保険請求の手引き【第13回:療養費の支給基準 その12】
柔道整復療養費特例受領委任に係る「療養費の支給基準」について、編集部による解説も最終稿となります。今回は、特に柔道整復師の先生方にとって最重要記録と称しても過言でない施術録、そして徴収方法に様々な違反行為が見られる一部負担金について記述いたしますが、読者の皆様はどのように位置づけされ、実行されているでしょうか。
第6 施術録について
- 療養費の支給対象となる柔道整復師の施術については,別添の記載・整備事項を網羅した施術録を患者毎に作成しておくこと。
なお,同一患者にあっては,初検毎又は負傷部位毎に別葉とすることなく,同じ施術録に記載すること。また,施術明細を書ききれない場合は,別紙に記載して施術録に添付しておくこと。 - 地方厚生(支)局長及び都道府県知事との協定及び契約又は関係通知等により,保険者等に施術録の提示及び閲覧を求められた場合は,速やかに応じること。
- 施術録は,施術完結の日から 5 年間保管すること。
医科ではカルテ(独語)と呼び、診療記簿として様々な患者記録が記載されます。
柔道整復においては、その施術に関する記録を残す必要から「施術録」と規定されています。
施術録には、受診者が持参された保険証のすべてを記載する必要は勿論、月初めに適宜、保険証の再確認を行うよう定められ、負傷原因や傷病名・同意医師についてなど記載が必要です。施術の内容や経過等は具体的に順序良く記載することが特に大切な点だと言えます。
また、施術録は、療養費請求の根拠となる記録であることから、正確に記入し施術完結の日から5年間の保存義務があります。
施術録は初検の都度、或いは負傷部位が発生するごとに作成するのではなく、各受診者専用の施術録として記録・完備することが求められています。仮にA受診者さんの施術と算定が完結し、数か月後に新たな負傷で来院された場合、新たな施術録を作成(別葉)するのではなく、前回と同じ施術録を使用しなければなりません。記載する欄が無く、規定された記録を残せない場合には、別紙に記載して施術録に添付することが求められています。
施術録の記載・整備事項
1 施術録の記載項目
(1) 受給資格の確認
- 保険等の種類
①健康保険(協・組・日) ②船員保険
③国民健康保険(退) ④共済組合
⑤後期高齢 ⑥その他 - 被保険者証等
①記号・番号 ②氏名
③住所・電話番号 ④資格取得年月日
⑤有効期限 ⑥保険者・事業所名称及び所在地
⑦保険者番号 等 - 公費負担
①公費負担者番号 ②公費負担の受給者番号 - 施術を受ける者
①氏名 ②性別 ③生年月日
④続柄 ⑤住所 - 一部負担割合
0割・1割・2割・3割等
◎以上のことは被保険者証等から転記するほか,必要な事柄は患者から直接聞いて記載する。
◎月初めに適宜,保険証を確認するなど,必要な措置を講ずること。
(2) 負傷年月日,時間,原因等
正しく聴取して必ず記載すること。
① いつ
② どこで
③ どうして
(3) 負傷の状況,程度,症状等
正しく聴取して必ず記載すること。
(4) 負傷名
正しく聴取して必ず記載すること。
(5) 初検年月日,施術終了年月日
(6) 転帰欄には,治癒,中止,転医の別を記載すること。
(7) 施術回数
(8) 同意した医師の氏名と同意日
(9) 施術の内容,経過等
正しく聴取して必ず記載すること。
(10) 施術明細
- 初検月日,時間外等の表示,初回施術,初検料(加算=休日・深夜・時間外),往療料 km(加算=夜間・難路・暴風雨雪),金属副子等,その他
- 再検料,往療料,後療料,罨法料,電療料,包帯交換,その他
- 上記について施術後その都度,必要事項及び金額を記入すること。
- 一部負担金,長期・多部位の定額料金等,窓口徴収の金額は正確に記入すること。
- 施術所見を記入すること。
(11) 施術料金請求等
請求年月日,請求期間,請求金額,領収年月日
(12) 傷病手当金請求等
傷病手当金証明に関する控えとして,労務不能期間,施術回数,意見書交付年月日
