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日本柔道整復師会主催 2023年度日整学術・生涯学習講習会 開催

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2023年11月18日(土)、日本柔道整復会館(東京都台東区)において、公益社団法人日本柔道整復師会主催「2023年度日整学術・生涯学習講習会」が開催され、同会・災害対策室の塩見猛室員、森倫範室員による特別講演、学術教育部からの学術・生涯学習報告が行われた。

日本柔道整復師会主催 2023年度日整学術・生涯学習講習会 開催

公益社団法人日本柔道整復師会・長尾淳彦会長は、制度開始が間近に迫るオンライン資格確認について、〝来年4月からはオンライン資格確認が開始し、秋には保険証が廃止される。近日中に柔道整復師向けの資格確認アプリもリリースされる予定だ。オンライン資格確認を行うためには、各先生方のPCやモバイル端末の認証・登録を行う必要がある。カードリーダーあるいはモバイル端末等でマイナンバーカードの読み取りを行うが、実際にどのような手順で読み取りを行うのかを事前に理解しておかなければならない。読み取りができなければ保険請求もできないということを会員にも周知していただきたい。また、オンライン資格確認の導入に係る費用の支援として、4万1千円を上限として実費が補助される。機器の取り付け等に関する動画も作成・配信するなど、できるだけ早く情報を発信していきたい〟と説明。さらに当日の特別講演の内容について〝本日はトルコ地震に派遣された塩見会員、森会員に講演いただくが、柔道整復師の質の向上のためには何が必要か、他職種との連携を深めるにはどうしたらいいのかを考えながら聞いていただきたい〟とした。

被災地における柔道整復師の必要性

災害対策室 塩見猛氏

塩見氏は〝災害救助法では柔道整復師の活動が指定されている。地震や津波など外傷患者が多い災害ほど柔道整復師が必要とされている。今回、日本柔道整復師会の柔道整復師の歴史上、初めて国際緊急援助隊(JDR)医療チームType2の隊員として海外に派遣され、様々な活動を行う中で見えてきた柔道整復師の必要性についてお話しさせていただく〟として講演を開始。

塩見氏が派遣されたトルコ南部では、2023年2月6日にマグニチュード7.8の地震が発生し、トルコ政府は国際支援を要請した。その後、マグニチュード7.5を含む余震も多く発生している。建物の耐震性の低さや地震発生時刻が未明であったことなどから、多数の死傷者を含む大きな被害が発生した。
本派遣における活動の特徴として、緊急医療チーム(EMT: Emergency Medical Team)Type2認証後、初の派遣であった。他にも、コロナ禍での派遣、政府専用機での資機材の輸送、初の24時間運用等の特徴があった。

〝活動場所は寝泊まりするキャンプサイトと診療サイトに分かれていた。キャンプサイトは、日本政府から「屋根と人工芝がある」ということは事前に聞いていたが、その他は不明だった。実際に行ってみると本当に屋根と人工芝しかなく、壁もないため風がビュービュー吹き抜ける。そのため夜中にテントが風で倒れ、隊員は倒れたままのテントの中で寝るという過酷な環境で過ごしていた。テントの中には薄い毛布を敷き、寝袋を2枚重ねて、持参した衣類を丸めて作った枕を使って寝た。さらに当時の気温は最高9度、最低マイナス5度と朝晩はかなり冷え込んでおり、医療資機材に霜が降り、ブルーシートには氷が張るという状況の中で活動をしていた。診療サイトでは、日本チームが1番最初に行ったのはゴミ拾いだった。トルコの方々から「医療チームだよね、何しに来たの?」といった声が聞こえたが、 ゴミ拾いを終える頃には「さすが日本人、素晴らしいね」という声をいただいた。それから汚れ防止のためのブルーシートを敷き、その上に防水シートも敷いてからテントを設置する。滞在した3週間の間には突風が吹き、エアテントが浮いてしまったり、処置室のテーブルがひっくり返ったりしたこともあった。床のシートにも皺が寄ってしまったため、患者さんやストレッチャーのタイヤが引っかからないよう、テントを崩してまた作り直した。作り直すにも相当な時間を要した。

