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運動器超音波塾【第33回:股関節の観察法8】

2020/04/01
股関節後方 仙棘靭帯と仙結節靭帯

図 股関節後方 仙棘靭帯と仙結節靭帯

 

坐骨神経は、坐骨結節と大転子の間を通り、骨盤から膝までの単一の長い脂肪鞘に囲まれ、大殿筋および大腿二頭筋長頭の深側、大内転筋の浅側を垂直に下り、大腿屈筋群に分枝したのち、膝窩の上方5~12㎝頭側の膝窩三角頂点(この2辺は半腱様筋および半膜様筋の下端と大腿二頭筋の下端からなり、底辺は腓腹筋の起始部)レベルで総腓骨神経と𦙾骨神経に分かれます。この両神経は、小骨盤を出る前にすでに分岐している場合や、すぐに再び合流し、単一の神経として下向きに進むものなど、大腿部でも分岐に破格があるようです。

*12 Tomaszewski KA, Graves MJ, Henry BM et al. Surgical anatomy of the sciatic nerve: a meta-analysis. J Orthop Res. 2016; 1820-1827.

*13 Beaton LE, Anson BJ: The relation of the sciatic nerve and its subdivisions to the piriformis muscle. Anat Rec 70: 1–5, 1937

*14 Lewis, S., Jurak, J., Lee, C., Lewis, R., & Gest, T. (2016, December). Anatomical variations of the sciatic nerve, in relation to the piriformis muscle. Translational Research in Anatomy, 5, 15-19. doi:10.1016/j.tria.2016.11.001

 

では、梨状筋を通過する坐骨神経は全体の約11%に破格があるとされていましたが、解剖学的構造としてはどのような分類があるのか、図で見てみます。

解剖標本 手術症例における坐骨神経異常と有病率(主要文献値)

図 解剖標本および手術症例における坐骨神経異常と有病率(主要文献値)*15

*15 Van Erdewyk, Jonathan I., "Anatomical Variations of the Sciatic Nerve Divisions in Relation to the Piriformis Muscle and Clinical Implications" (2017). Theses & Dissertations. 194. https://digitalcommons.unmc.edu/etd/194

このメタ解析によると、Type Aが83.1%でType B-Fは16.9%という事になります。
この破格については、正常とみなされていますが、神経の衝突、絞扼、または刺激により坐骨神経痛の痛みを発症するリスクが高い可能性があるとされていました。この点について、別のメタ解析による報告では、梨状筋症候群(piriformis syndrome)の患者における異常の有病率は、正常な集団と考えられるものと有意な差がないため、この異常は、以前に考えられていた梨状筋症候群の病因において重要ではない可能性があることを示すとしています。*16

つまり、形態の異常が直接的な原因ではないとしているわけで、何やら振り出しに戻った感もありますが、治療を考える上では重要な意味を持つことが解ります。

*16 Smoll NR. Variations of the piriformis and sciatic nerve with clinical consequence: a review. Clin Anat 2010;23(1):8-17.

 

梨状筋症候群(piriformis syndrome)は坐骨神経の絞扼性神経障害の一つで、坐骨神経痛・知覚異常・筋力低下を呈する疾患とされています。発症機転については、以下の3つに分類されるとの報告があります。*17

  • 仙腸関節に生じた何らかの侵害刺激により、L5・S1・S2に支配される梨状筋、双子筋、大腿方形筋に反射性攣縮を生じさせたもの
  • L5 ・S1の椎間関節に生じた何らかの侵害刺激はL5内側枝を介して、外旋筋群に反射性攣縮を生じさせたもの
  • 梨状筋単独での梨状筋症候群

この報告によると、大部分は1の仙腸関節由来であり、仙腸関節における圧痛を約8割に認めたとしています。

*17 中宿伸哉 赤羽根良和・他:梨状筋症候群の理学所見よりみた発症タイプ分類と運動療法成績.整形外科リハビリテーション学会誌.2007; 10: 58-63.

