HOME トピック 正道を歩む日本柔道整復師会の逆襲―接骨院(柔道整復)の健全化に向かって―

正道を歩む日本柔道整復師会の逆襲―接骨院(柔道整復)の健全化に向かって―

トピック

現在、全国に約5万院を有する接骨院。国家資格を有する柔道整復師は、他にもデイサービスを運営し、介護施設等に機能訓練指導員として勤務、またアスレチックトレーナーとしてスポーツ現場に貢献している。
その柔道整復師をまとめる(公社)日本柔道整復師会は、国との窓口を務め、これまで地域貢献をずっと行っている。近年様々な不祥事が続いたこともあり、持続可能な業界を目指して、規制に対応する受け身の発想をやめにして、内部からルールを作り上げていく主体的な発想に転じることとした(公社)日本柔道整復師会。このルールがしっかりシステム化されることで、柔整業界はどのように変化していくのであろうか?!
近年目まぐるしく変化する社会において、勇気ある挑戦をされている日本柔道整復師会のことを理事(学術教育部長)・長尾淳彦氏にその内容等を話して頂いた。

長尾淳彦氏

(公社)日本柔道整復師会
  理事・学術教育部長
  長尾 淳彦 氏

第1弾

平成30年に日整がリードして教育改革、制度改革などを行いましたが、先ずその目的について教えてください。何故、改革が必要だったのでしょうか?

近年の柔道整復師業界

まず、近年の柔道整復師業界をお話します。
昭和から平成に入り「柔道整復療養費」に係る不正請求事件がマスコミを賑わしました。平成5年の会計検査院からの厳しい指摘や臨床整形外科学会(当時医会)の柔整バッシングともとれるシンポジウムの開催やマスコミを巻き込んだ投稿・発言が相次ぎました。

支給申請書への「白紙委任」などの言葉が出てきたのもこの頃です。平成20年前後から反社会勢力が絡む不正請求事件や交通事故を装う保険金詐欺事件など柔道整復師が犯罪組織に利用される事件が数年ごとに発生し、保険者や国民からの柔道整復師に対しての不信感がピークに達していました。
昭和63年に個人にも受領委任の取扱いが認められ、個人主義的、拝金的考えが横行して、業界の背骨であった「柔道整復師の秩序やモラル」が年々失われていきました。この頃の個人契約者は一個人として保険者に療養費を請求していました。その数も全体の10%に満たない比率でした。平成10年以降、柔道整復師養成施設の乱立により年間に最大7000名の柔道整復師が誕生して、卒業即開業者も増えて「秩序とモラル」など無い状態となりました。そして個人にとって煩雑な保険請求業務を代行する者が現れます。
驚くことに保険者は支給申請書に記載の振込口座にオートマチックに振り込んでいました。「療養費の支給基準」にも〝保険者は支給申請書に記載の振込口座に振り込むこと〟とありますからその通りに振り込んでいたのです。しかし、その振込口座の名義人は何の担保も無い「請求代行業者」です。
個人に受領委任の取扱いが許された昭和63年当時から、患者さんから受領委任の委任を受けた施術管理者である柔道整復師の口座に振り込まれるのが「柔道整復療養費受領委任の取扱い」の立て付けです。

約30年間にこの立て付けは反古にされ、平成30年には請求代行業者の数は300を超えました。ほとんどが法人登記や社会的責任のない人達の集まりです。柔道整復師の資格を持っていない業者も多くあると思います。よくこれまで持ち逃げや使い込みがなかったなと感心しています。ただ、今年に入ってから業界では大手の「請求代行業者」の持ち逃げや使い込みが発覚しています。非常に危惧すべき事柄です。

話を平成半ばに戻します。政府の事業仕分けで「国民医療費の伸び率を上回る伸び率の柔道整復療養費」と揶揄され、「適正化」の名のもと、保険者と外部委託調査会社による柔道整復療養費の削減策、剥がし策が取られて着実に柔道整復療養費は減少してきました。

平成23年度の4127億円をピークに柔道整復療養費は現在3310億円台となっています。
いまや就業柔道整復師は7万人超となり、施術所は5万施術所となっています。柔道整復師、施術所、共に平成の30年間で倍以上の増加です。柔道整復師の急増、施術所の乱立により、本来の柔道整復術の本道を忘れ、ひたすら療養費や保険金に群がる業界に未来はありません。

日整の不退転の決意

そのような状況の中、公益社団法人日本柔道整復師会工藤鉄男会長は、〝小手先の「適正化」や「制度の見直し」ではダメだ!〟〝柔道整復師業界が自ら真摯に現状を分析して何をどのようにして是正していくかを考え実行しなくてはならない!〟と始動しました。

置かれる立場や所属による思い込みや偏った考えに縛られずに物事に当たることを信条としました。外部からの圧力や注文・忠告だけでは、その対応や対策だけで終わり、真の業界改革は行えないという強い想いからでした。
現在の時代に対応していない業界のシステムを根本的に洗い出し「悪貨が良貨を駆逐する」状態を打破するための業界改革です。

