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柔道整復師と介護福祉【第24回:軽度者サービス打ち切りに伴う懸念】

2016/10/16

平成30年の介護保険改正に向けた課題が顕著化している。介護保険制度の見直しは3年に1回。消費税の引き上げを見送り、財政が逼迫するなかでの改正だけに、厚生労働省(財務省の告示)の挙げたメニューには、サービス抑制や利用者の負担増につながる案が浮上している。

 

生活援助は自立支援へ

焦点は、要介護度が軽い「要介護1」や「要介護2」の人が使うサービスの見直しが定義されている。特に、掃除や洗濯などを行ってもらう「生援援助」が課題になっている。全国一律で専門職が担う介護給付から外して自治体の事業に移し、準専門職やボランティアらの協力を得て費用を圧縮する案が浮上している。検討する厚労省の社会保障審議会の専門部会では、激しいやりとりが交わされる。

利用者を代表する委員は、サービスが使いにくくなることに危機感が強い。「認知症高齢者は、要介護認定が軽度に出ることが多い。生活援助を(介護給付から)外すことは後々、重度化や命にかかわることは明らか」にもかかわらず踏み込む方針である。

 

人材確保に懸念

介護保険制度の費用を負担する側の委員(経済団体連合会など)は、給付抑制を主張している。

「掃除、調理、配膳といった日常の生活関連の費用であることを考えると、自己負担割合の引き上げか、自治体事業への移行も考える必要がある」と提言。生活援助の見直しは10年来の課題であるが、かねて「話し相手にも、見守りにもなる。重度化を予防し、家での生活を継続できる」との意見がある一方で、「家事代行的に利用されている。残された身体機能を使わなくなり、状態悪化につながる」との指摘もあり、自立支援につながるかどうかさえ合意形成が取れていない現状である。

 

人材確保は本当にできるか?

従来は、財源不足が見直しの動機だったが、今回は「介護人材不足」が加わっている。厚労省は4年後に226万人の介護人材が必要と試算。その頃には、介護人材の約25万人が不足する見通しとなっている。

しかし、介護職の専門性に応じた仕事の棲み分けは進んでいない。

部会で厚労省が示した調査研究機関のアンケート結果によると、掃除・洗濯、調理などの「生活援助」を、介護職の中でもスキルの高い「介護福祉士の業務」と考える事業者は少なく、排泄(はいせつ)介助などの「身体介護」や終末期のケアを業務と考える事業所が多数である。

しかし、実際には介護福祉士の6、7割が掃除や洗濯などの業務を、ほぼ毎回行っていた調査報告が出ている。

委員の1人は「来年、再来年に天から降ってきたみたいに専門性を持った職員を、現場にたくさん配置できることはあり得ない」と指摘しているが政府の考えは財政のひっ迫対策が重点課題として流されている。専門職を、より技能が必要な重度者の身体介護などに集中させていくことが現実的だと推測している。

 

自治体の対策

現状として自治体への移行も容易ではない。厚労省は前回改正で、より軽度の「要支援1」と「要支援2」の訪問介護などを、自治体事業に移したばかりで、移行の猶予は29年4月までだが、全国3分の2の自治体はそれにも手がついていない現状がある。さらなるサービス移行に、委員からは「あまりにも時期尚早。特養の入所が原則要介護3以上になっており、要介護1、2の在宅サービスの必要性は高まっている」との意見も挙がっている。移行を急ぐ背景には、深刻な財源不足があり介護保険の給付総額は28年度に10兆4千億円、制度開始時の3倍に迫る勢いである。一方で、消費税率10%への引き上げは31年秋まで先送りされ、医療と介護への風当たりは強いのが現状である。委員からは「制度の持続可能性の観点からは、時間との勝負という要素もある」との声も漏れている。

 

利用者負担

他にも、負担増と給付抑制案がめじろ押しになっている。利用者負担は制度創設以来1割だったのにもかかわらず、昨年8月、一定所得のある人に2割負担が導入された。政府部内には、これをさらに拡大する案も浮上している。部会では「すでに重大な影響が出ているのに、さらなる2割負担の話が出ること自体、受け入れにくい」と反発が強いが、社旗保障費の持続性を考えると国民負担が浮上するのは当たり前のようにも感じる。

 

負担上限の引き上げ

月額の利用料が高額になったときに、一定額以上が還付される「高額介護サービス費」も見直しの対象となっている。課税世帯(現役並みを除く)の月額上限は3万7200円だが、一部を医療にある同様の制度「高額療養費」と同額(月4万4400円)に引き上げる案も浮上している所得に応じた負担には一定の理解があるが、「医療と介護をバラバラに見ず、トータルで考えないと、どうにもならない」との意見も出ている。医療と介護の両方を利用する人もいれば、複数の利用者を抱える世帯もある現状に対しての対策がないがしろにされている。現行制度では、医療と介護の両サービスを利用し、年間利用料が高額な場合、一定額以上を還付する「高額医療・高額介護合算療養費制度」もある。一時は、医療や介護、保育も含めた利用料を世帯で見て、一定額以上を還付する「総合合算制度」も検討されていたが、消費税10%への引き上げ財源で創設の予定が延期となり、立ち消えになったままが現状である。

 

福祉用具・ケアプラン

政府は昨年6月、経済財政運営の指針「骨太方針」を閣議決定。軽度の利用者への福祉用具の貸与について、負担の見直しを明記している。これを受け、車いすや介護ベッドの利用、トイレに手すりをつけるなど住宅改修の負担割合の引き上げも検討される方針である。このほか、介護サービスの内容や頻度を記した「ケアプラン」に、1、2割の利用者負担を新たに導入する案も挙がっている。

 

今後の介護保険制度の動向

利用者負担の引き上げや、要介護度による利用の制限、サービス体制を担う人材不足と制度の根幹をゆるがす問題が乱立している。社会保障性制度の持続可能性を堅持するためにも消費税の増税並びにサービス体制給付の一律化など抜本的改革が迫られている。

 

 
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