Type2野営病院では、トルコの医療システム(トルコID)で処方を行うため、トルコの個人情報システムとJDR協働で受付を行う。外来は朝から晩までずっと混んでいた。診察はドクターとナースと通訳の3人1チームとなって行う。臨床検査は日本チームからのオーダーは当然ながら、この地区の周りの被災した病院からもオーダーが入るためとても忙しかった。当然夜勤もあるが、燃料が勿体ないためストーブの火を一番細くして暖を取っていた。私たちの班では疲労と冷えで、倒れてしまった隊員も10数名いた。
食事は最初、トルコの方々からの目につきにくい場所で、地面に座って震えながら非常食を食べていたが、現地の人が「わざわざ日本から来ているのにそんなものを食べているのか」と言って炊き出しをしてくれた。

柔道整復師が属する医療チームType2のロジスティック班の役割としては【活動に関わるすべての支援業務】ということで、診療サイト設営、活動環境整備、資機材・電気・水・無線機・廃棄物・衛生・安全管理なども行った。柔道整復師の仕事としては、リハビリ室を作ってPTの方と一緒に活動した。パソコンでドクターの診断や処方薬、レントゲン画像等を確認してから施術を行う。施術後、電子カルテに自分が何をやったのかを打ち込むという作業をひたすら続けていく。診療実績として提出される日報を読む機会があったが「柔整のニーズが高かった」と書かれている日が続いていて、柔道整復術を知らない海外の医療スタッフにも柔道整復師という名前が広まったのではないかと思う〟とし、実際の施術の様子を写真を交えて紹介した。

患者を診ていく中で、ドクターでも原因がわからない痛みに苦しむ人もいたという。〝ものすごく痛がっていたので本当に軽く軽擦法を行った。すると患者が何度も私の手を見せてくれと言う。どうしたのか尋ねると「だんだん痛みが嘘のように消えていく。あなたの手は神のようだ」と言われた。私は、柔道整復術が海外でもやっぱり役に立つんだ、言葉が通じなくても私たちの手を必要としてくれる人がいるんだと感じた。整形のドクターからは「5日間だけ固定したい、何かいい方法はないか」と相談を受けた。そこで横にあった段ボールをハサミで切り、布テープを縦横に巻いて固定材料を作成した。ドクターには「それで固定になるのか」と言われたが、5日間しっかり固定できた〟と話した。

また、〝被災者だけ治療していればいいかというとそうではなく、隊員も怪我をする。現地の国立病院の院長は寝ずに一日に何百人もの患者を診察していた。20トンの荷物の荷下ろしで肩を痛めてしまったり、ぎっくり腰や足関節を捻挫してしまう人もいた〟として、過酷な環境に身を投じて支援を行う人々に対する「支援者支援」も必要だと述べた。

最後に〝帰国する頃には、新品で持って行った安全靴はもう使えない程に磨り減って、底には釘のような鋭利なものが刺さったと思われる穴まで開いていた。もし普通の靴であれば、大怪我をして強制帰国になっていたかもしれない。被災地に入る際には相応の装備が必要だということを痛感した〟と締めくくった。

国内自然災害に対して柔道整復師が果たしてきた役割・活動から考える未来
―日本柔道整復師会災害対策室よりの提案―

災害対策室 森倫範氏

はじめに、森氏は〝これまでの災害の経験を元に、これから起こる災害に対してどのように活かすかを、災害対策室からの提案も含めてお話しさせていただく〟と述べた。

〝関東大震災発生から今年で100年になる。その約220年前にも同様に大きな災害があった。今後200~300年の間にマグニチュード8クラスの災害、喫緊ではこれから30~100年の間にマグニチュード7クラスの災害が起こると予測されている。大きな地震が起こったらもう地震はないというわけではなく、大地震の前後に多くの余震が続く。2021年3月11日に発災した東日本大震災を追跡したところ、その後4年間で震度4を超えた地震は108回あった。繰り返し地震が起こり、その恐怖にさらされ続けることになる。そのため、単発の地震だけで考えず、いかに長期的な対策を講じるかが重要となる。