まず、柔道整復師になる入り口である「養成課程である教育カリキュラム」を抜本的な改革にすること。それと柔道整復師資格取得後の開業は自由だが「療養費受領委任の取り扱い」については国民の税金や保険料という浄財が使われているので、その取扱いには一定の要件を付けないといけないと施術管理者の「実務経験と研修」の義務化に尽力しました。

医師は医学部を卒業するまで6年間。最初の1年半は「一般教養」。大学2年生後半から4年生前半まで専門分野「基礎医学(生化学、解剖学、組織学、薬理学など)」を学びます。本格的な医学を理解するための基礎です。そして、4年生の後半から2年半「臨床医学(内科、外科、小児科、整形外科など)」を病院にインターン生として配属され、診療をベースに発生から治療に至るまでを学習します。6年間の単位を修得して「医師国家試験」に合格すると「医師」となることができます。医師になった後は「臨床研修医」制度により、内科、外科、小児科、整形外科など3か月に1回を目安に各科を実習します。2年間の臨床研修を終えた後、専門分野を決めて専門分野で1-3年間の専攻医として修行を積みます。最低8-11年間を掛けて「医師」として世に出られます。

現在、医師、歯科医師、薬剤師以外の医療職種の養成施設(大学や専門学校)の就学年数は4年間が最低です。さらに専門分野や研修を2-4年間学び行います。柔道整復師も最低6年間の就学研修年数が必要と思われます。それは、患者である国民が3年間の養成施設で学んですぐに開業した柔道整復師に身を任せるか?社会保障を含む国民医療費の現状と療養費受領委任の取扱いも詳しく知らない新卒の柔道整復師に保険者が支払いをするか?と考えた時、これなら身を任せる、これなら支払えるという「信頼」を得る最低限必要な学修期間だと思うからです。

平成27年から全国柔道整復学校協会、柔道整復研修試験財団、日本柔道整復接骨医学会と協調して日本医師会の指導の元、厚生労働省と教育改革、制度改革の検討を重ね共に平成30年4月からの実施となりました。システムとして稼働して成果が出るにはあと数年掛かりますが日本柔道整復師会は不退転の決意で取り組みます。

それらの目的や理由から、制度改革をされたということですが、では具体的に行われた内容について少し詳しくお聞かせください。

養成施設カリキュラム改定

平成27年12月から翌年9月にかけて厚生労働省にて柔道整復師学校養成施設カリキュラム等改善検討会が5回開催されました。本検討会では国民の信頼と期待に応える質の高い柔道整復師を養成するため、カリキュラム等改善などを行いました。

柔道整復師は「接骨」「ほねつぎ」「柔道整復」として現在まで日本の伝統医療として国民の支持を得て存在しています。
これまで支持していただいた患者さんである国民のために柔道整復師が何を出来るか?何をせねばならないか?を考えた時、「医療安全」「患者安全」を最優先に考えなければなりません。先人たちは時代や患者さんのニーズに応えながら対処してきました。現在の社会情勢を見れば、柔道整復師の資格を取る上で、学ぶ時間とベストな環境を確保し整えなければなりません。
教育においては、いままでの単位数、時間数、内容では多様化する国民の負託に応えられないとして単位数、時間数を増やし内容も充実されました。 特に医療人としての倫理観や医療経済を基にした保険の取り扱いについても学生の時から知るべきとして必修科目となっております。

臨床実習時間も大幅に増えて養成施設内だけでなく実際の現場実習が主となり「患者と柔道整復師」「地域と接骨院」の関係が学生にとってよりリアルに経験できる内容となりました。
初検から治癒まで一貫して治療できる柔道整復師という職種から見れば当たり前のことです。学生の時から医療人として「医療安全」の質の向上を図ることは柔道整復師の信頼を高めることに繋がります。

受領委任の取扱い、施術管理者研修

柔道整復師の資格を得て開業することに制約はありません。ただ、療養費受領委任の取り扱いで「施術管理者」となるには一定の「実務経験」と「研修」を受けなければなりません。
これもまた、医療人として「医療安全」の質の向上を図ることは柔道整復師の信頼を高めることに繋がることです。

柔道整復師養成段階時、そして、卒後の研修などに保険に係ることが多く組み込まれているのは柔道整復施術療養費が、税金や保険料という浄財によって支払われる財源で運用されているからです。

そして、この制度は柔道整復師だけのための制度でなく患者さんである国民が良質な柔道整復術を受けられるための制度であることを柔道整復師は理解しなければなりません。

「柔道整復師」の質の担保と向上は柔道整復師自らが行わなければなりません。しかもそれは、長年、「柔道整復」を支えてくださった患者さんである国民目線に合った「医療安全」でなければなりません。

柔道整復師が医療保険を取り扱えるのは「柔道整復師は必ず治す」「柔道整復師は不正をしない」という信頼があったからです。

超音波観察装置による観察が患者さんの病態の理解や治療過程の指針として重要とされ、その取扱いができる方達への認定をされるとお聞きしておりますが、それについて詳しくお聞かせください。