2 施術録の整理保管等
(1)施術録は,療養費請求の根拠となるものなので,正確に記入し,保険以外の施術録とは区別して整理し,施術完結の日から5年間保管すること。
(2)施術録は,保険者等から施術内容について調査照会のあった場合は直ちに答えられるよう常時整備しておくこと。
施術録は、個人情報の記録でもあり安易に公開できる記録簿ではありません。
ですが柔道整復施術療養費特例受領委任を取り扱う場合、保険者等による提示や閲覧の求めがある場合には、協定及び契約柔道整復師はこれに応じなければなりません。規定に準じた記録がなされ主な経過を残されている施術録であるならば、疑義の解消に役立つ大切な記録となるはずです。また受診者の損傷回復経緯や経過を記する大切な記録でもあります。
正確な記載と定期的な整理にお努めいただきたいと願います。
第7 一部負担金
- 「柔道整復師の施術に係る療養費について」(平成20年 9 月22 日付保発第0922002号)により, 受領委任の取扱いとすることが認められている施術所において,患者から支払いを受けることとされている一部負担金に相当する金額は,健康保険法,高齢者の医療の確保に関する法律等の規定に基づき, 施術に要した費用に10分の1,10分の2又は10分の3を乗じた額であること。
- 施術所の窓口での事務の負担軽減を考慮し,患者が一部負担金を支払う場合の10円未満の金額については,四捨五入の取扱いとすること。
また,施術所の窓口においては, 10円未満の四捨五入を行う旨の掲示を行うことにより,被保険者等との間に混乱のないようにすること。
なお,保険者又は市町村(特別区を含む。)が支給する療養費又は医療費の額は,10円未満の四捨五入を行わない額であること。
一部負担金については耳を疑う、或いは目を疑うシーンに遭遇することがございます。
保険取り扱いをされる接骨・整骨院の看板やサインに、「ポッキリ料金」や「キャンペーン価格」「初検料無料」「キャッシュバック」などの文言が見られます。これらは協定若しくは契約及び通知違反であり、大きなペナルティが課せられる大問題と言えます。
柔道整復師の先生方の中には、規定以下の安価な負担金徴収や無料とすることにより、患者負担が軽減され、その結果、受診者は喜んでおられると大きな誤解をされる方もおられるようです。ですが、これはあってはならないお考えであり、定められた負担金授受を厳守すべきです。負担金無徴収・負担金軽減を理由に、通院日数の付け増しを行うことは明らかな犯罪行為となります。加えて、柔道整復師の先生が自らへの治療を自ら実施する形態を自己治療と呼べますが(医科の場合、保険診療において「自己診療」と言い認められていません)、これも許されるべき行為ではありません。
また医科において、自院の職員やその家族を診察、治療することは「自家診療」と呼ばれ、その際に一部負担金を徴収しない場合があるようです。ですが、この場合においても違反行為となります。柔道整復の場合には、この形態を自家治療と呼ぶことができます。
一部負担金は規定通り徴収することが必要であり、職員やその家族であっても同様です。
職員やその家族の金銭的負担を軽減する気持ちは理解することができますが、仮に何らかの理由により負担金の軽減を行わなければならない場合、負担金は規定通り徴収し、改めて職員福利厚生費などにより支給する方法がベターだと言えます。但し、自家診療の保険請求を認めていない保険者もありますので、違反行為とならないよう十分な対応が求められます。
施術録の記載・整理と金銭授受の在り方は、特に治療や算定の正当性の大切な根拠ともなりますので、慎重に大切に確実に対応いただきたいと切に願います。
保険証の取り扱い、そして申請書への受診者署名により請求行為が行える柔道整復師への信頼により、柔道整復施術療養費特例受領委任が今日まで認められている事実をしっかりとご認識いただきますようお願い申し上げます。
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