 

股関節後方の超音波観察法 坐骨神経

今回は、坐骨神経(sciatic nerve)を観察していきます。この観察の場合にも、視診・触診・問診をしっかり行った上でアプローチすることが重要となります。

観察肢位は腹臥位として、大転子の近位端を触診して目印として観察していきます。坐骨神経の出口となる梨状筋の遠位には上双子筋、内閉鎖筋、下双子筋と構成されているので、大転子を近位から観察していくのがポイントとなります。観察する膝関節を90°屈曲させて、股関節を自動介助運動で内外旋させると、それに伴う梨状筋の収縮を観察することができます。*18

坐骨神経の位置関係に迷った場合は、臀溝(臀部と大腿後部との境界線)にプローブを置き坐骨神経を短軸に捉えると、神経はブドウの房、或いは蜂の巣のような断面構造で描出され、位置が特定できます。正中神経や尺骨神経の観察法でも書きましたが、この特徴的な断面画像を覚えておくと、他の部位での神経の観察にも役に立ちます。更に神経の位置を外さないようにして近位にプローブを移動させていくと、神経がどの方向を通過しているのか、位置関係を理解する手助けとなります。

股関節後方の超音波観察法 坐骨神経の観察肢位

図 股関節後方の超音波観察法 坐骨神経の観察肢位

股関節後方の超音波観察法 坐骨神経

図 股関節後方の超音波観察法 坐骨神経

 

この観察法の場合、整形分野での神経ブロックなどの用途ではコンベックスプローブ(周波数が低く深度が稼げるのと、扇型の形状により深部の視野が広くなるが浅部は歪む)での観察が一般的で、初心者の方には位置関係が把握しやすいかもしれません。今回は、敢えて常用しているリニアプローブ(周波数が高く浅部の解像度が良く、歪みもない)での観察をしています。リニアプローブは浅部の観察用に調整されていますので、機器によって、周波数を下げるなどの設定調整が必要となります。また、トラペゾイド機能(台形走査モード)があると、視野を広角にすることで位置関係が把握しやすくなります。

この観察の場合の目印は、大転子、骨頭、坐骨結節等となります。坐骨神経の形状を良く観察して、肥厚している部分や周囲組織との癒着がないか等に注意して観察します。梨状筋の出口付近での肥厚や、大腿方形筋から坐骨結節レベルにかけての癒着の有無は、特に着目すべきポイントです。

座骨神経の出口となる梨状筋の解剖学的な注意点は、股関節の角度によって機能が変わる事です。股関節伸展位では外旋筋として働くことから、検者により内転・内旋に力を加え、これに抵抗するように外旋させる(ペーステスト)と梨状筋を収縮させる事による痛みを誘発します。*19、これに対して、股関節屈曲位では外転筋として働くため、側臥位での内転・内旋(フライバーグテスト)で、梨状筋が伸張されると疼痛を誘発します。*20これらの疼痛誘発テストと併せて、覚えておくと良い解剖学的な特徴です。

また、高齢者では筋肉の厚みが減少するとともに、筋肉内の脂肪変性の様子などにも併せて注意が必要です。

股関節を様々な方向に動かしてみると、それに伴って坐骨神経もおおきく影響されているのが観察され、そう考えると、その動きを助けている脂肪はやはり重要な運動器だ、と思います。

 