近代では、阪神淡路大震災、東日本大震災、熊本地震、北海道胆振東部地震の4つの大きな地震があった。 阪神淡路大震災発生時、被災地である兵庫県は大変な被害を受けたと思われるが、他県から柔道整復師が駆け付け、20日間で延べ60人の柔道整復師が延べ40カ所で活動したということが記録として残っている。東日本大震災発生時にも各県からボランティアで参加された先生方のご尽力があったことで、厚生労働大臣から感謝状が日本柔道整復師会へ贈呈されている。このように大きな災害が発生した際に、柔道整復師は被災地の力になることができる。日本柔道整復師会が中心となって、災害現場で何ができるのかをより具体的に検討していくために、2014年に立ち上げたのがDJAT(日整災害時救護チーム)だ。DJAT結成後に発生した熊本地震では、県内・県外の柔道整復師が 8地域73の避難所において5000人を超える被災者に対し救護活動を行った。北海道胆振東部地震では、北海道DJATとして北海道庁と連携を取り、初めて災害対応マニュアルを運用した災害救護活動を行った。こうして各都道府県DJATとしての活動は行っていたものの、日本柔道整復師会DJATとして日本柔道整復師会主導で行った活動はない。そこで2022年7月に災害対策室を設置して議論を重ね、2023年7月より正式に会長直轄の機関として災害対策室の活動が始まった。

災害はいつ起こるかわからない。南海トラフ地震、首都直下地震が起こった場合、関東圏はほぼ全域が被害想定区域に含まれ、相当数の死者・行方不明者が出るだろうと予想されている。いかにこれを減災させるかは国をあげての大きな課題となっている。災害救助法の制度上、救助活動は基本的には都道府県が主体となって行う。ただし、都道府県は市区町村に救助の実施についてを委譲できる。つまり、各市区町村との関係が重要になる。行政と顔の見える関係作りをし、各自治体とそれぞれ災害協定を締結することが必要となる〟と様々なデータを提示しながら解説した。

具体的な想定として、森氏は〝震度7、マグニチュード8の地震が自県で発災したら、まず何をするか〟と問いかけた。〝自身の安全を確保しつつ、各会員の安否確認、院内の患者さんへの対応、避難所の確認、被災地以外の近隣柔道整復師会への要請、インフラ被害から考えられる活動内容の検討、医療施設の被害状況の確認など、様々な情報を集め短時間で網羅的に対応していかなければならない。通常の業務とはかなりスピード感が異なる。さらに、避難所で救護活動を行う場合、自分が支援者なのか、受援者なのかというところから考える。自分も大変な状況なのに人を助けることができるのだろうか?また、自県が被災した時に情報を収集し、被災地臨時災害対策室に赴き、関係各所と交渉するのは難しいのではないか?〟と話し、日本全国を北ブロック・中ブロック・南ブロックの3つに分け、発災時には被災したブロックとは別のブロックから駆けつけてサポートを行うことが理事会決定事項になっていることを伝えた。さらに〝実際に発災した場合、DMATに対し政府が災害派遣を依頼し、各地域災害対策本部が設置される。その後、被災地柔道整復師会側の災害対策本部が各地域災害対策本部と連携を取っていかなければならないが、被災県でこれを行うのは困難であることが想定される。そのため、緊急支援として日本柔道整復師会が本部運営の支援を行い、先遣隊として日整DJATが各災害対策本部との連携や近隣都道府県柔道整復師会からの救護チーム受け入れの調整を行いたいと考えている。発災後、急性期を過ぎ状況が安定したら、それぞれの被災県が自らの力で災害に立ち向かっていくため、その活動を後方から支援する役割を日整DJATが果たすべきだ〟と述べた。

また、今後の見通しとして〝DJATとしてこれまで作ってきたものをより良いものに再編成し、各都道府県の先生方の発災時の緊急サポートすることができればと考えている。災害時はその現場にいる人たちが全員で臨機応変に対応していくことが求められる中で、日頃から「何を」準備するか、いざという時にどう対応するかということを決めておくことが大切だ。各地域の会長職の皆様から始めていただき、日本の国民がもっと安全に暮らしていくためのきっかけとなっていただきたい。私たち柔道整復師は、手で外傷を治せる伝統医療の職種であり、医師がいない・医療資源が不足しているなど医療のインフラが整わない災害現場で提供できる技術を持っている。我々が目指すのは、被災者を支えることだと考えている。災害対策室だけでは何もできない。皆様にご協力いただいて、災害対策を進めていきたい〟とした。

特別講演後、徳山学術教育部長より日本柔道整復師会が取り組む「匠の技伝承プロジェクト」の意義と目的について改めて周知がなされ、閉会となった。

なお、本年1月1日に発生した「令和6年能登半島地震」でも、日本柔道整復師会災害対策室、各県柔道整復師会が活動を開始している。詳しくは公益社団法人日本柔道整復師会ホームページをご覧ください。

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