階で退院させることができる体制を作っていこうという方向性になっている。つまり不安定な状態のまま退院するため、柔道整復師のような立場からの在宅での医療が大切になる。介護予防として、柔道整復師は機能訓練指導員という専門性を活かして運動を指導したり身体測定等を行なったりする。痛みを持った人たちにアプローチして施術し、運動療法を行なうなど最初から最後まで完結できる職種は少ないので、自分が持っているスキルを地域住民に伝えていく方法を考えていただきたい〟と、柔道整復師が地域包括ケアシステムに参入する必要性を説いた。

また、柔道整復師が地域において求められるものとして〝専門職として痛みを取る治療も重要だが、生活目標を達成するための治療が重要となる。生活機能を高めるために、その人の個性(身体状況、運動・生活習慣、運動目的)に合わせた個別のプログラムを作る。すると楽しく継続でき、身体状況も変化する。生活機能低下を持った高齢者が増えたこと、他職種とチームを組んで医療を行なう機会が増えたことなどが要因となり、ICFの考え方が急速に広まった。ICFとはWHOが定めた国際生活機能分類のことで、世界共通の言語として提案されたもの。ICFでは「健康状態」を「心身機能・身体構造」「活動」「参加」の3つにカテゴライズする。それらを支えるのが「環境因子」や「個人因子」とされている〟として、具体例を交えICFの概念をわかりやすく解説。その後、藤田氏による介護予防プログラムの実演VTRを紹介した。

藤田氏

藤田氏は〝介護予防で使う運動は特殊なものではなく誰にでもできる。それを患者に対し優しく丁寧に説明することが大切。ちょっとしたことで改善がみられるようになる。それを活かして地域包括ケアに参入していく努力が必要。今までバラバラだった医療・介護・福祉を一緒に行なっていこうという流れになっている。柔道整復師も地域包括ケアという分野に関わっていこうという意識を深めていただきたい〟と語り、終了した。

最後に、次回の北信越学術大会の主管である(公社)富山県柔道整復師会・林豊輝会長より挨拶があり、(公社)石川県柔道整復師会・大徳勇副会長の閉会の辞で盛会のうちに閉幕した。

(※写真はクリックすると大きく表示されます)

研究発表

  • 「三角線維軟骨複合体(TFCC)損傷の発生機序について」北信越柔整専門学校 発表者:中村洋平、座長:中田健市
  • 「『骨折の逆転位の整復』と症例報告」(公社)富山県柔道整復師会 発表者:高崎光雄、座長:酒井重数
  • 「腋窩神経絞扼性神経障害の出現が疑われた症例~肩関節脱臼整復法でのアプローチの1症例から考察~」(公社)新潟県接骨師会 発表者:中村あづさ、座長:渡辺雅人
  • 「頚肩腕痛の病態と予後 ~腱反射所見からの一考察~」(公社)長野県柔道整復師会 発表者:星野良和、座長:柏木久明
  • 「静的ストレッチングが及ぼす負の影響について」(公社)福井県柔道整復師会 発表者:吉田雅哉、座長:長谷俊満
  • 「女子バスケットボール選手における膝前十字靭帯損傷予防プログラムの導入と効果」(公社)石川県柔道整復師会 発表者:濱亮輔、座長:中田健市
  • 「柔道整復師の業務におけるストレッチングの活用」(公社)福井県柔道整復師会 発表者:三上貴広・宇野哲夫・田所崇
    座長:長谷俊満

ポスター発表

  • 「顎関節前方脱臼 整復までの種々変化法での試み」(公社)石川県柔道整復師会 磯松俊也
  • 「腱周囲損傷に対する超音波ドプラーの活用」(公社)石川県柔道整復師会 森田一哉
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