それでは、動画です。坐骨神経を長軸に描出し、股関節を少しだけ屈伸動作させながら観察をします。

動画 座骨神経の長軸画像
股関節を少しだけ屈伸動作させての観察

リニアプローブのトラペゾイド機能(台形走査モード)を使用し、広角に描出しています。コンベックスプローブと違い、表在の歪みが観られません。

股関節を少しだけ屈伸動作させながら坐骨神経の長軸での振る舞いを観察すると、ほんの少しの動きにも関わらず、坐骨神経は筋肉の動きに伴って、走行方向の角度を変えているのが解ります。つまり、この位置での坐骨神経には遊び(移動性)があるわけです。このように、臀部での坐骨神経はほんの少しの股関節の動きにも影響されるため、観察が難しいことが理解できます。更に、坐骨神経の垂直位置も表面形状と違い大腿骨の方向にあるため、微調整により繊細さが求められます。
また、この座骨神経の動きを観て解る通り、周囲筋に腫脹、萎縮、短縮、持続的な痙縮、或いは癒着などの障害がある場合、神経の遊び(移動性)が制限され、容易に疼痛の誘発につながる事が考えられます。手根管で観察される正中神経で、障害がある場合の正中神経は遊び(移動性)を無くしているのと同様だと思うところです。先にも書いた通り、周囲筋の触診などを十分行った上で、神経の絞扼や肥厚している部分、周囲組織との癒着がないか等に注意して観察することがポイントとなります。

*18 林典雄 運動療法のための機能解剖学的触診技術 下肢・体幹 メジカルビュー社

*19 J.B. Pace, D. Nagle Piriformis syndrome West J Med, 124 (1976), pp. 435-439

*20 A.H. Freiberg, T.A. Vinke Sciatica and the sacroiliac joint J Bone Joint Surg, 16 (1934), pp. 126-136

 