柔道整復師と超音波観察装置

柔道整復師の施術現場における超音波観察については、平成15年9月9日に厚生労働省医政局医事課長通知が「柔道整復師が施術に関わる判断の参考とする超音波検査については、柔道整復の業務の中で行われることもある」との見解を出しました。

また、平成22年12月15日の厚生労働省医政局医事課事務連絡でも「柔道整復師が施術に関わる判断の参考とする超音波検査は施術所で実施しても関係法令に反するものではない」ことが示されております。

さきの柔道整復師学校養成施設カリキュラム等改善検討会の追加カリキュラムの一つに、「柔道整復術適応の臨床的判定(医用画像の理解を含む)」があります。2単位30時間を使い、柔道整復術の適応で得た知識を活用し、臨床所見から判断して施術に適するケガと適さないケガを的確に判断できる能力を身に付け、また、安全に柔道整復術を提供するために医用画像を理解するためのカリキュラムを追加しました。

施術に適するケガと適さないケガを的確にきちんと判断できる能力が身に付けば、適さないケガに関しては適切な対応すなわちそのケガに適した医療機関への紹介が行えます。

柔道整復師が患者を診る上では、医療面接(問診)、視診、触診そして徒手検査法等を駆使して、病態の把握と治療計画を組み立てます。超音波観察装置(以下、エコー装置)の使用はその組み立ての補助手段です。すべて「患者安全」「医療安全」の観点からのものであります。

公益社団法人日本柔道整復師会では、「柔道整復師のエコー装置使用時のガイドライン」や「薬機法の承認を得ていないエコー装置の使用について(注意喚起)」などについても以前より「患者安全」「医療安全」の意味合いから発信しております。

学会との協調、認定制度

一般社団法人日本柔道整復接骨医学会では今後、「患者安全」「医療安全」の観点で研究発表が行われ、柔道整復師がエコー装置取扱い時のガイドラインや超音波画像観察装置の取扱いの施術所認定制度も視野に入れての活動が行われます。

また、柔道整復師や大学教員ら約1000名の会員で構成されている一般社団法人日本超音波骨軟組織学会でも「患者安全」「医療安全」のためのエコー装置使用活動を行っています。

柔道整復師のエコー装置については、現在、療養費等保険点数の加算はありませんが将来的には「認定」された施術所や施術管理者には加算出来るようにしたいと思っています。そのためには、徹底的な法令を遵守した取扱いが大切です。

前述したように柔道整復師の施術を行う上での基本である医療面接(問診)、視診、触診そして徒手検査法等を駆使して、病態の把握と治療計画を組み立てること。そこに鑑別や治療の進捗の補助となるエコー装置による検査を導入すれば、より信頼性の高まる治療が出来ると思います。

柔道整復師業界の4団体(全国柔道整復学校協会、柔道整復研修試験財団、日本柔道整復接骨医学会、日本柔道整復師会)が「患者安全」「医療安全」という同じベクトルでその確立に向かっています。この機を逃して柔道整復師業界の「改革」「適正化」は無いと思います。正しいルールの中で「安心安全な柔道整復術」「療養費受領委任の取扱い」が行われなければならないと公益社団法人日本柔道整復師会は思っています。

接骨院の多くは先生一人で対応されていらっしゃいます。従って、あまり裕福ではない接骨院はそれを行えないと思います。そういった方への対処は考えていらっしゃるのでしょうか?

一人施術所などへの対応

柔道整復師一人で開院されている施術所だからといってエコー装置を使えないということはありません。

一人で患者を診る上でも、エコー装置を使うことにより、病態の把握と治療計画を組み立てることは同じです。初検や経過観察時の検査ルーチン作業工程にエコーを込み入れればスムーズに操作できます。私の知る範囲でも一人施術所の柔道整復師は数十名おられます。

コストの問題ですが、エコー装置は200万円から高いものだと1000万円を超えるものもありますが、日本柔道整復師会はメーカーや販売店の協力を得て「匠の技 伝承プロジェクト」バージョンで80万円台のものもあります。初めての人は、まず、購入し使い慣れることが大切です。

日本柔道整復師会では、エコー装置の取扱いをはじめ、説明会を全国展開して一人一人に懇切丁寧に対応していきます。来年度は全国47都道府県社団に研修用のエコー装置を設置して都道府県学術部が中心となりエコー装置取扱いの講習・研修を開催する予定です。日本柔道整復師会会員外の柔道整復師の受講も可能になるようなプログラムも考えております。

「匠の技 伝承プロジェクト」で骨折・脱臼の整復固定、エコー装置の47都道府県社団指導者を養成していきます。「日本柔道整復師会学術大会」でもエコー装置についての講演や研修は必須となります。学術大会においても日本柔道整復師会会員外の柔道整復師の参加も可能になるように考えております。

日本柔道整復師会会員外の柔道整復師の皆さん、上記ご案内は日本柔道整復師会のホームページ上で公開していきますので是非、ご参加ください。

次回は、第2弾として

  • 匠の技 伝承」プロジェクトについて
  • 柔整療養費「請求代行業者」について
  • 「復委任」について

お話いただく予定です。ご期待ください!

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