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『「匠の技 伝承プロジェクト」2023年度第3回指導者養成講習会』開催

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2023年11月5日(日)、日本柔道整復師会会館(東京都台東区)において、『「匠の技 伝承プロジェクト」2023年度第3回指導者養成講習会(第7回新規重点部位講習)』が開催された。

『「匠の技 伝承プロジェクト」2023年度第3回指導者養成講習会』開催

2019年に公益社団法人日本柔道整復師会により開始された「匠の技伝承プロジェクト」では、施術の平準化を目的として、施術経験がまだ浅い若手の柔道整復師を対象に骨折・脱臼の整復固定技術と超音波観察装置の取扱いの指導が行われている。
本講習会では、手指骨折・脱臼の整復固定実技実習と超音波観察装置による観察実技実習が行われた。

竹藤敏夫副会長

公益社団法人日本柔道整復師会・竹藤敏夫副会長は〝10年計画で始動した本プロジェクトも今年で4年目を迎える。受講者の方々には各地域における指導者候補として参加いただいているが、来年からは皆さんが指導者として各都道府県で講習を行っていただきたいと考えている。先達が残してくれた骨折・脱臼の整復固定技術と、骨折や軟部損傷の程度が確認できる超音波観察技術を、全国どこでも同じ水準の治療ができて結果が出せるという状況を作っていきたい〟と挨拶。

森川伸治副会長

続いて、森川伸治副会長は〝「匠の技伝承プロジェクト」は柔道整復術公認100周年を記念し、日本の伝統医療である柔道整復術、骨折・脱臼の徒手整復術を次の世代に継承していくことを目的として立ち上げられた。全国の施術者の施術の平準化を目指し、各地区の施術者に指導できるよう指導者の皆様にはしっかり知識・技術を吸収していただきたい〟と述べた。

徳山健司部長

学術教育部・徳山健司部長は〝本プロジェクトは単なる技術の継承ではなく、エビデンスを構築して初めて完成されるものだと認識している。そのためにも平準化した技術がなければ確実なデータが取れない。まずは指導者候補の皆様に技術をしっかりと身に付けていただき、さらにその下で新たな指導者が生まれるという流れを継続していかなければならない。今後の柔道整復術の向上を目指し、ご協力いただきたい〟と改めて趣旨説明を行った。

整復・固定施術 実技実習

講師 山口登一郎氏

ボクサー骨折(中手骨頸部骨折)

Jahss法による整復を行う。側副靭帯を緊張させるため、MP関節90°、PIP関節90°に屈曲させたまま牽引を行う。術者は牽引を行わない手を近位骨片遠位端に当てる。末梢牽引し骨折部の動きを確認したら、母指を支点として基節骨を介して中手骨頭を突き上げるようにして整復する。この肢位を保持したまま、アルフェンスを患肢に当てる。この時、MP関節とPIP関節の背側が褥瘡にならないように、患肢と副子の間に隙間ができないよう配慮する。手関節部にテーピングでアルフェンスを仮止めし、手関節から中手骨部を包帯で固定する。再転位防止と包帯固定しやすくするために掌側に巻軸包帯を挿入し、末梢まで包帯を巻く。なお、皮膚の負担を少なくするため、テーピングには幅が広めのテープを使用すると良い。

PIP関節損傷

PIP関節に腫れと掌側の皮下出血が出た場合、多くが掌側板骨折あるいは中節骨基部の裂離骨折であると考えられる。PIP関節損傷の場合、予後に完全に伸展できなくなるケースが見受けられるが、これはPIP関節の動きを助ける手綱靭帯の収縮性に障害が出るためである。この伸展障害を避けるため、今回はMP関節90°屈曲位・PIP関節伸展位のセーフポジションで固定を行う。第4指を損傷していると仮定した場合は、第3指とともにアルフェンスを背側に当て、手首付近でテーピング固定する。テーピングでかぶれてしまうと跡が残りやすいため、テーピングを行う際には事前にかぶれやすいかどうかを聴取しておくと良い。包帯で手関節から手掌部を固定する。

マレットフィンガー

プライトン副子を70度以上の湯で軟化させ、触っても熱くない程度に温度が下がったら指の形状に合わせて採型する。アンダーラップをしておくとフィット感が増すと同時に、皮膚に損傷を与えにくくなる。採型した副子には伸縮テープを巻き付ける。PIP関節は伸展位とし、採型したプライトン副子をホワイトテープ等で止め、その上からチューブ帯を2重にして被せる。チューブ帯を折り返す際にねじっておくと、患指の先が出ることなく被覆することができる。

各受講者の実技を確認した山口氏は‶まだ巻き慣れていない方、普段から骨折を扱っているのだろうと見て取れる方と様々であったが、指導者として活躍していただくためにはどんな職業であっても日々の鍛錬が重要となる。努力を重ねていただきたい〟と評した。 

超音波画像観察装置による観察実技

講師 小野博道氏

ボクサー骨折の観察

触診で骨のラインをイメージしながら、第5中手骨を長軸走査で観察する。骨に超音波がしっかり当たると線状高エコーとして描出され、そのラインを確認することで骨折箇所がわかる。MP関節のほうにスライドさせると骨頭の丸みが出てくる。短軸走査に切り替えて基底部から追っていくと中手骨を輪切りにした像が見え、さらに関節に向かうとだんだん平らな部分が見えてくる。

マレットフィンガーの観察

マレットフィンガーはDIP関節から描出する。エコーゼリーは多めに使用すると良い。長軸に当てると、中節骨から末節骨のラインが見えてくる。マレットフィンガーにはⅠ型(終止腱の断裂)、Ⅱ型(裂離骨折)、Ⅲ型(末節骨の背側関節面を含む骨折)の3タイプがあるが、Ⅰ型の場合、DIP関節を屈曲しても終止腱の動きが見えてこない。Ⅱ型、Ⅲ型の場合は末節骨の基部で骨折像が見えてくる。

掌側板損傷の観察

掌側板損傷では、まずPIP関節を長軸で観察する。掌側板はPIP関節と屈筋群の間に、三角形のような形で描出される。通常であれば掌側板と中節骨が同じ動きをするが、掌側板が損傷していると動きが見られない。プローブをPIP関節の中央部から尺側または橈側にずらして、過伸展を加えると手綱靭帯が描出できる。この下に出血が起き血腫が出来ると、癒着・拘縮を起こしてしまうケースがあるため注意して観察する。掌側板を損傷したことがある人は厚くなっていることがあるので合わせて確認すると良い。プローブを動かしながらの観察が難しい場合は4指、5指で支えると安定する。

総評として、小野氏は〝今回は動的な観察を行ったが、エコーは患者さんへの説明に使用するものであり、わかりやすくする必要がある。会員に指導する際にも、模型を使用するなどして理解しやすい環境づくりを心掛けていただきたい〟と述べた。

金子益美理事

最後に閉会の辞として、金子益美理事は〝柔道整復師は医師を除き、骨折・脱臼を扱える唯一の資格だ。骨折患者がいつ来院するかわからないが、それでも常に適切に整復・固定しなければならない。臨床経験が少ない方は特にエコー技術を習得することで、目で見て患者に説明ができる大きな武器となる。ぜひ活用していただきたい。指導者の方々には、来年度から各地域の会員に対し指導を行っていただくことになる。今後も皆さんのご協力をお願いいたします〟と締めくくった。

次回の新規重点部位講習会は、2024年2月11日(日)に「足部・足指の骨折・脱臼」をテーマに行われる予定だ。

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