それでは、まとめです。
今回の観察法でポイントとなる事項をまとめると、下記のようになります。

股関節後面の深層外旋6筋は、梨状筋(piriformis)・内閉鎖筋(obturator internus)・外閉鎖筋(obturator externus)・上双子筋(superior gemellus)・下双子筋(inferior gemellus)・大腿方形筋(quadratus femoris)で構成されている
深層外旋筋の役割は、股関節外旋トルクを発揮することに加え、大腿骨頭を求心位に保ち、股関節の安定化に寄与することである
梨状筋は中殿筋と癒合している場合や、内閉鎖筋と上・下双子筋が停止部付近で共同腱となって連結(三頭筋のような構造)している場合など、筋同士の癒合や連結があることが指摘されている
内閉鎖筋と上・下双子筋を双子筋-内閉鎖筋複合体(obturator internus/gemellus complex)として、一塊(ひとかたまり)と考える捉え方がある
男性、女性共に「股関節内旋角度が増加すると股関節屈曲角度は減少する」とした上で、股関節外旋筋群の伸張が股関節屈曲を制限する因子となるとの報告がある
トレンデレンブルグ徴候陽性の場合は、「外転筋力の機能不全が存在する下肢で片脚立位となった時、遊脚側下肢の重量に抗せずに遊脚側の骨盤が墜下する現象」を指し、遊脚側への体幹傾斜がみられる場合もある
デュシェンヌ現象陽性の場合は、「外転筋力の低下している下肢で片脚立位となった時に立脚側へ体幹が側屈する現象」を指し、かつ骨盤傾斜も起こる
トレンデレンブルグ徴候の出現が外転筋力低下だけでなく、外転筋・内転筋の同時収縮能の不均衡でも引き起こされることを同様に理解する必要がある
デュシェンヌ肢位は単に外転筋の筋力低下を示す現象だけでなく、股関節合力を軽減するための体幹重心の立脚側への移動動作で、衝撃を緩和させるための現象でもある
トレンデレンブルグ現象を起こしている股関節は内転位を呈しており、大腿筋膜張筋が強い緊張を有している
坐骨神経は、腰椎(下部)と仙骨の5つの神経(L4、L5、S1、S2、S3 )によって形成され、臀部の深部にある梨状筋の前面近くに集まって、大きく太い坐骨神経を形成する
梨状筋下縁で最も厚い部分では、神経の直径が平均15.55㎜になると言われている
梨状筋上孔には上殿神経と上殿動静脈が通り、梨状筋下孔には下殿神経と下殿動静脈、陰部神経と内陰部動静脈、後大腿皮神経、そして坐骨神経が通過する
坐骨神経は、坐骨結節と大転子の間を通り、骨盤から膝までの単一の長い脂肪鞘に囲まれ、大殿筋および大腿二頭筋長頭の深側、大内転筋の浅側を垂直に下り、大腿屈筋群に分枝したのち、膝窩の上方5~12㎝頭側の膝窩三角頂点(この2辺は半腱様筋および半膜様筋の下端と大腿二頭筋の下端からなり、底辺は腓腹筋の起始部)レベルで総腓骨神経と𦙾骨神経に分かれる
梨状筋と通過する坐骨神経のバリエーションは、メタ解析によると、Type Aが83.1%でType B-Fは16.9%となる(Beaton and Ansonの分類)
別のメタ解析では、梨状筋症候群(piriformis syndrome)の患者における異常の有病率は、正常な集団と考えられるものと有意差がないため、この異常は、以前に考えられていた梨状筋症候群の病因において重要ではない可能性があることを示すと報告している
梨状筋症候群(piriformis syndrome)は坐骨神経の絞扼性神経障害の一つで、坐骨神経痛・知覚異常・筋力低下を呈する疾患とされ、発症機転については、仙腸関節に生じた何らかの侵害刺激により、L5・S1・S2に支配される梨状筋、双子筋、大腿方形筋に反射性攣縮を生じさせたものであるとして、大部分は仙腸関節由来で圧痛を約8割に認めたとの報告がある
股関節後方の観察肢位は腹臥位として、大転子の近位端を触診して目印として観察する
梨状筋の遠位には上双子筋、内閉鎖筋、下双子筋と構成されているので、大転子を近位から観察していくと理解しやすい
観察する方の膝関節を90°屈曲させて、股関節を自動介助運動で内外旋させると、それに伴う梨状筋の収縮を観察することができる
坐骨神経の位置関係に迷った場合は、臀溝(臀部と大腿後部との境界線)にプローブを置き坐骨神経を短軸に捉える
神経はブドウの房或いは蜂の巣状のような断面構造で描出され、この特徴的な断面画像を覚えておくと、他の部位での神経の観察にも役に立つ
臀溝から短軸で近位にプローブを移動させていくと、神経がどの方向や位置関係を通過しているのか、理解する手助けとなる
深部の描出が不十分な時には、周波数をRes(分解能優先)からStd(標準)、Pen(深度優先)に順次下げていく調整も行う
コンベックスプローブ(周波数が低く深度が稼げるのと、扇型の形状により深部の視野が広くなるが浅部は歪む)を使用すると、初心者の方には位置関係が把握しやすい
リニアプローブでもトラペゾイド機能(台形走査モード)があると、広角に観察が可能となる
目印は、大転子、骨頭、坐骨結節等とし、坐骨神経の形状を良く観察して、肥厚している部分や周囲組織との癒着がないか等に注意して観察する
梨状筋の出口付近での肥厚や、大腿方形筋から坐骨結節レベルにかけての癒着の有無は、特に着目すべきポイントである
坐骨神経の出口となる梨状筋の解剖学的な注意点は、股関節の角度によって機能が変わる事で、股関節伸展位では外旋筋として働き、股関節屈曲位では外転筋として働く
高齢者では筋肉の厚みが減少するとともに、筋肉内の脂肪変性の様子などにも併せて注意が必要となる
臀部での坐骨神経は、ほんの少しの股関節の動きにも影響され、遊び(移動性)がある
周囲筋の腫脹、萎縮、短縮、持続的な痙縮、或いは癒着などの障害がある場合、遊び(移動性)が無くなり、容易に疼痛の誘発につながる事が考えられる

 

次回は、「下肢編 股関節の観察法について 9」として、引き続き後方走査について考えてみたいと思います。

 

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情報提供:(株)エス・エス・ビー

 
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